著者
久保田 潔 青木 事成 漆原 尚巳 鍵村 達夫 景山 茂 小出 大介 古閑 晃 佐藤 嗣道 中村 敏明 中島 研 畑中 直也 平河 武 宮川 功 望月 眞弓
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.57-74, 2014-06-30 (Released:2014-08-13)
参考文献数
22
被引用文献数
5 4

日本薬剤疫学会では,医薬品リスク管理(Risk Management Plan:RMP)を作成,実行する側の製薬企業と医療現場およびアカデミアからなるタスクフォースを設置し,2012年4月に厚生労働省より発出された医薬品リスク管理計画指針通知に明記されているICH E2E に準拠した安全性監視計画(Pharmacovigilance Plan:PVP)が立案可能となるようなガイダンスを作成した.内容は以下の 6つから構成されている.1.はじめに:市販後安全性監視に係るこれまでの当学会活動や,活動の目的2.安全性検討事項(Safety Specification:SS)の選択と特徴を記述するためのプロセス・SS をどう選択するか・SS をどう特徴付けるべきか・リサーチ・クエスチョン(Research Questions:RQ)にどうつなげるか3.RQ の決定と記述・RQ とは何か・各種ガイドラインではどう扱われているか・PVP へ RQ を記述する方法と具体的事例・PVP 全体としてみた最適とは4.RQ に最適化された PVP・通常の PVP で可能か,追加の PVP が必要か・追加の PVP のデザインの選択について(RQ と研究デザイン,PICO を用いた RQ の記述,評価の指標)・PVP の記載事項チェックリスト作成について5.結語:使用成績調査の位置づけ,背景発現率と比較群の必要性,今後の PVP の課題6.別添:PVP の記載事項チェックリスト以上をもって医薬品リスク管理計画指針に明記されている「ICH E2E ガイドラインに示されている安全性検討事項及びそれを踏まえた医薬品安全性監視計画」が作成,実行できることを期待したい.
著者
兼山 達也 阪口 元伸 中島 章博 青木 事成 白ヶ澤 智生 丹羽 新平 松下 泰之 宮崎 真 吉永 卓成 木村 友美
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.225-236, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
49

リアルワールドデータ (RWD) は製薬業界にとってもはや欠かせないツールである. マーケティング目的のみでなく, アンメットニーズの探索, エンドポイントの妥当性検討や患者層の特定など臨床試験のデザインや, 試験を実施する国や地域, 施設の選定や組入れ計画などの実施可能性の検討, 医療技術評価やアウトカム研究などに幅広く利用されている. サイズも大きく企業からアクセス可能なレセプトなどの医療管理データベース (DB) が主に用いられているが, その他の電子医療記録や患者レジストリなども同様に有用である. 日本製薬工業協会 (製薬協) のタスクフォースで2015年夏にデータサイエンス (DS) 部会加盟会社を対象にアンケートを実施したところ, 回答が得られた会社のうちおよそ半数ですでに社内に日本のDBを保有しているか, ウェブツールを通じてアクセス可能であった. 実際, すでに多くの研究結果が各社から, またアカデミアとの共同研究として公表されている. 若手DS担当者が産官学で話し合うDSラウンドテーブル会議でも臨床試験デザインにRWDを応用した事例が共有された. これらの事例は必ずしも論文として公表されず, 社内の意思決定に応用されるものであるので, このような機会に事例を学べることは特に貴重である. RWDの安全性評価への応用は, 来年度からDB研究がPMSのオプションの1つとなることからあらたに注目されている. しかし従来のPMSがすべての目的にかなうものではなかったのと同様にDB研究がすべてを満たせるものでもなく, 目的に応じた研究計画が必要なことはいうまでもない. ほぼ全国民をカバーするナショナルデータベース (NDB) は有益な疫学研究ツールとなり得るが, 企業の研究者は基本的に直接利用できない. 製薬協から申出に従ってある一月のデータを表形式にまとめたものが提供される予定であり, 特定の薬剤に関する結果としてのみでなく, 他のDBの外部妥当性の担保としても貴重なデータとなることが期待されている.
著者
久保田 潔 小出 大介 古閑 晃 景山 茂 植田 真一郎 木村 通男 豊田 建 大橋 靖雄 大津 洋 青木 事成 小宮山 靖 庄本 幸司 平河 威 篠田 英範 佐藤 嗣道
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.65-71, 2013-08-31 (Released:2013-10-08)
参考文献数
11

Standardized Structured Medical record Information eXchange(SS-MIX)は 2006 年に厚生労働省標準的医療情報交換推進事業として開始されたプロジェクトである.病院情報システムから HL7 形式で出力される処方,臨床検査の結果,診断,患者情報のデータを受信・蓄積するためのソフトウエアは無償で提供されている.我々は SS-MIX 標準ストレージの市販後調査や臨床研究への利用を推奨する.提言は以下の 7 つから構成される. [1]調査や臨床研究において,SS-MIX 標準ストレージの薬や臨床検査の結果に関する情報は電子的調査票に直接取り込むことができ,研究者は高い精度と粒度の情報を得ることができる. [2]SS-MIX 標準ストレージは地震や突然のネットワーク障害などの災害時において診療に必須の最低限の情報を提供することができ,医療情報の喪失を最小限にとどめるためのツールとして機能しうる.[3]SS-MIX 標準ストレージは,ストレージ内の情報の効率的取得とともに,ある薬を特定期間非使用後に開始した “new users” の特定を可能とし,良質の薬剤疫学研究を実施するために利用することができる.“new users” デザインはバイアスのない結果を得るためにはしばしば必須である. [4]製薬企業が規制にしたがって市販後の調査を実施する際に,SS-MIX 標準ストレージはデータの迅速で効率的な収集を促し,時宜にかなったリスク最小化のための方策を講ずることを可能とする.また,SS-MIX 標準ストレージによって,複数のタイプの研究デザインの利用やデータの質の向上が期待される. [5]SS-MIX 標準ストレージは,リスク最小化計画実施前後の処方パターンや問題となる有害事象の発生を比較することによるリスク最小化計画の評価にも利用可能である. [6]臨床試験の計画にあたって,SS-MIX 標準ストレージは適格患者数の推定に用いることができる.疾患や薬物治療の特徴を知るための断面研究に用いることもできる.さらに,冠動脈造影を実施した患者,薬の新規使用者や稀少疾患患者のコホート特定が可能である.そのようなコホートを用いて,コホート内の症例対照研究,ファーマコゲノミックス研究,治療法の有効性/有用性を比較する研究が可能になる. [7]SS-MIX 標準ストレージは,将来いくつかの条件が満たされれば臨床研究における正規のデータソースとして利用することができる.たとえば,標準化したデータ構造規格(例:Clinical Data Interchange Standards Consortium(CDISC))の利活用,およびコンピュータ化システムバリデーション(Computerized System Validation,CSV)に関する取扱いについて,産官学での合意形成ができること,である.