著者
兼山 達也 阪口 元伸 中島 章博 青木 事成 白ヶ澤 智生 丹羽 新平 松下 泰之 宮崎 真 吉永 卓成 木村 友美
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.225-236, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
49

リアルワールドデータ (RWD) は製薬業界にとってもはや欠かせないツールである. マーケティング目的のみでなく, アンメットニーズの探索, エンドポイントの妥当性検討や患者層の特定など臨床試験のデザインや, 試験を実施する国や地域, 施設の選定や組入れ計画などの実施可能性の検討, 医療技術評価やアウトカム研究などに幅広く利用されている. サイズも大きく企業からアクセス可能なレセプトなどの医療管理データベース (DB) が主に用いられているが, その他の電子医療記録や患者レジストリなども同様に有用である. 日本製薬工業協会 (製薬協) のタスクフォースで2015年夏にデータサイエンス (DS) 部会加盟会社を対象にアンケートを実施したところ, 回答が得られた会社のうちおよそ半数ですでに社内に日本のDBを保有しているか, ウェブツールを通じてアクセス可能であった. 実際, すでに多くの研究結果が各社から, またアカデミアとの共同研究として公表されている. 若手DS担当者が産官学で話し合うDSラウンドテーブル会議でも臨床試験デザインにRWDを応用した事例が共有された. これらの事例は必ずしも論文として公表されず, 社内の意思決定に応用されるものであるので, このような機会に事例を学べることは特に貴重である. RWDの安全性評価への応用は, 来年度からDB研究がPMSのオプションの1つとなることからあらたに注目されている. しかし従来のPMSがすべての目的にかなうものではなかったのと同様にDB研究がすべてを満たせるものでもなく, 目的に応じた研究計画が必要なことはいうまでもない. ほぼ全国民をカバーするナショナルデータベース (NDB) は有益な疫学研究ツールとなり得るが, 企業の研究者は基本的に直接利用できない. 製薬協から申出に従ってある一月のデータを表形式にまとめたものが提供される予定であり, 特定の薬剤に関する結果としてのみでなく, 他のDBの外部妥当性の担保としても貴重なデータとなることが期待されている.
著者
木村 友美 加藤 大輔 西村 拓矢 James Van Schyndle 宇野 慧 吉田 正貴
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.140, no.5, pp.701-710, 2020-05-01 (Released:2020-05-01)
参考文献数
45
被引用文献数
1

We previously reported that anticholinergic (AC) drug use increases with age in the elderly Japanese population. In this analysis, we investigated attribution for each AC drug type to total AC burden using different elderly age groups. Prescription records (from 09/23/2015 to 12/31/2016) for outpatients using any AC were extracted from pharmacy claims (primary source) and hospital-based databases. AC burden (number of AC drugs and AC score) and AC type were assessed using the Anticholinergic Cognitive Burden (ACB) scale, Anticholinergic Drug Scale (ADS), Anticholinergic Risk Scale (ARS), and Beers criteria. Age was categorized using three subgroups (65-74, 75-84, and ≥85 years). Overall, 125426, 140634, 35628, and 23149 of the pharmacy outpatients received ≥1 AC drug from the ACB scale, ADS, ARS, or Beers criteria, respectively. The number of AC drugs increased with age for the ACB scale and ADS groups; but decreased for the ARS and Beers criteria. Antihypertensives provided the biggest contribution to AC score using the ACB scale and ADS, and antihistamines for the ARS. Proportional attribution to AC score typically increased with age for antihypertensives (ADS highest proportion: 34.6% for ≥85 years) and cardiac agents, but decreased for antihistamines (ARS lowest proportion: 15.3% for ≥85 years), corticosteroids, and antiepileptics. Similar findings were typically observed for the hospital database. In conclusion, antihypertensives were the principal type of AC drugs using the ACB scale and ADS and their attribution to AC score increased with age. Antihistamines were the principal drug type for the ARS.
著者
木村 友美
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会; 京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院; 京都大学ヒマラヤ研究ユニット
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.92-101, 2017-03-28

特集2: フィールド医学 = Special Issue 2: Field Medicine 本誌公刊にあたっては、京都大学学士山岳会、京都大学「霊長類学・ワイルドライフサイエンス」・リーディング大学院からの助成をうけました。 本稿は、総合地球環境学研究所の研究プロジェクト「人の生老病死と高所環境―『高所文明』における医学生理・生態・文化的適応」(代表奥宮清人)の一環として、ヒマラヤ地方の北西端に位置するインド・ラダーク地方(以下、ラダーク)において行った医学・栄養学調査(2010年、2011年)から、特に都市部に移住したチベット人に焦点をあてたフォローアップ調査(2013、2014年)について報告するものである。著者らは、2010年9 月にラダークの中心都市レーで、2011年7 月にはラダークの遊牧地域のチャンタン高原でメディカルキャンプを行い、その医学調査・栄養学調査の結果、高血圧や糖尿病といった生活習慣病はチャンタン高原に暮らす遊牧民に比べて、都市の住民で多く、近代化による食や生活様式の変化の影響について示唆している1~3)。そこで、生活習慣病を有するレーの住民にはどのような生活背景や食の実態があるのかを調査するため、2013年、2014年に、生活習慣病のフォローアップとして住民宅への家庭訪問を実施した。2011年のレーでの健診は、チベット難民居住区を含むチョグラムサル地区にて行ったため、健診を受診した対象者309 人のうち多くは、高原から移住した元遊牧民のチベット人であった注1)。遊牧民の定住化、とくに都市への移住による生活様式の大きな変化が、摂取エネルギーの増加と消費エネルギーの減少に影響したことが考えられる。そこで、本稿では、遊牧民の都市への移住に注目し、生活習慣病を有している移住者の食と生活背景の事例を報告する。 This article describes the lifestyle of Tibetan refugees who have settled in Leh town in Ladakh, India, and especially focuses on dietary changes from their nomadic lifestyle. These case reports are based on the follow-up research which had carried out for the Tibetan elderly who had diagnosed diabetes and hypertension by the previous medical check-up done in 2010 and 2011. Authors had reported the prevalence of lifestyle-related diseases was higher among the elderly living in Leh town than that among living in nomadic area called Changtang plateau. Through the interview, the follow-up research also revealed how they perceive their current life after moved to the town from nomadic life as well as the change of daily diet and physical activity. The roles of the elderly are less in town compared to those in the mountain life with a lot of technical tasks such as spinning a yarn from yak hair, milking and processing dairy.
著者
奥宮 清人 稲村 哲也 木村 友美 Kiyohito Okumiya Tetsuya Inamura Yumi Kimura
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of The Open University of Japan (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.69-79, 2015-03-20

インドのラダーク地方において、チャンタン高原(標高4200-4900m)の遊牧民、都市レー(標高3600m)の住民、及び農牧地域のドムカル谷(標高3000-3800m)の農民・農牧民を対象に医学調査を行なった。その結果、①生活習慣病(糖尿病、高血圧など)が都市でより多く発症していること、②標高が高いほど高血糖の率が高いこと、③高カロリー食・高ヘモグロビンの群に高血糖の率が高いだけでなく、低カロリー食・低ヘモグロビンの群においても高血糖が多い、などが明らかになった。①についてはエピジェネティックスや節約遺伝子の考え方によってある程度説明できる。しかし、②や③については説明がつかない。そこには、高所における低酸素への適応が作用しているからである。 Beallによれば、高所への遺伝的適応の方式として、チベットの住民は、肺活量を大きくし、低酸素に対する呼吸応答を調節し、血管を拡張して多くの血液を体に流す「血流増加方式」をとっており、アンデスの住民は、「ヘモグロビン増加方式」をとってきた。 私たちの健診の結果、Beall仮説を指示する結果がでた一方、高齢者の場合、都市レーや生活スタイルが変化しはじめたドムカルで、多血症(高ヘモグロビン)が多くみられるという、Beall仮説に矛盾する結果がでた。また、多血症と糖尿病の相関が認められた。 そこで、その原因を究明した。その結果、高所における酸化ストレスの実態、低酸素と酸化ストレスの関係、酸化ストレスと糖尿病の強い関連がわかってきた。チベット系住民は、NO増加による血管拡張と血流増加によって、低酸素に対する有利な適応をしてきた。ところが、高齢とともに、生活スタイルの急激な変化によって適応バランスが崩れると、多血症や高脂血症を発症して体内低酸素を生じ、その結果、NOの過剰な増加等により酸化ストレスが高まり、かえって糖尿病や老化を促進する。糖尿病と酸化ストレスは相互に影響しあい、症状は重篤化するのである。
著者
木村 友美 小出 大介 折井 孝男
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.135-144, 2013-02-20 (Released:2013-04-10)
参考文献数
37
被引用文献数
5

IT 技術の発展とともに,日々の診療や病院経営,その他の一次目的のために電子的に蓄積される医療情報は飛躍的に増加している.日常診療下での薬剤の使用実態や有用性・安全性を対象とする薬剤疫学研究において,データベースはもはや欠かせないツールであり,その二次利用は規制当局,企業,アカデミアのいずれにおいてもようやく一般的に認められるようになってきた.医療情報データベースを薬剤疫学研究に活用するためには,まず医療システムやデータソースならびにその限界点をよく理解する必要がある.本稿では 2012 年 10 月現在,筆者らが把握している範囲で,本邦で薬剤疫学研究に利用可能なデータベースを,各データベース保有者の確認および許可を得て,その特徴や活用事例と共に紹介する.(薬剤疫学 2012; 17(2): 135-144)