著者
土井 元章 斉藤 珠美 長井 伸夫 今西 英雄
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.854-860, 1999-07-15
被引用文献数
2 3

1. 小花の30%が開花した段階で採花したシュッコンカスミソウ'ブリストル・フェアリー'の切り花を水にいけ20&acd;29℃下に保持したところ, 20℃下では小花は形を保ったま老化してドライフラワー状となり, 黒花とはならなかったが, 23℃以上の温度下では急激に花弁がしおれて萎縮し, 黒花となった.2. つぼみ段階で採花した切り花に対し0.2mM STSと4%ショ糖を含む前処理液で3時間の水あげを行っただけでは, 25℃下における黒花の発生を完全に回避することはできなかった.前処理に引き続いて0.26mM 8-hydroxyquinoline sulfate (8-HQS)と4%ショ糖を含む開花用溶液にいけて糖を与え続けることにより, 小花の開花が促されるとともに, 25℃下でも黒花発生をほぼ抑えることができた.収穫から30%開花までの日数は, 20℃で5日, 25℃で3日程度を要した.また, 開花を促す際に20℃として光強度を15.0W・m^<-2>にまで高めることにより, 切り花品質が向上し, その後水にいけた場合の品質保持期間が延長された.3. 切り花の呼吸速度は温度に対して指数関数的に増加し, 20℃での呼吸速度は約210 μmol CO_2・hr^<-1>・100 gfw^<-1>で, Q_<10>=1.5となった.4. 25℃下で水にいけた切り花の小花では, 20℃下でいけたものに比べて, 2日目および4日目のブドウ糖, 果糖含量が1/2&acd;1/3, ショ糖含量が1/4程度にまで減少していた.また, 25℃下で開花用溶液にいけた切り花では, これら3種類の糖含量が高く推移し, このことが黒花の発生を抑制しているものと考えられた.5. つぼみ切りした切り花は, 出荷段階にまで開花を促した後の品質保持期間を低下させることなく, STS処理後ショ糖溶液による湿式で4週間程度の貯蔵が可能であった.
著者
今西 弘子 生尾 昌子 稲本 勝彦 土井 元章 今西 英雄
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-74, 2002 (Released:2007-11-30)
参考文献数
10
被引用文献数
5 9

オフィスにおけるインテリアグリーンがそこに働く人々に与える心理的効果を中心に,インテリアグリーンの効果的な使用法を探る目的で,アンケート調査が行われた.その結果,オフィス内にかなりの量の観葉植物があることが望まれ,それが仕事の上にもよい影響を及ぼすと感じられていること,観葉植物としてアートプランツの使用も容認されること,観葉植物に比べ花はより好感をもって受け入れられることが明らかになった.
著者
間合 絵里 滝澤 理仁 池田 知司 中﨑 鉄也 土井 元章 北島 宣
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.19-26, 2023 (Released:2023-03-31)
参考文献数
13

本研究では,光透過性を有する有機薄膜型太陽電池(OPV)の設置がトマトの生育と果実生産に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,OPVを設置した温室(OPV温室)と設置していない温室(対照温室)でトマトの果実の収量と品質,植物体の生育量および光合成関連形質を調査した.調査は秋冬栽培と春夏栽培で実施し,秋冬栽培では86台,春夏栽培では106台のOPVパネルをそれぞれOPV温室内側に設置した.秋冬栽培と春夏栽培の両方でOPV温室内の日射量は対照温室に比べ減少した.両栽培において収量では対照温室とOPV温室の間に有意な差は認められなかったものの,OPV温室の果実乾物重は日射量の少ない秋冬栽培で対照温室に比べ23%減少した.また,秋冬栽培と春夏栽培で両温室の植物体の生育量と光合成関連形質を調査した結果,光合成関連形質は両栽培においてOPV温室でほぼ同様に低下したのに対し,植物体の生育量は果実乾物重と同様に秋冬栽培で大きく減少した.これらの結果より,OPVパネルの設置が果実乾物重と植物体に及ぼす影響は特に日射量の少ない時期で大きくなることが明らかとなった.また,本研究に用いたOPVパネルの性能では,OPVパネルの設置は収入を減少させ,特に秋冬栽培で大きな減収となった.これらの結果から,OPVパネルを用いたトマト栽培のソーラーシェアリングでは,日射量の少ない時期はパネルをはずし,日射量の多い時期にパネルを設置することが有効であると考えられた.
著者
松原 健一/稲本 勝彦/土井 元章/今西 英雄
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告 (ISSN:13461575)
巻号頁・発行日
no.55, pp.37-41, 2003-03-31

我が国の気候条件下において造園材料として利用することを想定し, 10種類の球根植物について耐寒性の評価を行った。球根を1999年10月上旬にポットに定植し, 同年12月6日から2000年3月10日まで, 人口気象室内で大阪府堺市におけるなりゆきの気温(±0℃区), ならびにそれより5℃高温(+5℃区)あるいは低温(-5℃区)で推移する気象をシミュレートした温度下に置いた。なお, -5℃区の植物は2000年1月12日に和歌山県伊都郡高野町富貴(標高約500m)へ移動させた。 リアトリスは低温による生育開花への有意な影響がみられなかった。アガパンサス, バビアナ, カンナ, フリージア, オキザリスは-5℃区で全個体が枯死した。低温下での葉数や葉長の減少(アガパンサス, ラッキョウ, バビアナ, フリージア, ムスカリ, ニホンスイセン), 不開花(ニホンスイセン)や開花の遅延(フリージア, ムスカリ, ニホンスイセン)が認められた。得られた結果から, 球根植物の耐寒性と原産地の気候との関係, ランドスケーピング材料としての利用適性について考察した。
著者
土井 元章 小田 尚 小笠原 宣好 浅平 端
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.963-970, 1992
被引用文献数
2 3

順化準備段階(培養最終段階)にあるカラジウム(C3植物),サトウキビ(C4植物),ファレノプシス(CAM植物)を2%のショ糖を含む培地を用いて,全日長,16時間日長,8時間日長下で培養した.半数の培養器に対して,0.8±0.4%のCO2を含む空気を連続通気することでCO2施用を行った.残り半数の培養器では,気相をなりゆきとした。<BR>CO2施用を行わず気相をなりゆきとした場合,CO2施用を行った場合とも,日長が長いほど培養植物の生長は促進された.培養植物にCO2を供給することにより,全日長下で培養したカラジウムを除き,いずれの日長下でも乾物生産が増加した.このCO2による生育促進効果は,主として根に顕著に認められた。<BR>カラジウムとファレノプシスにおけるCO2施用下の培養では,葉身のクロロフィル含量が減少する傾向にあった.しかし,CO2飽和レベルで測定した明期中央におけるCO2の取り込み速度は,CO2無施用の場合に比べて,CO2施用区で大きくなった。<BR>培養器中のO2濃度もまた,培養植物の生長に影響を及ぼした。CO2施用下でO2濃度を37%に高めると,カラジウムおよびデンドロビウム•ファレノプシス(CAM植物)の生長が促進された。<BR>糖を含まない培地でCO2施用を行い培養して得たカラジウムのプラグ苗は,培養時に光独立栄養状態への移行が促されたことにより,慣行の培養方法で得られた苗に比べて,培養終了直後の順化期間中の生育がすぐれていた。<BR>謝 辞 本稿をとりまとめるにあたり,御校閲を賜った大阪府立大学今西英雄教授に謝意を表する。
著者
今西 弘子 生尾 昌子 稲本 勝彦 土井 元章 今西 英雄
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-74, 2002-04-01
参考文献数
10
被引用文献数
12 9

オフィスにおけるインテリアグリーンがそこに働く人々に与える心理的効果を中心に,インテリアグリーンの効果的な使用法を探る目的で,アンケート調査が行われた.その結果,オフィス内にかなりの量の観葉植物があることが望まれ,それが仕事の上にもよい影響を及ぼすと感じられていること,観葉植物としてアートプランツの使用も容認されること,観葉植物に比べ花はより好感をもって受け入れられることが明らかになった.<br>
著者
出口 亜由美 立澤 文見 細川 宗孝 土井 元章 大野 翔
出版者
The Japanese Society for Horticultural Science
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.340-350, 2016 (Released:2016-10-27)
参考文献数
36
被引用文献数
1 14

ダリア(Dahlia variabilis)の黒色花はシアニジン(Cy)系アントシアニンの高蓄積に起因するものであることが先行研究により示唆されていた.そのため,ダリア花弁に蓄積する Cy 系アントシアニンはペラルゴニジン(Pg)系アントシアニンよりも花弁の明度 L* および彩度 C* を下げるはたらきが強く,花弁黒色化への寄与度が高いことが予想されたが,これまでにそれを示した報告はない.本研究では,ダリア花弁に蓄積する 4 種類の主要なアントシアニン,Pg 3,5-ジグルコシド(Pg 3,5diG),Cy 3,5-ジグルコシド(Cy 3,5diG)Pg 3-(6''-マロニルグルコシド)-5-グルコシド(Pg 3MG5G)および Cy 3-(6''-マロニルグルコシド)-5-グルコシド(Cy 3MG5G)を抽出精製し,異なる pH(3.0,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0 あるいは 7.0)あるいは異なる濃度(0.25,0.5,1.0,2.0 あるいは 3.0 mg·mL−1)における溶液の色(CIE L*a*b*C*)を in vitro で評価した.各アントシアニンの色は溶液の pH により変化した.ダリア花弁の pH に近い pH 5.0 およびアントシアニンが比較的安定な構造を保つ pH である pH 3.0 のいずれにおいても,Cy 3,5diG の L* および C* は Pg 3,5diG と同様あるいは高かったことから,Cy 3,5diG は Pg 3,5diG よりも花弁黒色化への寄与度が高いわけではないと考えられた.一方で,Cy 3MG5G の L* および C* は Pg 3MG5G よりも,特に 2.0 mg·mL−1 以上の高濃度において有意に低く,花弁黒色化への寄与度が高いことが示唆された.同様の傾向が Pg 系アントシアニンと Cy 系アントシアニンを様々な割合で混合した色素の測色でもみられた.Pg 3MG5G の L* および C* は他の 3 種のアントシアニンよりも極めて高かったことから,Pg 3MG5G は 4 種のアントシアニンのなかで最も黒色から遠い色を示すことが考えられた.ダリア花弁に蓄積する Pg 系アントシアニンと Cy 系アントシアニンの量比は品種によって様々であったのに対し,いずれの品種においても 3MG5G 型アントシアニンの蓄積量は 3,5diG 型アントシアニンよりも多かった.これらの結果から,ダリア花弁においては 3MG5G 型アントシアニンが主要に蓄積しており,かつ,Cy 3MG5G が Pg 3MG5G よりも花弁 L* および C* を下げるはたらきが強く花弁黒色化への寄与度が高いために,Cy 系アントシアニンの高蓄積が花弁の黒色化に重要であると示唆された.個々のアントシアニンの花弁黒色化への寄与度は各アントシアニンの構造により決まると考えられたため,L* および C* が最も低いアントシアニンを特定し,それを高濃度で花弁に蓄積させることで,様々な花卉品目において黒花品種を作成することが可能になると考えられた.
著者
大野 翔 保里 和香子 細川 宗孝 立澤 文見 土井 元章
出版者
The Japanese Society for Horticultural Science
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.177-186, 2016 (Released:2016-04-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1 10

複色花ダリア(Dahlia variabilis)は,着色した基部と白色の先端部となる花弁をもつ品種群であるが,しばしば一つの花序において花弁全体が着色した単色花弁を生じる.この花色の不安定性は切り花や鉢もの生産において問題となり,しばしば商業的な価値を損なう原因となる.本研究では,花色の不安定性機構の解明と制御に向けて,赤白複色花‘結納’における赤色花弁の発生様相を調査した.‘結納’は複色花弁のみの複色花序,赤色花弁のみの赤色花序,そして赤色花弁と複色花弁とが混在した混合花序を着生した.混合花序において赤色花弁は,花序において複色花弁よりも外側あるいはセクター状に生じ,キメラ個体や枝変わりのような発生様相を示した.赤色花弁の発生頻度は,5 月から 12 月までの圃場での栽培と比較して,10 月から次の年の 7 月までの温室栽培で低かった.冬季から次の年の春季に比較的高い赤色花弁の発生頻度を示した個体を見出し,“R 系統”とし,栄養繁殖後の赤色花弁の発生頻度を調査すると,“R 系統”における赤色花弁を高頻度で生じるという性質は栄養繁殖個体でも維持された.花弁色と葉におけるフラボノイド蓄積の関係を調査すると,赤色花弁を生じる植物体では葉にフラボノイドを蓄積したが,複色花弁のみを生じる植物体では葉にフラボノイドを蓄積しない傾向にあった.したがって,‘結納’の花弁色とシュートにおけるフラボノイド合成能には関連があり,‘結納’の単色花の発生は単なる個々の花弁色の変化だけではなく,植物体全体の変化であると考えられた.
著者
土井 元章 陳 忠英 斉藤 香里 住友 恵美 稲本 勝彦 今西 英雄
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.160-167, 1999-01-15
参考文献数
15
被引用文献数
4 1

アルストロメリアの地中冷却栽培における秋季収量および切り花品質の向上を図ることを目的として, 温度処理および地温制御法について検討した.1. 冬季最低10℃で育苗して自然の低温に引き続いて地中冷却(夜間14℃に設定)を施す場合, 'レジナ'では5月21日, 'カルメン'('カナ')では6月20日までに冷却ベッドに植え付けると, 開花シュートの発生が継続した.この地中冷却ベッドへの植付け限界は, それぞれの品種の開花に有効な低温('レジナ'15℃以下, 'カルメン'17℃以下)が出現しなくなる時期とほぼ一致した.ただし, この方法では秋季に切り花は得られたものの, 初秋の収量および切り花品質が劣っていた.2. 'レジナ'に2℃10週間の低温を処理し6月10日に14℃を目標に冷却したベッドに植付けると, 秋季に採花することができた.この際, 最低20℃で育苗してきた苗を用いると, 最低10℃で育苗してきた苗を用いた場合に比べて, 植付け後栄養シュートの発生が多く, 初秋の収量が増加して切り花品質が向上した.3. 'カルメン'に対して, 冷却液の循環時間を夜間に制限して17℃以下の経過時間が1日6時間となるように地温制御を行うと, 連続冷却した場合に比べて, 栄養シュートの発生が促され, 秋季の切り花品質が向上した.4. 'カルメン'の据え置き株に対して, 6月12日からの地中冷却に先立つ8&acd;20週間を地温20℃に設定して地中加温を施したところ, 夏季から秋季にかけて栄養シュートの発生が促され, 初秋の収量が増加するとともに切り花品質が改善された.
著者
土井 元章 武田 恭明 浅平 端
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.621-626, 1990 (Released:2007-07-05)
参考文献数
8
被引用文献数
3 1

シュッコンカスミソウ‘ブリストル•フェアリー’の露地栽培における花芽の形成過程を走査型電子顕微鏡を用いて観察した.低温遭遇量の多い苗では, 花芽の形成は茎長が18cmに達した4月15日から20日にかけて始まり, その後がく片, 花弁が形成され4月30日前後に頂花において雄ずいが形成された. 5月5日から10日にかけて, 外見的には出ちい期を迎え, 頂花において雌ずいの形成が観察された. その後, 雌ずいが伸長し, 雄ずいの花弁化, ならびに花弁, 雄ずいの伸長へと進み, がく片が展開して5月30日には開花に至った.一方, 低温遭遇量の少ない苗では, 花芽の形成開始が遅くなり, また下位節では花芽形成が起こらなかったが, 花芽形成開始後の頂花における花器原基の形成や発育は低温遭遇量の多い苗の場合と同様に進行した.
著者
土井 元章 森田 隆史 武田 恭明 浅平 端
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.795-801, 1991
被引用文献数
1 2

シュッコンカスミソウの生育開花に関する低温要求性の異なる品種, 系統を用い, 冬期の低温に遭遇した後の株において, シュートの種々の生育段階における高温遭遇がロゼットの形成および奇形花の発生に及ぼす影響について検討した.<br>その結果, シュートが栄養生長段階である3月31日から4月10日に昼温30°C (6:00~18:00) 夜温25°Cの高温処理を施すと, 低温要求性の大きい'パーフェクタ', 'ブリストル•フェアリー'20系統では, その後生育, 開花に好適な条件下で栽培してもすべてのシュートがロゼットを形成した. これらの品種, 系統についで低温要求性の大きい'ダイヤモンド', 'ブリストル•フェアリー'03系統においても高温遭遇後は半数のシュートがロゼットを形成した. 一方, 低温要求性の小さい'フラミンゴ', 'レッド•シー', 'ブリストル•フェアリー'08系統では, ロゼットを形成することなく, 開花に至った.<br>花芽形成開始直後に処理した高温は, 開花時の花茎を短くし, 主茎上の下位節での花芽形成を抑制した以外, 形態的な変化をもたらさなかった.<br>頂花における雄ずい形成期である4月30日前後に高温を処理すると, 奇形花が発生した. 奇形花の形態的な観察を行ったところ, 奇形花は, 各小花が雄ずい形成期ごろに高温に遭遇することにより, その後雄ずい原基の細胞分裂活性が長期にわたり維持されるようになり, 雄ずいの花弁化が異常に進み, 花弁数が増加するとともに分裂部を中心に花弁塊が形成される結果, 発生するものと考えられた. また, 高温による奇形花の発生は, 低温要求性の大きい品種, 系統ほど著しい傾向にあった.<br>以上の結果より, 低温遭遇後に高温に遭遇すると, 高温が低温の効果を打ち消し, 生理的にロゼット化を誘導する結果, 分裂組織における生育がより栄養生長的となり, 形態的にロゼットや奇形花を形成するようになることが考察された.
著者
松原 健一/稲本 勝彦/土井 元章/森 源治郎/今西 英雄
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告 (ISSN:13461575)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.33-40, 2002-03-31
被引用文献数
1

景観形成のための利用を想定して, 秋植え球根37種類, 春植え球根16種類について, ケヤキZelkova serrata Mak.を主体とする落葉樹林下における植栽適性を調査・評価した。夏季の樹林下区の樹冠開空率は15%程度, 冬季は80%程度となった。夏季の樹林下での光合成有効光量子束は無遮蔽区の5%程度となり, 日平均地温は無遮蔽区と比較して3〜5℃低かった。1年間の据置栽培後, 供試した1/4近くの種類の植物が無遮蔽区, 樹林下区の両条件下で生存していなかった。生存していた種類の多くで, 2年目の出芽率は, 秋植え, 春植え球根とも無遮蔽区と樹林下区でほぼ同様に高かったが, アリウム, クロッカス, フリージアなどいくつかの種類では無遮蔽区で低く樹林下区で高くなった。秋植え球根類の開花率は無遮蔽区で高く樹林下区で低くなったものが多く, 両区とも同様に高かったものも相当数認められた。また, 一部の種類では樹林下区における開花が無遮蔽区と比べて遅れた。春植え球根類の多くは樹林下区の据置き栽培で生存はしていたものの, 旺盛な生育はみられず, 開花率が低かった。これらの結果より, 秋植え球根のうち, ロドフィアラ, リコリス, ニホンスイセンなど, 出葉時期が樹冠に葉がない時期と重なる冬季出葉型の10種類の球根植物が落葉樹林下への植栽に適するものと考えられた。
著者
小枝 壮太 佐藤 恒亮 富 研一 田中 義行 滝澤 理仁 細川 宗孝 土井 元章 中崎 鉄也 北島 宣
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.244-251, 2014
被引用文献数
19

カリブ海在来のトウガラシ'No.80'は果実の持つ非辛味性および強い芳香性の観点から,果菜類としての非辛味芳香性トウガラシ品種の育種において有望な素材である.本研究では'No.80'の非辛味性,揮発性香り成分および品種の来歴を,同様に非辛味性であるが芳香性の弱いブラジル在来の'No.2'との比較のもと解析した.両品種において <i>acyltransferase</i>(<i>Pun1</i>)の発現およびタンパク質の推定アミノ酸配列は辛味品種'Habanero'と比較して異常が認められなかった.一方,'No.80'および'No.2'の <i>putative aminotransferase</i>(<i>p-AMT</i>)コード領域には,それぞれフレームシフト変異を引き起こす 7 塩基および 8 塩基の挿入が認められた.'Habanero'と'No.80'あるいは'No.2'との交雑後代 F<sub>1</sub> および F<sub>2</sub> における非辛味性と塩基配列の挿入が連鎖したことから,両品種の非辛味性は独立して生じた <i>p-AMT</i> の変異に起因すると考えられた.さらに,両品種の分子系統解析を行ったところ,ブラジル在来の'No.2'と遺伝的に非常に近縁な関係にある'No.80'は,南米大陸に起源を持ち,カリブ海に持ち込まれたことが示唆された.芳香性の強い'No.80',芳香性の弱い'No.2'およびその交雑後代 F<sub>1</sub> の果実における揮発性香り成分を同定・定量した.'No.80'は芳香性に寄与する成分を'No.2'と比較して多量に発散していた.さらに,交雑後代 F<sub>1</sub> は揮発性香り成分の多くを中間あるいは両親以上に発散していた.以上の結果を踏まえて,本研究では多様な非辛味芳香性トウガラシ品種の育種に向けた今後の可能性について考察した.
著者
市川 貴美代 稲本 勝彦 土井 元章 今西 英雄
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.141-146, 2003 (Released:2005-09-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1 1

温度と期間を変えてクロッカス(Crocus medius Balb.),スイセン(Narcissus cyclamineus DC),ムスカリ(Muscari armeniacum Leithl. ex. Bak)の球根を乾燥で貯蔵し,秋に露地に植付けた。クロッカスにおいては,20°Cでの貯蔵が花芽分化と開花を早めることに,30°Cでの貯蔵がこれらを遅らせることに有効であった。また,スイセンとムスカリでは花茎伸長のための低温要求を9°Cでの貯蔵により満たすことで開花を早めることができた。複数の貯蔵方法を組合わせることにより,クロッカスでは11月から2月まで,スイセンとムスカリでは1月から4月まで,それぞれ連続して花を観賞することができた。冬季に開花した花は,季咲きに比べて観賞価値が長く保たれた。
著者
土井 元章 虎太 有里 馬庭 弘和 今西 英雄
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.740-746, 2001-11-15
参考文献数
9
被引用文献数
1 3

フリージア木子の長期貯蔵法が開花時期と切り花品質に及ぼす影響について, 'コート・ダ・ジュール'を用いて検討した.低温貯蔵は, その時期に関わらず, 二階球形成を誘導し, 植え付け後の萌芽率を低下させ, 萌芽後のシュートの生育を抑制した.これに対して, 木子をネット袋に入れて30℃で高温貯蔵すると, 貯蔵期間が長くなるに伴って球の乾燥による枯死(硬化)球の割合が増加するものの, 大木子(平均球重2.6g)を用いれば2月上旬までの貯蔵ではほとんど枯死球は発生せず, 高い萌芽率と旺盛なシュート生育が得られる木子を供給することができた.これらの高温貯蔵球では, 低温貯蔵球に比べて開花が遅れ, かつより長く重い切り花が得られた.これは, 高温貯蔵した木子の植え付け時の茎頂部における分化葉数の増加と茎頂直径の減少による植え付け後の幼若期間の増加によるものと考えられた.中&acd;小木子の高温貯蔵には, 球の乾燥を防止する目的で有孔ポリエチレン袋包装が有効で, 2月上旬まで高い開花能力を有する木子を貯蔵することができた.2月1日に植え付けた木子からは6月上中旬までに十分に市場性のある切り花が生産された.
著者
ニミケットカイ ハタイティップ 上田 悦範 稲本 勝彦 土井 元章
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.148-153, 2006-03-15
被引用文献数
1

シュッコンカスミソウ(Gypsophila paniculata L.)'ブリストル・フェアリー'切り花に数種のアルコールを生け水に添加して与え,エステル化酵素(アルコールアセチルトランスフェラーゼ:AAT)の基質特異性について検討した.エタノール以外のアルコール処理により,それぞれ対応する酢酸エステルが生成されたことから,これらの外生的に与えたアルコールがAATの触媒作用により内生アセチルCoAと反応しうることが示された.イソアミルアルコールの処理によりイソ吉草酸イソアミルの生成が促進され,結果としてシュッコンカスミソウ花序の悪臭原因物質であるメチル酪酸の発散量が低下した.芳香族アルコールであるベンジルアルコールや2-フェニルエチルアルコールにも同様の効果があった.細胞抽出液中のAAT活性は,シス-3-ヘキセン-1-オールおよび1-ヘキサノールに対して最も反応性が高く,一方エタノールに対する反応性が最も低く,invitroにおけるAATの基質特異性がin vivoの基質特異性と同一の傾向にあった.また,細胞抽出液におけるAATの活性は小花がつぼみの段階ですでに高く,開花段階で低くなった.以上の結果から,シュッコンカスミソウ花序において揮発性のエステル発散量を限定している要因は,基質となるアルコールの欠乏であることが示唆された.
著者
今西 英雄 稲本 勝彦 三島 睦夫 小池 安比古 土井 元章
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

系統の異なるユリりん茎を用い、-1.5〜-2.0℃の氷温下で長期貯蔵した場合の貯蔵可能期間を調べるとともに、温度降下処理を行い処理後のりん茎の生存率を調べてりん茎の50%生存可能な品温(LT50値)を求め、系統間の長期氷温貯蔵に対する耐性を評価した。その結果、氷温貯蔵期間が長くなるにつれて、テッポウユリ、オリエンタル系、アジアティック系の品種ではLT50値が高くなり氷温に対する耐性が次第に低くなること、LA系の品種ではほぼ一定で耐性が変わらないことを明らかにし、系統間の氷温貯蔵耐性の差異を確かめた。オリエンタル系とLA系のりん茎を-1.5℃と-2.0℃の異なる温度で異なる期間貯蔵後に栽培したところ、氷温財蔵耐性の低いオリエンタル系の品種では両温度ともに、4か月の貯蔵では正常に生育するが、7か月以上貯蔵すると採花時の花や葉に障害が発生し切花品質が低下するため、生存はしているものの使用できなくなるが、耐性の高いLA系では11か月貯蔵しても正常に生育することを確認した。低温による氷温下での貯蔵耐性の付与については、1℃4〜8週間の予冷により、りん片および茎の糖濃度が直まり、氷温で長期貯蔵後の栽培においても切花品質が高いこと、12℃8週間に続いて1℃8週間の予冷を組み合わせると、さらに切花品質が高まること、一方1℃の予冷期間が12週以上と長くなると茎が伸長を始め糖度が低下し、貯蔵中に死に至るりん茎が増加することを明らかにした。CA貯蔵の効果については、-1.5℃の氷温帯で、酸素濃度を2〜3%に維持したCA環境で貯蔵してきた場合、アジアティック系でのみ、開花率が高くなり、切花品質が向上するという結果を得たが、オリエンタル系ではかえって開花率、切花品質の低下がみられ、所期の効果を得ることができなかった。
著者
土井 元章 林 孝洋 細川 宗孝 水田 洋一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

花卉の香り育種に有用な知見を得るため,バラを用いて以下の実験を行った.芳香性品種の花弁からは,モノテルペノイド,セスキテルペノイド,芳香族アルコール,酢酸エステル,ジメトキシトルエンが検出された.また,これらのバラ切り花の香りには鎮静効果と精神的疲労低減効果が認められた.モノテルペノイド合成酵素遺伝子として2遺伝子がクローニングされた.このうちRhMTS2は被子植物の非環式モノテルペノイド合成酵素遺伝子群に分類され,芳香性品種のかたい蕾で高発現していた.ゲラニル二リン酸合成酵素としては,RhGPPS-LSU1,RhGPPS1が単離でき,前者は芳香性品種すべてと非芳香性の1品種で高発現していた.