著者
内田 麻理香 原 塑
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.208-220, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

牛海綿状脳症(BSE)問題や遺伝子組み換え作物問題を契機とし,1990 年代後半以降イギリスやヨーロッパで科学技術に対する信頼の危機が生じた.この危機への対応策として,科学技術理解増進活動の推進から一般の市民との双方向コミュニケーションの重視へと政策が転換された.この転換を根拠づけるために科学技術理解増進活動で主流の一方向コミュニケーションは欠如モデルと一体であるとする見方がとられるようになった.欠如モデルの有効性には疑いがもたれているため,一方向コミュニケーションは批判され,欠如モデルを免れた双方向的手法が科学技術コミュニケーションの実践ではとられるべきだとする見解(欠如と対話の双極的価値判断)が広がった.この論文では欠如モデルと一方向コミュニケーションは区別されるべきであること,欠如と対話の双極的価値判断は一方向コミュニケーションと双方向コミュニケーションの機能や価値を誤解させ,科学技術政策をミスリードする問題をもつことを明らかにする.最後に,科学技術コミュニケーション活動を,欠如モデルの有無と一方向コミュニケーション/双方向コミュニケーションの二つの観点によって区別する四分類法を提案する.
著者
楠見 孝 子安 増生 道田 泰司 MANALO Emmanuel 林 創 平山 るみ 信原 幸弘 坂上 雅道 原 塑 三浦 麻子 小倉 加奈代 乾 健太郎 田中 優子 沖林 洋平 小口 峰樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は,課題1-1「市民リテラシーと批判的思考のアセスメント」では市民リテラシーを支える批判的思考態度を検討し,評価ツールを開発した。課題1-2「批判的思考育成のための教育プログラム作成と授業実践」では,学習者間相互作用を重視した教育実践を高校・大学において行い,効果を分析した。課題2「神経科学リテラシーと科学コミュニケーション」では,哲学と神経生理学に基づいて推論と情動を検討した。さらに市民主体の科学コミュニケーション活動を検討した。課題3「ネットリテラシーと情報信頼性評価」では,放射能リスクに関する情報源信頼性評価とリテラシーの関連を調査によって解明し,情報信頼性判断支援技術を開発した。
著者
阿部 恒之 北村 英哉 原 塑
出版者
日本感情心理学会
雑誌
エモーション・スタディーズ (ISSN:21897425)
巻号頁・発行日
vol.6, no.Si, pp.31-41, 2021-03-22 (Released:2021-03-25)
参考文献数
8

This article is a modified record of “Philosophy and Psychology III: Contrastive approaches to the COVID-19 problems,” a public symposium held at the 84th annual convention of the Japanese Psychological Association on September 9, 2020 via webinar. Before this symposium, philosophers and psychologists joined and discussed emotions (2018) and justice (2019) to stimulate psychologists to have greater interest in and to devote more attention to philosophy. It had been noted that psychologists tend to be quite indifferent to philosophy despite the fact that historical origins of psychology as an established discipline can be traced back to philosophy and physiology. In the last symposium, we, two psychologists and a philosopher, discussed COVID-19 as a problem, particularly addressing topics of “freedom and publicness” and “the future of embodiment.” Through that discussion, results showed that philosophy and psychology can be complementary and productive for both.
著者
原 塑 鈴木 貴之 坂上 雅道 横山 輝雄 信原 幸弘
出版者
北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.105-118, 2010-02

Recently, some scientific disciplines have been politically promoted in many countries, because governments believe that they can produce economically profitable knowledge, and that neuroscience belongs to these disciplines. They are aptly characterized by Jerome Ravetz's notion of "post-normal science." It is expected that some knowledge produced by neuroscience may, when applied to the real world, influence social systems and, ultimately, our views on what it is to be human beings, even though it is difficult for us to foresee its concrete impacts. To minimize its unexpected negative effects, even non-specialists need to have neuroscience literacy, which includes not only a basic theoretical knowledge of neuroscience, but also knowledge on its social significance and possible impacts on our self-understanding as human beings. We compiled a textbook of neuroscience literacy, and used it in liberal arts education. In this article, we document our project of education on neuroscience literacy in liberal arts, and discuss its social and epistemological meaning.
著者
永岑 光恵 原 塑 信原 幸弘
出版者
Sociotechnology Research Network
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.177-186, 2009
被引用文献数
2 5

少子高齢化は将来の日本社会を大きく規定する要因であり,ここから生じる諸問題を解決する社会技術の開発は緊急の課題である.基礎科学として発展してきた神経科学も少子高齢化に対応する社会技術として活用されなければならない.そこで,神経科学の社会技術的応用可能性を検討する先駆的試みとして,神経科学的観点から高齢化社会の問題,特に振り込め詐欺の認知上の原因を分析する.振り込め詐欺のうち,オレオレ詐欺,還付金詐欺の被害が最も深刻だが,この被害者の大部分が中高齢者である.中高齢者の意思決定は加齢により自動化していくが,このことが詐欺に対する高齢者の脆弱性の原因となっている.そこで,中高齢者の意思決定上の特徴を考慮して,振り込め詐欺の防止策を提案する.
著者
原 塑
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.49-54, 2014-02-01 (Released:2014-06-04)
参考文献数
20
被引用文献数
2

On May 2009, laws came into force in Japan to enable citizen participation by introducing lay judges in criminal courts. Lay judges, who are randomly selected out of the electoral register, comprise the majority of the judicial panel to help decide the outcome in trials for certain severe crimes. To make their own judicial decisions, lay judges must rely heavily on moral intuitions that are often driven by emotions, due to the lack of judicial expertise. Under what conditions can lay judges, guided by their emotions, come to reasonable decisions? What is the definition of rational emotions capable of guiding reasonable judicial decisions? These questions must be answered to make the lay judge system feasible. Recently, Martha C. Nussbaum, together with Dan M. Kahan, has developed a theory of emotion-based criminal judgment. In this paper I am going to answer above questions relying on Nussbaum’s theory of emotional judgments.
著者
永岑 光恵 原 塑 信原 幸弘
出版者
社会技術研究会
雑誌
社会技術研究論文集 (ISSN:13490184)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.177-186, 2009 (Released:2010-05-14)
参考文献数
37
被引用文献数
2 5

少子高齢化は将来の日本社会を大きく規定する要因であり,ここから生じる諸問題を解決する社会技術の開発は緊急の課題である.基礎科学として発展してきた神経科学も少子高齢化に対応する社会技術として活用されなければならない.そこで,神経科学の社会技術的応用可能性を検討する先駆的試みとして,神経科学的観点から高齢化社会の問題,特に振り込め詐欺の認知上の原因を分析する.振り込め詐欺のうち,オレオレ詐欺,還付金詐欺の被害が最も深刻だが,この被害者の大部分が中高齢者である.中高齢者の意思決定は加齢により自動化していくが,このことが詐欺に対する高齢者の脆弱性の原因となっている.そこで,中高齢者の意思決定上の特徴を考慮して,振り込め詐欺の防止策を提案する.
著者
原 塑
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.31-37, 1999-12-25 (Released:2009-07-23)
参考文献数
2

日常生活で出会う個々の人々に対して本当は心を持つ者ではないのではないかと疑うことは困難である。人は, 他者から話しかけられれば, たとえそれが未知の人であっても, その人が心を持っていることを疑うことなく返答するだろう。しかし, 他者が日常生活で示す姿は決して一様ではない。親しく思っていた友人が, 理解を越えた言動を唐突にし始めることもある。この場合, 他者の心についての知は脅かされる。自分の心についてはよく知っているが, 他者の心について知っていることは少なく, 不確実であると感じられるのである。自分の心の知と他者の心の知の間に認められる非対称性は, 次のように考えればうまく説明できるかもしれない。人は自分の心と外界の事物は直接見て取ることができる。しかし, 他者の心は, 間接的に, つまりその人の表情や振る舞いを媒介としてのみ知りうる (これを物と心の認識論的構図と呼ぼう)。しかし, この見方では, 他者の心が存在することの疑い難さを適切に捉えることは困難である。物と心の認識論的構図は, むしろ, 現われている他者身体の背後に心が隠れ潜んでいるのは本当だろうかという疑問, つまり他者の心についての懐疑と親和的である。したがって, 物と心の認識論的構図を前提とする場合, 他者の心についての懐疑論を導かないように, 人が他者の心を知る仕組みを説明することが重要である。類推説やリップスの自己投入論はこのことを試みた。しかし, 周知のように, 両者とも理論的困難と直面したのであり, 受け入れ可能ではない。フッサールとハイデガーは, これらの先行研究を批判することで, 物と心の認識論的構図を導く伝統的意識概念を清算しようとした。物と心の認識論的構図はフッサールにおいて心の理論を作る場面に限定して採用されるが, ハイデガーによって最終的に廃棄される。この歴史的経緯を踏まえ, 本稿は, フッサールの他我構成論とハイデガーの共同現存在論を検討する。両者の試みから, 心とは何か, また他者とは何かという問いに答えを得ることが目標となる。
著者
野家 啓一 座小田 豊 直江 清隆 戸島 貴代志 荻原 理 長谷川 公一 原 塑 北村 正晴 村上 祐子 小林 傳司 八木 絵香 日暮 雅夫 山本 啓
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

討議倫理学に基づく科学技術の対話モデルを作るために、科学技術的問題をテーマとする対話を実践し、そこから理論的帰結を引き出す研究を行った。その結果、以下の成果がえられた。1. 高レベル放射性廃棄物の地層処理に関する推進派と反対派の対話では、合意にいたることは困難だが、対話を通じて、理にかなった不一致に至ることは重要性を持つ。2. 推進派専門家と反対派専門家が論争を公開で行った場合、その対話を一般市民が聴いて、めいめい自分の見解を形成することがあり、このことが対話を有意義にする。3. 対話を成功させるためには、信頼や聴く力、共感のような習慣や徳を対話参加者がもつことが重要であり、このような要素を討議倫理学の中に取り込んでいくことが必要である。4. 対話では、価値に対するコミットメントを含む公正さが重要で、追求されるべきであり、それは、価値に対する実質的コミットメントを持たない中立性とは区別される。