著者
岡ノ谷 一夫 米田 智子 井関 聡
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.231-233, 1995
被引用文献数
4

ジュウシマツのディスタンス•コール(DC)には性的2型がある。ジュウシマツの原種はコシジロキンパラであるといわれているが定かではない。沖縄県大宜味村喜如嘉のイグサ田•水田には野生コシジロキンパラがほんの少数生息している。今回これらのコシジロキンパラのDCを録音してソナグラフで分析した結果、ジュウシマツのDCにみられるのと同様な2型があることがわかった。この2型は雌雄に対応するものと推測される。
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

ヒトでは音声の産出と知覚に関して大脳の左半球が優位である。申請者のこれまでの研究で、鳴鳥類の一種であるジュウシマツでは、音声の産出において大脳の左半球が優位であることがわかっている。今回申請した研究では、知覚における大脳の優位半球を特定し、それが種に特有な音声に限るのかどうか、生物学的に無意味な音の知覚にも脳の左右差があるのかどうかを検討した。実験にはオスのジュウシマツ4羽を使った。まず、これらの被検体から「地鳴き」と「歌」とを録音し、その後、鳥類大脳における音声産出の最高中枢であるHVCの左右のどちらかを破壊した。この際、被検体を脳定位固定装置で3次元的に定位し、HVCの3次元座標にもとづきラジオ周波数を放射する電極によりHVCとその周辺の組織を熱電気破壊した。回復をまって、オペラント条件付けによりGO/NOGOパラダイムで音声を弁別するように被験体を訓練した。弁別訓練に用いた音声刺激は、3kHz、200ミリ砂の純音と、同じ長さの白色雑音である。これと同時に、定期的に音声を録音し、歌の産出への影響も調べた。歌の産出に関しては、左のHVCを破壊された個体では歌の構成と音声構造が大きく変化し、ノイズ状の歌に変化してしまった。右のHVCを破壊された個体では手術後しばらく歌が変化したが、変化の度合は左の場合に比べ軽微であった。この結果は、申請者の先行研究と一致する。人工音声の弁別に関しては、4個体とも10セッション前後で弁別を学習し、HVCの破壊側による差はなかった。これらの結果と、申請者の先行研究とを総合して考察すると、鳥類のHVCは自種の音声と他種の音声とを弁別する際には左が優位だが、人工的な音刺激を弁別するには左右差がない、または必要がない、と考えられる。このことは、鳥類の左HVDは、人間のブロカ領とウエルニケ領とを総合したような働きを持つことを示唆する。
著者
久保 賢太 片平 健太郎 池田 大樹 岡田 正人 岡ノ谷 一夫 川合 伸幸
出版者
Japanese Cognitive Science Society
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.483-487, 2013

この度はこのような栄誉ある賞を戴くことができ,大変感激しております.私の受賞に関しては,研究の成果の大きさというよりも,アプローチのユニークさを評価していただのではないかと考えております.私は,JST ERATO 岡ノ谷情動情報プロジェクトにおいて,コミュニケーションや社会的な場面で生じる情動を,自律神経系活動・脳活動を用いて検討しております.本研究は,二者間の息の合ったコミュニケーションを解明する試みとして実施しました.これからも,実生活に潜む面白い現象を抽出することを目的とし,日々一つ一つ成果を積み上げて参りたいと思います.こうした一風変わった研究を実施できたのも,プロジェクトの総括でいらっしゃる岡ノ谷一夫東京大学教授と,私の所属する名古屋サイトのグループリーダーである川合伸幸名古屋大学准教授の懐の広いご指導の賜物です.お二人には,感謝してもしきれない御恩を感じております.このたびの受賞も,未熟な私を日ごろから丁寧に指導してくださっている川合伸幸先生と,研究室スタッフの皆様のおかげです.この場をお借りして感謝を申し上げます.
著者
久保 賢太 片平 健太郎 池田 大樹 岡田 正人 岡ノ谷 一夫 川合 伸幸
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.483-487, 2013

この度はこのような栄誉ある賞を戴くことができ,大変感激しております.私の受賞に関しては,研究の成果の大きさというよりも,アプローチのユニークさを評価していただのではないかと考えております.私は,JST ERATO 岡ノ谷情動情報プロジェクトにおいて,コミュニケーションや社会的な場面で生じる情動を,自律神経系活動・脳活動を用いて検討しております.本研究は,二者間の息の合ったコミュニケーションを解明する試みとして実施しました.これからも,実生活に潜む面白い現象を抽出することを目的とし,日々一つ一つ成果を積み上げて参りたいと思います.こうした一風変わった研究を実施できたのも,プロジェクトの総括でいらっしゃる岡ノ谷一夫東京大学教授と,私の所属する名古屋サイトのグループリーダーである川合伸幸名古屋大学准教授の懐の広いご指導の賜物です.お二人には,感謝してもしきれない御恩を感じております.このたびの受賞も,未熟な私を日ごろから丁寧に指導してくださっている川合伸幸先生と,研究室スタッフの皆様のおかげです.この場をお借りして感謝を申し上げます.
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

鳥類のうち、鳴禽に属する種は、種間コミュニケーションに使う音声を2段階の学習によって獲得する。まず、成鳥の歌を聴き、聴覚的記憶を形成する時期があり、それに続いて、自分で発声しながら、発声パターンと聴覚記憶とを照合させる過程である。こうした過程を経て学習された歌はある程度定型的だが、鳴禽類の一種、ジュウシマツにおいてはある種の文法規則で表現できる可塑性を持っている。ジュウシマツは東南アジアの野鳥コシジロキンパラを家禽化した種である。コシジロキンパラの歌は、ジュウシマツとは異なり線形で定型的である。2種を使って親を入れ替える実験を行った結果、この2亜種間の歌の違いは、学習のちがいのみならず、生得的な学習可能性の違いであることが、私たちの研究でわかってきた。さらに、ジュウシマツの歌制御神経系の一部(NIf)を破壊することで、複雑な歌が単純化することから、この部位が文法生成に関連していると予測される。ジュウシマツとコシジロキンパラのNIfは、光学顕微鏡のレベルでは違いが見られず、容量にも差がない。このことから、分子レベルで違いを検出する必要がある。NIfの遺伝子発現の違いが、文法のありなしを決めているとの仮説を立て、マイクロアレイを使ったスクリーニングを行うことにした。初年度は、ジュウシマツとコシジロキンパラの成鳥オスの脳を薄切し、それぞれの切片から5つの歌制御神経核を切り出し、cDNAライブラリーを作成した。
著者
岡ノ谷 一夫 入來 篤史 時本 楠緒子 上北 朋子 沓掛 展之
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

社会性齧歯類デグーは豊富な音声レパートリーを有し,約20種類の音声を状況別に使い分けコミュニケーションをする。デグーの発声中枢PAGの電気刺激実験の結果から、状況依存的発声はより上位の領域において制御され,特定の文脈における適切な発声が可能になっていると考えられる。学習・記憶研究において,海馬は文脈認知の有力な候補であるが,発声と海馬の関与は未だ明らかでない。文脈依存的な発声行動における海馬の役割を明らかにするため,海馬損傷を施した個体の発声の変化を飼育場面と求愛場面において検討した。海馬損傷個体において歌頻度が減少し、求愛開始時に特徴的な導入行動が欠落するなどの歌の変化が見られたほか、機能の異なる音が求愛歌中に出現した。求愛行動に関しても、海馬損傷個体では雌の拒絶の発声にも関わらず、雌に対する接触行動が増加した。また、海馬損傷個体では、同性個体に対しても接触頻度が増加し、喧嘩頻度の増加がみられた。ただし、海馬損傷個体が喧嘩の開始をすることはなく、他個体の拒絶にも関わらず接近行動を繰り返すなど、対他個体への反応様式の変化が喧嘩を誘発する傾向があった。親和行動に関しては、グルーミング行動や他個体に寄り合って寝る行動の減少がみられた。物体に対する馴化や新奇物体の認知に関しては、海馬損傷個体に異常はなかった。これらの結果から、海馬が音声・非音声コミュニケーションにおける状況の認知に寄与していることが示唆された。