著者
東 佳澄 西村 愛美 木我 敬太 中川 隆生 永井 匡 岸 昌生 細井 美彦 安齋 政幸
出版者
近畿大学先端技術総合研究所
雑誌
Memoirs of Institute of Advanced Technology, Kinki University = 近畿大学先端技術総合研究所紀要 (ISSN:13468693)
巻号頁・発行日
no.16, pp.43-50, 2011-03-01

[要約] 本研究では、ICR系統マウスを用いた体外受精ならびに、初期胚の体外培養について検討した。体外受精では、常法により過剰排卵処置を施した成熟雌マウスより卵を回収し、前培養を行うことにより、受精能を獲得させた精子と共に培養し、受精させた。精子前培養培地および受精培地からウシ血清アルブミンを除き、L-カルニチンを添加した修正HTF培地を用いた。その結果、L-カルニチン添加濃度0mMでは48%(162/337)、1mM では12%(35/294)、2mM では0%(0/311)、5mM では0%(0/292)、10mM では0%(0/270)の受精率が得られた。続いて胚培養を行った結果、L-カルニチン添加濃度0mM では78%(127/162)、1mM では57%(20/35)であり、2mM、5mM、10mM では胚の発生には至らなかった。次に、高分子物質のPVA を0.1%添加した培地でも同様の実験を行い、L-カルニチン添加濃度0mM では25%(96/390)、0.1mM では25%(91/362)、0.5mM では30%(77/256)、1mMでは34%(117/347)の受精率が得られた。続いて胚培養を行った結果、L- カルニチン添加濃度0mMでは80%(76/95)、0.1mM では81%(74/91)、0.5mM では95%(70/74)、1mM では73%(85/117)が胚盤胞期胚へ発生した。これらの結果から、L- カルニチン高濃度における受精阻害を呈することが明らかとなった。また、L-カルニチンに高分子物質であるPVA を添加することで、ウシ血清アルブミンの代替物質になる可能性が示唆された。 [Abstract] The present study examined in vitro fertilization that used the ICR mouse and the in vitro culture of the early embryo. Newly ovulated eggs from mature mouse injected PMSG and hCG were inseminated in vitro with spermatozoa recovered from the cauda epididymidis of mature males. Preculture medium of sperm and fertilization medium added the L-carnitine without bovine serum albmin. Percentage of fertilization were 48%(162/337)at L-carnitine 0mM and 12%(35/294) at L-carnitine 1mM. Following the percentage of blastocyst were 78%(127/162) and 57%(20/35). Next, the same experiment was performed using the medium that added 0. 1% PVA of polymeric mass. Results of the fertilization rate were 24%(95/390) at L-carnitine 0mM and 25%(91/362) at L-carnitine 0.1mM and 30%(77/256)at L-carnitine 0.5mM and 34%(117/347) at L-carnitine 1mM. Following the rate of developed to blastocysts stage were 73-95%. When the high density L-carnitine from these results, it was shown not to retard of fertilization. Moreover, L-carnitine was indicated the possibility for a substitute of bovine serum albumin by adding PVA.
著者
入谷 明 三宅 正史 内海 恭三 細井 美彦
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

一卵性多子生産は一つの受精卵から数多くの同一遺伝子構成の個体を複製するという点で、胚の効率生産のみならず、遺伝的検定材料としての利用面に貢献できるものと思われる。しかし胚発生の過程において細胞は増殖と分化を繰り返して個体に発生する。胚の単離割球が個体に分化発生するためには全能性(個体への発生能力)を保持しているか、人為的に賦与させる必要がある。マウス胚では2細胞期の胚ゲノムの活性化が起こり、4細胞期胚の個々の単離割球全てには個体への発生能力がみられていない。しかし羊では8細胞期胚の単一割球の発生能力が報告されている。本研究ではウシとヤギ胚の初期胚の単離割球の発生能を調べると共に、それらの1卵性多子生産を試みた。胎児部と胎盤部に発生する部分に分化した胚盤胞期胚を均等に2分離して1卵性双生児は容易に作出された。金属刃での顕微操作で90%以上の確立で分離され、ウシでは60%以上の受胎率と20対以上の産子が得られた。8細胞期由来2割球(2/8)からはヤギではウサギ卵管中で37%の胚盤胞が得られ、4個の移植から1頭の産子が得られた。ウシでは同様にして20%の胚盤胞が得られた。他にウシでは初期分割期胚の回収が困難なため体外受精由来胚が実験に供され、1/8割球と2/8割球の胚盤胞への発生能はウサギ卵管中で20%であった。ヤギやウシでの1/8〜と2/8細胞の胚盤胞への発生能が認められたので、2/8細胞に1/2〜1/4細胞又は1/8細胞を集合させて2/8細胞の胚盤胞期以後の発生能を改善しようとした。さらに1/8細胞に未受精除核卵母細胞を電気融合させて、受精卵を再構成させた。ヤギ及びウシとも体内受精発育卵及び体外受精発育卵を材料として、8細胞からの割球の単離、融合用の除核卵母細胞の調整、及びそれらの電気融合、再構成胚の胚盤胞期への発生能の検定など一連の基礎技術が開発され、ヤギ・ウシ胚とも胚盤胞が得られているので今後の一卵性8つ子の生産が期待させる。
著者
神谷 拓磨 松橋 珠子 細井 美彦 松本 和也 宮本 圭 本上 遥 久米 健太 樋口 智香 奥野 智美 山本 真理 越智 浩介 井橋 俊哉 辻本 佳加理
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.111, pp.P-54-P-54, 2018

<p>【目的】分化した体細胞核を未受精卵子内に移植することにより,リプログラミングが誘導され,クローン動物の作出が可能となる。未受精卵を用いてクローン胚を作成する場合,細胞分裂やDNA複製を経て,移植された体細胞核から胚性遺伝子が発現を開始するため,細胞分裂やDNA複製は転写のリプログラミングに不可欠な要素の一つと考えられてきた。そこで本研究では,転写リプログラミングにおける細胞分裂やDNA複製の寄与を明らかにするため,マウス初期胚を用いて細胞分裂及びDNA複製非依存的に体細胞核の転写リプログラミングを誘導する核移植法の開発を目指す。【方法】C57BL/6雌マウスとDBA/2雄マウスを用いてIVFを行い,その後mKSOM培地で4細胞期胚まで培養した。4細胞期胚をDemecolcine添加培地に移し,細胞周期をG2/M期に停止した。G2/M期停止4細胞期胚にTransgeneによりトレース可能な細胞株を移植し,24時間後に免疫染色を行い,共焦点顕微鏡下で移植細胞核の構造的な変化を観察した。また,G2/M期停止4細胞期胚にC2C12筋芽細胞を核移植し,α-amanitinによって転写を阻害した区と非添加区に分け24時間培養後,RNA-seqによって遺伝子発現を調べた。【結果】免疫染色の結果,移植した細胞核が24時間以内に急速なリモデリングを受け,胚由来の核と似た構造を示すことが分かった。移植核中には2番目のセリンがリン酸化を受けたRNA PolIIが確認され,移植後の細胞核は転写活性を有することが分かった。次にRNA-seqの結果,初期胚で高発現する遺伝子の多くが核移植した4細胞期胚から新たに転写されることが分かった。さらに,Utf1やEsrrbなど4細胞期からES細胞にかけて発現の高い遺伝子の転写も確認した。以上の結果より,マウス4細胞期胚を用いた新規核移植法を示した。また,本実験で発展した核移植法により,細胞分裂及びDNA複製非依存的に体細胞核の転写リプログラミングが誘導できる可能性が示唆された。</p>
著者
高田 達之 鳥居 隆三 土屋 英明 木村 博 木本 安彦 細井 美彦 入谷 明
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

本研究は(1)サルES細胞を用いた遺伝子改変技術の確立と(2)そのES細胞由来の遺伝情報を有する産仔を得る、という2つの主目的からなっている。まず(1)の課題に関して、我々は世界に先駆けて遺伝子導入が困難とされたカニクイザルES細胞への蛍光蛋白GFP遺伝子の導入に成功した。そしてこのGFP発現カニクイザルES細胞(GFP-ES)がin vitro, in vivoにおいて内、外、中胚葉に分化し、多分化能を維持していることを明らかにした。さらにGFP-ES細胞を4-6細胞期のカニクイザル正常発生胚に注入すると、割球と混じり合って増殖し、キメラ胚盤胞を作る能力があることを証明した。すなわち目標であったサルES細胞を用いた遺伝子改変技術を確立することができた。さらにこの過程でsiRNAのサルES細胞への効率良い導入方法の開発にも成功し、サルES細胞において容易な遺伝子発現抑制方法を確立することができた。すなわちサルES細胞における遺伝子改変技術として、過剰発現系とその逆の発現抑制という2つの技術を確立することに成功した。次に2番目の課題に関して、このGFP-ES細胞を4-6細胞期の正常発生胚に注入後、レシピエント個体の卵管に移植し、キメラザルの作出を試みた。その結果、4頭の妊娠に成功し、1頭の正常仔の出産に成功した。この個体の皮膚、および血液における、明確なGFPの発現は認められなかったが、ゲノムにおけるGFP遺伝子の存在をPCR法により調べたところ、キメラであることが明らかになった。すなわち世界で初めてES細胞を用いたキメラザルを誕生させることに成功した。以上、本研究の結果、サルES細胞に遺伝子改変を行い、これを用いて遺伝子改変ザルを作製するための細胞工学的、発生工学的方法を開発し、必要な技術基盤を確立することができた。
著者
西村 愛美 大本 夏未 西山 有依 柳 美穂 三谷 匡 細井 美彦 入谷 明 安齋 政幸
出版者
近畿大学先端技術総合研究所
雑誌
近畿大学先端技術総合研究所紀要 (ISSN:13468693)
巻号頁・発行日
no.15, pp.27-35, 2010-03

本実験では成熟齢C57BL/6J マウスから得られた体外成熟卵子を作出し、レーザー穿孔処理法を用いて各出力条件下(200, 150, 120μsec.)で透明帯穿孔処理を行ない、その後の体外受精および発生能を検討した。C57BL/6J 卵巣より回収した未成熟卵子の体外成熟成績は、91%(1, 517/1, 674)であった。レーザー穿孔処理時間による受精成績は、それぞれ、60%(191/316), 54%(103/192), 45%(196/439)であり、対照区(28%:129/463)と比較し有意な差が認められた(P<0.05)。また一部を培養した結果、胚盤胞期への発生率は31%(32/102), 51%(74/144), 53%(40/75)であった。2細胞期胚を移植した結果、レーザー出力を低出力にした場合、産子の発生向上が確認された〔6%(5/81), 13%(10/83), 21%(12/56)〕。さらにレーザー照射による熱変性を避けるため、卵細胞質を収縮させた透明帯穿孔卵子における受精成績も同様に対照区と比較し有意に向上した(p<0.05)。以上の結果より、C57BL/6J 未成熟卵子の体外成熟およびレーザー穿孔処理の条件を調整することにより、産子への発生を改善することが示唆された。