著者
小池 淳一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.169, pp.291-302, 2011-11

本稿は耳をめぐるさまざまな民俗を取り上げて、身体的な感覚がどのように表出しているかについて考察を加えるものである。ここではまず、耳塞ぎの呪法を取り上げた。これは同年齢の死者が出た際にそれを聞かないように一定の作法を耳に施す呪術である。従来は同齢感覚を示すものと捉えられてきたが、改めて考えると日常とは異なる状態を耳に食物をあてることで表現する民俗であり、そこには呪術の受け皿としての耳の性格を見いだすことができる。次いで、耳に関する説話として「聴耳」、「鮭の大助」を検討した。「聴耳」は人間以外の動植物の声を意味あるものとして聞くことが可能であるという認識の上に成り立っている説話で中世以降、陰陽道とも結びついて民俗的に展開している。「鮭の大助」は特定の日に川を遡上してくる鮭の発する声を聞かないようにする習俗の説明譚である。これは鮭の声を意識してはいるものの聞かないことに重点がある。こうした説話の分析からは、耳が自然界の音と対峙するシンボルであることが浮かび上がってくる。さらに、耳に関する年中行事や俗信についても分析を加えた。耳鐘や盆行事における「地獄の釜の蓋」の伝承、カンカン地蔵、大黒の耳あけ、耳なしの琵琶法師、耳塚などの伝承を検討した。ここからは特定の条件のもとで、耳や音が神霊や怪異の世界とのつながりを持つことが、明らかとなった。耳は聴覚器官であることはいうまでもないが、民俗事象に表れる耳のイメージは聴覚だけではなく、耳のかたちとその変形を通して表出している。今後は聴覚のシンボルとしての耳だけではなく、視覚に関しても留意し、総合的に身体感覚をとらえていくことを目指したい。This paper looks at various examples of folklore related to ears, and goes on to consider the ways in which bodily senses are expressed in folklore.I first consider the earplug charm, which is a magic practice by which people would insert something in their ears when a person of the same age died, so as "not to hear of it." This custom was previously interpreted as representing a sense of identity with people of the same age, but when you think about it, this is a folkloric custom whereby people put items of food in their ears to signify out of the ordinary circumstances. This practice suggests that ears were regarded as a receptacle for spells.I next look at two tales related to ears," Kikimimi" (聴耳) and" Osuke the Salmon" (鮭の大助) ." Kikimimi" is based on the belief that the voices of creatures other than people can be heard as intelligible sounds. It appears in Japanese folklore from the Middle Ages onwards, and is also linked with yin and yang beliefs. Osuke the Salmon is a tale for explaining the custom of avoiding hearing the voice of salmon climbing the river on specific dates. The emphasis in this tale is on knowing about the voice of the salmon but not listening to it. Analysis of these tales leads to the conclusion that the ear was seen as a symbol of the interface between man and the sounds of nature.I also analyze regular annual events and beliefs regarding ears, including folktales about ear bells, the lids of the pots in Hell in relation to the summer Bon festival, Kan Kan roadside deities, the ear piercing of Daikoku the God of Wealth, the earless Biwa priest, and ear mounds. Analysis shows that under certain conditions, ears or sounds are thought to be able to serve as links to spirits or the supernatural world.It goes without saying that ears are organs for hearing, but the image of ears that emerges from Japanese folklore is concerned not only with hearing, but also with the shape and changes in shape of ears. Looking ahead, I want to consider ears not only as symbols of hearing, but also pay attention to visual aspects, and attempt an integrated approach to bodily senses.
著者
森杉 壽芳 小池 淳司 佐藤 博信
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木計画学研究・論文集 (ISSN:09134034)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.131-140, 1995

近年、国会・中央省庁等の首都機能移転に関心がもたれ、政府をはじめとする各種研究機関等で多数の提言, 提案がなされてきた。このような首都機能移転の社会的意味を判断するためには、その効果を把握する必要がある。そのため、本研究では、首都機能移転によって影響を受ける主体を東京, 新首都, その他の地域及び移転する政府自身に分類し、それぞれの主体に帰着する効果を一覧表にして示す「地域間帰着便益構成表」を提案する。この表では、東京だけでなく、新首都や他の地域を便益を享受する主体としてとりあげることで、首都機能移転に関する個別の効果を国土及び国民全体の観点から総合的に見ることができる。また、必要に応じて、さらに細かい便益の帰着構造を把握し、表の中に位置づけることができる。
著者
小川 由希子 安藤 大輔 須藤 祐司 小池 淳一
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.171-175, 2016 (Released:2016-02-25)
参考文献数
25
被引用文献数
4 9

Mg-20.5 at% Sc alloy with hcp (α)+bcc (β) two-phase alloy was investigated to understand the effects of aging treatment at 200℃ on microstructure, hardness and tensile properties. The Mg-Sc alloy ingot was prepared by induction melting in Ar atmosphere, and then hot rolled at 600℃ followed by cold rolling into a sheet. The rolled specimens were annealed at 600℃ to obtain α+β two-phase microstructure. Then, the annealed specimens were aged at 200℃ for various time. Vickers hardness of the α+β two-phase alloy drastically increased after a certain incubation time and then reached maximum hardness of 142.8 Hv. The incubation time of the Mg-20.5 at% Sc alloy with the α+β two-phase was longer than that of the same alloy with a β single-phase. Ultimate tensile strength (UTS) and elongation of the as-annealed specimen were 280 MPa and 28.2%, respectively. Meanwhile, the specimen aged at 200℃ for 14.4 ks showed a UTS of 357 MPa and an elongation of over 12%. The specimen aged for 18 ks showed a higher UTS of 465 MPa while keeping a better elongation of 6.9%. It was found that the age hardening of the Mg-Sc alloys were attributed to the precipitation of very fine α phase in β phase.
著者
小俣 元美 原野 崇 佐藤 啓輔 横山 楓 片山 慎太朗 定金 乾一郎 小池 淳司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00023, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
10

本稿では,道路整備のストック効果把握の一環として,空間的応用一般均衡(SCGE)モデルを用いて,最初の開通から半世紀を経た全国の高規格幹線道路整備が地域経済に与えた長期的な効果とその変遷を検証する.分析の結果からは,これまでに段階的にネットワーク整備がなされた結果として,付加価値額変化では,関東・甲信越から中国地方にかけての本州エリアを中心に大きな効果が帰着している傾向にあることが分かり,このような地域の産業活動の日本経済全体の成長への貢献が確認された.一方,便益をみると,全国に広く正の効果が帰着しており,国土の均衡ある発展に高規格幹線道路が貢献していることが確認できた.
著者
小池 淳義
巻号頁・発行日
no.2894, 2002
著者
山田 順之 小池 淳司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.22-00021, 2023 (Released:2023-01-23)
参考文献数
14

我が国の国土政策は,国土の均衡ある発展を目指して進められてきたが,地方の人口減少と並行する形で都市への人口集中が続いており,地方における担い手不足や経済の停滞などが大きな課題となっている.一方,EUは我が国と比較して地方の人口減少を緩和させている.この要因の一つとして,中山間地域の主要産業である農業に対する政策の差異が考えられる.EUでは農業政策においても国土政策的な視点から地域の隔たりなく,営農に加え教育や医療へのアクセスなども確保する政策,つまり全国民が満たすべき基本的権利を尊重した政策を講じ地域間格差是正や地方への人口定着を図っている.本研究では既往研究からEUの農業政策を分析し,我が国との比較を通して,国土政策の推進に有益となる施策や枠組みを新たな視点で検討・提案した.
著者
田中 皓介 稲垣 具志 岩田 圭佑 大西 正光 神田 佑亮 紀伊 雅敦 栗原 剛 小池 淳司 佐々木 邦明 佐々木 葉 Schmöcker Jan-Dirk 白水 靖郎 泊 尚志 兵藤 哲朗 藤井 聡 藤原 章正 松田 曜子 松永 千晶 松本 浩和 吉田 樹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.129-140, 2021 (Released:2021-06-20)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本稿ではCOVID-19の蔓延および政府からの社会経済活動自粛要請に伴う,人々の意識行動への影響を把握することを目的にWebアンケート調査を行った.その結果,感染・死亡リスクを,現実の数倍~数千倍過大に評価している様子が明らかとなった.また,接触感染対策として効果的な「目鼻口を触らない」の徹底度合いが他の対策に比べて低く,周知活動の問題点を指摘した.さらに,緊急事態宣言に対する65%以上の支持率や,「家にいる」ことについて,「ストレス」を感じる以上に「楽しい」と感じる人が多いこと,行動決定のために参考にするのはキャスターや評論家や政治家よりも「専門家の意見」の影響が大きいことなどが明らかとなった.
著者
小池 淳一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.183, pp.169-186, 2014-03

東日本大震災後の日本社会において,民俗文化がどのような意味を持ちうるのか,具体的には被 災地の瓦礫のなかから民俗文化にかかわる資料を救出することはどのような意味を持ち,さらにそ れらは博物館における展示においてはどのように表象されるのだろうか。こうした点について本稿 では筆者自身が関わった国立歴史民俗博物館の文化財レスキューの経験や実感を通して考察する。本稿ではそうした意識のもと,まず民俗事象を民俗文化財ではなく,表題に掲げた文化資源とい う概念でとらえる意義について近年の研究動向をふまえて確認する。次にその主要な対象であり, 前提でもあった宮城県気仙沼市小々汐地区のオオイ(大本家)尾形家の歴史民俗的な位置づけを行 う。さらに同家を舞台として伝承されてきた民俗として年中行事,特に盆と正月を取り上げ,具体 的に記述する。そして最後にそうしたイエ(家)の年中行事を歴博における展示としてどのように 構成したかについて述べてみたい。The East Japan Great Earthquake and Cultural Resources:A Case Study of Kogoshio District in Kesen-numa City, Miyagi Prefecture What significance can folk culture have in the Japanese society after the East Japan Great Earthquake? More specifically, what does it mean if materials related to folk culture are retrieved from debris after the catastrophe? Furthermore, how are they described when exhibited at museums? This paper examines these questions through the author's experience and understanding of the cultural asset rescue performed by the National Museum of Japanese History (hereinafter abbreviated as "Rekihaku").Based on this awareness, the article first confirms what it means to regard the folk phenomena as cultural resources, not as folk cultural assets, by tracing the latest developments of relevant research. Then, the article clarifies the historical position of the Ogata residence, called as "Ōi" meaning the overall head family, in Kogoshio district, Kesen-numa City, Miyagi Prefecture, for it was the main target and reason of the rescue activity. Regular annual events handed down by people of the residence, such as the Bon and New Year festivals, are specifically described in the paper. In conclusion, it depicts how these family annual events were exhibited at the Rekihaku.
著者
小池 淳一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.202, pp.213-224, 2017-03

本稿は柳田民俗学の形成過程において考古研究がどのような位置を占めていたのか、柳田の言説と実際の行動に着目して考えてみようとした。明治末年の柳田の知的営為の出発期においては対象へのアプローチの方法として考古研究が、かなり意識されていた。大正末から昭和初期の雑誌『民族』の刊行とその後の柳田民俗学の形成期でも柳田自身は、考古学に強い関心を持ち続けていたが、人脈を形成するまでには至らず、民俗学自体の確立を希求するなかで批判的な言及がくり返された。昭和一〇年代以降の柳田民俗学の完成期では、考古学の長足の進展と民俗学が市民権を得ていく過程がほぼ一致し、そのなかで新たな歴史研究のライバルとしての意識が柳田にはあったらしいことが見通せた。柳田民俗学と考古研究とは、一定の距離を保ちながらも一種の信頼のようなものが最終的には形成されていた。こうした検討を通して近代的な学問における協業や総合化の問題が改めて大きな課題であることが確認できた。
著者
松尾 賢司 高木 幸一 小池 淳 松本 修一
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.13-18, 2002
参考文献数
6
被引用文献数
4

MPEG-4のFGSは,可変ビットスケーラビリティを実現し,ネットワーク上での帯域変動に対して高い適応力を持った動画像伝送を可能とする.しかし,FGSで用いられるビットプレーン符号化方法は,下位プレーンにおいて符号化効率が低下するという問題があった.そこで本稿では,ビットプレーン符号化の効率を改善する方法を提案する.まず,有意係数の分布に基づいてDCT係数の各ビットを有意ビット群と既有意ビット群に分類する.次に,それぞれのビット群に対して最適な効率を実現する符号化方法を適用する.この際,符号化の順序は,復号画像の品質を向上させる度合いの高い情報から順番に行う.本提案方式により符号化効率は改善され,復号画像品質はFGSと比較して0.2dB程度向上する.
著者
川村 清志 小池 淳一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.214, pp.195-217, 2019-03-15

本稿は,民俗学における日記資料に基づく研究成果を概観し,その位置づけを再考することを目的とする。民俗学による日記資料の分析は,いくつかの有効性が指摘されてきた。例えば日記資料は,聞き取りが不可能な過去の民俗文化を再現するための有効な素材である。とりわけ長期間にわたって記録された日記は,民俗事象の継起的な持続と変容を検証するうえでも,重要な資料とみなされる。さらに通常の聞き取りではなかなか明らかにし得ない定量的なデータ分析にも,日記資料は有用であると述べられている。確かにこのような目論見のもとに多くの研究が行われ,一定の成果が見られたことは間違いない。ただし日記を含めた文字資料の利用は,民俗学に恩恵だけをもたらしてきたとは,一概にはいえない。文字資料への過度な依存は,民俗学が担ってきた口承の文化の探求とそこで紡がれる日常的実践への回路を閉ざしかねないだろう。そこで本稿では,これまで民俗学が,日記資料とどのように向かい合ってきたのかを問い直すことにしたい。民俗学者が,日記資料からどのようなテーマを抽出してきたのか,また,それらはどのような手順を踏むものだったのか,そこでの成果は,民俗学に対して,どのような展開をもたらし得るものであったのかを検証していく。これらの検証を通して,本論では日記研究自体が内包していた可能性を拡張することで,民俗学の外延を再構成し,声の資料と文字資料との総合的な分析の可能性を指摘した。
著者
林淳 小池淳一編著
出版者
嵯峨野書院
巻号頁・発行日
2002
著者
小池 淳一
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.362-375, 2001-03-31 (Released:2018-03-27)
被引用文献数
1

本論文は沖縄宮古島の南部諸集落に伝存するソウシ(双紙)を素材にその運用の具体的な様相を記述し、関連する守護神祭祀,暦の製作にも考察を加えながら,その存在と継承とが提起する問題を指摘し,現代日本を対象とする人類学の果たしうる役割について論述したものであるここでは最初にソウシがどのような研究のなかで対象化されてきたかを振り返り,そこから人類学的な問題を抽出する。さらにそれを受けてソウシの利用の様相を筆者自身の調査データと従来の調査記録とに基づいて記述している。ソウシは例外なくマウガンの祭祀に関わり,組み込まれていることからソウシの存在がムトゥの神々と集落の構成員との間に重層複合的な関係が結ばれていることを表現していることが指摘できる。またソウシを暦注書として用いて砂川暦を作成することから近世以降の大雑書と暦との関係がソウシと砂川暦との関係と相似することも看取される。こうしたソウシの運用形態は近世日本の大雑書が南島文化のなかに受容されていった姿を示している。さらにその形成は1714年以前に既に行われており,さらなる考究は南西諸島各地に伝存する多様な暦書の研究によって達成されるであろうことが見通される。そうしてこうした書物,すなわち文字列が内容そのものとは異なった受け止められ方をし,祭祀の再編成に重要な役割を果たしていることから、高度に発展した文字社会においても人類学的なアプローチの方法は独自の位置を占めることができ,さらに歴史学や社会学との協業の一つの可能性を見出すことができるのである。
著者
宮川 愛由 西 広樹 小池 淳司 福田 崚 佐藤 啓輔 藤井 聡
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.I_393-I_405, 2016 (Released:2016-12-23)
参考文献数
28
被引用文献数
3

地方創生が叫ばれる現在,大型店舗が地域に与える影響に関する知見が重要となっている.しかし,筆者らが知る限り,消費者の大型店舗での買い物が,地域経済に与える影響に関して,国内においては実証的な知見が見当たらない.そこで,本研究では,消費者の買い物店舗の選択が地域経済に及ぼす影響の検証を目的として,京都市内の様々な経営形態の食料品小売店舗を対象に調査を行い,消費者の買い物支出の帰着先を分析した.分析の結果,買い物支出のうち京都市に帰着する割合が,大型店舗では地場スーパーや地元商店の半分程度であることが示された.本研究成果は,地域活性化に向けた望ましい消費者行動とは如何なるものかについての示唆を与えると同時に,大型店舗の進出による地域活性化への期待に疑義を唱えるものといえよう.
著者
宮下 光宏 小池 淳司 上田 孝行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.316-332, 2012
被引用文献数
1

近年,アジアやわが国において,高速鉄道整備および計画が進められてきている.これらの評価は経済効果に主眼を置くものが多い.一方,高速鉄道整備の環境影響の評価は流動量や交通機関分担の変化に伴うCO<sub>2</sub>排出量の影響といった交通部門のみに主眼を置くものが多く,高速鉄道整備による経済成長に伴う産業部門からのCO<sub>2</sub>排出量増加を踏まえた分析事例は少ない.また,こうした評価が可能なSCGEモデルは各国で構築されているものの,国際比較による分析事例はみられない.そこで,本研究では韓国のKTX(韓国高速鉄道整備)と日本のMAGLEV(リニア中央新幹線整備)を対象として,これら双方の観点からの評価が可能なSCGEモデルを用いて,高速鉄道整備による経済効果及びCO<sub>2</sub>排出量の計測を試み,交通機関や産業構造の観点から国際比較を行う.