著者
石井 実 平井 規央
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

気候温暖化が里山の昆虫類に及ぼす影響を明らかにするために、ギフチョウなどを対象に研究を行った。本種の蛹を標高の異なる地点に置いたところ、初冬の気温が高い場所では羽化率が低かった。飼育実験の結果を加味すると、蛹期における「長い秋」が高い死亡率の要因と考えられた。衰退の顕著な大阪府北部の産地の個体群を調査したところ、卵の孵化率の低下が確認された。また既に本種が消えた産地では林床植生の植物種数が少なく、野生ジカの生息密度が高いことがわかった。これらの成果は、本種の衰退に暖冬の影響と野生ジカによる下層植生の過剰採食が関係し、個体群縮小による近交弱勢が拍車をかけている可能性が示された。
著者
広渡 俊哉/石井 実
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告 (ISSN:13461575)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.23-29, 2001-03-31

大阪府能勢町の「三草山ゼフィルスの森」において,1996年6月27日にゼフィルス類成虫の日周活動性ならびに摂食行動に関する調査を行った。ヒロオビミドリシジミは11時〜12時をピークとして10時から15時前まで活発に活動するのに対して,ウラジロミドリシジミはヒロオビミドリシジミが活動しない10時前と15時以降に活発に飛翔するのが観察された。ミズイロオナガシジミは6〜7時と14〜16時前後に,ウラナミアカシジミは16〜18時前後に活動するのが観察された。数種のゼフィルス類については,配偶行動が観察された。ゼフィルス類ばナラガシワ,クヌギなどの低・高木からなるさまざまな環境を活動場所としており,特にヒロオビミドリシジミはナラガシワ高木,ウラナミアカシジミはクヌギ低木周辺を飛翔する個体が多い傾向が認められた。また,ヒロオビミドリシジミ,ウラジロミドリシジミ,ウラナミアカシジミ,ミズイロオナガシジミなどのゼフィルス類では,土に活動性が低くなった時間帯にナラガシワの未熟果から吸汁する行動が観察された。
著者
澤田 義弘 広渡 俊哉 石井 実
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.161-178, 1999-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
2

1. 1992年12月から1994年1月にかけて大阪府北部の里山的環境を残す三草山のヒノキ植林, クヌギ林およびナラガシワ林において, 土壌性甲虫類の群集構造および多様性を明らかにするために, 3地点の土壌から土壌性甲虫類をツルグレン装置で抽出し, 種の同定を行った後, 科数・種数・個体数を集計し, 種多様度(1-λ)および地点間の類似度・重複度を算出することにより群集構造を比較した.2. その結果, 今回の調査で三草山の3地点から, 合計24科104種1431個体の土壌性甲虫類が捕獲された.優占5科はハネカクシ科, ムクゲキノコムシ科, ゾウムシ科, タマキノコムシ科, コケムシ科, 優占5種はムナビロムクゲキノコムシ, イコマケシツチゾウムシ, オチバヒメタマキノコムシ, ナガコゲチャムクゲキノコムシ, スジツヤチビハネカクシの1種であった.三草山全体としての土壌性甲虫類の群集構造は種数, 個体数, 種多様度ともに四季を通じて安定していた.3. ナラガシワ林(地点3)では20科82種755個体が捕獲され, 種多様度(0.93), 平均密度(20.9個体/m^2)ともにもっとも高く, ナガオチバアリヅカムシ, ハナダカアリヅカムシなど41種がこの地点だけで確認された.ナラガシワ林における土壌性甲虫類の密度は1年を通じて高いレベルを維持し, 大きな変化はなく安定していた.4. クヌギ林(地点2)では17科47種512個体が捕獲され, 種多様度(0.91), 平均密度(14.2個体/m^2)ともに高かったが, この地点でのみ確認された種はアカホソアリモドキ, アナムネカクホソカタムシなど11種で, 固有性は地点3より低かった.この地点における種数, 密度は夏季にやや減少する傾向が見られたものの, 種多様度は地点3と同様, 安定していた.5. ヒノキ植林(地点1)では7科34種164個が体捕獲され, 種多様度(0.87), 平均密度(4.6個体/m^2)ともにもっとも低く, この地点でのみ確認された種はホソガタナガハネカクシ, チビツチゾウムシ類の1種など9種であった.地点1では, 種数, 密度, 種多様度が夏季に増加したが, これはハネカクシ科のスジツヤチビハネカクシの1種の増加によるものであった.6. 各地点間の類似度(QS)ならびに重複度(Cπ)は0.2∿0.5と低く, 各地点の土壌性甲虫類の群集構造はかなり異なっていることを示した.しかし, 地点2と3の間ではQS, Cπともにやや高い値(約0.5)を示したことから, 優占樹種が異なっても落葉広葉樹の優占する地点では土壌性甲虫類の群集構造は比較的似ていると考えられた.7. 以上の結果から, 三草山の里山林では, とくに落葉広葉樹の優占する地点における土壌性甲虫類の群集構造が多様性に富み, 四季を通じて安定していることが示された.また, 環境の異なる各地点に特有の群集が成立していたことから, 将来, 土壌性甲虫類は有用な環境指標として利用できると考えられる.
著者
石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-83, 1989-03-20

ウラナミシロチョウ(C.pyranthe)の移動1987年7月17日の11時〜12時10分,コタキナバル(Kota Kinabalu)国際空港近くのアルー海岸(Tanjung Aru)においてウラナミシロチョウの移動を観察した(図1のa).蝶は海岸の東側に接した公園を横切り,砂浜の上を飛んでから海へと飛び出して行った。この日は晴天であったが強い西風が吹いていたので,蝶は公園内では西向きに飛んでいたが,砂浜に出ると風に押されて飛翔コースを南西ないしは南の方向に変えた.11時36分から10分間に視界内を32個体が通過していった.ウスキシロチョウ(C.pomona)の移動1987年7月23日午後,内陸部のラナウ(Ranau)〜テルピッド(Telupid)間をドライブ中,ウスキシロチョウが西向きに道路を横切るのに気づいた(図1のb).確認した27個体のうち,21個体が西へ,5個体が南西へ,1個体が北西へ向かって飛んでいた.1983年7月12日にもタンブナン(Tambunan)付近のクロッカー(Crocker)山脈南西斜面で,ウスキシロチョウの南西方向への移動に遭遇した(図1のc).この時は,13時15分から15分間に約20個体がクロッカー山脈の斜面を登って行った.
著者
高山 透 日野谷 重晴 石黒 三岐雄 黒澤 文夫 安原 久雄 源内 規夫 千野 淳 九津見 啓之 儀賀 義勝 助信 豊 内山 雅夫 石井 実
出版者
社団法人日本鉄鋼協会
雑誌
鐵と鋼 : 日本鐡鋼協會々誌 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.147-152, 1996-02-01

The method for isolation and determination of TiN and (Ti, Nb)(C, N) precipitated in Nb-Ti bearing steels has been investigated in the cooperative research of the Precipitate Analysis Subcommittee of Iron and Steel Analysis Committee of Iron and Steel Institute of Japan. Also, the precipitation behavior of TiN and (Ti, Nb)(C, N) in the steels has been studied. The results are summarized as follows ; (1) TiN, (Ti, Nb)(C, N) and other precipitates were extracted by potentiostatic or galvanostatic electrolysis in 10% acetylacetone-1% tetramethylammonium chloride-methanol electrolyte. (2) Only the TiN in the above mentioned precipitates was insoluble and remained by 60℃-10% bromine-methanol solution treatment. Consequently, the amount and composition of TiN and (Ti, Nb)(C, N) could be determined quantitatively by analysis of the residues extracted by using the method of (1) and the residues after this treatment. (3) The size of TiN was several micrometers, the amount of TiN did not change with heating temperatures between 1000 and 1250℃, and the atomic ratio of Ti to N was stoichiometrically one to one. (4) Total amount of Ti and Nb in the precipitates decreased with an increase in heating temperature, because the small size of (Ti, Nb)(C, N) dissolved. (5) Both lattice constant and composition changes in (Ti, Nb)(C, N) showed that Nb and C dissolved preferably into the matrix and the composition of the precipitates approached to that of TiN with an increase in heating temperature. (6) Such behavior of precipitates agreed well with rough calculation from the solubility products.
著者
Fiedler Konrad SEUFERT Peter MASCHWITZ Ulrich AZARAE Hj. Idris 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.287-299, 1995-01-20
参考文献数
24

クアラルンプールの北約20kmに位置するマラヤ大学Ulu Gombak野外実験所付近の二次林(標高200-300m)において,1988-1993年に2種のウラギンシジミCuretis bulisとC. santanaの生態の観察を行ない,卵や幼虫は実験室に持ち帰って,飼育と顕微鏡による観察も実施した.調査地においてC. bulisの雌成虫が川岸のMillettia属(マメ科)に産卵するのを観察したが,産卵はアリのいない新梢にアリとの接触なしに行なわれた. 2種の幼虫は,開けた日当りのよい場所に生育する種々のマメ科木本の新芽で発見された.幼虫期間は9-13日,蛹期間は10-12日であった.幼虫は背部蜜腺dorsal nectary organをもたず,アリ類に世話をされることもなかったが, Pheidole, Anoplolepis, Oecophylla属のアリとは共存していた.これに対して, Crematogaster属のアリは激しく幼虫を攻撃し,その際,幼虫は伸縮突起tentacle organを露出させた.この器官は2齢幼虫から見られ,走査電顕による観察から筒状突起tentacle sheathsの内壁で生産される分泌物を発散する一種の防衛器官と思われたが, Crematogaster属のアリを撃退できなかった.幼虫と蛹は,接触刺激を加えると耳には聞こえない振動音を数分にわたって発したが,その機能は不明である.また,蛹をピンセットなどで摘むと,摩擦発音器stridulatory organによってキーキーと発音した.2-4齢で採集した3頭の幼虫から,蛹化前にApanteles aterグループの多寄生性のコマユバチの幼虫が脱出してきた.光学顕微鏡で幼虫の脱皮殻を観察したところ,胸部第1節と腹部第7節表皮上の窪みperforated chamberには, "pore cupola器官"が密にあったが,腺性の構造は見られなかった.また,第7腹節の"dorsal pores"にも腺の開口や特殊化した刺毛はなかった.筒状突起の陥入部内面の表皮にはうねりながら平行に走るひだがあり,分泌物と思われる微小な暗色の結晶が多数見られた.走査電顕で蛹の体表を観察すると,大まかに4種類の刺毛が見られた.まず,前胸と第6腹節の気門付近には対をなして生じる機械感覚毛と思われる長い刺毛(>200μm)があり,また蛹の体表内に陥入する円形の小孔(約10μm)から生じる"窩状感覚子"様の短い刺毛(約20μm)も見られた.この他に特異な大小2種類のpore cupola器官も観察された.いずれも,窩状感覚子の形状をしており,ひとつは20-30μmの小孔から生じた刺毛の先端が20-50の繊維状に分かれている.もうひとつは,刺毛の先端は乳頭状で10-20μmの小孔から生じる.これらのpore cupolaは,ヨーロッパ産のPolyommatus属やLycaena属などのシジミチョウの幼虫や蛹に見られる同様の構造と相同かもしれない.上記の野外観察の結果は,Curetis属の幼虫がアリを誘って安定した共生関係を形成することはないものの,種々のアリの存在下で生存できることを示しており,この属が客棲性myrmecoxenousであると結論できる.また,顕微鏡による幼虫と蛹の体表器官の観察結果から,ウラギンシジミ亜科が数々の固有新形質をもち,系統的に隔離された位置を占めるグループであることが明らかになった.