著者
伊藤 弘顕 西川 久仁子 粟野 達也 細川 宗孝 矢澤 進
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.19-23, 2010

乾膜質な花葉をもつ7種の植物種を用いて,細胞壁の形態を電子顕微鏡および偏光顕微鏡を用いて観察した.通常,花葉は一次細胞壁だけの柔細胞で構成される.しかし,少なくとも7種の植物種における乾膜質な花葉では,共通して組織すべての細胞がセルロース配向のある二次細胞壁を発達させていることが明らかとなった.また,二次細胞壁の肥厚形態は植物種によって様々であった.すなわちヘリクリサムなどキク科の植物は管状要素あるいは転送細胞のように網目状あるいは縞状に,センニチコウなどヒユ科の植物は繊維のように層状に,イソマツ科の植物であるスターチスは種皮の厚壁異型細胞のようにひだ状に,細胞壁を発達させていた.<br>
著者
田中 義行 細川 宗孝 渡辺 達夫 三輪 哲也 矢澤 進
出版者
京都大学農学部附属農場
雑誌
京大農場報告 = Bulletin of Experimental Farm Kyoto University (ISSN:09150838)
巻号頁・発行日
no.21, pp.9-14, 2012-12

トウガラシは,ナス科トウガラシ(Capsicum)属の植物である。Capsicum属は約25種の野生種と5種の栽培種から構成されている(Bosland and Votava 1999)。栽培種は,C.annuum,C.baccatum,C.chinense,C.frutescens,C.pubescensであり,このうちC.annuumが世界中で最も広く栽培されている。日本でも栽培されている品種はほぼ全てC.annuumであり,'鷹の爪'などの辛味品種やピーマンと呼ばれる非辛味品種群もこの種に属する。C.baccatumは南アメリカを中心に栽培がみられる。C.chinenseは熱帯地方で広く栽培されており,激しい辛味を呈するものや芳香性に富んだ品種がある。激辛のグループに属することが知られている'ハバネロ'もC.chinenseである。C.frutescensは,C.chinenseと非常に近縁な種であり,日本では沖縄県の一部で栽培がされている。C.pubescensは南アメリカの山間部で栽培されており,「Rocoto」とも呼ばれる。トウガラシには多様な果実の色・形・大きさなどがあるが,最も顕著な特徴は果実が有する激しい辛味である。トウガラシの辛味の原因となる主要な成分は,無色の脂溶性アルカロイドのカプサイシンである。トウガラシ果実には,カプサイシンに加えてジヒドロカプサイシン,ノルジヒドロカプサイシン,ホモカプサイシン,ホモジヒドロカプサイシンなどの同族体が存在しこれらを総称してカプサイシノイドと呼ぶ。カプサイシノイドには,体熱産生作用,脂肪代謝促進作用など様々な生理作用があることが知られており,香辛料として利用されるだけでなく健康機能性成分としても注目されている。トウガラシは辛味の有無によって辛味品種と非辛味品種に区別されている。しかし辛味品種といっても,'ハバネロ'のような激辛品種から僅かに辛味がある低辛味品種まで様々な辛味程度の品種が存在し,また環境条件によって辛味を発現する'シシトウ'のような品種も存在する。辛味発現の機構を理解することは,トウガラシ育種において重要である。しかしトウガラシ果実の辛味発現は,遺伝的要因と環境条件が影響し複雑であり,体系的な理解には至っていない。近年の分子遺伝学的研究により,辛味発現の制御機構の一端が明らかになりつつある。ここでは,我々の結果も含めて,トウガラシ果実の辛味発現を制御する遺伝子に関する最近までの知見を紹介する。
著者
出口 亜由美 立澤 文見 細川 宗孝 土井 元章 大野 翔
出版者
The Japanese Society for Horticultural Science
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.340-350, 2016 (Released:2016-10-27)
参考文献数
36
被引用文献数
1 12

ダリア(Dahlia variabilis)の黒色花はシアニジン(Cy)系アントシアニンの高蓄積に起因するものであることが先行研究により示唆されていた.そのため,ダリア花弁に蓄積する Cy 系アントシアニンはペラルゴニジン(Pg)系アントシアニンよりも花弁の明度 L* および彩度 C* を下げるはたらきが強く,花弁黒色化への寄与度が高いことが予想されたが,これまでにそれを示した報告はない.本研究では,ダリア花弁に蓄積する 4 種類の主要なアントシアニン,Pg 3,5-ジグルコシド(Pg 3,5diG),Cy 3,5-ジグルコシド(Cy 3,5diG)Pg 3-(6''-マロニルグルコシド)-5-グルコシド(Pg 3MG5G)および Cy 3-(6''-マロニルグルコシド)-5-グルコシド(Cy 3MG5G)を抽出精製し,異なる pH(3.0,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0 あるいは 7.0)あるいは異なる濃度(0.25,0.5,1.0,2.0 あるいは 3.0 mg·mL−1)における溶液の色(CIE L*a*b*C*)を in vitro で評価した.各アントシアニンの色は溶液の pH により変化した.ダリア花弁の pH に近い pH 5.0 およびアントシアニンが比較的安定な構造を保つ pH である pH 3.0 のいずれにおいても,Cy 3,5diG の L* および C* は Pg 3,5diG と同様あるいは高かったことから,Cy 3,5diG は Pg 3,5diG よりも花弁黒色化への寄与度が高いわけではないと考えられた.一方で,Cy 3MG5G の L* および C* は Pg 3MG5G よりも,特に 2.0 mg·mL−1 以上の高濃度において有意に低く,花弁黒色化への寄与度が高いことが示唆された.同様の傾向が Pg 系アントシアニンと Cy 系アントシアニンを様々な割合で混合した色素の測色でもみられた.Pg 3MG5G の L* および C* は他の 3 種のアントシアニンよりも極めて高かったことから,Pg 3MG5G は 4 種のアントシアニンのなかで最も黒色から遠い色を示すことが考えられた.ダリア花弁に蓄積する Pg 系アントシアニンと Cy 系アントシアニンの量比は品種によって様々であったのに対し,いずれの品種においても 3MG5G 型アントシアニンの蓄積量は 3,5diG 型アントシアニンよりも多かった.これらの結果から,ダリア花弁においては 3MG5G 型アントシアニンが主要に蓄積しており,かつ,Cy 3MG5G が Pg 3MG5G よりも花弁 L* および C* を下げるはたらきが強く花弁黒色化への寄与度が高いために,Cy 系アントシアニンの高蓄積が花弁の黒色化に重要であると示唆された.個々のアントシアニンの花弁黒色化への寄与度は各アントシアニンの構造により決まると考えられたため,L* および C* が最も低いアントシアニンを特定し,それを高濃度で花弁に蓄積させることで,様々な花卉品目において黒花品種を作成することが可能になると考えられた.
著者
大野 翔 保里 和香子 細川 宗孝 立澤 文見 土井 元章
出版者
The Japanese Society for Horticultural Science
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.177-186, 2016 (Released:2016-04-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1 7

複色花ダリア(Dahlia variabilis)は,着色した基部と白色の先端部となる花弁をもつ品種群であるが,しばしば一つの花序において花弁全体が着色した単色花弁を生じる.この花色の不安定性は切り花や鉢もの生産において問題となり,しばしば商業的な価値を損なう原因となる.本研究では,花色の不安定性機構の解明と制御に向けて,赤白複色花‘結納’における赤色花弁の発生様相を調査した.‘結納’は複色花弁のみの複色花序,赤色花弁のみの赤色花序,そして赤色花弁と複色花弁とが混在した混合花序を着生した.混合花序において赤色花弁は,花序において複色花弁よりも外側あるいはセクター状に生じ,キメラ個体や枝変わりのような発生様相を示した.赤色花弁の発生頻度は,5 月から 12 月までの圃場での栽培と比較して,10 月から次の年の 7 月までの温室栽培で低かった.冬季から次の年の春季に比較的高い赤色花弁の発生頻度を示した個体を見出し,“R 系統”とし,栄養繁殖後の赤色花弁の発生頻度を調査すると,“R 系統”における赤色花弁を高頻度で生じるという性質は栄養繁殖個体でも維持された.花弁色と葉におけるフラボノイド蓄積の関係を調査すると,赤色花弁を生じる植物体では葉にフラボノイドを蓄積したが,複色花弁のみを生じる植物体では葉にフラボノイドを蓄積しない傾向にあった.したがって,‘結納’の花弁色とシュートにおけるフラボノイド合成能には関連があり,‘結納’の単色花の発生は単なる個々の花弁色の変化だけではなく,植物体全体の変化であると考えられた.
著者
細川 宗孝
出版者
京都大学農学部附属農場
巻号頁・発行日
no.23, pp.7-12, 2014 (Released:2015-06-24)
著者
小枝 壮太 佐藤 恒亮 富 研一 田中 義行 滝澤 理仁 細川 宗孝 土井 元章 中崎 鉄也 北島 宣
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.244-251, 2014
被引用文献数
17

カリブ海在来のトウガラシ'No.80'は果実の持つ非辛味性および強い芳香性の観点から,果菜類としての非辛味芳香性トウガラシ品種の育種において有望な素材である.本研究では'No.80'の非辛味性,揮発性香り成分および品種の来歴を,同様に非辛味性であるが芳香性の弱いブラジル在来の'No.2'との比較のもと解析した.両品種において <i>acyltransferase</i>(<i>Pun1</i>)の発現およびタンパク質の推定アミノ酸配列は辛味品種'Habanero'と比較して異常が認められなかった.一方,'No.80'および'No.2'の <i>putative aminotransferase</i>(<i>p-AMT</i>)コード領域には,それぞれフレームシフト変異を引き起こす 7 塩基および 8 塩基の挿入が認められた.'Habanero'と'No.80'あるいは'No.2'との交雑後代 F<sub>1</sub> および F<sub>2</sub> における非辛味性と塩基配列の挿入が連鎖したことから,両品種の非辛味性は独立して生じた <i>p-AMT</i> の変異に起因すると考えられた.さらに,両品種の分子系統解析を行ったところ,ブラジル在来の'No.2'と遺伝的に非常に近縁な関係にある'No.80'は,南米大陸に起源を持ち,カリブ海に持ち込まれたことが示唆された.芳香性の強い'No.80',芳香性の弱い'No.2'およびその交雑後代 F<sub>1</sub> の果実における揮発性香り成分を同定・定量した.'No.80'は芳香性に寄与する成分を'No.2'と比較して多量に発散していた.さらに,交雑後代 F<sub>1</sub> は揮発性香り成分の多くを中間あるいは両親以上に発散していた.以上の結果を踏まえて,本研究では多様な非辛味芳香性トウガラシ品種の育種に向けた今後の可能性について考察した.
著者
尾森 仁美 細川 宗孝 芝 勇人 漆川 直希 村井 耕二 矢澤 進
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.350-355, 2009
被引用文献数
21

キク(<i>Dendranthema grandiflorum</i>)に感染するウイロイドとしてキクわい化ウイロイド(CSVd)が知られている.CSVd がキクに感染するとわい化などの症状がみられ,切花栽培において大きな問題となる.しかし,これまでに CSVd に強度の抵抗性を持つキクに関する報告はない.本研究では CSVd 濃度を定量し,キク 6 品種から CSVd の濃度上昇が緩慢な品種として'うたげ'を選抜した.次に,'うたげ'を自殖し,得られた後代 67 個体より RT-PCR 法,nested-PCR 法,micro-tissue(MT)direct RT-PCR 法および real-time RT-PCR 法を用いて CSVd 抵抗性を持つ植物体の探索を行った.67 個体のうち,RT-PCR 法で明確なバンドがみられない 9 個体を一次選抜した.この 9 個体のうち,接ぎ木後 5 か月目においても CSVd 濃度が'うたげ'の約 1/240,1/41000,1/125000 倍である 3 個体(C7,A30 および A27)を強い抵抗性を持つ植物体として選抜した.C7 では MT direct RT-PCR 法および <i>in situ</i> ハイブリダイゼーションにより最も若い完全展開葉において CSVd の局在がみられた.A27 および A30 では,植物体全体で CSVd はほとんど検出されなかった.これら 3 個体は CSVd 抵抗性機構の解明に寄与するものと考えられた.<br>
著者
伊藤 弘顕 西川 久仁子 粟野 達也 細川 宗孝 矢澤 進
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.19-23, 2010 (Released:2010-01-26)
参考文献数
24

乾膜質な花葉をもつ7種の植物種を用いて,細胞壁の形態を電子顕微鏡および偏光顕微鏡を用いて観察した.通常,花葉は一次細胞壁だけの柔細胞で構成される.しかし,少なくとも7種の植物種における乾膜質な花葉では,共通して組織すべての細胞がセルロース配向のある二次細胞壁を発達させていることが明らかとなった.また,二次細胞壁の肥厚形態は植物種によって様々であった.すなわちヘリクリサムなどキク科の植物は管状要素あるいは転送細胞のように網目状あるいは縞状に,センニチコウなどヒユ科の植物は繊維のように層状に,イソマツ科の植物であるスターチスは種皮の厚壁異型細胞のようにひだ状に,細胞壁を発達させていた.
著者
矢澤 進 細川 宗孝
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

セーシェル諸島で見いだしたトウガラシ(Capsicum chinense)‘Sy-2'は、トウガラシの生育適温である25℃付近に劇的な生育反応の変曲点があることを認めた。すなわち、24℃以下では縮葉を展開し、著しい生育遅延が認められるが、26℃以上では縮葉は全く認められなかった。また、縮葉のみならず花粉稔性、種子発達にも温度反応が認められることを明らかにした。本年度は縮葉反応に焦点を絞り、温度反応の形態学的・分子生物学的な研究を行った。縮葉は葉の表皮細胞や柵状細胞の形態異常が主な原因であることを明らかにし、また、縮葉ではクロロプラストが小さくトルイジンブルーによる染色性が低いことを認めた。また、24℃以下で育成した‘Sy-2'植物体の茎頂分裂組織には形態的な異常は認められなかったことから、分化した葉原基が温度反応をするものと推定された。そこで、‘Sy-2'植物体の茎頂部より抽出した全タンパク質を二次元電気泳動で分離したところ、28℃で育成した植物体にのみ強く発現するスポットを見いだした。このスポットを解析したところ、クロロフィルの形成と強く関係があるタバコのPsaHタンパク質と一致した。さらに、植物体の茎頂部より抽出・精製したRNAを鋳型としたディファレンシャルディスプレイ法を行ったところ、それぞれの温度で栽培した植物体に特異的な数本のバンドを認め、現在解析を進めている。本研究から、PsaHタンパクの発現量の低下が縮葉反応に関与していることが示唆された。今回の研究から、‘Sy-2'の生育適温でのわずかな温度差による劇的な生育変化のメカニズムが分子レベルで明らかになりつつあり、今後、園芸作物の温度管理に向けた新しい知見が得られるものと考える。
著者
土井 元章 林 孝洋 細川 宗孝 水田 洋一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

花卉の香り育種に有用な知見を得るため,バラを用いて以下の実験を行った.芳香性品種の花弁からは,モノテルペノイド,セスキテルペノイド,芳香族アルコール,酢酸エステル,ジメトキシトルエンが検出された.また,これらのバラ切り花の香りには鎮静効果と精神的疲労低減効果が認められた.モノテルペノイド合成酵素遺伝子として2遺伝子がクローニングされた.このうちRhMTS2は被子植物の非環式モノテルペノイド合成酵素遺伝子群に分類され,芳香性品種のかたい蕾で高発現していた.ゲラニル二リン酸合成酵素としては,RhGPPS-LSU1,RhGPPS1が単離でき,前者は芳香性品種すべてと非芳香性の1品種で高発現していた.