著者
田口 智章
出版者
福岡医学会
雑誌
福岡医学雑誌 (ISSN:0016254X)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.109-116, 2006-04-25

小児外科の近年の進歩はめざましく, 特に新生児外科の分野では, 以前はその国の医療レベルを反映するとまで言われ, 小児外科医がその救命に骨身を削ってきた「食道閉鎖症」の死亡率が著しく低下してきた. 小児外科学会の全国集計によると1973年では死亡率が約55%であったのが, 1983年では30%, 1993年には20%, そして2003年では12.3%まで低下し, 生存するのが当たり前の病気になってきた. 九州大学小児外科では1990年以後の食道閉鎖症は重症染色体異常を合併した1例を除き, 全例生存し元気に成育している. 九州大学における新生児外科疾患の疾患別死亡率の推移を経時的にみると, 症例全体での死亡率は経年的に低下し, 2000年代では新生児外科症例全体での死亡率は10%を切った. しかし, 疾患別にみると横隔膜ヘルニアと消化管穿孔の死亡率がまだ高い. これは横隔膜ヘルニアでは出生前に診断される重症例が治療の土俵に上ってきたためである. 出生前に超音波検査にて診断される横隔膜ヘルニアは左にあるべき心臓が右に変位していることで発見されることが多く, 肝臓や脾臓が胸腔内に脱出している. つまり胸腔内に脱出している臓器のボリュームが大きいため, 肺が極端に小さく生存が困難な症例が多い. また消化管穿孔は1000g未満の超低出生体重児が救命できるようになり, このような症例で消化管穿孔をおこす場合が多くなったためである. 容易に敗血症によるショック状態となり救命困難な症例も多い. 全身的な循環呼吸管理を最優先し手術侵襲は腹腔ドレージのみの最小限にとどめるのが救命率をあげるポイントと考えられる. 新生児外科の症例は出生率の低下にもかかわらず増加傾向にある. 九州大学では特に周産母子センター開設を機に症例が増加している. 小児の臓器移植では, 肝臓移植の進歩により救命困難であった胆道閉鎖症の末期の肝硬変の患者が, 食道静脈瘤の破裂や腹水でおなかがパンパンに張り肝不全でなくなっていたのが, 元気に退院できるようになった. また劇症肝炎で脳症に陥り意識不明になった患児が, 以前では血漿交換しか手の打ちようがなく, 血漿交換がはじまると「もうだめか」であったのが, 移植により普通の生活に戻れるようになった. まさに劇的な治療法である. 小腸移植も小児に多い短腸症候群の根治術として欧米では1000例以上に行われている. 本稿では, 新生児外科疾患のうち, まだ救命率の低い「先天性横隔膜ヘルニア」, さらに「小児の肝臓移植, 小腸移植」について, 我々の経験を中心に, 現状と今後の展望について述べる.
著者
田口 智章 吉丸 耕一朗
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.10, pp.1925-1938, 2020 (Released:2021-04-30)
参考文献数
43

Hirschsprung病および類縁疾患は腸閉鎖のような明らかな器質的閉塞病変がないにもかかわらず,腸閉塞症状(腹部膨満,胆汁性嘔吐,難治性便秘など)をきたす機能的腸閉塞症である.新生児期早期から腸閉塞症状や難治性便秘で発症するため,新生児のイレウスとして外科医がはじめからかかわることが多い.Hirschsprung病は病変範囲の短いものは手術でほぼ根治するが,無神経節腸管が長く小腸まで広範に及ぶものは,正常小腸が短く,かつ大腸も使えないため,重症の短腸症となり治療に難渋する.一方,Hirschsprung病類縁疾患は,腸管全体にわたり蠕動不全を呈する腸管神経節細胞僅少症,巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症,慢性特発性偽性腸閉塞症の3疾患が重症であり,外科的手術では治癒しない.現在,長期静脈栄養と経腸栄養の併用,消化管の減圧で延命できているが,根治としての小腸移植の成績向上や再生医療による新規治療の開発が待たれている.
著者
松浦 俊治 水田 祥代 増本 幸二 田口 智章
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.697-702, 2004-08-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
28

症例は2歳9ヵ月,男児.上気道炎にて近医受診時,肝腫大,肝機能障害を指摘された.肝炎を疑われ保存的治療を行われたが,症状の改善をみず,肝生検にて原発性硬化性腸管炎(PSC)が疑われたため,当院へ紹介となった.当院でのCT,MRCPでは,肝内胆管の数珠状変化と総胆管の壁肥厚を,前医における肝生検では門脈域の線維化と炎症細胞浸潤,偽胆管の増生を認めていたため,PSCと診断された.また,肝機能障害を指摘された頃より時折血便を認め,注腸造影および大腸ファイバーにて,全大腸に全周性の浅いびらんを認めたため,潰瘍性大腸炎(UC)と診断され,以後5-ASA (5-aminosalicylic acid)投与を開始した.PSCに対し保存的治療を行ったが,肝硬変へと移行したため,5歳2ヵ月時,家族の希望にて生体肝移植目的で他院へ紹介となった.小児期発症のPSCにおけるUC合併例は稀であり,文献的考察を加えて報告する.
著者
増本 幸二 中辻 隆徳 間野 洋平 和田 美香 竹野 みどり 都地 里美 浦部 由紀 山口 貞子 田口 智章
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.653-657, 2008 (Released:2009-04-30)
参考文献数
15

緑膿菌による創感染では感染創の改善に時間を要することがある。われわれは、頚部手術後の手術部位緑膿菌感染による創し開に対し、感染のコントロールができた状態で創洗浄とアルギニン滋養飲料(アルジネード®)投与を含めた栄養管理を行い、創の著しい改善をみた小児例を経験した。【症例】症例は2歳女児。基礎疾患は巨大臍帯ヘルニア(術後)、肺低形成。基礎疾患のため、1歳4ヶ月時に気管切開を施行した。その後CPAP(continuous positive airway pressure)管理で呼吸状態は安定したが、頻回の嚥下性肺炎を認めた。精査にて喉頭機能不全が存在し、2歳2ヶ月で喉頭気管分離術を行った。術後7日目に手術部位感染を認め、その後創し開となった。起因菌は気管孔からの緑膿菌であった。創に対して局所洗浄を行うとともに、経腸栄養にて適切な栄養管理を行い、アルギニン滋養飲料併用投与を行った。創部は順調に改善し、術後1ヶ月で気管孔の創し開部は深部が肉芽組織に置き換わり、上皮化が進み良好な状態となった。【まとめ】小児の手術部位感染に伴う創し開例にアルギニン滋養飲料を使用した。感染のコントロールができた状態で、創洗浄を行うとともに、適切な栄養管理に加えて、アルギニン滋養飲料を併用したことで、感染部位の早期の治癒を認め、本飲料の併用は創傷治癒促進効果が期待できる可能性があると考えられた。
著者
川久保 尚徳 林田 真 松浦 俊治 田口 智章
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.931-936, 2012
参考文献数
21

症例は3歳男児,墓石の下敷きになっている所を発見された.腹部造影CT検査で高度肝損傷と膵損傷を認めたため,加療目的に当院に搬送された.出血コントロールのため緊急transcatheter arterial embolization (TAE)を行い保存的に経過をみたが,その後肝内胆汁性嚢胞と膵仮性嚢胞を合併したため,経皮的肝嚢胞ドレナージ術および経皮経胃膵嚢胞ドレナージ術を施行した.肝嚢胞および膵仮性嚢胞はともに縮小した.ドレナージチューブ抜去後も肝嚢胞および膵仮性嚢胞の再形成を認めず,受傷後39日目に退院となった.小児における肝外傷および膵外傷の治療方針に関しては一定の見解は出ておらず,若干の文献的考察を加え報告する.
著者
野村 幸世 川瀬 和美 萬谷 京子 明石 定子 神林 智寿子 柴崎 郁子 葉梨 智子 竹下 恵美子 田口 智章 山下 啓子 島田 光生 安藤 久實 池田 正 前田 耕太郎 冨澤 康子
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.187-195, 2015

日本では外科を選択する医師は減少していますが,日本外科学会に新規入会する女性医師は年々増加しており,2008年新入会の22%が女性でした.ところが,日本の女性の年齢別就労人口をみると,M字カーブを描き,30,40代での離職が目立ち,医師も例外ではありません.この現状を打破するために必要な支援を探るため,日本外科学会女性外科医支援委員会と日本女性外科医会が中心となり,2011年6月下旬~8月末に日本医学会分科会に対し,専門医,認定医制度,評議員,役員,委員会委員,男女共同参画,女性医師支援に関しアンケートを行いました.その結果,多くの学会で女性医師支援の活動は行われつつあることがわかりました.しかし,役員,評議員,委員会委員といった意志決定機構における女性の割合は低いままにとどまっています.あらゆる意思決定機関に女性を参入させることが,女性外科医の活動を,ひいては我が国の外科医療そのものを加速させるのではないかと思われました.
著者
田口 智章 家入 里志 橋爪 誠 増本 幸二
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

・超音波画像とMRI画像の統合(2D-3Dレジストレーション)従来の超音波の2D画像とMRIの3D画像を画像解析にて座標統合する技術を開発した。超音波の画像認識技術、及びMRIボリュームから高速に病変部を高速に抽出(セグメンテーション)する技術は既に開発済みであったため、これらを応用発展させ、座標統合技術と補完的に用いることできることを確認した。・MRI誘導による穿刺による胎児手術モデルでの実証実験平成21年度の成果をうけ最終的にリアルタイムの診断と治療が融合した治療システムとしてのMRI撮像下でのマスタースレーブ手術支援ロボットを用いた実験を行った。まず臓器モデルを用いたMRIを撮像し、ナビゲーションシステムを用いて、臓器のセグメンターションを行い詳細な術前計画をたて、手術プロトコールを作成した。次に子宮を模したモデルを用いて経子宮的に小型ロボット用のトロカーを留置、3D内視鏡と7自由度を有するマニュピレータを子宮モデル内に留置、ロボットの鉗子先端と臓器のレジストレーションを行い、その後MRIのガントリ内にモデル・ロボット共にピットインし、撮像しながら、内視鏡画像・術前3D画像・リアルタイム撮像画像を参考に手術操作が可能なことを確認した。このMRI対応小型マスタースレーブ手術支援ロボットに分担研究者が開発したMRI対応多自由度細径鉗子を搭載し、その利点を最大限に生かした手術操作を遂行し、モデルを用いた手術操作では胎児手術操作が可能なことを実証した。