著者
加藤 雅也 中濵 直之 上田 昇平 平井 規央 井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2032, (Released:2021-05-24)
参考文献数
39

生息域外保全とは、野外集団で個体数が急減・絶滅した際の備えとして個体を飼育・栽培する活動のことをいい、絶滅危惧種を中心に多数の生物で実施されている。ヤシャゲンゴロウは福井県南越前町夜叉ヶ池でのみ生息が知られており、その希少性から国内希少野生動植物種に選定され、 2015年当時石川県ふれあい昆虫館、越前松島水族館、福井県自然保護センターの 3施設で生息域外保全が実施されている。本研究では、ヤシャゲンゴロウの野生集団(1995年以前に採集された標本を含む)、生息域外保全系統、また比較対象として近縁種であるメススジゲンゴロウの野生集団について 14座を用いたマイクロサテライト解析を行い、ヤシャゲンゴロウの生息域外保全による遺伝的多様性の保持効果について明らかにした。ヤシャゲンゴロウ野生集団の遺伝的多様性は、メススジゲンゴロウと比較して低かったものの、 1995年以前と 2016年で対立遺伝子多様度やヘテロ接合度期待値の大きな減少は見られなかった。ヤシャゲンゴロウの生息域外保全を実施している 3施設ではいずれも野外集団よりも遺伝的多様性が低かった。しかし、これらを混合して解析した場合、対立遺伝子の減少は 1つのみに留まり、野生集団が持つ対立遺伝子をほぼ保持していた。本研究から、遺伝的多様性を保持するためには、系統の絶滅に対するリスク分散のための複数施設で独立した生息域外保全の実施、また施設間の定期的な生息域外保全個体の交換・混合が重要であることが示された。
著者
矢後 勝也 平井 規央 小沢 英之 佐々木 公隆 谷尾 崇 伊藤 勇人 遠藤 秀紀 中村 康弘 永幡 嘉之 水落 渚 関根 雅史 神宮 周作 久壽米木 大五郎 伊藤 雅男 清水 聡司 川口 誠 境 良朗 山本 以智人 松木 崇司
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.233-246, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
11

シカの急増に伴う林床植生の食害により国内で最も絶滅が危惧されるチョウと化したツシマウラボシシジミの保全を目的として,a)保全エリアでの実践的な保護増殖活動,b)保全エリア候補地の探索に関する活動,c)希少種保全と農林業との連携に関する活動,の大きく3つの課題に取り組んだ.保護増殖活動では,環境整備やシカ防護柵の増設により保全エリアの改善を試みた他,現状の環境を把握するためにエリア内の林床植生および日照・温度・湿度を調査した.今後の系統保存と再導入のために越冬・非越冬幼虫を制御する光周性に関する実験も行った結果,1齢幼虫から日長を感知する個体が現れることが判明した.保全エリア候補地の探索では,本種の好む環境を備える椎茸のホダ場30ヶ所を調査し,良好な環境を保持した11ヶ所のホダ場を見出した.保全と農林業との連携では,アンケート調査から多くの地権者や椎茸農家の方々は本種の保全に好意的なことや,本種を育むホダ場で生産された椎茸のブランド化に賛成で,協力可能であることなども明らかとなった.
著者
平井 規央
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
no.220, pp.2-20, 2009-07-15
被引用文献数
3
著者
吉田 周 平井 規央 上田 昇平 石井 実
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3-4, pp.109-136, 2019-11-30 (Released:2019-12-20)
参考文献数
26

Based on the label information of butterfly specimens collected in Kyoto Prefecture, Japan by Dr. Tadachika Minoura, the distribution of butterfly species in and around Kyoto City in the early Showa period (1930’s to 1950’s) was inferred and compared with the Red Lists of Kyoto Prefecture and the Ministry of the Environment. The specimens contained 63 species and 961 individuals collected at 50 sites in Kyoto Prefecture from 1904 to 1969, including 7 species listed in the Red List of Kyoto Prefecture 2015 or Ministry of the Environment 2018. In particular, it became clear that several species listed on the Red Lists such as Fabriciana nerippe and Eurema laeta were distributed in the Saga or Kinugasa areas, which are now an urban area. Thus Minoura’s collection was proved to an important means for inferring the butterfly fauna in and around Kyoto City in the early Showa period.
著者
平井 規央 谷川 哲朗 石井 実
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.57-63, 2011-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
34

アオタテハモドキJunonia orithya orithyaを実験室内の25,20℃の12L-12D(短日)と16L-8D(長日)および30℃の長日条件下で飼育し,発育,季節型,耐寒性を調査した.幼虫と蛹の平均発育期間は温度の上昇とともに短くなり,幼虫期の発育零点t_0と有効積算温度Kは,13.7℃と208.3日度,蛹期は13.4℃と99日度と算出された.25℃では長日・短日ともに3日目に,20℃長日では7日目に成熟卵を持つ個体が見られたが,20℃短日では14日目にも成熟個体は見られなかった.成虫期には日長と温度による季節型が見られた.雌雄後翅裏面の眼状紋と雌の後翅表面の橙色は高温長日で発達し(長日型),低温短日では眼状紋が消失して雌の後翅表面は青色となる(短日型)傾向が強く認められた.幼虫(4齢),蛹,成虫の過冷却点を測定したところ,それぞれ約-12,-17,-20℃となり,成虫で最も低かったが,飼育日長による差は認められなかった.
著者
平井 規央
出版者
日本植物防疫協会
雑誌
植物防疫 (ISSN:00374091)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.365-368,図巻頭1p, 2009-06
被引用文献数
2
著者
吉田 周 平井 規央 上田 昇平 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1-14, 2020-05-31 (Released:2020-06-13)
参考文献数
55

To examine the structure of the butterfly assemblage in a residential area developed in a Satoyama landscape, transect counts of butterflies were carried out for five years from 2012 to 2016 in the Iwakura-Ichihara area of Kyoto City. Thirty-eight species were observed with five dominant species, Pieris rapae, Zizeeria maha, Eurema mandarina, Ypthima argus and Colias erate, accounting for 77.4% of the total population. Although no red-listed species were found, several Satoyama coppice species such as Erynnis montana and Japonica lutea were observed in the study site. Analyses based on past records and land-use changes demonstrate that the butterfly assemblage has been simplified with the reduction of the Satoyama landscape.
著者
石井 実 平井 規央
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

気候温暖化が里山の昆虫類に及ぼす影響を明らかにするために、ギフチョウなどを対象に研究を行った。本種の蛹を標高の異なる地点に置いたところ、初冬の気温が高い場所では羽化率が低かった。飼育実験の結果を加味すると、蛹期における「長い秋」が高い死亡率の要因と考えられた。衰退の顕著な大阪府北部の産地の個体群を調査したところ、卵の孵化率の低下が確認された。また既に本種が消えた産地では林床植生の植物種数が少なく、野生ジカの生息密度が高いことがわかった。これらの成果は、本種の衰退に暖冬の影響と野生ジカによる下層植生の過剰採食が関係し、個体群縮小による近交弱勢が拍車をかけている可能性が示された。
著者
泉田 啓 飯間 信 平井 規央
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

蝶の羽ばたき飛翔は,生成される流場を環境とする,移動知の一例である.本研究では特に,羽ばたきにより創成される渦列流場という環境が安定化とマヌーバに与える影響という観点から,飛翔における蝶の適応的行動能力を発現するメカニズムを解析し,他の移動知にも共通する移動知発現の力学的共通原理の解明に貢献することを目指す.具体的には,(1)生体の蝶の感覚器(センサ)入力および身体の応答動作との関係,(2)蝶の安定飛行と状態間遷移飛行を実現する制御機構に環境(流れ場)がどのように影響するか,という2点を研究期間にわたり調査した.A. 生物学的アプローチアサギマダラ蝶を経常的に供給できるようにした.実験装置を構築して観測実験を行い,蝶の運動と空気力を計測した.可能な能動的動作を知るために,マイクロCTを用いて解剖学的理解を進めた.B. 工学的アプローチ飛翔安定化およびマヌーバビリティ(状態遷移能力)を探るために2次元数値モデルを構築し,大摂動に対する回復過程と、飛翔の数理構造の解析に基づいた遷移制御の研究を行っている.3次元数値モデルを構築し,実験観測データと比較して,数値モデルの妥当性や精度を検討した.また,羽ばたき飛翔の周期解の探索,渦列流場と翅の柔軟性が安定性に及ぼす影響について検討した.その結果,渦列流場と柔軟性が移動知の共通原理の陰的制御と捉えることができることが明らかになった.