著者
田原 英一 村井 政史 犬塚 央 岩永 淳 大竹 実 土倉 潤一郎 矢野 博美 木村 豪雄 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.718-721, 2011 (Released:2012-03-21)
参考文献数
4

小半夏加茯苓湯を後鼻漏の15症例に対して投与した。有効10例,無効5例の,自覚症状,他覚所見を検討した。全例で嘔気は認めなかった。有効例では鼻汁の性状が水様で,振水音を聴取したものを多く認めた。鼻汁が粘調で,振水音を認めなかった症例は無効であった。小半夏加茯苓湯は明らかな嘔気を伴わなくても,鼻汁が水様であり,振水音を聴取する後鼻漏に試みてよい方剤と考えられる。
著者
土倉 潤一郎 高橋 佑一朗 前田 ひろみ 吉永 亮 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 川口 哲 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.40-46, 2017 (Released:2017-07-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

「1週間に1回以上の頻度」かつ「2週間以上の持続」で再発するこむら返り33例に対して,疎経活血湯を使用した。判定は薬剤開始1ヵ月後に行い,薬剤開始直後から症状が消失したものを「著効」,1ヵ月後に症状が消失していたものを「有効」,1ヵ月後に半分未満へ軽減したものを「やや有効」,1ヵ月後に半分以上が残存したものを「無効」とした。結果は,「著効」12例,「有効」11例,「やや有効」9例,「無効」1例であった。1ヵ月後までに23/33例(69.6%)でこむら返りが消失し,32/33例(96.95%)において半分未満に改善した。さらに3ヵ月後までに29/33例(87.8%)で消失しており,高い有効性を認めた。夜間から明け方のこむら返りに対しては,“夕より眠前”“1包より2包”でより効果を認め,眠前2包の“発作前の集中的投与”が最も有効であった。再発性のこむら返りに対して疎経活血湯は有用だと思われる。
著者
田原 英一 後藤 雄輔 吉永 亮 井上 博喜 矢野 博美
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.94-101, 2020 (Released:2020-12-07)
参考文献数
24

四物湯を含む処方が奏功した6例を経験した。症例1は13歳男性で起床困難であったが,集中力低下を目標に治療したところ,通学も可能になった。症例2は18歳女性で,起床困難だったが,同じく通学が可能になった。症例3は10歳女性で,治療により部分的に通学可能となった。症例4は42歳男性で,社交不安に対して四物湯を追加したところ改善した。症例5は多愁訴であったが,四物湯を含む処方で症状が軽減した。症例6は56歳女性で同じく多愁訴であったが,四物湯を含む処方で症状が軽減した。いずれの症例もうつ,不安が明らかであり,4例でコルチゾールの低下を認め治療により回復した。四物湯は血虚を治療することで集中力,判断力を回復し精神症状を改善すると考えられる。
著者
田原 英一 犬塚 央 岩永 淳 村井 政史 大竹 実 土倉 潤一郎 矢野 博美 木村 豪雄 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.660-663, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
10
被引用文献数
1 4

芍薬甘草湯が無効で,疎経活血湯が奏効したこむら返りの4例を経験した。症例1は73歳,男性。以前からあったこむら返りが1ヵ月くらい前から増強し,当科を初診。芍薬甘草湯7.5g/日を投与したが不変のため,疎経活血湯7.5g/日に変更したところ,速やかに軽減した。症例2は67歳女性。肩こり,腰痛などで通院中。夜間にこむら返りが出現するようになり,芍薬甘草湯7.5g/日を投与したが不変。疎経活血湯2.5g/眠前投与に変更したところ,こむら返りは速やかに軽減した。症例3は66歳女性。腰痛にて当科治療中。こむら返りが出現したため,芍薬甘草附子湯3.0g/日を投与したが,効果が少なく,疎経活血湯7.5g/日に変更したところ,速やかに消失した。症例4は75歳男性。左の下肢冷感で加療中。こむら返りが出現したため,芍薬甘草附子湯1.5g/日投与したが,変化は一時的で,疎経活血湯2.5g/日に変更したところ,速やかに消失した。血流を改善し,鎮痛効果の期待できる疎経活血湯は,芍薬甘草湯無効のこむら返りに試みられてよい方剤と考えられる。
著者
田原 英一 新谷 卓弘 森山 健三 中尾 紀久世 久保 道徳 斉藤 大直 荒川 龍夫 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.957-961, 2003-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8

療養型病床群における高齢者の性的逸脱行動に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった2例を報告する。症例1は71歳男性で, 前立腺肥大症の術後リハビリテーション目的で入院となった。入院後まもなくから自慰行動が出現し, 他の女性入院患者や介護職員が不快感を訴えるようになった。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ自慰行動は消失した。症例2は90歳男性で, 脳梗塞のリハビリテーションのために入院となった。入院後半年ほどして卑猥な言葉を言ったり, 他の女性患者の体を触るようになった。桂枝加竜骨牡蛎湯を投与したところ, 性的逸脱行動は軽減した。桂枝加竜骨牡蛎湯は痴呆による高齢者の性的逸脱行動に有効な治療法となると示唆される。
著者
前田 ひろみ 伊藤 ゆい 吉永 亮 土倉 潤一郎 上田 晃三 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 山口 昌俊 藤野 昭宏 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.218-222, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
13
被引用文献数
1

ばね指は,手のA1輪状靭帯の部位に狭窄を生じ円滑な指屈伸動作が阻害されることにより発症し,西洋医学的には消炎鎮痛剤,ステロイド剤注入,手術等で治療される。今回温経湯が奏効したばね指の3症例を報告する。症例1は71歳女性。腹部膨満感に対して漢方治療中に右第3指のばね指を発症し,口唇乾燥と手足のほてりを認めた。 症例2は56歳女性。手指の多関節痛に対して漢方治療中に左第4指のばね指を発症し,手のほてりを認めた。症例3は71歳女性。慢性腎不全で加療中に,左第1指のばね指を発症した。手のほてりや口唇乾燥を認めなかったが,皮膚の枯燥感を認めた。温経湯は,手掌煩熱や口唇乾燥を使用目標としており,補血・駆瘀血作用や抗炎症作用,滋潤作用を有する生薬で構成されている。温経湯のこれらの作用が,ばね指改善に寄与した可能性がある。
著者
王子 剛 並木 隆雄 三谷 和男 植田 圭吾 中口 俊哉 貝沼 茂三郎 柴原 直利 三潴 忠道 小田口 浩 渡辺 賢治 藤井 泰志 喜多 敏明 小暮 敏明 小川 恵子 田原 英一 萩原 圭祐 矢久保 修嗣 南澤 潔 村松 慎一 和辻 直 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.224-230, 2014 (Released:2014-11-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

漢方医学では舌の色や形状を観察する舌診が患者の体質や病状を知る重要な手掛かりになると考えている。我が国において,舌診に関する書籍が複数発行されているが,記載内容が不統一で臨床的な舌診所見の標準的な記載方法はまだ確立してない。舌診の研究および学生への漢方教育において標準的な舌診臨床所見は必要である。そこで舌診の日本の文献(計12文献)を用いて,色調や形態の記載について比較検討した。その結果を用いて舌診に習熟した多施設の漢方専門医のコンセンサスを得た上で,舌診臨床診断記載の作成に至った。作成にあたり,実際臨床において短時間で観察し得る舌所見を捉える事と初学者でも理解し易いよう,微細な所見の違いよりも確実に捉えやすい舌診所見に重点を置いた所見記載とした。
著者
田原 英一 犬塚 央 岩永 淳 村井 政史 大竹 実 土倉 潤一郎 矢野 博美 木村 豪雄 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.589-592, 2011 (Released:2011-10-21)
参考文献数
8
被引用文献数
1

大柴胡湯が奏効した嘔吐の2症例を経験した。症例1は16歳女性。肺炎で入院中に嘔吐が出現。嘔吐,胸脇苦満などを参考に大柴胡湯を投与したところ,嘔吐は速やかに消失した。症例2は73歳女性。嚥下性肺炎の後,嘔気,嘔吐が出現。嘔吐に対し,胸脇苦満と便秘傾向を目標に大柴胡湯を投与したところ,徐々に消失した。古典条文の上で大量の生姜を含む大柴胡湯は,強力に嘔気を鎮めると考えられる。
著者
田原 英一 新谷 卓弘 三潴 忠道
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.813-820, 2008-11-20
被引用文献数
1 3

漢方医学において半表半裏とされる部位について,傷寒論条文を発生学的に検討したところ,鰓弓領域と一致性がみられた。鰓弓部分は主に三叉神経から迷走神経の支配領域に一致し,一部内耳神経と副神経にも関連が見られた。つまり,半表半裏証は鰓弓由来の部分が熱を持っている病態と考えられる。傷寒論と発生学は本来別のものであり,傷寒論の病態を発生学的に理解することには限界もあるが,理解の一助にもなるのではないかと思われる。
著者
田原 英一 伊藤 隆 林 克美 三瀦 忠道 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.459-466, 1998-01-20
参考文献数
26
被引用文献数
3 1

大黄甘遂湯により変形性関節症に伴う膝関節痛の軽減とともに, バセドウ病の改善を認めた1症例を経験した。症例は61歳女性。主訴は両膝関節痛と下腿浮腫。1995年5月当科に入院。この時, バセドウ病と診断し, 抗甲状腺剤を6ヶ月使用した。退院後, 膝関節痛と下腿浮腫増悪のため, 1996年5月20日当科再入院。下腹部の膨満と抵抗圧痛に着目し, 大黄甘遂湯を投与した。両膝関節痛と下腿浮腫は著明に改善し, 6月15日退院となった。再入院時に再燃していた甲状腺機能亢進状態についても, 抗甲状腺剤を使用することなく, 約5ヶ月後に正常化した。同方剤は峻下剤といわれている甘遂が配剤されているが, 本例では長期投与にもかかわらず下痢などの副作用は認めなかった。本方剤の治験例は明治以降では2例のみ報告されているに過ぎない。そこで本証に特有とされる「小腹満して敦状の如き」腹候に関して文献的検討を行い, 使用目標について考察した。
著者
田原 英一 斉藤 大直 川上 義孝 荒川 龍夫 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.351-356, 2002-07-20
被引用文献数
2 1

療養型病床群で老人の夜間不隠行動に,酸棗仁湯が奏効した症例を経験した。症例1は97歳,女性。誤嚥性肺炎を繰り返し,夜間奇声を上げるようになり,当院へ転院。特に夜間病棟中に響きわたる奇声を上げ続けた。酸棗仁湯(TJ-103)7.5gを投与開始後,体位変換,オムツ交換などの際に短時間奇声を上げるだけとなった。その後嚥下訓練を行い,経口摂取が再開できた。症例2は80歳女性。脳出血後後遺症で当院へ転院。夜になると大声を上げるようになった。酸棗仁湯投与後,夜間睡眠が良好となり,日中はリハビリなどで過ごせるようになった。高齢者が増加し痴呆による問題行動に対して対応が苦慮される中で,高齢者の夜間せん妄の中に酸棗仁湯が適応となる病態が存在する可能性が示唆される。
著者
田原 英一 後藤 雄輔 牧 俊允 吉永 亮 井上 博喜 矢野 博美
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.148-152, 2021 (Released:2022-07-29)
参考文献数
23

著明な栄養障害に対して五苓散と補血剤が奏効した1例を報告する。17歳の女性が著明なるいそうに対して諸検査を受けたが,原因は不明であった。五苓散を投与後,浮腫が軽減して体重が増加に転じ,その後四物湯または疎経活血湯を併用して貧血の改善,筋肉量の増加を認めた。五苓散と補血剤は消化管を含む全身の水分バランスを改善し,消化吸収機能を回復させた可能性がある。
著者
田原 英一 新谷 卓弘 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.813-820, 2008 (Released:2009-05-15)
参考文献数
22
被引用文献数
2 3

漢方医学において半表半裏とされる部位について,傷寒論条文を発生学的に検討したところ,鰓弓領域と一致性がみられた。鰓弓部分は主に三叉神経から迷走神経の支配領域に一致し,一部内耳神経と副神経にも関連が見られた。つまり,半表半裏証は鰓弓由来の部分が熱を持っている病態と考えられる。傷寒論と発生学は本来別のものであり,傷寒論の病態を発生学的に理解することには限界もあるが,理解の一助にもなるのではないかと思われる。
著者
関根 麻理子 牧野 利明 田中 耕一郎 嶋田 沙織 四日 順子 古屋 英治 地野 充時 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.182-203, 2021 (Released:2022-07-29)
参考文献数
25

医療安全委員会では,安全に漢方方剤を使用するための啓発活動を行っており,前回,日本医療機能評価機構の薬局から登録されたヒヤリ・ハット事例を分析した。今回は,同機構の医療機関から登録された医療事故とヒヤリ・ハット事例を分析した。漢方製剤が関係する事例は626件であった。医療事故には,薬剤性肝障害事例があった。 ヒヤリ・ハット事例に関しては,処方時では漢方エキス製剤の1包の内容量の勘違いによる用法用量の誤り,調剤時では製剤番号・外観の類似や漢方処方名の類似による調剤の誤り,投薬時では漢方処方名まで確認せずに,漢字表記やメーカー名だけで判断することによる投薬の誤りがあった。ヒヤリ・ハット事例は当事者本人や同職種者に限らず,他職種者や患者本人から発見される事例も多かったことから,ヒヤリ・ハット事例は同職種者間での共有に留まらず,他職種者とも共有することが,医療安全の推進につながると考えられた。
著者
吉永 亮 前田 ひろみ 土倉 潤一郎 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 木村 豪雄 山方 勇次 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.383-389, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2

蜂刺症とムカデ咬症に対して,受傷直後から黄連解毒湯エキスと茵蔯五苓散エキスを中心とした漢方治療を併用し,翌日には著明に改善した5例を報告する。症例1は70歳男性,30分前に左手背をスズメバチに刺されて受診した。症例2は43歳男性,20分前に左顔面をスズメバチに刺され受診した。症例3は55歳男性,10分前に左下腿をスズメバチに刺され受診した。症例4は39歳男性,60分前に右大腿をスズメバチに刺され受診した。症例5は35歳男性,20分前に右第1趾をムカデに咬まれて受診した。5例とも受診後直ちに漢方治療を開始し,以後,数時間おきに間隔を詰めて治療を継続したところ,翌日には疼痛と皮膚の紅斑と腫脹が改善した。蜂刺症,ムカデ咬症に対して漢方治療を行うことで速やかな治癒に貢献できる。
著者
田原 英一 斉藤 大直 川上 義孝 荒川 龍夫 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1-2, pp.63-69, 2002-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7

療養型病床群で釣藤散投与を契機に経管栄養から経口摂取が可能となったと考えられる症例を経験した。症例1は84歳, 男性。誤嚥性肺炎の後, 寝たきり, 胃瘻状態で当院へ転院。入院時は会話もほとんど不能であったが, 釣藤散 (TJ-47) を投与開始後, 意欲の向上が見られ, その後嚥下訓練を行い, 経口摂取が再開となった。症例2は99歳女性。大腿骨骨折術後, 経鼻経管栄養状態で当院へ転院。経口摂取に対して拒否的であったが, 釣藤散投与開始後徐々に経口摂取が可能となった。症例3は84歳女性。誤嚥性肺炎の後, 寝たきり, 経鼻経管栄養状態で当院へ転院。左大転子部に褥瘡形成を認め, しばしば発熱があったが, 釣藤散投与後意欲の改善を認め, 嚥下訓練と合わせて経口摂取が可能となった。また経口摂取に伴い, 褥瘡も治癒した。高齢者の経管栄養からの離脱に際し, 釣藤散は試みられて良い方剤と考えられた。
著者
田原 英一 後藤 雄輔 吉永 亮 井上 博喜 矢野 博美
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.94-101, 2020

<p>四物湯を含む処方が奏功した6例を経験した。症例1は13歳男性で起床困難であったが,集中力低下を目標に治療したところ,通学も可能になった。症例2は18歳女性で,起床困難だったが,同じく通学が可能になった。症例3は10歳女性で,治療により部分的に通学可能となった。症例4は42歳男性で,社交不安に対して四物湯を追加したところ改善した。症例5は多愁訴であったが,四物湯を含む処方で症状が軽減した。症例6は56歳女性で同じく多愁訴であったが,四物湯を含む処方で症状が軽減した。いずれの症例もうつ,不安が明らかであり,4例でコルチゾールの低下を認め治療により回復した。四物湯は血虚を治療することで集中力,判断力を回復し精神症状を改善すると考えられる。</p>
著者
中村 佳子 田原 英一 三潴 忠道 木村 豪雄
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.669-674, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
21

漢方治療が奏効した再燃性胆管炎の1例を報告した。症例は31歳,女性。先天性胆管拡張症にて肝部分切除と胆管空腸吻合手術を受けたが,29歳頃から頻回に胆管炎を繰り返し,抗生剤による治療を受けていた。患者は挙児希望で,抗生剤の使用量を減らす為に漢方治療を希望し,当科を受診した。茵蔯蒿湯を基本処方とし大柴胡湯などで随証治療を行い,抗生剤の使用量を顕著に減量でき,妊娠出産に到った。妊娠中の経過は良好であった。胆道再建術後の再燃性胆管炎に対し,漢方治療は試みられてよいと考えられた。
著者
村井 政史 矢野 博美 大竹 実 岩永 淳 犬塚 央 貝沼 茂三郎 田原 英一 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 = Japanese journal of oriental medicine (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.906-911, 2010-11-20
参考文献数
24

通脈四逆湯の附子を烏頭に変更し奏効した2例を報告した。1例目は33歳の女性。皮疹および瘙痒感を認め,通脈四逆湯を投与し白河附子を14gまで漸増したが改善しなかった。そこで冷えが極めて強いために,通脈四逆湯の白河附子を烏頭に変更したところ,皮疹および瘙痒感が改善した。2例目は42歳の男性。泥状便および全身倦怠感を認め,通脈四逆湯を投与し炮附子を10gまで漸増したが改善しなかった。そこで冷えが極めて強いために,通脈四逆湯の炮附子を烏頭に変更したところ,普通便となり全身倦怠感が改善した。附子を用いた通脈四逆湯では改善しない寒の強い病態においては,附子を烏頭に変更すると有効な場合がある。
著者
矢野 博美 田原 英一 山田 靖子 山内 俊彦 吉永 亮 犬塚 央 久保田 正樹 平田 道彦 栗山 一道 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.13-22, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
22
被引用文献数
1 3

58歳男性。20年来の2型糖尿病を放置し,糖尿病足病変を発症した。HbA1c10.8%(JDS)でトリオパチーを合併していた。発症12日後に漢方治療を希望して当科に転院した。右足全体は浮腫状で,第4・5趾間と足背に潰瘍(約7 × 4 cm と 5 × 4 cm)を認め,骨髄炎を合併していた。抗生剤,インスリン,プロスタグランディン製剤とともに,漢方治療は小腹不仁を目標に八味地黄丸料を用い,瘀血を改善する目的で桂枝茯苓丸大量投与(自家製剤2 g × 24丸/日)を7日間行い漸減した。その後,八味地黄丸料を自家製剤に変更し,肉芽形成促進を期待して帰耆建中湯(黄耆20 g)に転方した。経過中に右第5趾の骨が露出したが,潰瘍は退院時(発症50日)に2.5 × 1.8 cmに縮小した。発症約2ヵ月後には潰瘍部分が上皮化して包帯が不要になり,4ヵ月後に治癒した。漢方治療は糖尿病足病変に有効で治癒を早める可能性があると考えた。