著者
柳井 徳磨 酒井 洋樹 後藤 俊二 村田 浩一 柵木 利昭
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.45-51, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

近年,動物園では飼育技術の向上に伴い,動物の長期生存が可能になり様々な腫瘍性病変に遭遇する機会が増えた。これらの腫瘍性病変を検索し,情報を蓄積することは,ヒトの同様な腫瘍の発生原因を解明するうえで有用である。我々は,ヒト腫瘍との比較のために,ヒトに類縁なサル類の様々な腫瘍,アジア産クマ類の胆嚢癌に着目して症例を蓄積し,データベース化を試みている。以下に概要を紹介する。1) サル類の腫瘍:サル類における腫瘍発生の報告は極めて少ない。動物園で飼育した各種のサル約600例を検索して,13例に腫瘍性病変が認められた。神経系では,カニクイザルの大脳に星状膠細胞腫,消化器系では,ニホンザルの下顎にエナメル上皮歯芽腫,ブラッザグエノンに胃癌,シロテテナガザルおよびボウシラングールの大腸に腺癌が認められた。内分泌系では,ワタボウシタマリンの副腎に骨髄脂肪腫,オオガラゴの膵臓に内分泌腺癌が認められた。造血系では,ニホンザル2例の脾臓にリンパ腫,ハナジログエノンのリンパ節にリンパ腫が認められた。その他,ムーアモンキーの卵巣に顆粒膜細胞腫,ニホンザルの皮膚に基底細胞腫が認められた。これらサルの腫瘍の形態学的特徴は,ヒトの同種のものと酷似していた。2) クマ類の胆嚢癌:動物園で飼育されているナマケグマとマレーグマに,胆嚢癌が好発することが知られている。7例のクマ類に発生した胆嚢癌を検索し,その病理学的特徴を調べた。組織学的には管状腺癌の浸潤と線維化が高度である。クマ類の胆嚢癌はヒト胆嚢癌の有用なモデルとなりうると考える。
著者
横田 明 峰澤 満 中村 伸 金井塚 務 後藤 俊二 馬場 駿吉
出版者
Primate Society of Japan
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.112-118, 1987 (Released:2009-09-07)
参考文献数
10
被引用文献数
13 11

Pollenosis is a IgE-mediated allergic disease which has the symptoms of snivel, sneezing, eye mucus, and/or tear resulting from mucous membrane inflammation of nostrils and/or eye. In Japan, Japanese cedar (Cryptomeria japonica) pollenosis is a typical one occurring in spring, and recently the number of its patients is remarkably increasing.We found the pollenosis in adult-female Japanese monkeys (Macaca fuscata) inhabiting Miyajima Island under free-ranging conditions, who are derived from different female lineages one another. Their sera contained higher level of specific IgE antibody against Japanese cedar pollen than those of normal monkeys. The sera also induced a skin allergic reaction to the pollen upon Prausnitz-Kustner Test using normal healthy monkeys as a recipient. Thus, the current paper is the first report concerning naturally occurring pollenosis in wild non-human primates.
著者
鈴木 樹里 三輪 宣勝 熊崎 清則 阿部 政光 釜中 慶朗 松林 伸子 後藤 俊二 松林 清明
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.361-366, 2001-04
参考文献数
17
被引用文献数
1 5

飼育下においてニホンザルの身体成長がどのようにまたどこの部位が変化するのかを明らかにするために,放飼場とケージという異なる飼育様式で1歳齢から7歳齢までの,雄77例,雌92例を対象に身体の各部36項目の生体計測を行った.ケージ飼育個体の計測値は多くの項目で放飼場飼育個体の値より小さかった.雌雄ともに初期発達期に成長率が大きい項目で育成空間の大きさの影響を受けやすいことが明らかになった.多くの項目は性成熟期の成長によって初期成長の遅れを回復するが,移動運動に関連する前腕最少周囲径,手長,下腿最少周囲径および足長では発達初期の影響を大きく受け,ケージ飼育個体の成長の遅延したままであった.雌の方が雄よりも飼育スペースの大きさの影響を受けやすいことも明らかになった.これらのことからニホンザルの持っている本来の成長を保証するためには,面積が広く且つ垂直方向に自由に運動できる飼育環境が必要であることが示唆された.
著者
三上 章允 西村 剛 三輪 隆子 松井 三枝 田中 正之 友永 雅己 松沢 哲郎 鈴木 樹里 加藤 朗野 松林 清明 後藤 俊二 橋本 ちひろ
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第22回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.90, 2006 (Released:2007-02-14)

大人のチンパンジーの脳容量はヒトの3分の1に達しないが、300万年前の人類とほぼ同じサイズである。また、脳形態とその基本構造もチンパンジーとヒトで良く似ている。そこでチンパンジー脳の発達変化をMRI計測し検討した。[方法] 霊長類研究所において2000年に出生したアユム、クレオ、パルの3頭と2003年に出生したピコ、計4頭のチンパンジーを用いた。測定装置はGE製 Profile 0.2Tを用い、3Dグラディエントエコー法で計測した。データ解析にはDr_View(旭化成情報システム製)を用いた。[結果] (1)脳容量の増加は生後1年以内に急速に進行し、その後増加のスピードは鈍化した。(2)大脳を前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けて容量変化を見ると前頭葉の増加が最も著明であった。(3)MRIで高輝度の領域の大脳全体に占める比率は年齢とともにゆっくりと増加した。[考察] チンパンジーとヒトの大人の脳容量の差を用いてチンパンジーのデータを補正して比較すると、5歳までのチンパンジーの脳容量の増加曲線、高輝度領域に相当すると考えられる白質の増加曲線は、ヒトと良く似ていた。今回の計測結果はチンパンジーの大脳における髄鞘形成がゆっくりと進行することを示しており、大脳のゆっくりとした発達はチンパンジーの高次脳機能の発達に対応するものと考えられる。
著者
中川 尚史 後藤 俊二 清野 紘典 森光 由樹 和 秀雄 大沢 秀行 川本 芳 室山 泰之 岡野 美佐夫 奥村 忠誠 吉田 敦久 横山 典子 鳥居 春己 前川 慎吾 他和歌山タイワンザルワーキンググループ メンバー
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.21, pp.22, 2005

本発表では,和歌山市周辺タイワンザル交雑群の第5回個体数調査の際に試みた無人ビデオ撮影による群れの個体数カウントの成功例について報告する。<br> カウントの対象となった沖野々2群は,オトナ雄1頭,オトナ雌2頭に発信器が装着され群れの追跡が可能であった。またこれまでの調査からこの群れは,小池峠のやや東よりの車道を南北に横切ることが分かっていた。<br> 今回の調査3日目の2004年9月22日にも,一部の個体が道を横切るのを確認できた。しかし,カウントの体制を整えると道のすぐ脇まで来ていてもなかなか渡らない個体が大勢おり,フルカウントは叶わなかった。この警戒性の高まりは,2003年3月から始まった大量捕獲によるものと考えられる。翌23日も夕刻になって群れが同じ場所に接近しつつあったのでカウントの体制をとり,最後は道の北側から群れを追い落として強制的に道を渡らせようと試みたが,失敗に終わった。<br> そこで,24日には無人ビデオ撮影によるカウントを試みることにした。無人といってもテープの巻き戻しやバッテリー交換をせねばならない。また,群れが道を横切る場所はほぼ決まっているとはいえ,群れの動きに合わせてある程度のカメラ設置場所の移動は必要であった。そして,最終的に同日16時から35分間に渡って27頭の個体が道を横切る様子が撮影できた。映像からもサルの警戒性が非常に高いことがうかがわれた。<br> こうした成功例から,無人ビデオ撮影は,目視によるカウントが困難なほど警戒性の高い群れの個体数を数えるための有効な手段となりうることが分かる。ただし,比較的見通しのよい特定の場所を頻繁に群れが通過することがわかっており,かつテレメーター等を利用して群れ位置のモニタリングができる,という条件が備わっていることがその成功率を高める必要条件である。
著者
柳井 徳磨 後藤 俊二 杢野 弥生 平田 暁大 酒井 洋樹 柵木 利昭 吉川 泰弘
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.41-48, 2003-03

サル類,特にマカク属において結核症は依然として重要な感染症である。アカゲザルに発生した牛型結核症および非定型抗酸菌症(鳥型結核菌症)の病理学的特徴について示す。アカゲザルの群れに牛型結核菌症が集団発生した。13例が急性の経過で瀕死に陥り,剖検では,肺,脾臓,肝臓,リンパ節および胸壁に著明な黄白色結節が認められた。組織学的には,いずれも肺および付属リンパ節,肝臓および脾臓に中心部が高度な乾酪壊死を示す結節状病変がみられた。結節状病変では,中心部は高度に乾酪壊死し、これを取り囲んで類上皮細胞,稀にランゲルハンス型巨細胞,さらにリンパ球の浸潤が認められた。抗酸菌染色では,乾酪壊死巣内には,少数の陽性桿菌が認められた。一方,非定型抗酸菌は,SIVに感染し免疫抑制状態にあるアカゲザルの腸管の粘膜と腸間膜リンパ節に肉芽腫性病変を引き起こした。多数の抗酸菌を容れた泡沫様大食細胞が肥厚した腸管粘膜および腸間膜リンパ節に認められた。マカク属は結核菌と非定型抗酸菌の双方に高い感受性を示すことから,集団発生の可能性に留意する必要がある。