著者
藤坂 志帆 戸辺 一之 薄井 勲
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

肥満や便秘の治療に用いる漢方薬である防風通聖散が抗肥満作用を示すメカニズムとしては従来、褐色脂肪組織の活性化による基礎代謝の亢進が示唆されていた。前年度の研究において我々は、高脂肪食負荷マウスにおいて、防風通聖散が腸内細菌叢を変化させ、とくにAkkermansiaといわれる細菌の増加により肥満により低下した腸管のバリア機能が回復することを見出していた。その結果、肥満した個体の腸内細菌由来エンドトキシンが血中に流入した高エンドトキシン血症が軽減し、慢性炎症や糖代謝が改善することがわかった。その他のメカニズムとして、菌叢の変化が腸内細菌由来代謝産物を変化させて代謝改善に寄与するのではないかと考え、防風通聖散投与マウス糞便の標的メタボローム解析を行った。しかし短鎖脂肪酸などの代表的腸内細菌由来代謝産物については変化がなかった。防風通聖散による糖代謝の改善は、腸管バリア機能の回復による高エンドトキシン血症の軽減とそれに伴う慢性炎症の改善によると結論づけ、現在論文を作成している。近年、すでに上市されている様々な薬剤が腸内細菌組成に変化を与えることが報告されている。本研究もこれまで臨床利用されていた薬剤の腸内細菌叢を介した代謝への作用を明らかにしたものである。このような薬剤の多面的作用を理解することは、病態に合わせた治療薬選択に広がりを与え、様々な疾患の領域においても応用しうる有意義な発見であったと考えらえる。
著者
渡部 生聖 林 同文 今井 靖 光山 訓 瀬戸 久美子 新谷 隆彦 橋口 猛志 野口 清輝 真鍋 一郎 戸辺 一之 山崎 力 永井 良三
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.383-390, 2003 (Released:2009-08-19)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

ミッションプログラム医療安全研究グループにおいては, 日々の診療で膨大に発生する各種の診療情報から, 情報処理技術の適用により医学的知見を抽出し, その知識を国内で共有化する為の汎用的な手法について研究を行っている. 研究にあたっては, 倫理面に配慮された適切な情報収集・管理手法によって得られた実際の診療情報を, 医学と工学, それぞれの専門家が共同で体系化することにより, 臨床的に有用な知見を得るにいたっている. これらの医学的成果及びその普及手段としての技術的成果を併せて報告する.
著者
薄井 勲 戸辺 一之 箕越 靖彦
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究計画で我々は、脂肪組織M1/M2マクロファージ(Mφ)とインスリン感受性との関連について、特にM2Mφとインターロイキン10(IL-10)の働きに注目し検討した。PPARγ活性化作用を持つテルミサルタンは脂肪組織MφのM2極性を誘導し、一方脂肪組織低酸素はM1極性を誘導した。ジフテリアトキシンの投与によりM2Mφを欠失することができるM2Mφablationマウスは脂肪細胞が小型化し、インスリン感受性が改善した。視床下部のIL-10シグナルの活性化は骨格筋のミトコンドリア関連遺伝子の発現を増強させ、耐糖能を改善させた
著者
原 一雄 山内 敏正 窪田 直人 戸辺 一之 山崎 力 永井 良三 門脇 孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.4, pp.317-324, 2003 (Released:2003-09-19)
参考文献数
7
被引用文献数
3 3

転写因子で核内受容体であるPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)は脂肪細胞の分化に非常に重要な役割を担っており,インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体の細胞内標的である.PPARγヘテロ欠損マウスにおいては,高脂肪食で見られる脂肪細胞の肥大化·インスリン抵抗性の程度が野生型に比べて抑制されていたことからPPARγは脂肪細胞の肥大化を媒介する倹約(節約)遺伝子であることを明らかとした.ヒトPPARγ2遺伝子の12番目のアミノ酸がProからAlaに置換したPro12Ala多型はチアゾリジン誘導体によるPPARγ転写活性上昇作用が低下していること,PPARγヘテロ欠損マウスの解析結果から,Alaアリル保持者はインスリン抵抗性が軽度であることが予測された.そこで2型糖尿病患者と非糖尿病者を対象に検討を行ったところ,糖尿病群に比してAlaアリル頻度が非糖尿病群で有意に高く,Alaアリル保持者は2型糖尿病の発症リスクが低いことが示された.更に多施設共同研究や,これまでのPro12Ala多型についての報告を集積して解析したメタアナリシスでもAlaアリル保持者が一貫して糖尿病のリスクが低下しているという結果が出ている.そこでPPARγの機能をある程度低下させることがインスリン抵抗性糖尿病の治療となりうることが示唆された.実際にPPARγアンタゴニストを糖尿病モデルマウスに投与すると,インスリン抵抗性が改善したことからPPARγアンタゴニストはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の根本的治療法として期待される.しかしながらPPARγヘテロ欠損マウスはeNOSの産生低下,血管弛緩反応の低下による血圧の上昇を示したことから血管に対してはアゴニスト,脂肪細胞に対してはアンタゴニストとして選択的に働く薬剤が理想的であると考えられる.
著者
門脇 孝 山内 敏正 植木 浩二郎 戸辺 一之 原 一雄 窪田 直人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

これまで、肥満によってアディポネクチン(Ad)が低下することが、メタボリックシンドロームの少なくとも大きな原因の1つになっていると考えられてきた。我々は、さらに、肥満・インスリン抵抗性によって、総量のAdだけのみならず、高活性型である高分子量型(HMW)Adがとりわけ低下してくることを見出した。そして、PPARγアゴニストであるチアゾリジン誘導体(TZD)がこのHMWAdを顕著に増加させることを見出した(Diabetes 54:3358,2005)。我々は更に、Ad欠損マウスを用いて、このTZDによる総量、あるいはHMWAdの増加が、TZDによる抗糖尿病作用に有意に貢献していることを示した(J.Biol.Chem.,281:8748,2006)。我々は先に、Ad受容体(AdipoR)1とAdipoRを同定し,AMPキナーゼ、及びPPARαの活性化などを介し、脂肪酸燃焼や糖取込み促進作用を伝達していることを示し(Nature 423:762,2003)、さらに肥満・2型糖尿病のモデルマウスにおいては、AdipoRの発現量が低下し、Ad感受性の低下が存在することを報告してきた(J.Biol.Chem.279:30817,2004)。今年度は先ず、肥満症におけるAdipoRの発現低下を、PPARαアゴニストが脂肪組織において回復させ、MCP-1の発現を抑制し、マクロファージの浸潤を抑制し、炎症が惹起されるのを低減させているのを見出した(Diabetes 54:3358,2005)。Adの血中レベルを増加させるPPARγアゴニストとの併用、あるいはPPARαγのデュアルアゴニストは実際にモデルマウスで相加効果を発揮しており、現在臨床治験が進んでいるPPARαγのデュアルアゴニストの作用機構を少なくとも一部説明するものと考えられた。アデノウイルスと遺伝子欠損マウスを用いてAdipoR1とR2が生体内において、アディポネクチンの受容体として機能し、AMPKとPPARαの活性化に重要な役割を果たすことを示した(投稿準備中で平成18度中に公刊予定)。AdipoR1に特異的に結合する分子を同定し、その中の2つの分子がAMPKの活性化に重要な役割を果たすことを明らかにした(投稿準備中で平成18度中に公刊予定)。