著者
横井 慶子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

[研究の目的] 教育研究の情報源であり、研究者の研究成果の公表の場でもある学術雑誌の提供は、大学図書館の重要な役割である。近年はウェブ上にて無料で読めるOpen Access Journal(以下OAJ)が増加している。本研究では、OAJが大学での学術雑誌整備と研究支援に及ぼす影響を検討するために、OAJの現在の刊行状況、OAJに関わる最新の動向を明らかにすることを目的とする。[調査内容と考察] 1. OAJの現在の刊行状況調査 : Ulrichwebから創刊年が2000-2014年の学術雑誌データを抽出し、Ulrichweb、Directory of Open Access Journals、雑誌ウェブサイトの情報と照合することでOAJを特定した。OAJは6,955誌あり、残りの11,586誌は購読誌と判定した。刊行状況はUlrichweb収録データにもとづき判定した。OAJは260誌(3.7%)が、購読誌は720誌(6.2%)が2016年時点で廃刊となっており、OAJは購読誌よりも廃刊率が低いことが判明した。OAJの廃刊誌の大部分は大手OA出版社からのシリーズ誌であった。2. OAJに関わる最新の動向(Flipping journalsの実態調査) : 購読誌がOAJ化したFlipping journalsをウェブ調査で特定し、対象の260誌について特徴と、OAJ化後の評価を調べた。特徴については、対象誌ウェブサイトを情報源として調査した。共通して多くみられた特徴は(1)学会が発行(50%)、(2)比較的歴史の浅い雑誌(2001年以降創刊が30%)、(3)生物医学分野の雑誌(40%)があった。OAJ化後の評価についてはJournal Citation Reports収録誌を対象に調査した。49%でImpact Factorの上昇(N=67誌)、64%で被引用数の増加(N=73誌)がみられた。また2010年以降、商業出版社刊行誌がOAJに転じる数が増加傾向にあった。3. 考察 : 刊行状況調査から、OAJは一過性のものではなく、購読誌に匹敵する存在となっているとみなせる。Flipping journalsの実態調査からOAJ化で評価が高まる傾向や、商業出版社刊行誌のOAJ化促進の傾向がみられた。これらの結果から、学術雑誌に占めるOAJの比率が今後より高まると予測される。大学図書館はこれまでの購読誌を中心とした学術雑誌購読契約から、OAJを考慮した契約についての検討が必要になると考えられる。
著者
小幡 翔 端山 昌樹 前田 陽平 武田 和也 津田 武 横井 慶 猪原 秀典
出版者
日本鼻科学会
雑誌
日本鼻科学会会誌 (ISSN:09109153)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.616-622, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
11

骨蝋は骨面からの出血に対する止血素材としてよく用いられているが,稀ではあるものの慢性炎症や骨治癒阻害などの合併症も見られることがある。今回,開頭術後,十数年の経過を経て前頭洞炎を発症したと思われる2例を経験した。両症例ともに病変はCTでは軟部陰影の中に低吸収域で,またMRIではT1強調画像,T2強調画像いずれも無信号ないし低信号で描出され,副鼻腔内病変として非典型的な所見を呈していた。一例は手術記録が不詳であったため骨蝋の同定は困難であったが,一例では骨蝋の使用についての記載が認められた。いずれに対しても診断,および症状改善のために手術を行った。一例は前頭洞手術(Draf type III)を施行し,病変部より排膿を認め,内部には骨蝋を疑う黄白色の異物残留を認めた。残る一例はDraf 2bで前頭洞を開放したところ,膿貯留を認めず,骨蝋残留を認めた。いずれの症例でも術後は再発なく,良好な経過をたどった。過去の報告によれば,骨蝋は骨治癒阻害と細菌クリアランス低下により,十数年に渡って慢性炎症が遷延するとされる。そのため,開頭術後など骨蝋使用の経過があるか予想される症例では,異物性の炎症や膿瘍形成を鑑別にあげ,症状によっては手術による骨蝋除去を行う必要がある。
著者
横井 慶子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

[研究の目的]論文を雑誌上でOpen Access化(以下ゴールドOA)する際に支払うArticle Processing Charge(以下APC)は年々増加傾向にある。その一方で購読誌への支払いも続いており, APC支払額の増加は大学にとって大きな負担である。本研究では, ゴールドOAを推進するイギリスの事例を調査し, 同国のAPC支払いの最新実態を明らかにすることで, わが国における最適な学術雑誌契約モデルを検討することを目的とする。[調査方法]Research Councils UK(RCUK)やCharity Open Access Fund(COAF)等のイギリスの助成団体の報告書を中心とする文献調査, 及びRCUKが助成したゴールドOA論文18,215件のデータ分析を通し, APC支払い状況を調査した。また一部の大学職員へは直接インタビューを行い, 具体的な大学の対応事例を調査した。[調査結果と考察]OA論文数の増加, 及びAPC価格の上昇により, イギリスのAPC支出額は上昇傾向にあった。RCUKの支出額は10,793,817ポンド(2014-15年)から15,935,714ポンド(2015-16年)と1年で47%上昇, COAFの場合は4,992,434ポンド(2014-15年)から6,600,690ポンド(2015-16年)と32%上昇していた。RCUKから2014-16年間に助成を受けたゴールドOA論文18,215論文のうち, Russell Groupに属する大学の平均は616論文であり, Russell Group非所属大学の平均63.3論文の約10倍の値だった。ただしRCUKからの助成額は, Russell Group所属大学では平均284,445.96ポンドで, Russell Group非所属大学の42,426.45ポンドの7倍であり, Russell Group所属大学は, 外部資金への依存度が低い中でAPC支払いを行っていると推測される。Russell Groupに属しOA論文生産数が2番目に高かったCambridge大学では, 大学がAPC補助を行うことはせず, 外部の助成団体から得た助成金の使途を管理しているだけとのことだった。ただし, オフセット契約に対する予算は大学からついており, APC支出額を抑えるための努力はしている。日本でも論文生産数の多い研究中心の大学では, このような措置をとることで全体の支出額を抑えられる可能性がある。
著者
倉田 敬子 松林 麻実子 酒井 由紀子 上田 修一 三根 慎二 國本 千裕 林 和弘 石田 栄美 宮田 洋輔 前田 知子 森岡 倫子 横井 慶子 加藤 信哉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

学術研究において,デジタルを基盤とするオープンと共有がどのように進んできているかを明らかにすることが本研究の目的である。研究成果のオープンアクセス化は全分野で半分を超え,電子ジャーナルではデジタルで読みやすい新しい論文形式が進んだ。研究データ共有の体制が整備されている先進事例も見られたが,多くの研究者のデータへの意識は非常に複雑で多様であり,研究実践と深く関わらざる得ないデータ共有は,成果のオープン化以上に実現に困難が多く,多様な視点から検討する必要がある。
著者
倉田 敬子 上田 修一 松林 麻実子 三根 慎二 酒井 由紀子 加藤 信哉 森岡 倫子 林 和弘 國本 千裕 横井 慶子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

イーリサーチと呼ばれる研究プロセスの特徴,および学術コミュニケーションのデジタル化とオープン化の現状を明らかにすることが本研究の目的である。研究計画ごとにインタビュー,質問紙調査,ウェブの検索・データ収集などの多様な方法により調査を行った。主要な成果は,日本人研究者のデータを巡る実践と意識のモデルの構築,日本の学術雑誌のデジタル化の現状の把握,生物医学分野のデジタル化現況,一般人の医療情報等専門情報のニーズと探索の実態の把握である。
著者
横井 慶子
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.70, pp.143-175, 2013

原著論文【目的】現在の学術雑誌流通の主流は, Big Deal 契約に基づく購読型電子ジャーナルである。しかし今後のあり方については様々な議論があり, オープンアクセスジャーナルが主流になるとの予測もある。本研究の目的は, 学術雑誌全体におけるオープンアクセスジャーナルの位置づけの変化を定量的に明らかにし, 今後のオープンアクセスジャーナルのあり方を検討することである。【方法】 3種類の調査を行った。調査① : 主たるデータとしてUlrichsweb から, 2011年末までに出版されたSTM分野の学術雑誌38,803 件の情報を抽出した。このデータを用いて, 2011年時点の学術雑誌全体に占めるオープンアクセスジャーナルの割合を調べた。調査② : 大手商業出版社5社の雑誌価格リストと各社のホームページ等の情報から2つ目のデータを抽出した。主要なデータと2つ目のデータから, 各年に創刊された学術雑誌全体に占めるオープンアクセスジャーナルと購読型学術雑誌のタイトル数の推移を調査した。調査③ : オープンアクセスメガジャーナル19タイトルのWebサイトの情報から, オープンアクセスメガジャーナルの現状を調査した。【結果】主な結果は以下のとおりである。1)STM分野の学術雑誌全体に占めるオープンアクセスジャーナルの割合は, 2011時点では14%であった。2)STM分野の学術雑誌創刊数全体に占めるオープンアクセスジャーナルの割合は増加傾向にあった。創刊されたオープンアクセスジャーナルの大部分は, オープンアクセス出版社から創刊されていた。Nature Publishing GroupやSpringerなどの一部の大手商業出版社において, 2010–2011年以降, オープンアクセスジャーナル創刊数が購読型学術雑誌創刊数を上回っていた。3)オープンアクセスメガジャーナルが2011年以降に相次いで創刊されていた。以上から, 2011年時点ではオープンアクセスジャーナルはまだ学術雑誌の主流ではないが, 新しい学術雑誌事業として出版社に認められる存在となっていることが明らかになった。Purpose: Subscription based electronic journals which are contained in the "Big Deal" have becomepredominant in the publication of scholarly journals, but some people predict that open accessjournals will take its place. This paper quantitatively examines how the status of open access journalshas changed in the publication of scholarly journals, and discusses how the status of open access journals will be going in the near future.Methods: Three kinds of surveys were conducted: 1) The primary source was information on 38,803 journals published by 2011 in STM extracted from Ulrichsweb. The source was used to calculate the ratio of open access journals to the total number of journals in 2011. 2) The second data source was journal price lists and the web sites of five major commercial publishers. Both primary and second sources were used to calculate the ratio of new open access journals and new subscription based journals year by year. 3) The web sites of open access mega journals were used as the third source to check their current status.Results: The major findings were: 1) The ratio of open access journals to the total number of journals in STM was 14% in 2011. 2) The ratio of new open access journals to the total number of journals in STM has risen continuously since 2000. The majority of new open access journals have been launched by open access publishers. Among the major commercial publishers, Nature Publishing Group and Springer have begun to increase the number of new open access journals since 2010–2011. 3) Open access mega journals have been launched one after another since 2011. In conclusion, Open access journals are still not the predominant form of publication of scholarly journals, but the business model has become accepted by publishers.