- 著者
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原 一雄
山内 敏正
窪田 直人
戸辺 一之
山崎 力
永井 良三
門脇 孝
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.122, no.4, pp.317-324, 2003 (Released:2003-09-19)
- 参考文献数
- 7
- 被引用文献数
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転写因子で核内受容体であるPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)は脂肪細胞の分化に非常に重要な役割を担っており,インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体の細胞内標的である.PPARγヘテロ欠損マウスにおいては,高脂肪食で見られる脂肪細胞の肥大化·インスリン抵抗性の程度が野生型に比べて抑制されていたことからPPARγは脂肪細胞の肥大化を媒介する倹約(節約)遺伝子であることを明らかとした.ヒトPPARγ2遺伝子の12番目のアミノ酸がProからAlaに置換したPro12Ala多型はチアゾリジン誘導体によるPPARγ転写活性上昇作用が低下していること,PPARγヘテロ欠損マウスの解析結果から,Alaアリル保持者はインスリン抵抗性が軽度であることが予測された.そこで2型糖尿病患者と非糖尿病者を対象に検討を行ったところ,糖尿病群に比してAlaアリル頻度が非糖尿病群で有意に高く,Alaアリル保持者は2型糖尿病の発症リスクが低いことが示された.更に多施設共同研究や,これまでのPro12Ala多型についての報告を集積して解析したメタアナリシスでもAlaアリル保持者が一貫して糖尿病のリスクが低下しているという結果が出ている.そこでPPARγの機能をある程度低下させることがインスリン抵抗性糖尿病の治療となりうることが示唆された.実際にPPARγアンタゴニストを糖尿病モデルマウスに投与すると,インスリン抵抗性が改善したことからPPARγアンタゴニストはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の根本的治療法として期待される.しかしながらPPARγヘテロ欠損マウスはeNOSの産生低下,血管弛緩反応の低下による血圧の上昇を示したことから血管に対してはアゴニスト,脂肪細胞に対してはアンタゴニストとして選択的に働く薬剤が理想的であると考えられる.