著者
森 悦朗
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.64-69, 2019-06-25 (Released:2019-07-04)
参考文献数
16

大脳損傷患者を対象とする神経心理学には2つの大きな役割がある.一つはヒトの大脳の仕組みを理解しようとする神経科学の手法としての役割であり,もう一つは大脳損傷患者の症候を評価して,診断や治療に供するための症候学としての臨床医学的な役割である.神経心理学の2つの役割に関して現代的解釈と方向性を考察する.
著者
森 悦朗
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.32-38, 2020 (Released:2020-07-21)
参考文献数
36

Dementia with Lewy bodies (DLB) causes various symptoms such as psychiatric symptoms, parkinsonism, and failures of autonomic nervous system in addition to cognitive impairment, all of which are clinical and care problems. This review provides evidence–based commentary on treatment of DLB. Donepezil has been the central means since its approval in 2014 for the treatment of cognitive impairment of DLB, and evidence of it is accumulating and gives clues of the usage of it. Although there is insufficient evidence on the efficacy of donepezil for BPSD, it is still the first choice before antipsychotics. On the other hand, motor disorders due to parkinsonism are also important therapeutic targets. Levodopa is the mainstay of treatment. Recently, multicenter, placebo–controlled, randomizeouble–blind, controlled trials have shown the efficacy of adding zonisamide over levodopa treatment for parkinsonism in DLB. Unfortunately, there is no high level of evidence of treatment for a variety of other conditions, and individual patients will be treated with knowledge of other diseases.
著者
森 悦朗
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.9, pp.1820-1825, 2016-09-10 (Released:2017-09-10)
参考文献数
15
著者
赤沼 恭子 目黒 謙一 橋本 竜作 石井 洋 森 悦朗
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.360-367, 2004 (Released:2006-03-24)
参考文献数
13
被引用文献数
4 3

地域在住高齢者 160名を対象に, MMSE自由書字を, 文字数, 漢字・仮名における文字形態の誤り, 文字運用に焦点をあて CDR別に分析した。CDR 0 は健常, CDR 0.5は最軽度アルツハイマー病, CDR 1+はアルツハイマー病である。その結果, 文字数は CDRが重症化するにしたがい減少傾向を示し, 文字形態は健常においても 30%に漢字もしくは仮名の誤りを生じていたが, CDR 0.5群もしくは 1+群において仮名を誤る対象者が多かった。文字運用は, 名詞においては CDR 0群と 0.5群では誤りに差はないものの CDR 1+群で誤りが多く, 送り仮名では CDR 0.5群で誤りが多くみられた。文字運用に注目した場合, 漢字と仮名で構成された送り仮名 (綴り) の誤りは最軽度アルツハイマー病という病的過程を反映している可能性が示唆された。
著者
森 悦朗 山鳥 重
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.655-660, 1985-06-15

I.はじめに 物に触れるか,物を見ることで本人の意志とは無関係にそれを使用してしまうという奇妙な行動異常が1981年以降に相次いで報告された9,12,15,17,24)。我々は1981年第22回日本神経学会総会(熊本)においてそのような行動異常を示す例を報告し,「道具の強迫的使用」(compulsive mani—pulation of tools)と名付けた14,15)。患者は左前大脳動脈閉塞によって左前頭葉内側面と脳梁膝部に損傷を有し,右手の強い病的把握とともに,例えば患者の前にくしを置いた場合,患者の右手は意志に逆ってこれを取り上げ髪をといてしまう。道具の強迫的使用は右手のみに生じ,左手は患者の意志を表わして右手に持った道具をとりさろうとする。 また1981年Goldbergら9)はこれと全く同じであると思われる症例を報告し,右手に出現したalien hand sign (Bogen)4)であると解釈している。本邦では能登谷ら17),内山ら24)が各々1例ずつの報告を行っている。 これとは別に我々の報告した道具の強迫的使用と類似しているが,若干異なった行動異常も報告されている。Lapraneら12)は両側前頭葉内側面に損傷を持つ患者が,両手で強迫的に物を使用してしまう現象を記載しているし,Lehrmitte13)は前頭葉損傷を有する患者が,物を前に置かれると強迫的にではなく両手でそれを使用する現象を取り上げ,utilization behaviourと名付けている。 ここで我々は以前に報告した道具の強迫的使用を示す症例を再び示し,この現象に対する我々の考え方を述べ,類縁の現象についても整理を試みた。
著者
森 悦朗 山鳥 重 須山 徹 大洞 慶郎 大平 多賀子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.450-458, 1983
被引用文献数
1 2

Two cases with the mildest form of Broca's aphasia were studied neuropshychologically and neurologically. In case 1, a 58-year-old right-handed man had dysarthria, literal paraphasia, and literal paragraphia because of development of glioma. Comprehension was excellent. There were the right central and hypoglossal paresis and abolition of gag reflex. The site of lesion confirmed by computerized tomography and operation was in the lower part of the left precentral gyrus. A month after the resection of the tumor, only paragraphia improved. In case 2, a 58-year-old right-handed man developed the essentially same neurological and linguistic symptoms as those of case 1. Computerized tomography demonstrated a small hematoma probably restricted in the left inferior precentral gyrus. Three months later, the symptoms subsided except for slight dysarthria and dysgraphia. On the basis of literature and our two cases, it may be concluded that the left inferior precentral gyrus plays an important role not only in articulation but also in writing, and that this area is a more critical zone for Broca's aphasia than the foot of the left third frontal gyrus.
著者
森 悦朗 山田 晋也
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1190-1192, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3

特発性正常圧水頭症の中核をなす,disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus(DESH)の形態的変化は,くも膜顆粒からCSFが吸収されるという古典的な学説と,それに基づいた高位円蓋部くも膜下腔の癒着による流れの障壁があるという仮説では説明できない.MRI Time-SLIP法をもちいたCSFの動きの観察から,健常者でもDESH患者でも高位円蓋部にはCSFの動きはないことを示し,DESHを説明可能なCSF吸収の仮説を提唱した.
著者
森 悦朗
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

幻視はレビー小体型認知症(DLB),パーキンソン病(PD)においてよく認められる症候であるが,種々の幻視の中で顔の幻視が高頻度に生じる.顔の錯視は「心霊写真」のように時に健常者でもみられる現象だが,DLBでは高頻度に生じ,PDでもよく見られ,顔の幻視との関係が推測できる.顔の誤認はCapgras妄想が代表的で,DLBやADで時に見られる症候である.日常生活場面における幻視,錯視を臨床場面で再現する目的で錯視誘発課題(パレイドリア課題)を作成し,DLB,アルツハイマー病,健常高齢者を対象に12個の刺激を用いて,誘発された錯視の総数,および錯視を誘発した刺激数を指標として顔の錯視の出現と,その神経心理学的背景を検討した.健常高齢者では全く錯視は誘発されなかったが,12個の刺激に対して誘発錯視数および錯視誘発刺激率(平均±SD)は,DLB(9.4±3.7個,54.4±18.5%),PD(3.1±2.6個,18.7±15.2%), AD(1.1±1.0個,14.4±9.2%)であった.いずれの疾患 でも錯視内容は,動物 ,人物,物体の順であり(図2),動物,人物の錯視では約半数が「動物の顔」,「人物の顔」と顔に特定されていた.本課題における錯視の内容,およびDLBで錯視が誘発されやすい点から日常生活場面での錯視,幻視の類似性が示唆される.次いでPDにおける錯視の出現についても検討し,DLBほどではないが,ADと比較すると高頻度に出現することを確かめ,その神経基盤をFDG-PETを用いて検討し,視覚連合野のブドウ糖代謝低下と関連していることを見いだし,現在論文を準備している.顔の錯視が高頻度であることから錯視における顔の重要性,あるいは一般的に顔認知の特殊性が示唆され,顔領域以外の視覚連合野の機能低下が関与していることが示唆された.
著者
藤井 俊勝 麦倉 俊司 奥田 次郎 森 悦朗 鈴木 麻希 森 悦朗 鈴木 麻希 麦倉 俊司 奥田 次郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ヒトの記憶については心理学的・神経科学的な研究が数多く行われてきていたが、記憶の間違い-つまり、記憶として想起はできるものの内容が正確ではない場合-のメカニズムについては不明な点が多い。本研究ではヒトの脳活動を間接的に測定することができる脳機能画像法と、脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究によって、ヒトの脳でどのように誤った記憶情報が表象されるのかを検討した。記憶を司る内側側頭葉に対して、記憶を制御する前頭前野が影響を与えていることや、内側側頭葉と感覚情報を処理する感覚皮質の関連が明らかとなった。
著者
北垣 一 和田 昭彦 内田 幸司 森 悦郎 畑 豊 森 悦朗 小田 一成 川口 篤哉
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13年から平成16年の4年間に健常者491名に対してMRIデータを得た.健常者の平均値,標準偏差値は頭蓋内容積1576.56+-166.77(ml),全脳体積1258.55+-143.74(ml),頭蓋内容積比0.80+-0.04,左半球大脳体積534.06+-62.79(ml),右半球大脳体積549.92+-70.93(ml),であった.女性被検者248名の平均値,標準偏差値は頭蓋内容積1500.71+-141.93(ml),全脳体積1209.73+-132.77(ml),頭蓋内容積比0.806+-0.045,左半球大脳体積514.19+-57.93(ml),右半球大脳体積527.80+-64.97(ml)の結果を得た.男性被検者243の平均値,標準偏差値は頭蓋内容積1653.97+-154-40(ml),全脳体積1308.37+-137.51(ml),頭蓋内容積比0.791+-0.041,左半球大脳体積554.34+-61.17(ml),右半球大脳体積572.50+-69.75(ml)の結果を得た.頭蓋内容積,全脳体積,左半球大脳体積,右半球大脳体積は男性が有意に大きかったが,頭蓋内容積比は女性が有意に大きかった.そこで男性(243名,平均年齢62.04+-10.54歳)と女性(243名,平均年齢64.57+-9.96歳)に対して脳体積を頭蓋内容積による補正をしたところ女性は男性よりも有意に高齢であったにも関わらず,女性は男性より統計学的に有意に全脳,左大脳半球,右大脳半球とも大きいという結果が得られた.50代以降において女性は男性よりも頭蓋内腔にしめる脳体積が大きいことが解った.研究期問中にデータを得たアルツハイマー病患者21名(男性6,女性15,76.6+-6.42歳)は全脳対頭蓋内容積比0.754+-0.046,右半球大脳体積比0.330+-0.023が同年代の健常者と比べて有意に小さな値をとり脳萎縮の進行を体積として評価できた.
著者
森 悦朗 山鳥 重 須山 徹 大洞 慶郎 大平 多賀子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.450-458, 1983 (Released:2006-08-11)
参考文献数
25
被引用文献数
3 2

Two cases with the mildest form of Broca's aphasia were studied neuropshychologically and neurologically. In case 1, a 58-year-old right-handed man had dysarthria, literal paraphasia, and literal paragraphia because of development of glioma. Comprehension was excellent. There were the right central and hypoglossal paresis and abolition of gag reflex. The site of lesion confirmed by computerized tomography and operation was in the lower part of the left precentral gyrus. A month after the resection of the tumor, only paragraphia improved. In case 2, a 58-year-old right-handed man developed the essentially same neurological and linguistic symptoms as those of case 1. Computerized tomography demonstrated a small hematoma probably restricted in the left inferior precentral gyrus. Three months later, the symptoms subsided except for slight dysarthria and dysgraphia. On the basis of literature and our two cases, it may be concluded that the left inferior precentral gyrus plays an important role not only in articulation but also in writing, and that this area is a more critical zone for Broca's aphasia than the foot of the left third frontal gyrus.