著者
吉沢 和也 武市 尚也 笠原 酉介 渡邉 紗都 根本 慎司 赤尾 圭吾 渡辺 敏 足利 光平 木田 圭亮 明石 嘉浩
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会
雑誌
学会誌JSPEN (ISSN:24344966)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.2-9, 2022 (Released:2022-08-25)
参考文献数
18

要旨:【目的】入院期心不全患者における入院中の食事摂取量と退院時下肢筋力の関連を明らかにすること.【対象および方法】対象は急性心不全で入院後,心臓リハビリテーションを実施した92例である.食事摂取量は全入院期間中の平均食事摂取量(kcal/日)および,食事摂取量を食事提供量(kcal/日)で除した平均食事摂取率(%)を算出した.下肢筋力は退院時に左右の膝伸展筋力を測定し,平均値を求め体重比を算出した.【結果】下肢筋力は食事摂取率(r=0.47)および食事摂取量(r=0.56)と正の相関を認め(各々p<0.05),重回帰分析の結果,退院時下肢筋力に有意に関連する因子として食事摂取量が抽出された(R=0.703,調整済みR2=0.476,p<0.05).【結論】入院期心不全患者における入院中の食事摂取量は,退院時下肢筋力と関連している.食事摂取量が少ない患者に対しては,改善に向けて多職種による包括的アプローチが早期から必要であると考えられた.
著者
多田 実加 笠原 酉介
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.31-37, 2019 (Released:2019-04-20)
参考文献数
29

早産児や低出生体重児は,神経学的障害の発生だけでなく,発育や発達に関する障害が存在することが知られている.NICUでの発育は子宮内発育と比較し,身長,体重および頭囲の発育が停滞しやすく,2~3歳での精神運動発達は遅延していると報告されている.近年,出生直後からの積極的な栄養管理によって,NICU入院中の発育を改善させることは明らかとなっているが,長期的な発達予後に対する効果の報告はまだ少ないのが現状である.自験例として,超低出生体重児と横隔膜ヘルニア術後の症例,消化管穿孔術後の症例を提示し,主に運動発達の獲得時期や獲得順序と出生後の栄養,発育の関連性を考察した.その結果,発育障害や発達遅延を改善させるためには,出生後の栄養管理が強く関わっていることが示唆された.われわれ理学療法士はNICU退院後も適切な栄養管理で発育や発達を促すために,栄養士や薬剤師などの多職種とも連携を図り,アプローチすることも必要であると考える.
著者
大森 圭貢 熊切 博美 小野 順也 立石 真純 笠原 酉介 武市 梨絵 横山 有里 岩崎 さやか 多田 実加 最上谷 拓磨 笹 益雄 飯島 節
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1089-Ab1089, 2012

【はじめに、目的】 両側松葉杖での一側下肢完全免荷歩行(以下,松葉杖免荷歩行)は,下肢の免荷を必要とする際の有効な移動手段であるが、その獲得に難渋することは少なくない.松葉杖免荷歩行には,肩甲帯下制筋,肘伸展筋,肩内転筋,手指屈筋などの筋が関与し,それぞれ徒手筋力検査法でgood以上の筋力が必要とされている.しかし,徒手筋力検査法による筋力評価は客観性が低いことが指摘されており,臨床での指標としては不十分な面がある.松葉杖免荷歩行の獲得に必要な上肢筋力を客観的な尺度で明らかにすることができれば,トレーニング内容や期間などを考える際の有用な情報になると考えられる.本研究の目的は,松葉杖免荷歩行獲得の可否と等尺性上肢筋力の関連を検討し,松葉杖免荷歩行獲得に必要な上肢筋力を明らかにすることである.【方法】 対象者は松葉杖免荷歩行練習の指示があった者のうち,20歳以上,上肢に骨関節疾患の既往がない,評価に必要な指示に従える,研究に同意が得られる,の全ての条件を満たす者とした.前向きコホートデザインを用い,年齢,身長,Body Mass Index,性別,松葉杖歩行の経験,松葉杖免荷歩行獲得の可否,上下肢筋力を評価,測定した.松葉杖免荷歩行が可能か否かは,200m以上の安全な歩行の可否で判断した.理学療法開始日から毎回の実施日に3名の理学療法士が確認し,2名以上が一致した評価を採用した.そして理学療法開始日に歩行可能な者を歩行自立群,理学療法開始から1週間以内に歩行可能になった者を獲得群,歩行可能にならなかった者を不獲得群に分類した.理学療法開始日に,握力,肘伸展筋力,肩伸展筋力,肩内転筋力,肩甲帯下制筋力,膝伸展筋力を測定した.測定には,油圧式握力計と徒手筋力計を用い,上肢筋力は左右それぞれの最大値の平均,膝伸展筋力は非免荷側の最大値を求め,それぞれ体重比を算出した.松葉杖免荷歩行と上下肢筋力の評価は,それぞれ異なる理学療法士が行い,さらにお互いに得られた結果を伏せるようにし,測定者バイアスを排除した.分析は,松葉杖免荷歩行獲得に関連する変数を検討するために,獲得群と不獲得群間の各変数をχ2乗検定とMann-WhitneyのU検定で比較した.次に有意差のあった筋力の変数が,獲得群と不獲得群を判別できるかをReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線の曲線下面積から検討した.統計的有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院臨床試験委員会の承認を受け(受付番号第244号),対象者には十分な説明を行い,書面による同意を得て実施した.【結果】 対象者32名のうち,歩行自立群13名を除いた19名を分析対象とした.単変量解析の結果,獲得群(6名)/不獲得群(13名)の中央値は,身長168.5/161.0(cm),握力0.64/0.46(kgf/kg),肘伸展筋力0.24/0.19(kgf/kg),肩伸展筋力0.14/0.11(kgf/kg),肩内転筋力0.21/0.13(kgf/kg)であり,いずれも獲得群の方が有意に高値であった.その他の変数は,いずれも有意差がなかった.ROC曲線の曲線下面積は握力が0.95であり,獲得群を判別できる有意な指標であった.さらに握力0.57kgf/kgでは,感度83%,偽陽性度8%の精度で獲得群を判別できた.同様に肘伸展,肩伸展,肩内転のそれぞれの筋力の曲線下面積は,順に0.87,0.85,0.89であり,それぞれの筋力(kgf/kg)が,0.23,0.13,0.17では,感度80%以上,偽陽性度25%以下で獲得群を判別できた.【考察】 理学療法開始日に松葉杖免荷歩行が可能な者は半数以下であり,1週間の訓練後にも松葉杖免荷歩行獲得が困難な者が少なくなかった.獲得群と不獲得群間では身長,握力,肘伸展筋力,肩伸展筋力,肩内転筋力で有意差があったことから,理学療法開始1週程度の間に松葉杖免荷歩行を獲得できるか否かには,これらの因子が関連すると考えられた.さらに握力0.57 kgf/kg,肘伸展筋力0.23 kgf/kg,肩伸展筋力0.13 kgf/kg,肩内転筋力0.17 kgf/kgでは,それぞれ高い精度で獲得群を判別できたことから,これらの上肢筋力を上回った者では,1週間程度の理学療法によって松葉杖免荷歩行獲得が見込まれると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 松葉杖免荷歩行の獲得が容易ではないこと,そして歩行ができない者が1週間内に獲得できるか否かを理学療法開始時の評価によって予測できる可能性を示した研究であり,理学療法評価及び予後予測において有用である.
著者
渡邉 陽介 横山 仁志 笠原 酉介 堅田 紘頌 八木 麻衣子 小山 照幸
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.385-390, 2010 (Released:2010-07-28)
参考文献数
24
被引用文献数
2

〔目的〕本研究では,肺切除術における術後呼吸器合併症の併発率や,合併症併発の予測因子について明らかにすることを目的に検討した。〔方法〕肺切除術を施行した全146例を対象とし,呼吸器合併症の有無を診療録より後方視的に調査し,呼吸器合併症の併発率,併発日を算出した。そして,術後呼吸器合併症の予測因子について,ロジスティック回帰分析を用いて検討した。〔結果〕術後呼吸器合併症の併発率は4.1%(146例中6例)と極めて低値を示し,併発日は2.2±2.2日であった。また,術前屋外自立歩行の可否(オッズ比15.2),慢性呼吸器疾患合併の有無(オッズ比9.9)が,呼吸器合併症の併発に独立して影響を与えていた。〔結語〕従来の報告に比較し,術後呼吸器合併症の併発率は低下傾向にあり,その予測因子も変化していることが推察された。
著者
平澤 有里 笠原 酉介 大森 圭貢 渡辺 敏 武者 春樹
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D1202-D1202, 2005

【目的】慢性心不全患者は,急性憎悪期に安静臥床や活動の制限を受けることが多い.そのため,入院を契機に歩行能力が低下する症例が少なくなく,その傾向は高齢であるほど顕著である.高齢患者の歩行能力を規定する因子としては下肢筋力があるが,高齢心不全患者の下肢筋力は健常高齢者に比べて低値であることがすでに報告されている.そこで本研究では,後期高齢心不全患者を対象に,歩行能力と心機能,下肢筋力の関係を検討したので報告する.<BR>【対象】対象は,75歳以上の後期高齢心不全患者計28名(男性9名 女性19名,平均年齢82±17歳,基礎疾患は陳旧性心筋梗塞10名,拡張型心筋症6名,その他12名)であった.いずれも心不全の急性期を脱しリハビリテーションが施行可能となった症例であり,重度の痴呆や運動器疾患を呈する症例は除外した.<BR>【方法】検討項目は,心機能として脳性ナトリウム利尿ペプチド(以下BNP)と左室駆出分画(以下EF),入院日数,下肢筋力,歩行能力とした.下肢筋力は,アニマ社製μ-TasMT-01を使用し,等尺性膝伸展筋力体重比を測定した.歩行能力は院内歩行の可否,可能な連続歩行距離とその制限因子を調査した.分析はSPSS12.0Jを使用し,χ<SUP>2</SUP>検定,Mann-WhitneyのU検定,Spearmanの相関係数を用いて検討した.<BR>【結果】平均値と標準偏差はそれぞれ,BNP1315±1095pg/ml,EF47.7±17.7%,入院日数41±24日間,下肢筋力29.3±9.1kg/kgであった.院内歩行可能が12名,不可能が16名であり,内4名は歩行不能であった.歩行の可否で有意差が認められたものは性別(p<0.05)下肢筋力(p<0.01)であり,性別では男性の方が歩行可能な症例が多かった.また,連続歩行距離(平均277±264m)と有意な相関が認められたものは年齢(r=0.555,p<0.05)と下肢筋力(r=0.686,p<0.01)であり,心機能(BNP,EF)と歩行能力は相関がなかった.連続歩行の制限因子は下肢疲労が14名(50%),息切れが10名(36%),異常心拍血圧反応が2名(7%),その他2名(7%)であった.<BR>【考察】今回の結果より,後期高齢心不全患者の歩行能力には下肢筋力が大きく関係していることが示唆された.連続歩行の制限因子が下肢疲労である症例が多く存在することは,同程度の心機能でも下肢筋力増強によりさらに歩行能力が向上する可能性があることを表している.後期高齢心不全患者のリハビリテーションは下肢筋力トレーニングが非常に重要であることが改めて考えられた.