著者
王 雪
出版者
山口大学大学院東アジア研究科
雑誌
東アジア研究 (ISSN:13479415)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.141-165, 2017-03

r化語は北京語の特色として、近代日本の北京官話教育時期に日本人によって学習された。『語言自邇集』はr化語は北京語に多いと指摘している1。陳明娥(2014)は日本の明治時期北京官話教材の語彙の特色の1つは、r化語が豊富に収録されていることであると論証した2。しかし、明治・大正期における日本人のr化音に対する認識についての研究はなされてこなかったのが現状である。r化音への認識について、筆者が調べたところ、意外にも言語学上の規則に従っている精密さがみられる。そのうち、『日漢英語言合璧』(鄭永邦3・呉大五郎4、1888)のr化語に ついての記述と注音上の様々な工夫は、その時期においては先駆的であったといえる。本論は、『日漢英語言合璧』を主に、明治・大正時代の13点の北京官話学習書に記されているr化音に関わる記述を考察した。結果的に、大部分の日本人のr化語とr化音に対する認識における科学性が乏しかった。韻尾の条件によるr化の音交替は明治・大正時代の日本人がまだ踏み込んでいなかった未知の領域であろう。しかし、『日漢英語言合璧』はほぼ完璧に発音を表しうる仮名表記系統をもち、r化音と音交替に対する科学的な認識は、当時最高の位置付けがなされる。
著者
松下 達彦 陳 夢夏 王 雪竹 陳 林柯
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.177, pp.62-76, 2020-12-25 (Released:2022-12-26)
参考文献数
32

本研究では日中対照漢字語データベースを開発した。日本語の語彙における,漢語 (字音語) の日中両語の意味対応パタンを文化庁 (1978),三浦 (1984) を参考に6種類に分類した結果,頻度上位2万語のうち,50%が漢語で,漢語の70% (全体の35%) が同形語で,30% (全体の15%) が非同形語であること,同形語7,074語のうち,82% (全体の29%,漢語の58%) が同形同義で,18% (同形語の6語~5語に1語) が同形類義や同形異義といった要注意の語であること等が明らかになった。本データベースは語の検索などで直接利用できるほか,J-LEX (菅長・松下,2014) のような語彙頻度プロファイラーへの搭載によって,文章の語彙的負荷の母語別表示機能や,対象者母語別のリーダビリティ計算,中国語母語学習者にとっての要注意点を表示する機能への応用が期待される。
著者
薬師寺 克行 井上 正也 王 雪萍
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1993年の自民党政権の下野から22年が経過し、「55年体制」末期の日本政治も漸く歴史研究の対象に入りつつある。しかし、同時代を政治史的に考察する上には未だに分析上の課題を抱えている。第一は、信頼できる一次史料の不足である。第二に、政界再編に関するこれらの二次文献の多くも、自民党経世会を中心とした記述に偏重している点である。ゆえに、同時代に自民党の派閥政治を担っていた安倍派清和会や宮沢派宏池会の派閥の実態については殆ど解明されていない。とりわけ、安倍晋太郎から三塚博へと継承された清和会は、派内に新党さきがけを率いた武村正義、石原慎太郎や党内「右派」を多く擁していた亀井グループ、小泉純一郎といった政界再編後に重要な役割を示す多くの人材が所属しており、清和会内部に存在した政治改革構想や派閥観を検証することなしに、90年代前半の政界再編の描くことには大きな限界があろう。本研究では、研究代表者が政治部の清和会担当記者であった1989年から94年までの記録を活用した。同記録には安倍晋太郎、安倍派幹部であった三塚博や塩川正十郎、小泉純一郎、武村正義の肉声が残されており、55年体制末期から政界再編期にかけての清和会内部の政治改革に対する議論や、政界再編に対する見通しなどをうかがい知ることができる。本研究は、ジャーナリストの経験を積んだ研究代表者と、戦後政治外交史を専門とする研究分担者(井上)と共同作業で、取材メモの本格的な調査分析を実施している。この作業とは別に研究代表者の薬師寺は、村山富市元首相に対するインタビューと資料の再チェックをしたうえで、単行本として2012年に出版された「村山富市回顧録」(岩波書店)の解説部分など加筆修正したうえで、同書を文庫本化し「岩波現代文庫」から出版した。
著者
加茂 具樹 小島 朋之 小島 朋之 北岡 伸一 家近 亮子 加藤 陽子 川島 真 服部 龍二 一谷 和郎 王 雪萍
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2007

近年の日中関係は、日中間の歴史認識問題をめぐって対話可能な環境が整いつつあるきわめて稀な「凪」の状況にあるとの認識のもとで、(日本に利用可能な)日中戦争に関連する歴史資料の調査及び収集をすすめ、また同時に日中戦争や日中歴史研究に関する対話のプラットフォームの構築をおこなった。
著者
王 雪萍
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は中国政府の外交部档案館档案資料などの一次資料と中国政府の対日業務担当者への聞き取り調査を通じて、学術的に中国の対日外交の展開方式を分析し、また建国直後に形成された外交業務方式が現在の日中関係への影響についても分析した。1952年に中国の対日業務統括者として廖承志が指名された。周恩来との信頼関係を背景に、中共中央と政府機関の各部門が連携したタスクフォース的な性質を有する対日業務グループが形成された。本研究は廖承志を中心とした対日業務方式を明らかにし、今日への影響も分析した。