著者
森田 啓行 永井 良三
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.1349-1355, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
16

チーム医療推進のひとつの方策として,Nurse Practitioner/Physician assistant(NP/PA)をはじめとする「新しい」医療職種導入に関して議論されることが多くなってきた.しかしながらNP/PAがどのように位置づけられ,いかなる役割分担の下,医療行為をおこなっているか,ということに関する正確な理解は浸透していない.そこで我々はNP/PA発祥の地である米国に赴き,実際にNP/PAの勤務実態を視察し,NP/PAや管理者,医療スタッフのインタビューをおこなった.紹介されたデータ・文献などに基づき,米国のNP/PA制度の実態に関して本稿にまとめ,若干の考察を加える.チーム医療を推進するにはNP/PA制度導入は有効な手段のひとつと考えられ,現場のニーズ,役割分担と責任を議論することは大いにあってよい.法律整備による裁量権と責任の明記,養成教育システム・資格試験の制定,医療従事者と国民の理解などが課題になる.
著者
天野 晶夫 永井 良三 長谷川 昭
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. 糖尿病における運動時赤血球酸素運搬能の障害糖化ヘモグロビンの酸素高親和性に注目し、糖尿病において運動耐容能と糖化ヘモグロビンが逆相関することを見出した。さらに、糖尿病ではP50(ヘモグロビンが50%酸素と飽和したときの酸素分圧で、酸素解離シフトを反映)の変化量は少なかった。即ち、運動時酸素解離曲線の右方へのシフトが抑制され、運動耐容能低下をもたらすことが明らかになった。2. 糖尿病における運動時乳酸アシドーシスに対する赤血球酸素運搬能の適応不全嫌気性代謝閾値(AT)以上の運動で発生する乳酸アシドーシスは活動骨格筋でのhypoxiaを代償するためにヘモグロビン酸素解離を促進させるという適応現象を惹起するが、酸素高親和性の糖化ヘモグロビンが高値である糖尿病においてこの現象が生じるか検討した。糖尿病では一定の運動量に対する乳酸値の上昇が大であるにもかかわらず、P50の変化は少なかった。即ち、乳酸アシドーシスによる酸素解離の促進という適応は起こらなかった。この適応不全が運動耐容能の低下の一因と推測された。3. 糖尿病における運動時骨格筋の酸素運搬能の障害糖化ヘモグロビンの酸素高親和性により、運動時の活動骨格筋でも酸素運搬障害が生じるかを明らかにするために、酸素化、脱酸素化ヘモグロビン、組織酸素飽和度の絶対値表示が可能となった新しい近赤外線モニターを用いて検討した。糖尿病では運動時の組織酸素飽和度(SdO2)の低下が軽度で、酸素利用率((SpO2-SdO2)/SpO2)SpO2:パルスオキシメータによる動脈血酸素飽和度)の増加も少なかった。即ち、糖尿病ではヘモグロビン酸素高親和性により運動時骨格筋でも酸素利用能の低下が起こり、運動耐容能低下につながることが明らかになった。
著者
矢崎 義雄 永井 良三 平岡 昌和 中尾 一和 多田 道彦 篠山 重威 木村 彰方 松原 弘明 川口 秀明
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

(A)心機能に重要な遺伝子の心筋特異的な発現調節機構の解明心肥大のメカニズムについては、培養心筋細胞のin vitroストレッチ・モデルを用いた解析により心筋内アンジオテンシンIIの動態とMAPキナーゼ等の細胞内リン酸化カスケードを介する機序および、心筋内レニン・アンジオテンシン系が心筋細胞の肥大と間質の繊維化を惹起することが明らかとなった。また、心筋で発現するサイトカイン(IL-6)、ホルモン(ANP,BNP,レニン・アンジオテンシン)、Kチャンネル、カルシウムポンプなどの遺伝子の虚血・圧負荷・Ca・甲状腺ホルモンなどの外的負荷や病態時における発現調節機構・転写調節機構を明らかにした。さらに、心筋細胞分化を規定する遺伝子を解明するため、すでにマウスで単離した心筋特異的ホメオボックス遺伝子C_<SX>をプローブとしてヒトC_<SX>を単離したところ、マウスC_<SX>遺伝子とアミノ酸配列が非常に類似しており、種をこえて保存されていることが明らかとなった。(B)心筋病変形成の素因となる遺伝子の解明日本人の肥大型心筋症患者で心筋βミオシン重鎖遺伝子に計14種のミスセンス変異を同定し、このうち13種は欧米人と異なる変異であった。47多発家系中11家系については心筋βミオシン重鎖遺伝子との連鎖が否定され、日本人における本症の遺伝子的不均一性を示すと考えられた。心肥大を有するミトコンドリア心筋症患者ではロイシンtRNA遺伝子の点変異、多種類の遺伝子欠失を検出した。さらに、日本人の拡張型心筋症においてHLA-DR遺伝子と、QT延長症候群で11p15.5のHRASとD11S922と、それぞれ相関が認められた。
著者
永井 良三
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.5, pp.1007-1014, 2019-05-10 (Released:2020-05-10)
参考文献数
10

医学には多くの理論があるが,医療現場では当てはまらないことが多い.人間の遺伝形質や生活習慣は多様であり,診断や治療に対する反応には「バラつき」がある.従って,医療の評価は「たまたま」との戦いである.「バラツキ」と「たまたま」を制御するために,統計医学やEBM(evidence-based medicine)が導入されたが,エビデンスレベルの最も高い無作為化介入試験の実施は容易でない.そこで,次善の策ではあるが,医療現場のビッグデータが注目されるようになった.既にビッグデータによる現実の可視化や事前条件を用いた予測が広く利用されている.さらに,ベイズ推計や機械学習を用いた診断システムの開発も始まった.しかし,ビッグデータ解析は基本的に観察研究であり,ベイズ推計には主観も入る.そのため,注意すべき点も多い.本稿では,医学研究におけるビッグデータ研究の位置付け及び事例を紹介する.
著者
永井 良三 相澤 健一 苅尾 七臣 今井 靖
出版者
自治医科大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-07-30

新しい治療法やデバイス、バイオマーカーが相次いで臨床現場に導入されている。しかしその有効性と安全性は必ずしも評価されていない。これをリアルタイムに行うためには、大規模リアルワールドデータを欠かせない。申請者は最近、全国7拠点施設の異なる電子カルテ情報を連結して統合するデータ集積システムを完成した(CLIDAS)。また、申請者らはこれまで様々なクリニカル質量分析装置を活用し、トランスオミックス解析により、多くのバイオマーカーの測定系を開発してきた。そこで本研究では、臨床ビッグデータとトランスオミックス解析を統合し、新しい心臓病学パラダイムを構築する。
著者
永井 良三
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.8-14, 2007-05-01 (Released:2012-02-15)
被引用文献数
1
著者
中島 敏明 飯田 陽子 大沼 仁 岸田 信也 高野 治人 岩沢 邦明 永井 良三
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.542-548, 2006-05-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
28

男性は女性に比し,心房細動,心筋梗塞などに伴う心室頻拍,突然死などの発症が多く,一方,女性は,男性に比し,QT延長症候群(特発性,薬剤性)の発症が多い.これら不整脈の性差の機序については,現在でも不明な点が多いが,性ホルモンの心筋イオンチャネル,自律神経などへのgenomic,nongenomicな作用が複雑に関与していると考えられる.一方,不整脈治療においては,不整脈に対する直接効果を狙った下流に対する(downstream)治療とともに,近年では,その原因に追るアプローチである,より上流に対する(upstream)治療の重要性が注目されている.本稿では,不整脈の性差の発生機序につき,不整脈のupstreamおよびdownstreamへの性ホルモンの作用の点から概説する.
著者
渡部 生聖 林 同文 今井 靖 光山 訓 瀬戸 久美子 新谷 隆彦 橋口 猛志 野口 清輝 真鍋 一郎 戸辺 一之 山崎 力 永井 良三
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.383-390, 2003 (Released:2009-08-19)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

ミッションプログラム医療安全研究グループにおいては, 日々の診療で膨大に発生する各種の診療情報から, 情報処理技術の適用により医学的知見を抽出し, その知識を国内で共有化する為の汎用的な手法について研究を行っている. 研究にあたっては, 倫理面に配慮された適切な情報収集・管理手法によって得られた実際の診療情報を, 医学と工学, それぞれの専門家が共同で体系化することにより, 臨床的に有用な知見を得るにいたっている. これらの医学的成果及びその普及手段としての技術的成果を併せて報告する.
著者
矢崎 義雄 山崎 力 小室 一成 永井 良三 方 榮哲 世古 義規 栗原 裕基
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

循環器系において、血行動態という負荷による心・血管系の変化を、器官のレベルばかりでなく、細胞・分子レベルでとらえることは、心肥大、心不全および血管攣縮、動脈硬化症などの循環器疾患の発症機構を解明する上できわめて重要な課題である。特に物理的な刺激が細胞内の応答機構に生化学的なシグナルとなって伝達され、代謝を調節する機序は、生体が外界からの刺激を受けて反応する現象を生化学的に解明するモデルになるものとして、医学ばかりでなく生物学の広い領域から注目されている。われわれは細胞に物理的な負荷を加える装置を独自に開発するとともに、分子生物学の最先端技術を導入することにより、従来では、生化学的なアプローチが因難であった、物理的な負荷に対する心筋および血管内皮と平滑筋細胞における応答機構の解析を行った。その結果、本研究は循環器疾患の基礎的な病態である心肥大や心不全、あるいは血管攣縮や動脈硬化病変の形成などの病因を遺伝子や分子レベルで捉える研究の発端となって、この分野での知見の著しい進展をもたらすところとなった。具体的には1)心筋の負荷に対する応答機構の解明として、独自に開発したシリコンディシュを用いて心筋細胞に直接機械的なストレスを与え、胎児性蛋白と核内癌遺伝子の発現機序をフォスファチジルイノシトール代謝を中心に解析し、肥大を形成する心筋細胞内応答機構のしくみを明らかにした。さらに形質変化をきたす心筋蛋白のアイソフォーム変換機序をgelshift法などを用いて検討し、心筋の負荷に対する適応現象を遺伝子レベルから究明した。2)血管内皮および平滑筋細胞における血流ストレスに対する応答機構を、固有に存在する遺伝子の発現調節機序を解明することによって、血流に対応した臓器循環が調節されるメカニズムを明らかにした。
著者
永井 良三 眞鍋 一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2010-04-01

KLFファミリーはzincフィンガー型転写因子であり、現在17種類が知られている。本研究では、KLF5とKLF6に着目し、生活習慣病とがんにおける機能の解明をめざした。心臓においては心筋細胞ではKLF6が、線維芽細胞ではKLF5が働き、心臓肥大や線維化を制御している。また、KLF6は大動脈瘤と解離の病態に重要である。腎臓においては、KLF5が腎傷害に対する炎症を制御しており、慢性腎臓病に寄与することを見いだした。またKLF5が大腸癌と関連することを明らかとした。本研究で明らかにされたメカニズムは、新しい治療法や診断法開発の標的となる。
著者
永井 良三 MOHAMMED RAMADAN MOHAMMED Ramadan
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、酸化修飾・変性の評価法を開発し、病態解明ならびに新算法の開発を行う計画である。生活習慣病に代表される経年的な変性病態において、蛋白質の酸化修飾・変性は中心的な役割を果たす。蛋白質は酸化修飾を受けると16Daの質量増加を示すが、微細な変化のため従来検出不可能であった。しかし、最近の質量分析技術により、酸化修飾をはじめとする翻訳後修飾による蛋白質の微量な質量変化の検出、測定が可能となった。本研究では、質量分析計を使用した蛋白質の酸化修飾・変性の測定法を開発する。さらに、その臨床的意義を検討し、さらに臨床応用が可能な診断法を確立することを目的とする。具体的なワークフローは、(1)患者から血液を採取し、(2)蛋白質の酸化修飾を質量分析計で検出し、(3)酸化蛋白質を包括的に解析するとともに、特定の疾患蛋白質(リボ蛋白質LDL,HDL等)の酸化修飾を.検討する。次に、(4)疾患病態発症のメカニズムを解析し、酸化修飾の臨床的意義を動脈硬化性心血管疾患患者(虚血性心疾患、心不全)で検討し、(5)病態における役割の解明ならびに診断測定系としての臨床応用を図る。平成21年度は、ELISA法を用いて血液中の酸化LDLの代表的な構造の一つであるMDA-LDL(マロンジアルデヒド修飾LDL)濃度の測定法を確立した。ELISA法によるLDLのMDA化の定量は、後にプロテオミクスによる酸化修飾・変性を解析する際の指標となる。ELISA法確立の後、実際の患者および健常人血清を用いた検討を行った。基本的には患者(心血管疾患)対健常人の差を疾患別に解析した。冠動脈形成術後の再狭窄、虚血性心疾患、心不全等の動脈硬化性心血管疾患患者とMDA-LDL値との相関解析を中心している。まだ、解析開始後数ヶ月程度であることから十分なサンプル数が得られていないが、次年度に継続することにより、疾患との相関関係が明らかになる。
著者
前村 浩二 林 同文 永井 良三
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は末梢組織体内時計の下流アウトプット遺伝子を同定し、中枢と末梢の体内時計が、各組織ごとの概日リズムの形成にどのように寄与しているかを明らかにすることを目的とする。ClockとBmalを発現するアデノウイルスを培養細胞にinfectionし、cDNA Microarrayにより発現が増加する遺伝子を網羅的に解析した結果、転写因子、分泌タンパク、膜受容体などが体内時計の標的遺伝子の候補として同定された。その中の転写因子、Dec1の機能について解析した。心臓や腎臓、大動脈などの臓器でDec1mRNAの発現は日内変動を呈した。Dec1はClockとBmalによりmRNAレベルで誘導され、またDec1はClockとBmalによるPer1プロモーターの活性を抑制した。さらにDec1は低酸素でその発現が誘導された。これらのことより、Dec1が低酸素などの環境因子を関知して体内時計のコアフィードバックループを調整する因子として働いている可能性が示された。今後はDNA Microarrayにより同定された体内時計に関連する他の遺伝子群についてさらにその発現パターン、循環機能調節における役割をさらに解析する。次に、中枢の体内時計は正常に保たれ、血管内皮末梢体内時計のみが異常なトランスジェニックマウスを作成した。このマウスを用いて今後さまざまな循環機能の日内変動を解析することにより末梢体内時計の役割を中枢と末梢に分けて解析できる。本研究により、心筋梗塞の早朝発症機序を初めとする循環器系疾患の日内変動のメカニズムが分子レベルで詳細に解明されることが期待される。組織固有の日内リズム発生のメカニズムを理解することは今後時間に即した治療法の開発にむすびつけるられることが期待される。
著者
前村 浩二 渡辺 昌文 永井 良三
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

循環器疾患の発症には概日リズムが認められる。本研究は循環器疾患発症の概日リズムを体内時計の観点で明らかにし、時間を考慮した視点からの循環器疾患の予防法、治療法の開発をめざして遂行した。まず末梢の体内時計によりコントロールされている遺伝子群の候補として転写因子、分泌タンパク、膜受容体など28個の遺伝子が同定され、体内時計がこれらの遺伝子発現を通じて循環器疾患発症に関与していることが示唆された。
著者
永井 良三 森田 啓行 前村 浩二
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

血圧や心拍数など心血管系機能、あるいは心筋梗塞や冠動脈スパスムなどの疾患の発症時間には、明らかな日内変動が見られるが、その分子メカニズムは未だ解明されていない。最近、体内時計の分子メカニズムが急速に明らかにされ、CLOCK, BMAL1, PERIODなどの転写因子相互のpositive及びnegativeのfeedbackループから形成されていることが明らかになった。本研究は循環器疾患の日内変動が、心臓や血管に内在する体内時計により制御されているという全く新しい着想により遂行した。マウスをlight-darkサイクルで飼育した後、経時的に心臓や血管などの臓器を採取し、体内時計構成因子群の発現が日内変動をもっていることをNorthernブロット法にて確認した。さらに、血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞の培養を行い、個々の培養細胞レベルで体内時計関連遺伝子の発現が概日リズムを呈することが示され、.心血管系を形成する細胞レベルで体内時計の存在が示された。心筋梗塞、不安定狭心症などの急性冠症侯群は早朝に多く発症し、その一因として線溶系抑制因子であるPAI-1の活性が日内変動を呈し、早朝に最高値になることが挙げられている。我々はさらに血管内皮細胞において、我々のクローニングしたCLIFとCLOCKがPAI-1遺伝子発現の日内変動を局所で調節していることを示した。以上の結果より末梢組織にも体内時計が存在し、局所に抽いてPAI-1遺伝子の発現を調節することにより、心筋梗塞発症の日内変動に寄与していることが示唆された。組織固有の日内リズム発生のメカニズムを理解することは、心筋梗塞や冠動脈スパスムなどの病態の理解を深めることにつながる。さらにそれは時間に即した治療法の開発にむすびつけることが期待される。
著者
原 一雄 山内 敏正 窪田 直人 戸辺 一之 山崎 力 永井 良三 門脇 孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.4, pp.317-324, 2003 (Released:2003-09-19)
参考文献数
7
被引用文献数
3 3

転写因子で核内受容体であるPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)は脂肪細胞の分化に非常に重要な役割を担っており,インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体の細胞内標的である.PPARγヘテロ欠損マウスにおいては,高脂肪食で見られる脂肪細胞の肥大化·インスリン抵抗性の程度が野生型に比べて抑制されていたことからPPARγは脂肪細胞の肥大化を媒介する倹約(節約)遺伝子であることを明らかとした.ヒトPPARγ2遺伝子の12番目のアミノ酸がProからAlaに置換したPro12Ala多型はチアゾリジン誘導体によるPPARγ転写活性上昇作用が低下していること,PPARγヘテロ欠損マウスの解析結果から,Alaアリル保持者はインスリン抵抗性が軽度であることが予測された.そこで2型糖尿病患者と非糖尿病者を対象に検討を行ったところ,糖尿病群に比してAlaアリル頻度が非糖尿病群で有意に高く,Alaアリル保持者は2型糖尿病の発症リスクが低いことが示された.更に多施設共同研究や,これまでのPro12Ala多型についての報告を集積して解析したメタアナリシスでもAlaアリル保持者が一貫して糖尿病のリスクが低下しているという結果が出ている.そこでPPARγの機能をある程度低下させることがインスリン抵抗性糖尿病の治療となりうることが示唆された.実際にPPARγアンタゴニストを糖尿病モデルマウスに投与すると,インスリン抵抗性が改善したことからPPARγアンタゴニストはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の根本的治療法として期待される.しかしながらPPARγヘテロ欠損マウスはeNOSの産生低下,血管弛緩反応の低下による血圧の上昇を示したことから血管に対してはアゴニスト,脂肪細胞に対してはアンタゴニストとして選択的に働く薬剤が理想的であると考えられる.