著者
伊藤 謙一 川嶋 和晴 大庭 芳和 播谷 亮 木村 享史 板倉 智敏
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.523-526, 1997-09-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

岡県の一観光牧場で, 9日間に成兎60羽中53羽 (88.3%) が沈うつ症状を示して発症後数時間で死亡し, 死亡3例について病理学的に検索したところ, 兎出血病 (Rabbit hemorrhagic disease: RHD) に特微的な病変が認められた. すなわち, 組織学的に壊死性肝炎, 肺・腎臓における播種性血管内凝固が認められ, 抗RHDウィルスIgGによる免疫染色で肝細胞に陽性反応が認められた. また, 電子顕微鏡学的には, 壊死肝細胞細胞質にカリシウイルス様粒子が観察された. 死亡例の肝臓乳剤を接種された2羽の兎で本病の再現がなされ, 肝臓からカリシウイルス粒子が精製された. 今回の例は1994年 (北海道) に続いてわが国における第2件目であった.
著者
喜田 宏 伊藤 壽啓 梅村 孝司 藤田 正一 前出 吉光 中里 幸和 高田 礼人 岡崎 克則 板倉 智敏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

ウイルスの病原性発現機構を宿主側の要因を詳細に解析することによって究明することを目的とした。そのため、ウイルス感染によって誘発される宿主細胞由来病原性因子の検出を試みた。インフルエンザウイルス感染発育鶏胚の奨尿膜を超音波破砕し、その可溶性画分をニワトリの静脈内に注射した。ニワトリは汎発性血管内凝固により数分以内に斃死した。この致死活性はヘパリンを静脈内に前投与することによって抑制されたことから、本因子は血液凝固に関与する物質と推定された。陰イオン交換体を用いた高速液体クロマトグラフィーおよび塩析法によって病原性細胞因子を濃縮精製する系を確立し、粗精製致死因子をマウスに免疫して、モノクローナル抗体11クローンを作出した。ニワトリの鼻腔内にインフルエンザウイルス強毒株と弱毒株を実験感染させ、経過を追及した。強毒株はウイルス血症を起こしたが、弱毒株はウイルス血症を起こさなかった。すなわち、強毒株を接種したニワトリでは全身臓器の血管内皮細胞でウイルス増殖が起こり、血管炎を招来した。強毒株の標的が血管内皮細胞であることが明らかになった。損傷した血管内皮細胞から血液凝固因子ならびにサイトカインが放出された結果、汎発性血管内血液凝固を起こし、ニワトリを死に至らしめるものと結論した。この成績はインフルエンザウイルス感染鶏胚奨尿膜から抽出した細胞因子がニワトリに血管内凝固を起す事実と一致する。汎発性血管内血液凝固症候群は様々なウイルス感染症で認められる。したがって、この細胞因子はインフルエンザのみならず他のウイルス感染症においても病原性発現に重要な役割を果たすものと考えられる。ウイルス感染症の治療法を確立するため、本致死因子をコードする遺伝子を同定する必要がある。
著者
板倉 智敏 中村 菊保 中塚 順子 五藤 精知
出版者
公益社団法人 日本獣医学会
雑誌
日本獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science) (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.561-566, 1979-10-25 (Released:2008-02-13)
参考文献数
10
被引用文献数
8 12

犬ジステンパー(CD)生ワクチンを接種された3頭のレッサーパンダが, 定型的なCD症状と病変を示した. 特微病変は, 上皮細胞, 細網内皮細胞における酸好性細胞質ならびに核内封入体形成と, リンパ組織からの著明なリンパ球減数であった. 電顕下で, 細胞質封入体はnucleocapsidから構成されていた. 以上の所見は, 本動物がCDに対し高い感受性を持つこと, CD予防に際し生ワクチン使用は極めて危険であることを示唆する.
著者
御領 政信 柴田 良久 諏訪 隆彦 梅村 孝司 板倉 智敏
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.867-873, 1987-10-15
被引用文献数
3

外国より導入された種鶏からふ化した幼雛において, 鶏貧血因子に起因した貧血症が認められ, 12日から25日齢までの死亡率は, 雌で約2.4%, 雄で20.9%であった。肉眼的には, 骨髄の黄色化, 胸腺及びファブリキウス嚢の萎縮, 肝臓の退色・腫大及び肺の硬化が認められた。組織学的には, 骨髄低形成及びリンパ性器官におけるリンパ球の消失がかなりの発症雛で見られた。17日齢の発症雛の肝臓から, MDCC-MSB1細胞により, chicken anemia agent (CAA) が分離され, 自然感染例と同一の種鶏群由来の1日齢雛は, CAAに対し低感受性であった。肺アスペルギルス症及び細菌感染症が多くの例に合併しており, これらも死因として重要と考えられた。
著者
見上 彪 内貴 正治 松田 治男 板倉 智敏 平井 莞二 加藤 四郎 森口 良三
出版者
北海道大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

本研究はマレック病(MD)のワクチンブレイクに対抗しうる有効なワクチンの開発を最終目標としている. 以下に3年間で得られた成績の概要を述べる.1)MDウイルス(MDV)・七面鳥ヘルペスウイルス(HVT)のウイルス群は血清型として3型に分類されている. それぞれの血清型あるいは免疫原として用いたウイルス株に特異的な単クローン性抗体が班員により, 多数樹立され, これら抗体を用いることにより野外分離ウイルスの同定が容易になった. また, MD腫瘍細胞を免疫原として用いて, MDに特異的な単クローン抗体も作出され腫瘍細胞の同定に有用と思われた.2)ニホンウズラにおけるMDの浸潤状況とHVTによるワクチン予防効果を検討したところ, 実質臓器のリンパ腫瘍を主病変としたMDがウズラの間で多数発生していること, リンパ腫病変とMDV羽包抗原との間に正の相関が, またリンパ腫病変とHVT血清抗体との間に負の相関があることが明らかとなった. MDワクチンブレイクの発生をみたウズラ群から4種のMDVが分離され, これらウイルスは単クローン性抗体により血清型1に属し, 鶏に対しても強い腫瘍原性が示された. 同様にニワトリ群からも5種のウイルスが分離された.3)MDに対するワクチン候補株として, 非腫瘍原性MDVの分離が急がれている. 我々はニワトリ及びキジ類それぞれ13羽, 10羽からウイルス分離を試みたところ, 調べたすべてのニワトリからウイルスが分離され, 単クローン性抗体により血清型2に属していることが明らかとなった. 今後, これらウイルスを用いてワクチンブレイクに対抗しうるワクチンが開発されることが期待される.
著者
板倉 智敏 山極 三郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獸醫學雜誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.11-PLATE II, 1971-02-25

著者らは, 鶏骨の Dysplasia とみなすべき症例に, 再び遭遇した. それは, 本研究の第I報におけると同様に, 一養鶏農家に集団的に発生したものであるが, 骨組織所見に注目すべき差異が存在したので報告する. 検索材料は3例よりなる. それらはすべて32日令, 肉用種(White Cornish×White Rock), 殺処分例である. 全症例について, 第I報におけると同様に, ほぼ全身骨の縦断および横断組織片が組織学的に検索された. 今回の例は, 2週令から4週令にわたって発生した. 臨床症状の特徴としては, O字脚 (Genu varum) が共通的であった. 飼料は市販のものが使用されたが, そのほかに, ストレス緩解の目的で抗生物質およびビタミン製剤が与えられた. 発生数は, 同日令群1,200羽中192羽(16%)に達した. 検索した3症例に共通した組織変化として, 骨体性骨組織の完熟遅延と局所性異常増殖が指摘された. このような変化を示す部位として, 管状骨の後面骨, 特にその骨幹中位および骨端よりの骨化点に相当すると思われる部位が, 多く選ばれていた. 他方,骨端性骨組織の異常増殖像には遭遇しなかった. このことは, 第I報において記載した所見とは異なったものとして注目された. 以上の組織変化を基礎として, 本例の症状の特徴であるO字脚の成因を考えてみた. また, 原因発生について, 集団的に発生したこと, 飼料のほかに抗生物質およぴビタミン製剤などが与えられたことは, 看過し得ない事実として, 若干の考察が行なわれた.
著者
吉松 組子 有川 二郎 大洞 嗣子 板倉 智敏
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.863-868, 1997-10-25
被引用文献数
22

重症複合型免疫不全 (SCID) マウスをハンタウイルスHantaan76-118およびSR-11株に感染させ正常マウス, 新生マウスおよびヌードマウスにおける感染経過を比較した. SCIDマウスは両ハンタウイルス感染によって感染後32日から38日目に死亡した. ハンタウイルスによって致死的となる新生マウスの場合と異なり, 神経症状よりも全身の衰弱が顕著であった. 感染後2週間目までにBALB/cマウスから脾細胞を移植することによってSCIDマウスには受け身感染防御が成立した. 免疫組織染色と主要臓器からのウイルス分離によってヌードマウスもSCIDと同様に全身感染が成立していることが明らかとなったが, ヌードマウスは感染後, 観察期間の8週間以上生存した. 以上の結果から, マウスにおける致死的なハンタウイルス感染からの防御には宿主の免疫が重要であることが示された. さらに免疫介在性の病原性についてSCIDマウスへの脾細胞移植によって検討した. 感染後3週目に脾細胞移植を受けたSCIDマウスは, 血中抗ハンタウイルス抗体の出現に伴って血中尿素体窒素 (BUN) の上昇が見られ, 宿主の抗ウイルス免疫が病原性に関わっていると考えられた.