- 著者
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Aurora Simionescu
Norbert Werner
満田 和久
- 出版者
- 一般社団法人 日本物理学会
- 雑誌
- 日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.10, pp.707-711, 2014-10-05 (Released:2019-08-22)
銀河団は,差し渡し数百万光年の空間に数十個から1,000個もの銀河が集中している宇宙最大の天体です.普通の物質(バリオン)に限ると,銀河団の主たる構成要素は実は銀河ではなく,温度数千万度の高温ガスです.銀河団中のバリオンのほとんどは,X線を発する高温ガスとして銀河と銀河の間の空間に存在します.銀河団は,X線を放射する高温ガスの海の中に個々の銀河が浮かんでいるような天体と言えるでしょう.「すざく」衛星は,2005年に日本が打ち上げたX線天文衛星であり,現在も,世界中に開かれた国際X線天文台として活用されています.「すざく」衛星は,特に,天球面上に広がった表面輝度の低い放射を検出する感度に優れています.我々はこの特長を活かし,距離2.5億光年という近傍にあるペルセウス座銀河団の大規模観測を行いました.すべての銀河団の中で最も明るく,大きく広がったこの銀河団は,詳細な研究には最適です.X線観測からは銀河団の淡いガスの密度や温度を始めとする多くの重要な物理量を得ることができます.今回,「すざく」を用いたペルセウス座銀河団の大規模マッピング観測により,銀河団の中心から銀河団の縁であるビリアル半径に至るまでの高温ガス(バリオン)の分布を精密に得ることができました.その結果,銀河団の縁では,エントロピー分布は理論が予測するよりも平坦であり,密度は理論予測や電波観測で得られた値よりも高いことが初めて明らかになりました.この矛盾は,宇宙の大構造から銀河団に落ちてくるガスが塊を作って存在しており,熱化されるビリアル半径を通過した後も,この塊が残ると考えると説明できることがわかりました.さらに,ペルセウス座銀河団の広い範囲にわたって鉄の組成比を調べたところ,その場所ごとのばらつきが非常に小さく,ほとんど一様であることを発見しました.重元素の発生源である星の分布とは相関していません.1,000万光年にもおよぶ広い範囲について鉄の割合がほぼ一様であることから,鉄のほとんどは,銀河団が形成された時代よりも前に宇宙に大きく広がり,よく混ざっていたと考えられます.銀河団の誕生は宇宙誕生から約40億年後(いまから約100億年前)だと考えられているので,いまから100億年以上前に,鉄などの重元素が星々から大量にまき散らされ,宇宙中に拡散した時代があり,現在の宇宙に広がるほとんどの重元素はその時代にまき散らされたものであると考えるのが妥当です.数多くの星が生まれ,巨大ブラックホールが急成長したこの時代,星々から生み出された重元素は,超新星爆発や銀河中心の超巨大ブラックホールによって引き起こされた銀河からの強い風に乗って宇宙中に拡散して行ったと考えられます.