著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.21-28, 2012-03-31 (Released:2013-04-02)
参考文献数
41
被引用文献数
3 2

かつては Silent area と言われた前頭葉前野にも多くの脳機能が存在し, 人が生きていくために非常に大切な役割を果たすことが明らかとなってきた。前頭葉損傷では, 失語症や半側空間無視に加え, 記憶障害, 注意障害がみられる。また, 遂行機能障害に加え, 脱抑制や人格変化などの社会的行動障害, 発動性低下や無関心などの症状がみられる。前頭葉損傷を論じるためには, 前頭葉の機能解剖や病態生理を理解した上で, 詳細な評価を行わねばならない。ただし前頭葉機能検査の多くは, 限局した前頭葉病変に特異的な検査ではなく, 別の部位の損傷によっても低下がみられることもあるので注意が必要である。適切な評価を行い, 病状を正確に把握することは, 患者が快適な社会生活を送るための第一歩になると思われる。
著者
大江 康子 林 健 内野 晃 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.247-254, 2014 (Released:2014-07-25)
参考文献数
56
被引用文献数
4 3

要旨:けいれん発作,とくにけいれん重積発作にともない,皮質や皮質下領域にMRI で信号異常を認めることがある.海馬を含む大脳皮質や,皮質下病変として視床,脳梁,また小脳など多岐にわたる部位での信号異常が報告されている.これらのけいれん発作にともなうMRI 異常信号は,異常興奮による脳局所の血流増加や代謝亢進を反映していると考えられる.最近では,臨床の場で脳血管障害や脳腫瘍などの他疾患との鑑別が問題になるケースにも出合うようになった.本稿では,けいれん発作にともなうMRI 異常信号について,臨床的,画像的,生物学的,病理学的観点から概説する.
著者
加藤 裕司 傳法 倫久 武田 英孝 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.480-487, 2011 (Released:2011-09-27)
参考文献数
45

下大静脈弁(Eustachian valve; EV)は胎生期の右房遺残構造物で,従来,病的意義がないとされてきたが,近年,欧米の循環器領域を中心に,卵円孔の自然閉鎖を阻害し,右-左シャントを助長することで奇異性脳塞栓症を惹起するとの報告が相次いでいる.一方,本邦では同様の報告はほとんどない.EVの頻度については,人種差を考慮する必要があるが,本邦では見過ごされている可能性がある.EVは高率に卵円孔開存症を合併し,右-左シャントを助長するとともに,末梢静脈からの栓子を捕捉,あるいはEVそのものが血栓形成の温床になることで奇異性脳塞栓症の原因となりうるから,10 mm以上の比較的大きいEVには留意する必要がある.
著者
出口 一郎 荒木 信夫 前島 伸一郎 武田 英孝 古屋 大典 加藤 裕司 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.749-754, 2008 (Released:2008-10-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

症例は59歳女性.突然の眩暈,嘔吐のため当院へ救急搬送された.頭部MRI拡散強調画像上,左上小脳動脈灌流域に急性期脳梗塞所見を認め,加療を開始した.入院後上記症状の改善を認めたが,入院5日後に施行した神経心理学的検査では記憶・遂行機能などの認知機能の著明な障害を呈し,SPECTでも両側基底核,小脳,側頭葉,頭頂葉および前頭葉におよぶ広範な血流低下がみられた.入院約1カ月および2カ月後の神経心理学的検査では認知機能の著明な改善を認め,SPECTでも上記部位の血流は改善していた. 本症例は小脳梗塞にて認知機能障害を呈したCerebellar cognitive affective syndromeと考えられた.従来,認知・行動障害は小脳後方領域の障害,また感情障害は虫部の障害と関連があるとする報告や,認知障害は後下小脳動脈領域の障害で生じ,上小脳動脈領域の障害では生じないという報告があるが,本症例では上小脳動脈領域の梗塞で遂行機能障害を呈し,情動性変化は認められなかった.
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 山根 文孝 栗田 浩樹 石原 正一郎 佐藤 章 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.98-105, 2011-01-25 (Released:2011-01-26)
参考文献数
25
被引用文献数
2

【目的】小脳出血急性期の臨床像と機能予後や転帰に及ぼす要因について検討した.【対象と方法】小脳出血45名(男性28,女性17)を対象に,初回評価時の神経症状に加え,嘔気・眩暈などの自覚症状,認知機能,嚥下機能,血腫量と退院時の日常生活活動,転帰先について検討した.なお,入院期間は平均24.6日であった.【結果】意識障害は11名に認めたが,いずれも血腫量が大きく,機能予後が不良で,自宅退院に至ったものはなかった.意識障害のない34名中,嘔気・眩暈を22名,四肢失調を19名,体幹失調を16名,嚥下障害を19名,構音障害を8名,認知機能障害を24名に認めた.自宅退院は12名で,日常生活活動が良好であると同時に認知機能と嚥下機能が保たれていた.【結語】急性期病院において,小脳出血の退院先を決定する要因には,意識障害や日常生活活動だけでなく,認知機能や嚥下機能も念頭におく必要がある.
著者
名古屋 春満 武田 英孝 傳法 倫久 加藤 裕司 出口 一郎 福岡 卓也 丸山 元 堀内 陽介 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.59-66, 2011-01-25 (Released:2011-01-26)
参考文献数
23
被引用文献数
7 5

2002年8月から2009年10月までの間に埼玉医科大学国際医療センター・埼玉医科大学病院を受診した特発性頸部内頸動脈解離症例10例(年齢は36~70歳,男性8例,女性2例)について臨床的検討を行った.診断にはSASSY-Japan脳動脈解離ワーキンググループの「脳動脈解離の診断基準」をもとに,頭部MRI・MRA,3D-CTA,脳血管撮影,頸動脈超音波検査などの検査を用いて行った.脳虚血発症例は8例,頸部痛のみの症例が1例,無症候性が1例であった.発症時に頭痛または頸部痛を伴った症例は4例(40%)であった.10例中4例で発症後3カ月以内に画像上解離血管の改善が認められた.発症3カ月後のmodified Rankin Scale(mRS)は7例がmRS 1であり,3例がmRS 2と全例で転帰が良好であった.平均観察期間17.2カ月において,全例で脳卒中の再発を認めなかった.本邦においても特発性頸部内頸動脈解離症例は決して稀ではなく,内頸動脈の閉塞または狭窄を来した症例に遭遇した際には,常に本疾患を念頭においた複数の検査を可及的速やかに行う必要がある.
著者
安部 鉄也 三島 一彦 内野 晃 佐々木 惇 棚橋 紀夫 髙尾 昌樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.627-632, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
18
被引用文献数
3 8

症例は84歳女性.緩徐進行性の認知機能障害の経過中に失行が出現した.神経学的所見は認知機能障害,失行に加え左上下肢の筋力低下を認めた.頭部magnetic resonance imaging(MRI)で右側頭頭頂葉の髄膜のfluid attenuated inversion recovery(FLAIR),diffusion weighted Imaging(DWI)高信号を認め造影効果を有し,血液検査で抗cyclic citrullinated peptides(CCP)抗体が高値であった.脳生検ではくも膜下腔を中心とした炎症細胞浸潤を認めた.ステロイドで加療し臨床症候,検査所見ともに改善した.全経過を通じて関節症状は認めていない.本例は慢性髄膜炎の診断治療を考える上で貴重な症例である.発症時に関節症状のないリウマチ性髄膜炎の報告は稀で,本例では特に抗CCP抗体が高値であり,リウマチ性髄膜炎の発症機序を考える上でも稀有な症例である.
著者
棚橋 紀夫
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.239-244, 2009 (Released:2013-05-09)
参考文献数
13
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 林 健 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.187-194, 2013-05-20 (Released:2013-05-24)
参考文献数
21

要旨:【目的】嚥下造影検査(VF)の実施に合わせて,5 mlと60 mlの段階的飲水試験を施行し,誤嚥の検出や経口摂取の可否,選択された食形態との関連について明らかにする.【対象と方法】経口摂取開始時の適切な食材を選ぶことを目的にVFを施行した183名(男性107,女性76)の脳卒中患者を対象とした.平均年齢は66.9±12.1歳で,原因疾患は脳梗塞98名,脳出血49名,くも膜下出血23名,その他の脳血管疾患13名,発症からVFまでの期間は18.0±12.0日であった.方法は,まず,VF実施の直前に段階的飲水試験にて臨床評価を行い,次にゼリーや粥などの模擬食品に加え,5 mlと60 mlの液体にてVFを行った.その後,段階的飲水試験の結果と実際のVF結果との関連について検討した.【結果】臨床所見の異常にて段階的飲水試験を途中で中止したのは46名(第1段階43名,第2段階3名)であった.段階的飲水試験での異常所見はVFの液体誤嚥と有意な関連を認め,VFにて観察される誤嚥に対する段階的飲水試験の感度は85.2%,特異度は41.8%であった.飲水速度(ml/秒)や1回嚥下量(ml)と誤嚥に明らかな関連はなかった.経口摂取の可否や選択された食形態は,VFの液体誤嚥との間に関連を認めたが,段階的飲水試験の臨床評価との間には関連はなかった.【まとめ】段階的飲水試験の臨床評価は液体誤嚥の検出には有用ではあるが,その結果と誤嚥予防のための適切な食形態との間には明らかな関係を見いだせず,経口摂取の開始前には嚥下造影検査などの詳細な評価を合わせて行うべきである.