著者
小沢 朝江 波多野 純 黒津 高行 須田 英一 野口 健治 石丸 悠介
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.159-170, 2007 (Released:2018-01-31)

本研究は,南関東・東海・中部地方の土蔵造町家の普及実態を明らかにするとともに,その特徴の差異や導入背景の検討により,土蔵造町家の平面・意匠と導入形態の関連を明らかにすることを目的とする。土蔵造町家は,従来「江戸型」とも呼ばれ,江戸(東京)から各地に伝播したとされるが,近代には松本(長野)等で都市防火政策による計画的な土蔵造の導入が行われる一方,下田(静岡)のように在来の町家等を母体に地元独自の工夫によって,独特の土蔵造町家が生み出された。また,江戸(東京)からの影響で普及する場合も,その導入時期により手本とすべき江戸(東京)での形式が異なるため,結果として土蔵造町家の形式に差異が生じた。
著者
波多野 純 小澤 弘 加藤 貴 丸山 伸彦
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.191-200, 1996 (Released:2018-05-01)

本研究は,江戸の多様な住空間と都市空間を,屏風絵など当時の絵画資料から読み解くことを目的とする。絵画を歴史の資料として用いる際の分析方法は確立しておらず,絵画を当時の情景の直写と誤認している研究も少なくないのが現状である。絵画は,あくまでも絵師の創作物であり,絵師や注文主の意図-時代の意志-を読み解くことによって,はじめて生きた歴史資料となる。本研究の中心資料である歴博本『江戸図屏風』(国立歴史民俗博物館蔵)は,三代将軍徳川家光の事績顕彰を目的とし,明暦大火以前の江戸と近郊が描かれた。そこには,支配者側からみた江戸の都市構造-封建的身分秩序の空間的表現-が反映されている。しかし,制作年代は,不明である。後年の制作とすれば,制作年代における絵師や注文主の意図,つまり家光の事績や時代を,あらまほしき江戸の姿として捉えたい注文主は誰で時代はいつかが,次の課題となる。いっぼう,歴博本において,地図的な都市構造と具体的な景観は,段階を追って画面に定着された。まず,寛永江戸図をもとに,江戸の支配構造を空間的に理解し,画面に割り付ける。つぎに,地域ごとに地図概念を導入し,縮尺(武家地1/1000,町人地1/1000~1/1500)を定めて道や屋敷地割りを行なう。さらに,表現したい建築や印象的な景観を,縮尺(1/300)を変え,誇張して表現する。この場合,水平方向と垂直方向で縮尺を変え,高さを誇張(3階櫓の高さは1/100)して表現することも多い。絵画表現における誇張,なかでも縮尺の自在な変換を,コンピューター・グラフィックスを用いて整理し,統一した縮尺の立面図とすると,現実の景観と心象風景の差が明確になる。大名屋敏の表門や御成門は,長大な練塀のごく1部に過ぎないが,絵師の表現対象としてははるかに大きく,道行く人にとっても強く印象に残った。それを縮尺を変換して表現した。町人地の3階櫓では,さらに高さを誇張して,整備された武都のイメージを強調した。この心象風景こそ,徳川が目指した江戸の姿であった。
著者
李 東明 波多野 純
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.66, no.547, pp.237-242, 2001-09-30 (Released:2017-02-04)
被引用文献数
2 1

This study is trying to find the formation and changes of the town-houses with arcades in Di-Hwa Street, Taipei City. They are important heritage of Taiwan. Di-Hwa Street is one of the most traditional towns in Taipei, Taiwan. The town-houses with arcades are built side by side, and their beautiful facades are continued over 1 kilometer. The facades' style can be sorted out to 5 different styles. Building of town-houses was started from A.D.1851. And they had been consolidated in the 1930s and 1940s. The change of facades' designs corresponds to the history of the town's development.
著者
波多野 純 野口 憲治 フォラー マティ
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、ライデン国立民族学博物館所蔵の、1830 年頃の日本の町家模型を通して、近世の町家に関する従来の理解を、西欧人の目という新たな視点から見直し、再構築することを目的とする。模型は、実際の町並みを切り取ったのではなく、代表的な町家を組み合わせていた。つまり出島の西欧人は、特徴的な町家に着目し、生業・職種により町家の形式や生活空間が変化することを正確に理解していた。
著者
波多野 純 野口 憲治 フォラー マティ
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、長崎出島のオランダ商館長などが遺した記録(模型、日誌など)を基に、日本の町家の地域的特質を、従来とは異なる目で分析する。オランダ商館長らが製作させた模型は、長崎の町家等をモデルとした。それらは、外観の特徴ばかりではなく、部屋の格式や用途によって室内意匠が異なることを正確に伝えている。また、その様相は、1822年~1828年代の状況を示している。
著者
波多野 純 野口 憲治
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

町家形式は、気候風土のみによって決定されるのではなく、より広い視点から、総合的に検討する必要がある。本研究は、いずれも雪国でありながら、町家の形式が大きく異なる金沢と仙台をとりあげ、町家形式の形成要因を明らかにすることを目的とする。まず、統一したルールで全国の宿場が描かれている『五街道分間延絵図』について、建築上の描写精度を検討し、その信頼性を明らかにした。その上で、「東海道分間延絵図」に描かれた各宿の屋根葺材に注目し、瓦葺の普及と人口の関連などを明らかにした。つぎに、金沢の町家について、元禄期には板葺と石置板葺屋根が混在し、卯建も一部に存在したことを示した。その様相は『洛中洛外図』に描かれた京町家に近い形式であり、他に農家風の建築があったことを示した。その後、天保期になると大半の町家が石置板葺屋根となった。仙台の町家については、芭蕉の辻に面して建つ城郭風町家およびその他の土蔵造町家について、検討した。城郭風町家の外観意匠は城郭建築の意匠を受け継ぎ、塗籠真壁風である。いっぽう、周辺の土蔵造町家は大壁である。初期江戸における城郭風町家には、三階建と二階建があり、当初は真壁風の外観意匠であったが、やがて大壁がふえる。仙台では、江戸中期まで、板葺、茅葺の町家が建ち並んでいたが、享保の大火後、芭蕉の辻付近には土蔵造町家が建ち並んだ。その意匠は土蔵からの大壁の系譜であった。その後、芭蕉の辻には城郭風(真壁風)町家が建てられた。つまり、仙台では江戸とは逆の系譜をたどり、城郭風真壁が遅れて登場した。以上の結果、金沢と仙台の町家は、屋根葺材や土蔵造町家などさまざまな点で形式が異なることを示した。つまり、同じ雪国でありながら町家の形式が大きく異なることから、気候風土は、町家形式を決定する要因でないことは明らかである。むしろ、藩の都市政策や文化的伝搬経路が重要な要因であると考えられる。