著者
稲井 卓真 久保 雅義 江玉 睦明 高林 知也 小熊 雄二郎
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11204, (Released:2016-08-25)
参考文献数
56

【目的】本研究の目的は,3 次元上の股関節の動きが大腰筋の伸張率に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】先行研究によって報告されたパラメータから,筋骨格モデルを作成した。数理モデルを用いて,股関節の角度を変化させたときの大腰筋の伸張率を検討した。解剖学的肢位での大腰筋の筋線維長を100% とした。【結果】大腰筋の伸張率は,股関節の伸展20 度のみ(104.8%)より,股関節の伸展20 度に外転20 度・内旋30 度を加えることでより高くなった(106.5%)。【結論】股関節の伸展のみと比較して,股関節の伸展に外転と内旋を加えたとき,大腰筋はより伸張される可能性がある。
著者
渡邊 貴博 高林 知也 渡部 貴也 久保 雅義
出版者
日本バイオメカニクス学会
雑誌
バイオメカニクス研究 (ISSN:13431706)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.52-61, 2022 (Released:2022-09-08)
参考文献数
29

To prevent chronic ankle instability (CAI) and understand why outcomes vary among patients with a lateral ankle sprain, it is important to examine the differences in movement patterns between copers without recurrent ankle sprain and those who develop CAI. The differences in coordination between both groups are unclear, even though abnormal movements of the rearfoot may affect the forefoot through coupling. Therefore, the purpose of this study was to investigate the coordination between the rearfoot and forefoot of CAI, coper groups. Twelve individuals with CAI, 12 copers, and 12 controls ran on a treadmill at a fixed speed of 2.5 m/s. Kinematic data of the rearfoot and forefoot were measured using a three-dimensional motion analysis system. The coupling angle between the rearfoot and forefoot was calculated using the modified vector coding technique and was classified into four coordination patterns. During early stance, the coper group showed a significantly greater proportion of anti-phase with distal dominancy than the CAI group (p<0.05), and in-phase with distal dominancy approached to decrease than the CAI group (p=0.052). During midstance, the CAI group approached to increase proportion of anti-phase with distal dominancy than the control group (p=0.053). During late stance, the coper group showed a significantly decreased proportion of anti-phase with distal dominancy than the control group (p<0.05). This study may provide in-depth knowledge of motor-behavioral characteristics of coper and CAI.
著者
稲井 卓真 久保 雅義 江玉 睦明 高林 知也 小熊 雄二郎
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.404-411, 2016 (Released:2016-10-20)
参考文献数
56

【目的】本研究の目的は,3 次元上の股関節の動きが大腰筋の伸張率に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】先行研究によって報告されたパラメータから,筋骨格モデルを作成した。数理モデルを用いて,股関節の角度を変化させたときの大腰筋の伸張率を検討した。解剖学的肢位での大腰筋の筋線維長を100% とした。【結果】大腰筋の伸張率は,股関節の伸展20 度のみ(104.8%)より,股関節の伸展20 度に外転20 度・内旋30 度を加えることでより高くなった(106.5%)。【結論】股関節の伸展のみと比較して,股関節の伸展に外転と内旋を加えたとき,大腰筋はより伸張される可能性がある。
著者
高林 知也 江玉 睦明 横山 絵里花 徳永 由太 久保 雅義
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.67-73, 2016 (Released:2017-08-01)
参考文献数
32
被引用文献数
1

ウィンドラス機構 (WM) とは歩行時の蹴り出し時の推進力を生み出す足部機能のひとつであり, 効率的な歩行を実現するために重要な役割を担っている. しかし, 走行におけるWMはいまだ明らかとなっていない. 本研究は, 走行と歩行の動作様式の違いがWMにおよぼす影響を検証した. 対象は健常成人男性9名とし, 課題動作はトレッドミル上での走行と歩行とした. 解析項目として, WMの指標である内側縦アーチ角度と母趾背屈角度を立脚期で算出した. 走行と歩行で内側縦アーチ角度最小値は変化がみられなかったが (157.4±6.0°, 156.9±4.9°), 走行は歩行と比較して母趾背屈角度ピーク値が有意に低値を示した (32.9±7.3°, 39.9±9.0°; p<0.05). 本研究結果より, 走行時のWMの役割は限局的である可能性が示唆された.
著者
徳永 由太 高林 知也 稲井 卓真 中村 絵美 神田 賢 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-106_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】膝関節周囲の悪性腫瘍による大腿四頭筋の広範囲切除によって膝関節伸展筋力は大幅に低下し,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作に影響を及ぼすことが報告されている.一般的には,大腿四頭筋が膝関節伸展作用を発揮すると考えられているが,一部の先行研究ではハムストリングス(HAM)が膝関節伸展作用を発揮する可能性が提示されている.しかし,どのような姿勢でHAMが膝関節伸展作用を発揮するのかは明らかとなっていない.そこで本研究は,数理モデルを用いてHAMが膝関節伸展作用を発揮できる姿勢を明らかすることを目的とした. 【方法】身長1.8 m,体重80 kgの対象者を仮定し,体幹,大腿,下腿から構成される矢状面リンクモデルを構築した. HAMの膝関節屈曲および股関節伸展モーメントアーム(MA)はOpenSimのGait2392モデルで報告されており,HAMの筋張力を決定すれば,HAMによる膝関節屈曲および股関節伸展モーメントは一意に決定できる.本研究では10Nmの膝関節屈曲モーメントが発揮されるようにHAMの筋張力を設定した.膝関節を屈曲0度~90度,股関節を伸展30度~屈曲90度の範囲内で変位させ,順動力学シミュレーションを実施した.なお,純粋なHAMの作用を確認するため重力の影響がない姿勢を仮定した.HAM機能の判定には,シミュレーション開始時と終了時の膝関節屈曲角度の差を用いた.先行研究において,HAMが膝関節伸展作用を発揮するためには,HAMの股関節伸展MAが膝関節屈曲MAに比較して大きい必要があると報告されている.そのため,股関節伸展MAを膝関節屈曲MAで除した値(MA比)も算出した.上記の解析はScilab 6.0.0によって実施した. 【結果】HAMは膝関節屈曲7~0度かつ股関節屈曲2~62度(条件1),膝関節屈曲44~90度かつ股関節伸展30~屈曲50度(条件2),の2つの条件下で膝関節伸展作用を発揮した.条件1では膝関節角度が小さいほど,条件2では膝関節屈曲角度が大きいほど膝関節伸展作用が強くなる傾向にあった.また,MA比が大きい場合でも,HAMが膝関節伸展作用を発揮しないこともあった. 【考察】本研究の結果より,HAMの膝関節伸展作用の発揮はMA比の大小だけでは説明できないことが明らかとなった.先行研究において,筋の力学的作用はリンクシステムの姿勢により変化することが報告されている.本研究においても,姿勢の影響によりHAMの力学的な作用が修飾されている可能性が考えられた. 【結論】本研究は2つの条件下においてHAMが膝関節伸展作用を発揮する可能性を提示した.この結果から考えると,条件1・2におけるHAMの膝関節伸展作用をうまく活用することが出来れば,大腿四頭筋の機能不全を有する者であっても,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作を円滑に遂行できる可能性が考えられた. 【倫理的配慮,説明と同意】本研究は数理モデルを用いた順動力学シミュレーションによる検証のため,倫理的配慮および説明と同意に該当する内容は含んでない.数理モデルに必要なパラメータは先行研究で報告されたものや既存のモデルを参照しているため,個人を特定する内容は含まれていない.
著者
吉田 行宏 林 知也 矢野 忠
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.177-190, 2010 (Released:2013-09-05)
参考文献数
40

Aim  The study aimed to develop an appropriate in vivo rat model of muscle strain to investigate whether electroacupuncture is useful for improving muscle strain.Methods  An in vivo muscle strain model was developed with Wistar rats by the eccentric contraction (EC) evoked by pulling their hind limb with a stainless-steel wire that was connected to a weight; the EC was given under anesthesia during tetanic contraction in their gastrocnemius evoking by electrical stimulation of the sciatic nerve. Development of muscle strain was evaluated by comparing the muscle tension induced by the twitch of the gastrocnemius, pain thresholds measured using the Randall-Selitto test, and the serum creatine kinase (CK) activity between the following three experimental groups : EC×1 group, EC was temporarily evoked to their hind limb only once (n=10); EC×5 group, EC was temporarily evoked to their hind limb five times consecutively (n=6); and control group, EC was not evoked to their hind limb (n=6). After confirming the absence of a significant difference in the parameters between the two EC conditions, the effect of electroacupuncture (EA) was evaluated using the model of one-time EC (EA group n=10). At 12 hours after EC, EA was carried out at a frequency of 50 Hz and an intensity of 0.5 mA for 15 min; this stimulation was given for six consecutive days.Results  Muscle tension, pain thresholds, and the CK activity showed no remarkable changes in the control group during the experimental period. A significant decrease in the muscle tension was observed after EC in the EC×1 and EC×5 groups, and the decrease sustained until 48 and 24 hours after EC, respectively. Pain thresholds in the EC×1 and EC×5 groups were significantly lower than those in the control group at each of the time periods studied after EC, and were sustained at least until 120 hours after EC. The CK activity increased in the EC×1 and the EC×5 groups at 30 minutes after EC. Recovery in muscle tension after EC was faster in the EA group than in the EC×1 group. Pain thresholds also showed faster recovery in the EA group than in the EC×1 group, indicating statistically significant differences at 72, 96, and 120 hours after EC.Discussion  The in vivo rat model, which was developed in the present study, was considered to be an appropriate model of muscle strain because it clearly showed a decrease in the muscle tension and pain thresholds, and an elevation in the CK activity. EA was considered to be capable of accelerating the recovery of muscle strain as it was found to improve muscle tension and pain thresholds in the model.
著者
高林 知也
出版者
新潟医療福祉大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は正常足と扁平足で足部内の協調性パターンと力学的負荷を検証することを目的とした.はじめに,正常足と扁平足の足部内の違いに着目し,扁平足はランニング中に正常足と比較して過剰に後足部と中足部,前足部が動くことを明らかにした.さらに,足部内の力学的負荷の性差も検証し,ショパール関節モーメントとリスフラン関節モーメントに性差は認められないことを明らかにした.
著者
稲井 卓真 高林 知也 江玉 睦明 久保 雅義
出版者
一般社団法人 日本基礎理学療法学会
雑誌
基礎理学療法学 (ISSN:24366382)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.26-32, 2021 (Released:2021-11-04)
参考文献数
53

変形性股関節症は股関節痛に加え,関節可動域・下肢筋力・日常生活動作能力・生活の質の低下を伴う代表的な整形外科疾患である。しかしながら,変形性股関節症の進行を遅延させるエビデンスは十分には確立されていない。我々は,動作中の股関節の負荷の指標として股関節モーメントインパルスに着目し,歩行中の股関節内・外転モーメントインパルスと立ち上がり動作中の股関節伸展モーメントインパルスを検討した。歩行に関して,対側杖の使用により股関節内・外転モーメントインパルスが減少すること,および歩行速度の低下に伴い股関節内・外転モーメントインパルスが増加することを明らかにした。また,立ち上がり動作に関して,立ち上がり時間の減少に伴い股関節伸展モーメントインパルスが減少することを明らかにした。我々の知見は,股関節内・外転モーメントインパルスが低い(または高い)歩行パターン,および股関節伸展モーメントインパルスが低い(または高い)立ち上がり動作パターンを理解するために役立つと考える。さらに,我々の知見は変形性股関節症の進行を遅延させるために将来役立つ可能性があると考えられる。
著者
江玉 睦明 久保 雅義 大西 秀明 稲井 卓真 高林 知也 横山 絵里花 渡邉 博史 梨本 智史 影山 幾男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0563, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】アキレス腱(AT)障害の発生メカニズムとしては,これまで踵骨の過回内による「whipping action(ムチ打ち)」が要因であると考えられてきた。しかし,近年では,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として重要視されてきている。この原因としては,ATの捻れ構造が関与している可能性が示唆されていが,ATの捻れの程度の違いを考慮して検討した報告はない。従って,本研究は,踵骨を回内・回外方向に動かした際にATを構成する各腱線維束に加わる伸張度(%)を捻れのタイプ別に検討することを目的とした。【方法】対象は,我々が先行研究(Edama,2014)で分類したATの3つの捻れのタイプ(I:軽度,II:中等度,III:重度の捻れ)を1側ずつ(日本人遺体3側,全て男性,平均年齢:83±18歳)使用した。方法は,下腿部から踵骨の一部と共に下腿三頭筋を採取し,腓腹筋の筋腹が付着するAT線維束とヒラメ筋の筋腹が付着するAT線維束(以下,Sol)を分離し,腓腹筋内側頭が付着するAT線維束(以下,MG)と外側頭の筋腹が付着するAT線維束(以下,LG)とに分離した。そして,各腱線維束の踵骨付着部の配列を分析して3つの捻れのタイプに分類し,各線維束を3-4mm程度にまで細かく分離を行った(MG:4~9線維,LG:3~9線維,Sol:10~14線維)。次に,下腿三頭筋を台上に動かないように十分に固定し,Microscribe装置(G2X-SYS,Revware社)を使用して,各腱線維の筋腱移行部と踵骨隆起付着部の2点,踵骨隆起の外側の4点をデジタイズして3次元構築した。最後に,任意に規定した踵骨隆起の回転中心を基準に作成した絶対座標系上で踵骨を回内(20°)・回外(20°)方向に動かした際の各腱線維の伸張度(%)をシミュレーションして算出した。解析には,SCILAB-5.5.0を使用した。統計学的検討は,Microscribe装置測定の検者内信頼性については,級内相関係数(ICC;1,1)を用いて行った。【結果】級内相関係数(ICC;1,1)は,0.98であり高い信頼性・再現性が確認できた。タイプ毎の伸張度(%)は,タイプIでは,回内(MG:-1.6±0.9%,LG:-2.2±0.2%,Sol:1.7±3.4%),回外(MG:1.3±0.7%,LG:2.0±0.3%,Sol:-1.4±3.3%),タイプIIでは,回内(MG:-1.2±0.7%,LG:-0.4±0.6%,Sol:2.4±1.4%),回外(MG:0.8±0.7%,LG:0.4±0.5%,Sol:-3.2±1.5%),タイプIIIでは回内(MG:-1.7±0.4%,LG:-0.4±1.4%,Sol:3.7±6.0%),回外(MG:1.3±0.4%,LG:0.4±1.3%,Sol:-5.4±6.2%)であった。【考察】AT障害の発生メカニズムとして,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として報告されている。また,好発部位は,踵骨隆起から近位2-6cmであり,外側よりも内側に多いことが報告されている。今回,踵骨を回内すると3つの捻れのタイプ全てにおいて,MG・LGは短縮し,Solは伸張された。特にタイプIII(重度の捻れ)では,回内時のSolの伸張度が他のタイプに比べて最も大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度のばらつきが多い結果であった。従って,タイプIII(重度の捻れ)では,踵骨回内時には,ATを構成するMG,LG,Solの伸張度が異なるだけでなく,他のタイプに比べてSolの伸張度が大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度も異なるため,AT障害の発生リスクが高まる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】AT障害は,重症化するケースは少ないが再発率が高く,管理の難しい疾患の一つとされている。近年,有効な治療法はいくつか報告されているが,予防法に関しては有効なものが存在していない。その原因として,発生メカニズムが十分に解明されていないことが懸念されている。本研究結果は,AT障害の発生メカニズムの解明に繋がり,有効な予防法や治療法の考案,更には捻れ構造の機能解明に繋がると考える。
著者
徳永 由太 高林 知也 稲井 卓真 中村 絵美 神田 賢 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-106_2-I-106_2, 2019

<p>【はじめに】膝関節周囲の悪性腫瘍による大腿四頭筋の広範囲切除によって膝関節伸展筋力は大幅に低下し,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作に影響を及ぼすことが報告されている.一般的には,大腿四頭筋が膝関節伸展作用を発揮すると考えられているが,一部の先行研究ではハムストリングス(HAM)が膝関節伸展作用を発揮する可能性が提示されている.しかし,どのような姿勢でHAMが膝関節伸展作用を発揮するのかは明らかとなっていない.そこで本研究は,数理モデルを用いてHAMが膝関節伸展作用を発揮できる姿勢を明らかすることを目的とした.</p><p> </p><p>【方法】身長1.8 m,体重80 kgの対象者を仮定し,体幹,大腿,下腿から構成される矢状面リンクモデルを構築した. HAMの膝関節屈曲および股関節伸展モーメントアーム(MA)はOpenSimのGait2392モデルで報告されており,HAMの筋張力を決定すれば,HAMによる膝関節屈曲および股関節伸展モーメントは一意に決定できる.本研究では10Nmの膝関節屈曲モーメントが発揮されるようにHAMの筋張力を設定した.膝関節を屈曲0度~90度,股関節を伸展30度~屈曲90度の範囲内で変位させ,順動力学シミュレーションを実施した.なお,純粋なHAMの作用を確認するため重力の影響がない姿勢を仮定した.HAM機能の判定には,シミュレーション開始時と終了時の膝関節屈曲角度の差を用いた.先行研究において,HAMが膝関節伸展作用を発揮するためには,HAMの股関節伸展MAが膝関節屈曲MAに比較して大きい必要があると報告されている.そのため,股関節伸展MAを膝関節屈曲MAで除した値(MA比)も算出した.上記の解析はScilab 6.0.0によって実施した.</p><p> </p><p>【結果】HAMは膝関節屈曲7~0度かつ股関節屈曲2~62度(条件1),膝関節屈曲44~90度かつ股関節伸展30~屈曲50度(条件2),の2つの条件下で膝関節伸展作用を発揮した.条件1では膝関節角度が小さいほど,条件2では膝関節屈曲角度が大きいほど膝関節伸展作用が強くなる傾向にあった.また,MA比が大きい場合でも,HAMが膝関節伸展作用を発揮しないこともあった.</p><p> </p><p>【考察】本研究の結果より,HAMの膝関節伸展作用の発揮はMA比の大小だけでは説明できないことが明らかとなった.先行研究において,筋の力学的作用はリンクシステムの姿勢により変化することが報告されている.本研究においても,姿勢の影響によりHAMの力学的な作用が修飾されている可能性が考えられた.</p><p> </p><p>【結論】本研究は2つの条件下においてHAMが膝関節伸展作用を発揮する可能性を提示した.この結果から考えると,条件1・2におけるHAMの膝関節伸展作用をうまく活用することが出来れば,大腿四頭筋の機能不全を有する者であっても,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作を円滑に遂行できる可能性が考えられた.</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究は数理モデルを用いた順動力学シミュレーションによる検証のため,倫理的配慮および説明と同意に該当する内容は含んでない.数理モデルに必要なパラメータは先行研究で報告されたものや既存のモデルを参照しているため,個人を特定する内容は含まれていない.</p>
著者
高林 知也 江玉 睦明 稲井 卓真 横山 絵里花 徳永 由太 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0386, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】歩行速度は,運動機能を推測するための‘バイタルサイン'とされており,歩行における重要な評価指標である。先行研究では,多くの整形疾患で歩行速度が低下することや,認知機能との関連性があることも指摘されている。さらに,Winterらは片麻痺患者を対象に歩行速度を検証し,屋外および屋内歩行レベルは歩行速度により決定されると報告した。したがって,歩行速度の低下は社会参加制約に直結する因子である。歩行速度に関与する足部機能のひとつに,ウィンドラス機構(WM)がある。WMとは,足指背屈により内側縦アーチが拳上し,蹴り出し時の推進力を生み出す機構である。しかし,歩行速度の変化とWMの関連性については現在まで検証されていない。その要因として,足指角度や内側縦アーチ挙上角度(MLAEA)の動的な定量化が困難であり,詳細な足部評価が確立していないことが挙げられる。そこで,本研究は足指角度とMLAEAを動的に評価できる3DFoot modelを用いて,歩行速度の変化とWMの関連性について明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は健常成人男性6名とした(年齢23.5±3.8歳,身長171.2±4.6 cm,体重60.0±5.5 kg)。課題動作は通常歩行(NG:4.8 km/h),低速歩行(SG:2.9 km/h),超低速歩行(VSG:1.0 km/h)の3条件とした。歩行速度は先行研究に準じ,SGは脳卒中患者の屋外歩行,VSGは脳卒中患者の屋内歩行レベルに規定した。トレッドミル(AUTO RUNNER AR-100)にて歩行速度を設定し,課題動作を実施した。課題動作の順序は無作為に実施し,各条件で10回の成功試行を計測した。動作解析には赤外線カメラ11台を含む3次元動作解析装置(VICON MX)を使用し,サンプリング周波数100Hzにて右下腿と足部に貼付した15個の反射マーカーを計測した。データ解析にはScilab(5.5.0)を使用し,計測した反射マーカーに対し遮断周波数6Hzの2次Zero-lag butterworth low pass filterを施した。その後,足指角度とMLAEAを評価可能な3DFoot modelを構築した。母趾は足指の中でWMに最も関与するとされているため,母趾背屈角度(HDFA)とMLAEAを算出し,WMの指標とした。なお,3DFoot modelで算出されるMLAEAは低値であるほど高アーチを示す。解析区間である踵接地から爪先離地(TO)までの立脚期を100%正規化し,各被験者で課題条件毎に解析項目を加算平均した。統計は,TO時におけるHDFAとMLAEAの平均値に対し,課題条件を因子としたフリードマン検定,事後検定としてSteel-Dwass法にて解析した。また,HDFAとMLAEAの関連性を相関係数にて検証した。有意水準は5%とし,統計ソフトstatics R(3.0.0)を用いた。【結果】HDFAとMLAEAの相関関係において,NGでは強い負の相関を示し(r=-0.91),SGおよびVSGでは中等度の負の相関を示した(r=-0.50,-0.57)。TO時のHDFAにおいて,NG(34.5±5.7°)はVSG(8.0±6.7°)と比較して有意に高値を示したが(p<0.05),SG(23.1±5.0°)はNGおよびVSGと比較して有意差を示さなかった。TO時のMLAEAは課題条件間にて有意差を示さなかったが,歩行速度増加に伴い高アーチの傾向を示した(NG:159.2±3.8°,SG:164.5±4.9°,VSG:167.1±6.3°)。【考察】本研究において,歩行速度の変化とWMの間には高い関連性が存在していることが示唆された。WMは足指背屈により生じるため,足指の動きがWMのトリガーの役割を担っている。また,内側縦アーチの低下はWMが破綻するとされているため,MLAEAもWMに関与する重要な因子である。本研究において,NGのHDFAはVSGと比較して有意に増加し,MLEAは歩行速度の増加に伴い高アーチの傾向を示した。さらに,HDFAとMLAEAの相関関係は,NGにおいて強い負の相関を示した。そのため,NGはWMがより働き,SGとVSGはWMへの関与が少ない可能性が考えられた。課題条件で用いたSGとVSGは,脳卒中患者の歩行レベルに準じて規定した。本研究結果より,脳卒中患者の歩行速度を通常歩行レベルに向上させるためには,WMを考慮する必要性が示唆された。なお,本研究で用いた3DFoot modelは,他のMulti-segment foot modelと比較して再現性が高いことが確認されている。また,算出したHDFAとMLAEAは,3DFoot modelを報告した先行研究と類似した波形パターンと値を示したため,本研究結果は妥当性が高いと考えられた。【理学療法学研究としての意義】理学療法において歩行速度を向上させることは,実用的および効率的な歩行を実現するために重要な課題である。本研究の知見は,歩行動作にアプローチする上で有益な基礎情報に成り得る。
著者
藤本 英樹 片山 憲史 林 知也 木村 啓作 矢野 忠
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.203-212, 2008 (Released:2008-09-02)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1 1

(目的)酸化ストレスの評価は、スポーツ選手のコンディショニングに重要である。そこで、運動誘発性の酸化ストレスに対する鍼通電刺激の影響について検討した。(方法)対象は健常成人男性10名で、鍼通電(EA)群と無刺激対照(CONT)群を設け、低周波鍼通電を両内側広筋へ行った。漸増運動負荷はエルゴメーターを用い、負荷中の呼吸代謝を記録した。酸化ストレスの評価はFRAS4により行った。(結果)CONT群に比し、EA群ではRCポイントの有意な延長を認めた。CONT群で酸化ストレス度は負荷前と比し運動により有意に上昇したが、抗酸化力ではその上昇は認められなかった。EA群で酸化ストレス度は運動により有意な上昇を認めず、抗酸化力では有意に上昇した。(結論)鍼通電刺激は呼吸代謝に影響を与え、酸化ストレス度を抑制し、抗酸化力を高める可能性が示唆され、鍼通電刺激はスポーツ選手のコンディショニングに有用であると考えた。