著者
中市 真理子 廣田 栄子 綿貫 敬介 成沢 良幸
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.209-215, 2014

要旨: 本研究では, 全国の乳幼児補聴器適合施設に対し, 補聴器装用・機能の状況と, 補聴器選択に関して調査した。乳幼児に適合されている補聴器型は, 耳かけ型が最も多く, ベビー型の使用数は低かった。乳幼児の補聴器機能では, ボリューム固定, ハウリング抑制, 雑音低減, ワイヤレス, 指向性の順で使用されていた。常用や装用を妨げる原因にハウリング, 補聴器を嫌がる, 耳から外れやすいがあり, 補聴器の故障原因は, 汗が多かった。乳幼児の補聴器選択において, 経済的負担軽減 (障害者自立支援法: 現障害者総合支援法対応), 耳介にあった形状, ハウリング抑制機能, 装着のしやすさ, 防水性能が重視されていることが確認された。補聴器適合担当者は, 補聴器の日常使用の利便性の向上と, 発達への対応における保護者負担の軽減への要望が高かった。また, 早期難聴診断や補聴・支援に関する社会啓発と, 診断機関と療育・教育機関の情報共有の指摘も高かった。
著者
原田 公人 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.65-72, 2013 (Released:2013-06-14)
参考文献数
13

人工内耳自助組織に加入している幼児から大学生の人工内耳 (CI) 装用児をもつ保護者250名を対象として, アンケート調査を実施し回答を得た195名を対象に, CI満足度と, 聴覚補償やコミュニケーション等の現状について明らかにすることを目的とした。質問項目は, 対象児の属性, 現在の所属教育・療育等施設, 埋め込み手術年齢, 術前・術後のコミュニケーションモード, CI装用下における聞き取りの改善, CI装用の満足度, コミュニケーション等の10項目とし, 郵送による自記式質問紙調査法を用いた。その結果, 対象児のインクルーシブ教育・療育機関の帰属, CI装用の低年齢化, 聴覚コミュニケーションモードへの移行, 教育機関等での情報補償の不十分さ等についての現状と課題が示された。大方の保護者はCI装用に満足感が高いが, 年齢が高くなるにつれてコミュニケーションの不全感を指摘し, 発達段階や個別状況に応じた教育・療育的支援の必要性が示唆された。
著者
笠原 桂子 廣田 栄子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.66-74, 2015
被引用文献数
2

要旨: 若年聴覚障害者の就労満足度と関連する要因を検討することを目的とし, 企業就労する35歳以下の聴覚障害者を対象にweb調査を実施した。<br> 回答者の聴力程度 100dB 以上は67%, 最終学歴は大学院・大学が多く (60%), 正社員率が74%であった。また,手話理解可能 (92%) であるが, 職場でのコミュニケーションは主に聴覚口話で, 情報保障は印刷資料, 筆談が多く, 手話通訳は僅かであった。入社満足については, 概ね満足が6割に認められ, 回答の因子分析では, 就労満足度は, 職場帰属意識, 職能充実感, 支援関係の3因子で構成されていた。就労満足度に関連する要因として, 年齢 (30歳以上>30歳未満), 聴力程度 (100dB 未満>100dB 以上), 学歴 (大卒等>高卒等) の要因の関与を認めた。<br> 若年聴覚障害者では, 情報保障は十分ではないが, 就労満足度は過半数で高い傾向を示し, 職場帰属意識と職能充実感に注目し, 長期的な定着支援が必要と考えられた。
著者
廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.199-211, 2013-06-30 (Released:2013-12-05)
参考文献数
77
被引用文献数
2

要旨: 本研究では日本における自治体等ベースの新生児聴覚スクリーニング検査後の早期診断と早期療育の効果に関する最近の研究レビューを米国等の結果と比較し, わが国における療育研究の経緯を検討することを目的とした。医学中央雑誌とCiNiiの和文データベースにより, (小児難聴OR難聴OR聴覚障害OR耳鼻咽喉科) AND療育の検索式を用いて, 聴覚障害児の療育に関する研究を検索した。期間は1900年 ~ 2013年の原著・総説とし, 243件検出した。その間の主な研究テーマは, 順に小児難聴診断, 重複障害児療育, 人工内耳と新生児聴覚スクリーニング検査 (NHS) と変化し, 言語リハビリテーションに拡大した。 わが国では2006年に約60%の産科参院施設で新生児にNHSが実施され, 早期診断が進められており, 早期診断により早期療育が開始されていたことは明らかであった。しかし, NHSの受検が非受検児と比べて, 言語発達に良い影響を及ぼすかについて明らかなエビデンスは乏しいといえる。既にわが国では母子保健法による乳幼児期の健診システムが実施されているので, NHS後の追跡率は米国と比べて高く, 今後, 全幼児を対象とした聴覚ヘルスケアシステムの地域事業と, NHS後の経過観察プログラムを同時的に実施することの重要性が示唆された。
著者
大原 重洋 廣田 栄子 鈴木 朋美
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.230-238, 2011-06-30
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

難聴幼児通園施設に併せて, インクルーシブ環境 (保育園・幼稚園) に通園する聴覚障害児9名を対象として, 聴力正常な幼児 (聴児) 集団における社会的遊びの発達段階とコミュニケーション行動について観察し, 聴力レベル, 言語能力等の要因の関与について分析した。対象児は平均聴力71.2dB (SD18.0) で, 3歳4ヶ月から6歳1ヶ月児であった。その結果, 協同遊び段階3名 (33.3%), 一人遊び段階1名 (11.1%), 並行遊び段階3名 (33.3%), 保育士との遊び段階2名 (22.2%) に分類できた。聴覚障害3~4歳児では, 聴児の発話の受信が困難な傾向を認めたものの, 全例で概ね聴児とのコミュニケーションの成立を認めた。対幼児のコミュニケーション行動の発達は, 聴力レベルや言語能力よりも生活年齢の要因の関与が大きかった。
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.249-257, 2013-06-30 (Released:2013-12-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1

要旨: 聴覚障害の親をもつ健聴の子ども (CODA) における親への通訳は, 情報伝達に止まらず親と社会との仲介役を担い, 子どもの立場ながら親をケアする役割が求められる。本研究では ,CODA 21名と聴覚障害の親19名を対象に, 多面的感情状態尺度短縮版8因子24項目 (5段階評定) と半構造化面接を用いて, 通訳場面に抱く心理状態と経時的変容を後方視的に解析した。評価点について探索的な因子分析 (主因子法) により因子を抽出し, 因子得点を算出した。その結果, 通訳場面に抱く心理状態5因子を抽出し (因子負荷量0.4以上), 充足, 戸惑, 不満, 深慮, 悠長と命名した。CODAと親は, CODAの成人期では概ね肯定的な心理状態を有した。CODAは, 青年期では成人期と比べ戸惑感と不満感が高く, 充足感と深慮感は低かった。CODAの充足感は親と比べて成人期も低く, 面接情報からも通訳役割が長期に渡りCODAの心理的な負担状況をもたらすことが推測され, 生涯発達的観点からの支援の必要性が示唆された。
著者
菅原 充範 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.130-139, 2020-04-28 (Released:2020-05-23)
参考文献数
18

要旨: 全国聴覚特別支援学校の 2~5歳児教師に, 担当幼児の言語発達状況および保護者の指導連携について調査した。99校中64校 (回収率64.6%) の教師258名の回答から聴覚障害幼児984名について検討した。その結果, 軽中等度難聴が28.1%, 高重度難聴71.9%であり, 重度難聴の69.4%で人工内耳を装用し, 75.2%は聴覚口話法と手話法等を併用していた。言語発達状況は, 2歳児では 1 歳未満~1 歳レベル児が69.4%であり, 学齢が上の児ほど4~5歳レベル児の割合が増えたが, 5歳児でも65.5%に留まった。保護者への指導目標は, 1 歳未満~1 歳レベル児の55.3%で2~3歳レベルの課題 (模倣誘導・発話修正) を, 4~5歳レベル児の84.3%に4~5歳レベルの課題 (語彙拡充・語義説明) が設定されていた。児の言語発達水準には, 教師の指導経験, 保護者への適切な目標設定が関与し, 専門性の向上と実践の蓄積, および保護者との連携の重要性が示唆された。
著者
岡野 由実 廣田 栄子 原島 恒夫 北 義子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.91-99, 2013 (Released:2013-06-14)
参考文献数
12

成人一側性難聴者4名を対象に, 読話の活用状況と聴取困難場面での対処法と日常生活における聴こえの困難度について面接法と自己評価法により検討した。併せて, 読話検査を用いて有用性を検討し聴力正常者20例の結果と比較した。その結果, 一側性難聴症例では, 聴取困難な状況で読話の活用などの対処が必要であるものの, 対処法の習得には個人差が大きいことが示された。また, 読話能力については聴力正常者と差は少なく, とくに読話低下例では, 日常生活で読話の活用は乏しく, 聴取困難場面に消極的な対処をしており, 会話場面で困難度が高い傾向を示した。そこで, 一側性難聴者に対して, 聴取困難な場面での対処法について評価し, 個別状況に応じて, 指導・助言等のリハビリテーション支援を行う必要性があることを指摘した。
著者
奥沢 忍 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.72-82, 2017-02-28 (Released:2017-06-29)
参考文献数
22
被引用文献数
2

要旨: 全国の聴覚特別支援学校及び通常校に勤務する聴覚障害教員120名を対象に, 郵送および web による自記式質問紙調査を行い, 就労の実態と課題, 心理社会的影響について調査し, 職場環境の在り方について検討した。その結果, 就労の際の情報保障についてろう学校で手話が多く用いられ, 通常校で低下した。教員は, 聴覚障害による各種制約, 保護者との連携, 児童の教育遂行などのコミュニケーションをストレッサーと感じ, 課題対応のコーピング行動としては教師間の協働など各種の人間関係形成が有効とされた。通常校の教師では, コーピング行動はストレス低減に関与せず, ストレス解消行動の形成に課題を示した。教師の職務満足度は概ね高いが, 職務開発や能力開発, 昇任など, キャリア形成に関わる領域では低下し, 聴覚障害教員の就労には, 障害に関する啓発や, 校内での情報支援と人間関係形成支援の体制化が必要であるといえる。
著者
岡野 由実 廣田 栄子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.156-166, 2014-04-28 (Released:2014-11-06)
参考文献数
23
被引用文献数
1

要旨: 首都圏A県全域の公立小学校通常学級で一側性難聴児が在籍する学級の担任教員を対象として調査を行い, 学級担任の評価によると一側性難聴児の教科学習, 言語コミュニケーション, 社会参加, 活動的行動について, 著しい問題はみられず, 一側性難聴が言語発達や学業には直接的な影響を及ぼすわけではないことが示唆された。学級適応に特に問題を呈した一側性難聴児では, 他障害を併せ持つ傾向が指摘された。また, 幼児期早期からの難聴が言語発達に及ぼす影響に関しては, 軽度難聴児よりも一側性難聴児の方が影響は少ない一方で, 感情抑制等情緒発達については一側性難聴児の方が低く, 周囲に難聴を開示しない傾向にあり, 一側性難聴児と軽度難聴児では質的に異なる問題点があると考えられた。一側性難聴児童への支援には, 本人や家族, 教育関係者に対して十分な理解を促し, 児の状況に応じた支援・指導の必要性が示唆された。
著者
廣田 栄子 井脇 貴子 樺沢 一之 鈴木 恵子 小渕 千絵
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

聴覚障害児者の様々な領域での活躍には、聴覚音声情報の制限を視覚情報で収集する技能の向上が重要であり、書記リテラシー(読書き能力)の形成が欠かせない。本研究では、近年の各種先進医療・技術開発による書記リテラシーの改善と達成度・課題について実態を明らかにした。さらに、IT化による書記リテラシー評価・支援システムを開発し、臨床手法としての有用性を実証して、生涯発達の視点での包括的支援に関する知見を得た。