著者
武子 愛 児島 亜紀子
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.61-79, 2023-12-16 (Released:2023-12-16)
参考文献数
24

軽度の知的障害がある女性たちの性産業従事に関するこれまでの言説の多くは、彼女たちを性搾取の被害者として捉えるものであった。本研究ではその捉え直しを行うべく、性産業従事経験と婦人保護施設の入所経験があり、かつ軽度の知的障害のある女性たち2名に聞き取り調査を行った。分析枠組みとして反抑圧アプローチ(AOP)における抑圧と抵抗の概念を用いた。結果、彼女たちにとって性産業従事は、周辺化・無力化されにくい場所であり、抑圧に対して抵抗することができる、主体的な行動を発揮しやすい場所であることが明らかになった。
著者
三島 亜紀子
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.31-48, 2018-05-31 (Released:2019-06-20)
参考文献数
46

19 世紀末から20 世紀初頭にかけてのシカゴは,社会学とソーシャルワークが袂を分かった象徴的な場といえる.市内には,セツルメント「ハルハウス」とシカゴ大学社会学部があった.ハルハウスのアダムスらは近代的な都市が抱える社会問題の解決に取り組み,ソーシャルワークの源流の一つに位置付けられている。これに対し,シカゴ大学のパークは都市を実験室と位置付け,アダムスらの調査方法を女性がするものとしジェンダー化することによって,社会学を差異化していった. しかしながら日本では,このジェンダー化は成立しなかった.20 世紀前半の日本の「ソーシャルワーカー」の多くは男性で,ジェンダーロールの反転現象がみられたのである.当時の日本の研究者や実践家は欧米のソーシャルワークを精力的に学んでいたにもかかわらず. 本稿では,日本のソーシャルワークと社会学領域の間にある「社会的なもの」の解釈の違いを踏まえたうえで,日本で初めてソーシャルワークを実践した方面委員の多くが男性であったという事実を検証した.戦前は地域の有力者や素封家の家長が名誉職として方面委員となることが多かったが,現在では,女性の民生委員が6 割を超えるようになるなど,変化を遂げてきた.この変化は参加の動機づけや地域社会,価値観等に変化があったことを示していると考えられるが,「社会的なもの」を自助と公助と共助(互助)と捉える観点は今も強固である.
著者
三島 亜紀子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.307-320, 2010-12-31

1987年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定されたことから,社会学は社会福祉士の国家資格の試験科目になった.そこで教えられる「社会学」は「社会福祉士に必要な内容」に限られているが,歴史的にみれば社会学は福祉の研究や実践のあり方を大きく方向転換させるなど大きな影響を与えてきた.<br>本稿の目的は,社会福祉士養成課程と社会福祉学における「社会学」を分析し,この領域における社会学の可能性について考察することである.<br>まず社会福祉教育の現状と,そこで社会学はどのように扱われているかについて明らかにする.つぎに,これまでに社会学が社会福祉の教育・研究・実践に与えた影響を概観する.そして今後,社会学は社会福祉の教育・研究・実践にどのような貢献ができるかを考察した.<br>近年,脱施設化がすすめられ,福祉サービスにおけるパターナリズムは否定され,「利用者」の自己決定や「物語」に敬意が払われるようになった.こうした変化にあわせて社会福祉学の理論も展開をみせており,それらの一部は「ポストモダニズム」と呼ばれる.<br>しかし,すべての場面においてこうした変化が及んだわけではなかった.現在の専門家は,「ポストモダン」的な援助をする一方で,過去のエビデンスを根拠に権力をもって介入を行う者と特徴づけられる.周辺への/周辺からの社会学を活発にするためには,こうした新しい専門職のあり方を考慮する必要がある.
著者
三島 亜紀子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌 (ISSN:18843654)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-12, 2016 (Released:2017-10-23)
参考文献数
44

2014年の「ソーシャルワークのグローバル定義」で新たに登場し注目を集めた語句の一つに「社会的結束(social cohesion)」がある.本稿では,まず社会的結束の定義と,それが多くの国や国際機関で注目を集めるようになった経緯を概観し,比較的早い時期からこの概念を政策課題にあげてきたイギリスの事例を取り上げ,この語がソーシャルワーク領域で用いられるようになった背景を明らかにする.これらを通じ日本にいる個々のソーシャルワーカーがそれぞれの場でどのように社会的結束という語に向かい合うべきか考える一助になればと考える. ソーシャルワーク領域の社会的結束に関する議論では,社会的包摂の促進,持続可能な福祉の推進と共にこの概念が強調される傾向にあることを指摘した.そして,社会的結束が社会統制に直結し,ソーシャルワークと安全/リスクの古くて新しいアンビバレンスな関係を再現する可能性がある点を論じた.
著者
川島 亜紀子 眞榮城 和美 菅原 ますみ 酒井 厚 伊藤 教子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.353-363, 2008-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
34
被引用文献数
5 8

本研究は, 青年期の子どもがいる家族を対象に, 両親の夫婦間葛藤が子どもによる両親間葛藤認知を媒介として子どもの抑うつ傾向と関連するかどうかを検討することを目的として実施された。父親, 母親, および子どもを対象に, 質問紙調査を実施し, 両親回答による夫婦間葛藤の深刻さ評価と子ども回答による両親間葛藤認知, 父母への情緒的つながり, および抑うつ傾向を測定した。その結果, 男女ともに両親間葛藤が深刻なほど葛藤への巻き込まれ感が強まり, さらに両親の夫婦間葛藤に対する自己非難や恐れの認知につながっていた。男子については, こうした自己非難や恐れの認知が抑うつに関連していたが, 女子についてはこうした相関は見られなかった。一方, 両親間葛藤の深刻さは両親への情緒的つながり, 特に, 父親への情緒的つながりにより強い関連が見られた。抑うつとの関連では, 同性の親との情緒的つながりが重要であることが明らかになった。母親による夫婦間葛藤認知は子どもの葛藤認知に有意に関連していたが, 父親のそれは有意ではなく, いずれも子どもの抑うつ傾向とは直接関連しなかった。
著者
三島 亜紀子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.307-320, 2010-12-31 (Released:2012-03-01)
参考文献数
43

1987年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定されたことから,社会学は社会福祉士の国家資格の試験科目になった.そこで教えられる「社会学」は「社会福祉士に必要な内容」に限られているが,歴史的にみれば社会学は福祉の研究や実践のあり方を大きく方向転換させるなど大きな影響を与えてきた.本稿の目的は,社会福祉士養成課程と社会福祉学における「社会学」を分析し,この領域における社会学の可能性について考察することである.まず社会福祉教育の現状と,そこで社会学はどのように扱われているかについて明らかにする.つぎに,これまでに社会学が社会福祉の教育・研究・実践に与えた影響を概観する.そして今後,社会学は社会福祉の教育・研究・実践にどのような貢献ができるかを考察した.近年,脱施設化がすすめられ,福祉サービスにおけるパターナリズムは否定され,「利用者」の自己決定や「物語」に敬意が払われるようになった.こうした変化にあわせて社会福祉学の理論も展開をみせており,それらの一部は「ポストモダニズム」と呼ばれる.しかし,すべての場面においてこうした変化が及んだわけではなかった.現在の専門家は,「ポストモダン」的な援助をする一方で,過去のエビデンスを根拠に権力をもって介入を行う者と特徴づけられる.周辺への/周辺からの社会学を活発にするためには,こうした新しい専門職のあり方を考慮する必要がある.
著者
三島 亜紀子
出版者
日本ソーシャルワーク学会
雑誌
ソーシャルワーク学会誌
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-12, 2016

<p> 2014年の「ソーシャルワークのグローバル定義」で新たに登場し注目を集めた語句の一つに「社会的結束(social cohesion)」がある.本稿では,まず社会的結束の定義と,それが多くの国や国際機関で注目を集めるようになった経緯を概観し,比較的早い時期からこの概念を政策課題にあげてきたイギリスの事例を取り上げ,この語がソーシャルワーク領域で用いられるようになった背景を明らかにする.これらを通じ日本にいる個々のソーシャルワーカーがそれぞれの場でどのように社会的結束という語に向かい合うべきか考える一助になればと考える.</p><p> ソーシャルワーク領域の社会的結束に関する議論では,社会的包摂の促進,持続可能な福祉の推進と共にこの概念が強調される傾向にあることを指摘した.そして,社会的結束が社会統制に直結し,ソーシャルワークと安全/リスクの古くて新しいアンビバレンスな関係を再現する可能性がある点を論じた.</p>
著者
三島 亜紀子
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.31-48, 2018

<p>19 世紀末から20 世紀初頭にかけてのシカゴは,社会学とソーシャルワーク</p><p>が袂を分かった象徴的な場といえる.市内には,セツルメント「ハルハウス」</p><p>とシカゴ大学社会学部があった.ハルハウスのアダムスらは近代的な都市が抱</p><p>える社会問題の解決に取り組み,ソーシャルワークの源流の一つに位置付けら</p><p>れている。これに対し,シカゴ大学のパークは都市を実験室と位置付け,アダ</p><p>ムスらの調査方法を女性がするものとしジェンダー化することによって,社会</p><p>学を差異化していった.</p><p> しかしながら日本では,このジェンダー化は成立しなかった.20 世紀前半</p><p>の日本の「ソーシャルワーカー」の多くは男性で,ジェンダーロールの反転現</p><p>象がみられたのである.当時の日本の研究者や実践家は欧米のソーシャルワー</p><p>クを精力的に学んでいたにもかかわらず.</p><p> 本稿では,日本のソーシャルワークと社会学領域の間にある「社会的なもの」</p><p>の解釈の違いを踏まえたうえで,日本で初めてソーシャルワークを実践した方</p><p>面委員の多くが男性であったという事実を検証した.戦前は地域の有力者や素</p><p>封家の家長が名誉職として方面委員となることが多かったが,現在では,女性</p><p>の民生委員が6 割を超えるようになるなど,変化を遂げてきた.この変化は参</p><p>加の動機づけや地域社会,価値観等に変化があったことを示していると考えら</p><p>れるが,「社会的なもの」を自助と公助と共助(互助)と捉える観点は今も強</p><p>固である.</p>
著者
田島 亜紀 玉井 一司 山田 麻里
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.525-529, 2004-04-15

後天性梅毒により急性視力障害が起こった2例を経験した。1例は85歳女性で,1週間前からの両眼霧視で受診した。1年前に白内障手術を受け,矯正視力が右0.6,左0.8であったが,受診時には右0.1,左0.2に低下していた。両眼に虹彩炎,網脈絡膜萎縮,黄斑浮腫があった。梅毒血清反応が陽性であり,梅毒性網脈絡膜炎と診断した。駆梅療法を行い,2か月後に視力が右0.7,左1.0に改善した。他の1例は36歳男性で,1週間前からの左眼霧視で受診した。3週間前から両側の手足に皮疹があった。矯正視力は右1.5,左0.5であった。左眼の視神経乳頭が発赤,腫脹し,視神経乳頭炎と診断した。血清と髄液の梅毒反応が陽性であり,皮疹は梅毒2期疹であると診断された。駆梅療法と副腎皮質ステロイド薬の全身投与を行った。1週間後に左眼視力は1.0に回復し,3週間後に眼底所見はほぼ正常化した。