著者
今給黎 哲郎 大瀧 茂 熊木 洋太 畑中 雄樹 松村 正一 村上 亮 山際 敦史
出版者
日本測地学会
雑誌
測地学会誌 (ISSN:00380830)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.53-65, 2004-06-25 (Released:2010-09-07)
参考文献数
48
被引用文献数
2

GEONET (GPS Earth Observation Network System), which is a nationwide GPS array and data analysis system of the Geographical Survey Institute, started in 1994. Since then, it has been expanded and improved to monitor crustal deformation of Japanese islands quickly and accurately. Today, it is the densest GPS observation network in the world with 1, 200 GPSbased control stations and some other stations. GEONET has contributed its continuous data to various fields of earth science. In seismo tectonics study, it provided the features of coseismic crustal deformation as well as the steady state crustal deformations by plate motion. Five interplate slow slip events were also found by GEONET and has been playing important role to the recent plate coupling studies. In volcanological study, it provided the sequence of magma activity utilized for the estimation of eruption. GEONET also provided a new measure to detect ionospheric and meteorological signals and have been contributing to atmospheric science. The observed 1 Hz data of almost all stations are now provided to commercial users for positioning services in real time. GEONET is becoming a kind of infrastructure of the locationbased information society. The major present research subjects are improvement of the detectability, development of real-time analysis of crustal deformation, etc. It is also important for the future use of GEONET to maintain observation circumstances properly and to be adapted to the GPS modernization and new GNSSs.
著者
宇根 寛 熊木 洋太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.86-94, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

高解像度衛星画像は,数10cmの解像度で地表の詳細な画像を提供するが,高価であることから,地形学的研究には十分利用されてこなかった.パキスタン北部地震発生直後の2005年10月12日,ムザファラバード周辺のイコノス衛星画像がインターネットで無償公開された.さらにその直後,衛星画像の無償閲覧サイトとして注目されているグーグルアースが,被災地域のクイックバード衛星画像の提供を開始した.著者らはこれらの画像を用いて地形変化の判読を行い,撓曲崖,河床の離水,地表地震断層などの断層変位に伴う地形を見いだすことができた.これらの画像は簡易なオルソ化が行われており,実体視ができないことは変位地形の判読に不利であったが,地震前後の画像の比較や,SPOT5などのやや解像度の低い衛星画像の実体視判読などにより,判読を補うことができた.また,日本地理学会災害対応グループのメーリングリストによるオープンな意見交換も変位地形の認定に有益であった.
著者
伊東 勇貴 熊木 洋太
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100199, 2016 (Released:2016-04-08)

房総半島の千倉付近には,元禄関東地震(1703年)と同様の地殻変動(数mの隆起)を伴う地震(以後,元禄型地震)によって離水したと考えられている4段の明瞭な海成段丘面がある。これらは上位から沼Ⅰ~Ⅳ面と呼ばれ,それぞれ沼Ⅰ面:7200年前頃,沼Ⅱ面:5000年前頃,沼Ⅲ面:3000年前頃,沼Ⅳ面:AD1703年の元禄関東地震時に離水したことが明らかにされている(中田ほか,1980;藤原ほか,1999など)。この地域に河口を持つ河川沿いでは,これらの海成段丘面に連続する河岸段丘面が存在し,地震時の相対的な海面低下による河床低下が上流に波及して河岸段丘が形成されたと考えられる。これらの河川は丘陵域に発する小規模なもので,この期間の上流側の環境変化は小さいと考えられ,相対的海面低下による河岸段丘形成過程を検討するのに適しているが,これまでほとんど研究されてこなかった。本研究では,千倉平野とその北側の古川平野を流下する河川沿いの段丘面を区分し,各面の分布や形状,縦断形の特徴を把握した。また各段丘面構成層の観察を行った。特に後述する古川Ⅳ面および千倉Ⅳ面の段丘構成層については,堆積物中に材化石,貝化石を発見したので,加速器質量分析法による14C年代測定を行った。これらの結果に基づいて,河岸段丘の発達過程について考察した結果,以下の結論が得られた。 1)千倉平野を流下する瀬戸川と川尻川の両河川沿いには4段の段丘面(千倉Ⅰ~Ⅳ面)が存在している。古川平野を流下する三原川,温石川,丸山川沿いにも4段の段丘面(古川Ⅰ~Ⅳ面)が存在している。これらはいずれも両地域にまたがって発達する沼Ⅰ~Ⅳ面に連続するか,最下流部での面高度がほぼ一致することから,沼Ⅰ~Ⅳ面を離水させた地震性隆起が原因となって形成されたと考えられる。 2)千倉Ⅱ面・古川Ⅱ面の形成は7200年前以降5000年前までのおよそ2200年間(期間1)に,千倉Ⅲ面・古川Ⅲ面の形成は5000年前以降3000年前までのおよそ2000年間(期間2)に,千倉Ⅳ面・古川Ⅳ面は3000年前からAD1703年までのおよそ2700年間(期間3)に形成されたと考えられる。 3)瀬戸川下流での露頭観察と年代測定結果から,千倉Ⅳ面の構成層(層厚約6m)の堆積開始は906~743 cal BP頃の少し前だと考えられる。したがって,瀬戸川下流での千倉Ⅳ面堆積物は,500~700年あまりの短期間で堆積し,これ以前の2000年間程度はもっぱら侵食傾向にあったと考えられる。 4)各期間には,谷が下刻による峡谷の状態から,側刻・堆積による幅広い地形面を形成する状態へ変化すると考えられる。また上述の瀬戸川下流のデータからは,その変化が生じるには,相対的海面低下後2000年近い時間が必要であると考えられる。 5)千倉Ⅳ面・古川Ⅳ面は,千倉Ⅱ面・古川Ⅱ面や千倉Ⅲ面・古川Ⅲ面より上流側にまで分布している。期間3がそれ以前の期間1,2より相当長いことから,遷急点がより上流側まで後退し,側刻・堆積作用によって段丘面が形成された範囲がより上流側にまで達したからと考えられる。 6)温石川,丸山川,瀬戸川,川尻川の現河床に見られる遷急点から求められる遷急点の平均後退速度は,それぞれ3m/y,6m/y,3m/y,2m/y程度である。また,各期間の終了時の遷急点の位置が幅広い段丘面分布範囲のやや上流にあり,当時の河口の位置が段丘面分布域の最下流部にあったと仮定すると,丸山川における期間1・2での遷急点の平均後退速度は,それぞれ1.7m/y,1.4m/y程度,瀬戸川における期間3の遷急点の平均後退速度は0.8m/y,川尻川における期間3の遷急点の平均後退速度は0.6m/y程度となり,期間が長くなると平均後退速度は小さくなる傾向が認められる。これらの値は,柳田(1991)が日高山脈の西側で段丘が発達するが最終氷期に堆積段丘は発達しない河川で得た値(1~3m/y)とほぼ同等である。
著者
伊東 勇貴 熊木 洋太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

房総半島の千倉付近には,元禄関東地震(1703年)と同様の地殻変動(数mの隆起)を伴う地震(以後,元禄型地震)によって離水したと考えられている4段の明瞭な海成段丘面がある。これらは上位から沼Ⅰ~Ⅳ面と呼ばれ,それぞれ沼Ⅰ面:7200年前頃,沼Ⅱ面:5000年前頃,沼Ⅲ面:3000年前頃,沼Ⅳ面:AD1703年の元禄関東地震時に離水したことが明らかにされている(中田ほか,1980;藤原ほか,1999など)。この地域に河口を持つ河川沿いでは,これらの海成段丘面に連続する河岸段丘面が存在し,地震時の相対的な海面低下による河床低下が上流に波及して河岸段丘が形成されたと考えられる。これらの河川は丘陵域に発する小規模なもので,この期間の上流側の環境変化は小さいと考えられ,相対的海面低下による河岸段丘形成過程を検討するのに適しているが,これまでほとんど研究されてこなかった。本研究では,千倉平野とその北側の古川平野を流下する河川沿いの段丘面を区分し,各面の分布や形状,縦断形の特徴を把握した。また各段丘面構成層の観察を行った。特に後述する古川Ⅳ面および千倉Ⅳ面の段丘構成層については,堆積物中に材化石,貝化石を発見したので,加速器質量分析法による<sup>14</sup>C年代測定を行った。これらの結果に基づいて,河岸段丘の発達過程について考察した結果,以下の結論が得られた。<br> 1)千倉平野を流下する瀬戸川と川尻川の両河川沿いには4段の段丘面(千倉Ⅰ~Ⅳ面)が存在している。古川平野を流下する三原川,温石川,丸山川沿いにも4段の段丘面(古川Ⅰ~Ⅳ面)が存在している。これらはいずれも両地域にまたがって発達する沼Ⅰ~Ⅳ面に連続するか,最下流部での面高度がほぼ一致することから,沼Ⅰ~Ⅳ面を離水させた地震性隆起が原因となって形成されたと考えられる。 <br>2)千倉Ⅱ面・古川Ⅱ面の形成は7200年前以降5000年前までのおよそ2200年間(期間1)に,千倉Ⅲ面・古川Ⅲ面の形成は5000年前以降3000年前までのおよそ2000年間(期間2)に,千倉Ⅳ面・古川Ⅳ面は3000年前からAD1703年までのおよそ2700年間(期間3)に形成されたと考えられる。 <br>3)瀬戸川下流での露頭観察と年代測定結果から,千倉Ⅳ面の構成層(層厚約6m)の堆積開始は906~743 cal BP頃の少し前だと考えられる。したがって,瀬戸川下流での千倉Ⅳ面堆積物は,500~700年あまりの短期間で堆積し,これ以前の2000年間程度はもっぱら侵食傾向にあったと考えられる。<b></b> <br>4)各期間には,谷が下刻による峡谷の状態から,側刻・堆積による幅広い地形面を形成する状態へ変化すると考えられる。また上述の瀬戸川下流のデータからは,その変化が生じるには,相対的海面低下後2000年近い時間が必要であると考えられる。 <br>5)千倉Ⅳ面・古川Ⅳ面は,千倉Ⅱ面・古川Ⅱ面や千倉Ⅲ面・古川Ⅲ面より上流側にまで分布している。期間3がそれ以前の期間1,2より相当長いことから,遷急点がより上流側まで後退し,側刻・堆積作用によって段丘面が形成された範囲がより上流側にまで達したからと考えられる。 <br>6)温石川,丸山川,瀬戸川,川尻川の現河床に見られる遷急点から求められる遷急点の平均後退速度は,それぞれ3m/y,6m/y,3m/y,2m/y程度である。また,各期間の終了時の遷急点の位置が幅広い段丘面分布範囲のやや上流にあり,当時の河口の位置が段丘面分布域の最下流部にあったと仮定すると,丸山川における期間1・2での遷急点の平均後退速度は,それぞれ1.7m/y,1.4m/y程度,瀬戸川における期間3の遷急点の平均後退速度は0.8m/y,川尻川における期間3の遷急点の平均後退速度は0.6m/y程度となり,期間が長くなると平均後退速度は小さくなる傾向が認められる。これらの値は,柳田(1991)が日高山脈の西側で段丘が発達するが最終氷期に堆積段丘は発達しない河川で得た値(1~3m/y)とほぼ同等である。
著者
熊木 洋太
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.49-60, 1985-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
47
被引用文献数
11 9

南関東の沿岸域の完新世後期における地殻変動を明らかにするため,房総半島南部,三浦半島,大磯-国府津地域の完新世海成段丘の分布,形成年代,高度などを調査した。 明瞭な完新世海成段丘は,房総半島南部では4段(沼I~沼IV),三浦半島では3段(野比I~野比III),大磯-国府津地域では3段(中村原,前川,押切)に区分することができる。従来よく知られていなかった三浦半島の完新世段丘(野比I~野比III)の形成年代は,約6000年前,4600年前,3100年前であり,沼I~沼III面にほぼ対比できるものと思われる。しかし,沼IV面に対比される段丘面が三浦半島や大磯-国府津地域に見られないことは,段丘面の離水が南関東において一斉に行われているとは限らないことを示している。 完新世最高海面期(約6000年前)に形成された完新世最高位海成段丘面(沼I面,野比I面,中村原面)の高度分布は,内陸への傾動に西北西-東南東方向の軸を持つ波曲が重なっていることを示している。この高度分布は,元禄型,大正型の地震隆起だけでは説明できない。 完新世段面は,三浦半島の活断層および国府津-松田断層により変位しており,これらの断層が完新世後半においても活動していることを示している。 完新世最高位段丘形成後の平均隆起速度は,更新世後期以降の平均隆起速度より大きいので,更新世後期に比べて完新世の地殻変動はより活発であると思われる。
著者
熊木 洋太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.1, 2010 (Released:2010-06-10)

地理学は現実社会のさまざまな問題の解決に役立つ学問である。特に災害の研究は,地理学が社会に直接貢献できる分野である。このような観点から,日本地理学会災害対応委員会では,2003年の春季学術大会以来,これまで8回の公開シンポジウムを開催してきた。これらのシンポジウムでは,専門研究者の立場からの発表が中心であったが,自然災害を防止したりその被害を軽減させたりするには教育の役割が大きいということがくり返し言われてきた。 すなわち,自然災害が多発するわが国において,国民の「防災力」を高めるには国民の間に自然災害に関する的確な知識が共有されていることが必要であり,このためには,初等・中等教育の段階から自然災害について学ぶ防災教育が重要であるということである。自然災害は自然現象であると同時に,その地域の社会構造とも密接に関係するので,土地の自然的性質や,土地利用,地域の空間構造などを取り上げ,地域の自然と社会を総合的に扱う「地理」は,災害の学習に最も適した科目・分野であると思われる。2004年12月のスマトラ沖地震津波の際には,プーケット島に滞在中のイギリス人少女が「地理」の時間に習った津波の来襲だと周囲に告げたため,多くの人が助かったと報道された。近年ハザードマップの重要性が指摘されることが多いが,これはまさに災害の地理的表現にほかならない。災害を引き起こす自然現象について学ぶ分野として,高等学校では「地学」もあるが,それを履修する生徒がきわめて少数である現実を考えると,「地理」の果たす役割は大きい。 日本学術会議は2007年の答申「地球規模の自然災害の増大に対する安全・安心社会の構築」において,学校教育における地理,地学等のカリキュラム内容の見直しを含めて防災基礎教育の充実を図ることを提言している。また同年の地域研究委員会人分・経済地理と地理教育(地理教育を含む)分科会・地域研究委員会人類学分科会の対外報告「現代的課題を切り拓く地理教育」では,地域防災力を高め安心・安全な地域作りに参画できる人材の育成と,そのために必要な自然環境と災害に関する地理教育の内容の充実を提言している。これらを踏まえ,2009年8月に活動を開始した地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会では,12月に下部組織として環境・防災教育小委員会を発足させ,地理教育における防災教育のあり方について検討を始めた。 初等・中等教育に関しては,学習指導要領の改訂が行われたところであり,新学習指導要領は小学校が2011年度,中学校が2012年度,高等学校が2013年度から完全実施される。地理に関しては全体的に地図の活用が強調されている等の特徴があるが,高等学校「地理A」において,「我が国の自然環境の特色と自然災害とのかかわりについて理解させるとともに,国内にみられる自然災害の事例を取り上げ,地域性を踏まえた対応が大切であることなどについて考察させる」という記述が新たに加わったことが注目される。 このシンポジウム「『地理』で学ぶ防災」は,以上の状況を踏まえ,日本地理学会の災害対応委員会と地理教育専門委員会によって計画され,日本学術会議との共催で実施される。小学校,中学校,高等学校,大学の各段階での実践例に基づく発表を軸として,地理学・地理教育の立場から学校教育の中での防災教育のありかたや方法を取り上げて検討する。