著者
永田 昌子 森 晃爾 永田 智久 金子 鉱明 井上 愛
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.18022, 2019 (Released:2019-02-20)
参考文献数
23

Objectives: In this study, we aimed to categorize the actions of occupational physicians in health committees leading to solutions of occupational health problems.Methods: We conducted two focus group discussions among experienced occupational physicians. The discussions addressed the following question: what had they and others said and done that had led to the development of solutions to occupational health problems. We used a qualitative content analysis approach developed by Berelson, and created a draft of the categories of actions. Subsequently, an online questionnaire survey was then used to evaluate the external validity of the draft. The questionnaire asked physicians whether they had experience of each item in the draft. They were also asked whether they had experienced any other items not included in the draft. If so, they were asked to provide a description of their experience. These descriptions were discussed by three researchers. Any suggested new items considered to fall under any of the original items in the draft were excluded, and any new items proposed by two or more participants were added as additional items. Finally, we corrected words and phrases and reviewed the items to ensure that they clearly conveyed the required meaning, and described actions leading to solutions to occupational health problems.Results: The content analysis revealed six basic actions, and 32 items were categorized in the draft. The six basic actions were “participate”, “gather information”, “make a place that allows communication with key people and health committee members”, “make arrangements”, “speak at a health committee”, and “pay attention”. In total, 67 physicians responded to the questionnaire survey. At least 40% of participants answered that they had experience of the draft items. All items in the draft had also been experienced by groups of occupational physicians other than those involved in the focus groups. Three additional items proposed by two or more participants were added. “Pay attention” was deleted following the final review.Conclusions: We categorized the actions of occupational physicians in health committees into five basic actions, and 32 items. Being aware of types of actions used in groups may encourage occupational physicians to be more involved in workplace health committees and contribute to the promotion of occupational health activities in the workplace.
著者
大河原 眞 梶木 繫之 楠本 朗 藤野 善久 新開 隆弘 森本 英樹 日野 義之 山下 哲史 服部 理裕 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-14, 2018-01-20 (Released:2018-02-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

目的:産業医-主治医間におけるメンタルヘルス不調者の就労状況や診療情報の共有方法とその効果に関する具体的な検証は少ない.本研究では,精神科主治医からの診療情報の提供を充実させるため,産業医から精神科主治医へ向けた診療情報提供依頼書(以下 依頼書)に記載すべき内容の検討と,依頼書の記載内容の違いが主治医の印象に与える影響の検証を行った.対象と方法:依頼書に記載が必要な項目及び連携に際して主治医の抱く懸念を明らかにするため,フォーカスグループディスカッション(FGD)を行った.FGDは9名ずつの異なる精神科医集団を対象として計2回実施した.FGD結果の分析を行い,依頼書に記載が必要な項目を設定した.つづいて異なる2つの事例を想定し,それぞれ記載項目,記載量の異なる3パターンの依頼書の雛型の作成を行ったうえで,雛型を読んだ精神科医が感じる印象について,臨床の精神科医に対する質問紙調査を実施し,得られた回答についてロジスティック回帰分析を行った.結果:FGDの結果から,依頼書に記載が必要な項目について,職場における状況,確認事項の明確化,産業医の立ち位置の表明,主治医が提供した情報の取り扱い等が抽出された.これらの結果と研究班内での検討をもとに,依頼書に記載が必要な項目を設定した.質問紙調査の結果は,設定した記載項目を網羅するにつれ,依頼書に書かれた情報の十分さや情報提供に対する安心感等の項目で,好意的な回答の割合が増えた(p<.01).一方で,読みやすさについては好意的な回答の割合が減った.考察:産業医と精神科医の連携を阻害する要因として,主治医が診療情報を提供することで労働者の不利になる可能性を懸念していること,産業医が求める診療情報が明確でないことなどがあることが示唆された.産業医が依頼書を記載する際に,文章量に留意しながら記載内容を充実させ,産業医の立ち位置や提供された情報の使用方法を含めて記載することで主治医との連携が促進する可能性があることが明らかとなった.
著者
森 晃爾 石丸 知宏 小林 祐一 森 貴大 永田 智久
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.179-198, 2022 (Released:2022-01-13)

感染症、特にヒト-ヒト感染を伴う感染症では、ワクチンによる集団免疫の獲得が、感染症制御のために極めて有効な手段である。しかし、ワクチンに強い反感を持っている一部のグループだけでなく、ワクチンに対する不安やその他の要因でワクチン接種を躊躇する層の動向によって、十分なワクチン接種率が得られないといった、Vaccine Hesitancy(ワクチン躊躇)の問題が存在する。本稿では、ワクチン接種行動に影響を及ぼす要因のうち、社会人口学的要因や心理社会的要因について紹介するとともに、ワクチン接種意思に与える職場要因および職域でのワクチン接種プログラムに関する知見についても検討する。
著者
新里 なつみ 永田 昌子 永田 智久 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.141-158, 2019-09-20 (Released:2019-09-25)
参考文献数
33

目的:本研究では,企業における健康施策決定プロセスと企業・労働者のニーズを踏まえた産業医の介入に関する実態を調査することで,健康施策において企業の意思決定が円滑になされるための産業保健サービスの要素・手法を探索的に調査・検討した.方法:企業における健康施策の立案に関与する10社11名の産業医を機縁法にて選定し,半構造化面接を実施した.Berelson, B.の内容分析に基づき質的帰納的に分析した.結果:本研究のテーマに対応した144カテゴリが形成され,社内健康施策の意思決定プロセス・産業医の介入・産業医の介入に関する補足要素の3要素に整理された.このうち産業医の介入は,「関係性の構築・相互理解の促進」,「根回し・調整」,「仮説に基づくニーズの可視化」,「統合的な企画づくり・提案」の4要素に関連する具体的な介入手法が示された.考察:企業の意思決定が円滑になされるための産業保健サービスの要素・方法として,1)健康施策における企業の意思決定の特徴や意思決定者の前提を踏まえて,合意形成を要する範囲やその影響を把握することや,2)産業保健への認識を高めるために,恒常的に産業保健に関する情報を経営情報へ翻訳しながら,提案を行うことが有効であると考えられた.産業医を中心とした産業保健専門職は,本研究にて明らかとなった手法を,活動の自己評価や改善に活用し,健康施策決定に貢献することが望まれる.
著者
森 晃爾 永田 智久 永田 昌子 岡原 伸太郎 小田上 公法 森 貴大 髙橋 宏典
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.165, 2020 (Released:2020-09-01)

同じように健康増進プログラムを提供しても、成果が上がる組織と上がらない組織が存在する。その背景として、経営トップのリーダーシップ等の組織要因の重要性が指摘されている。そのような組織要因が整えられると、健康増進プログラムの継続によって、健康風土・文化が醸成されることになり、さらなる健康投資がより高い成果に結びつく。そのような組織では、人間中心的な経営理念のもと組織運営が行われているはずである。
著者
森 晃爾 永田 智久 梶木 繁之 日野  義之 永田 昌子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.145-153, 2013 (Released:2013-10-23)
参考文献数
12
被引用文献数
1

目的:昨今,企業全体で整合性の取れた産業保健活動の展開が必要になってきており,そのためには,活動方針の明確化,活動基準の策定,産業保健スタッフの配置や意思疎通を企業全体で行っていく必要がある.その際,産業保健分野の高度な専門性を有し,統括産業医や総括産業医等(以下,統括産業医)の名称を与えられ,企業全体の産業保健活動をリードする産業医が任命されるようになってきた.しかし,これまで国内において,統括産業医の実態や機能に関する実態調査やそれに基づく検討はまったく行われていない.そこで我々は,統括産業医の機能と企業内での位置づけについての実態を明らかにすることを目的として,実際に大企業において統括産業医として任命されている産業医に対するインタビュー調査を行った.対象と方法:従業員数5,000名以上で,「複数の事業場と複数の産業医が存在する企業において,企業単位での産業保健活動の方針や活動の管理の役割を果たす産業医」を調査対象とし,条件を満たす統括産業医14名にインタビューを行った.インタビューのスクリプトをコード化し,統括産業医として果たしている具体的な機能と企業内での対象者の位置づけについて分析を行った.結果:分析の結果,5つの事項が示唆された.機能としては,1) 統括産業医は産業保健に関する全社的な方針,基準,計画の策定に主体的に貢献していること,2) 産業保健に関する全社方針や基準等は,その実行性を確保するために,事業拠点を統括する本社の事業部門等から出されるとともに,統括産業医が事業拠点の産業医や産業保健スタッフに対して指導や情報提供をしていること,3) 労働安全衛生マネジメントの内部監査や業務監査の一環で実行状況の評価が行われている企業があり,統括産業医が専門的に貢献していること,4) 産業医や産業保健スタッフの会議を主宰するなどの方法で意思疎通を行ったり,基準の技術的事項などについて全社的な研修を行う努力をしていることが示唆された.また,5) 総括産業医が役割を果たすためには,意思決定者である人事担当役員等の職位の経営層に直接または間接的に提案できるような位置づけや関与が重要であることが示唆された.考察:企業全体での整合性が取れた産業保健活動を推進している企業では,企業活動の意思決定や指揮命令等の機能を用いるとともに,統括産業医のもつ産業保健に関する専門的な知識を活用していると考えられた.また統括産業医が,産業保健専門職の確保や意思疎通に大きな役割を果たしていることが考えられた.今後,統括産業医業務の事例収集,統括産業医のコンピテンシーの明確化などを行った上で,研修プログラムの開発と提供が必要と考えらえる.
著者
新井 達 小中 理会 脇田 加恵 勝岡 憲生 金森 晃
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.119, no.12, pp.2359-2364, 2009-11-20 (Released:2014-11-28)

糖尿病入院患者267名の皮膚症状を調査・検討した.平均年齢は58歳(男性15~86歳,女性19~80歳),糖尿病歴は平均13.2年,入院時HbA1cの平均値は9.13%であった.皮膚症状のなかでは真菌感染症,特に足白癬が高頻度(198例,74.1%)に認められた.カンジダ症は低頻度(14例,5.2%)であったが,13例に白癬を合併し,約半数が糖尿病Triopathyを伴っていた.直接デルマドロームとしては糖尿病性顔面潮紅(rubeosis)(53例),柑皮症(36例),手掌紅斑(23例)などが多くみられた.また,デュプイトラン拘縮は17例,前脛骨部色素斑は6例,糖尿病性浮腫性硬化症が5例にみられた.これらの皮膚疾患ではいずれも高率にTriopathyを伴っていた.また,因果関係は不明だが,掌蹠に色素斑を伴う症例が43例にみられ,男性に好発した.今回の我々の検討結果から,糖尿病に伴う皮膚症状と,その頻度,そして糖尿病の病態との関連性がより具体的に示されたものと考える.
著者
伊藤 直人 吉田 彩夏 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-12, 2020-01-20 (Released:2020-01-25)
参考文献数
10

目的:特定業務従事者健康診断は,業務内容に関わらず定期健康診断と同じ検査項目であり,特殊健康診断との役割も不明確である.このため,特定業務従事者健康診断の対象業務の妥当性について課題が提示されているが,法制度が複雑でありその解釈は容易ではない.そこで,特定業務従事者健康診断の実施対象となる業務とその基準に関する変遷を明らかにする.方法:特定業務従事者健康診断の歴史に関連する法令,通達,文献,書籍の内容を調査した.結果:特定業務従事者健康診断の対象業務は,差し当たり特別な衛生管理をしなければならない有害物を取り扱う業務として昭和22(1947)年に旧労働安全衛生規則第48条で定められ,対象業務の定量的基準は当面妥当と考えられる基準値として昭和23(1948)年の通達によって示され,その後大きく変更されていない.その結果,多くの特定業務従事者健康診断の実施基準の多くは,許容濃度を超えていた.結語:特定業務従事者健康診断の対象業務及びその基準は,約70年間ほとんど変更されていない.社会環境の変化や有害業務の管理手法の向上を鑑み,特殊健康診断と特定業務従事者健康診断の目的や役割を再整理し,特定業務従事者健康診断のあり方を改めて考える必要がある.
著者
長谷川 政智 森 晃 藤本 泰文
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.59-66, 2016 (Released:2017-04-07)
参考文献数
10
被引用文献数
4

宮城県北部の河川・水路ならびにため池で2014~2015年に淡水エビ類の分布調査を実施した.調査の結果,在来種のスジエビPalaemon paucidens に酷似したエビを確認し,同定したところ,その形態的特徴から,外来種のPalaemonetes sinensis であることを確認した.今回,2箇所の調査地でP.sinensis の生息を確認し,再生産して定着していることも確認した.宮城県においてP.sinensis の発見とその定着を確認した報告は初めてである.
著者
森 晃 水谷 正一 後藤 章
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.23-35, 2013-09-30 (Released:2013-11-29)
参考文献数
45
被引用文献数
1

近年,ナマズの繁殖場である水田水域の生息環境は悪化し,その個体数は全国的に減少している.ナマズの保全のためには複数の生息地に及ぶ生活史を把握する必要があるが,生態に関する知見は少ないのが現状である.そこで,ナマズの河川における行動生態情報を収集するため,超音波テレメトリーを適用し,小河川において追跡調査を実施した.まず,発信機の装着が魚体に及ぼす影響を室内水槽において検討した.ナマズ成魚 6 尾にダミーを装着し 5 週間観察した結果,体重の減少は見られたが,ダミーの脱落および死亡した個体は見られなかった.また,装着個体を用いて人工産卵を試みたところ,正常に産卵し孵化仔魚の生産に成功した.これらの結果から,発信機装着による生存や繁殖に及ぼす影響は少なく,ナマズに対する装着法として,適用可能であると考えられた.次に水田地帯を流れる谷川において追跡調査を実施した.谷川において捕獲した 5 尾のナマズ成魚に発信機を装着したのちに放流し,複数の受信機を各所に設置し,受信範囲内の装着個体の行動を約 1 年間モニタリングした.結果として 5 個体のうち 3 個体は 100 日以上モニタリングすることができた.次に,受信データを解析したところ,装着個体の行動パターンに季節変化が生じた.秋季にかけて 2 尾の装着個体の信号は,夜間に多く受信され昼間はほとんど受信されない規則的なパターンを示した.これは,日中は巣内で休息し,夜間に巣外で行動していたという夜行性活動パターンであると考えられた.一方,冬季にかけて 3 尾の装着個体の信号は昼夜同程度受信されるパターンを示した.このことから,冬季には昼夜活動を維持していたと考えられた.今回の研究により,ナマズの行動生態の情報を収集することができたが,手法による限界も判明した.今後は電波テレメトリーを併用することによりナマズの保全の際に必要な基礎的な行動生態情報を収集することが必要である.
著者
藤野 善久 高橋 直樹 横川 智子 茅嶋 康太郎 立石 清一郎 安部 治彦 大久保 靖司 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.267-275, 2012-12-20 (Released:2012-12-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

目的:産業医が実施する就業措置について,適用範囲,内容,判断基準など共通の認識が存在しているとは言えない.本研究では,現在実施されている就業措置の実態から,就業措置の文脈の類型化を試みた.方法:就業措置の文脈を発見するために,インタビューとフォーカスグループディスカッション(FGD)を実施した.インタビューは開業コンサルタントの医師6名に行った.またFGDは計6回,19名の医師が参加した.インタビューおよびFGDのスクリプトをコード化し,就業措置の類型化の原案作成を行った.つづいて,これら類型化の外的妥当性を検証するために,産業医にアンケートを実施し,就業措置事例を収集し,提示した類型への適合性を検証した.結果:インタビューおよびFGDのスクリプト分析から4つの類型が示唆された(類型1:就業が疾病経過に影響を与える場合の配慮,類型2:事故・公衆災害リスクの予防,類型3:健康管理(保健指導・受診勧奨),類型4:企業・職場への注意喚起・コミュニケーション).また,産業医アンケートで収集した48の措置事例はすべて提示した4つの類型のいずれかに分類可能であった.また,この4類型に該当しない事例はなかった.収集した事例から,類型5:適性判断を加え,本研究では最終的に,産業医が実施する就業措置として5類型を提示した.考察:現在,産業医が実施する就業措置は,複数の文脈で実施されていることが明らかとなった.ここで提示した5類型では,医師,労働者,企業が担うリスクの責任や判断の主体が異なる.このように就業措置の文脈を明示的に確認することは,関係者間での合意形成を促すと考えられる.
著者
横川 智子 佐々木 七恵 平岡 晃 立石 清一郎 堤 明純 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.163-173, 2012-09-20 (Released:2012-10-24)
参考文献数
77
被引用文献数
2 2

目的: 健康診断結果をもとにした職務適性評価および就業上の措置に関する海外の文献を調査分析し,就業上の措置に関する明確な判断基準や数値基準に関わる情報や職務適性評価の過程における手順や留意点を見出すことを目的とする. 方法: 職務適性に関連するキーワードをもとにPubMedで検索して英文の文献を入手し,調査対象となった論文の国,健康診断のタイミング,職務適性評価の対象疾患,対象職業,対象者の健康度による分類,職務適性評価の目的や基準における考え方,職務適性評価の決定プロセスについて文献を整理し分析した. 結果: 条件に該当した英語論文は70件であった.これらの文献では,職務適性評価に関連して以下の2点に着目していた.1) 労働者自身および周囲の労働者,公共に対する安全の確保およびリスクの回避,2) 軍人や消防士のような業種における危険に対応できる能力.さらに障害者や有病者については,事業者の責任としての合理的配慮という考え方が求められていた.各論文中で述べられている職務適性評価の決定プロセスについては,どの国においても,1)職務分析,2)障害・疾病によって生じている職務に関連した制限・リスク評価といった労働者分析,3)障害者と事業者との話し合いによる合理的配慮の提示および実現可能性や有効性,コスト等に基づく評価からの必要な就業配慮の選択,4) 1)~3)の内容と各分野の専門家の意見をもとにした職務適性判断という流れが示されていた. 考察: 本調査により,医師による健康診断結果をもとにした就業上の措置に関する意見の明確な判断基準や数値基準に関わる情報を見出すことはできなかったが,労働者の健康度と職務の要求度および危険度を照合した上で職務適性を評価するプロセスを明らかにすること,就業上必要な意見を述べる技術力が医師に求められていることが改めて確認された.さらに障害者や有病者の職務適性評価に関して,日本においても事業者の義務としての合理的配慮について注目されることが予想される.健診事後措置においては判断基準や数値基準に頼るだけでなく,意見を述べる際の手順や留意点を明確にする必要がある.さらに就業上の意見を述べなければいけない医師には,職務適性評価を行う十分な技術が求められることが示唆された.
著者
中島 直久 野田 康太朗 守山 拓弥 森 晃 渡部 恵司 田村 孝浩
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.I_225-I_234, 2018 (Released:2018-11-01)
参考文献数
35

春季におけるトウキョウダルマガエルの生息場保全策の検討に向けて, 本種が冬眠から目覚めて地上へ這い出す際に残す這い出し穴の形状を特定し, ニラ畑と裸地の2圃場において這い出しの時期と, その時の地温および降水量との関連を調べた.対象地の這い出しは4月中旬~5月下旬に行われ, 2山のピークが確認された.調査日間の日平均這い出し穴数, 日最高・最低地温, 期間最大連続雨量を指標とすると, 這い出しは日最高地温が12~15℃の範囲で開始した.両圃場において日平均這い出し穴数と期間最大連続雨量との間に正の相関関係が認められた.これらの結果から, 本種は日最低地温が特定の温度以上において降雨がある場合に, 越冬を終了して地上へ這い出すと推測された.
著者
橋口 克頼 永田 智久 森 晃爾 永田 昌子 藤野 善久 伊藤 正人
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.271-282, 2019-09-01 (Released:2019-09-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1 5

WHOは「各国・地域において,人々が経済的困難を伴わず保健医療サービスを享受すること」を目標としており,その指標としてEffective Coverage(EC)という概念を提唱している.ECとは“その国または地域における健康システムを通して,実際に人々に健康増進をもたらすことができる割合”と定義されており,産業保健の場面では治療が必要,もしくは治療を受けているうち,適切に疾病管理されている率に該当すると考えられる.本研究では産業保健サービスの効果を評価することを目的とし,「常勤の産業保健スタッフ(産業医または産業看護職)による労働者への産業保健サービスの提供は,高血圧,糖尿病,脂質異常症の各項目について,ECを向上させる」という仮説をたてて検証した.2011年度の一般健康診断,人事情報,及びレセプトからの個々のデータを分析した横断的研究である.特定の大規模企業グループの91,351人の男性労働者を対象とした.常勤の産業保健スタッフがいる事業場に所属する労働者(OH群)とそれ以外の事業場に所属する労働者(non-OH群)において高血圧,糖尿病,脂質異常症の各項目別にECを算出し,比較した.OH群はnon-OH群に比べて,高血圧・糖尿病において有意にECが高率であったが,脂質異常症については有意な差を認めなかった(高血圧aOR 1.41: 95%CI 1.20-1.66,糖尿病aOR 1.53: 95%CI 1.17-2.00,脂質異常症aOR 1.11: 95%CI 0.92-1.34).常勤の産業保健スタッフによる産業保健サービスの提供は,健康診断後の適切な管理に大きく影響する.
著者
鹿嶋 光司 黒川 英雄 高森 晃一 井川 加織 市來 剛 迫田 隅男
出版者
社団法人 日本口腔外科学会
雑誌
日本口腔外科学会雑誌 (ISSN:00215163)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.420-424, 2007-07-20 (Released:2011-04-22)
参考文献数
10

We report the a successful intensive care of a 41-year-old man, who had facial and cervical cellulitis, descending necrotizing mediastinitis, and bilateral pyothorax caused by pericoronitis. Computed tomographic scans showed abscesses extending from the left temporal region and the neck to the mediastinum, with bilateral pleural effusion. Surgical drains were placed in the face, neck, and chest, and several types of antibiotics were administered intravenously. Pus cultures disclosed abundant growth ofStreptococcus constellatesandPrevotella intermedla. The patient received mechanical ventilation with a high concentration of oxygen. Our experience suggested that such severe cases require aggressive chemotherapy with a combination of antibiotics and surgical drainage by a multidisciplinary team of surgeons.
著者
大森 晃 土井 晃一
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.292-302, 2000-12-01 (Released:2008-10-03)
参考文献数
25
被引用文献数
1

In a requirements capturing meeting, the chair plays an important role. The chair presides the meeting and captures requirements. Roughly speaking, the process of requirements capture has two steps. In the first step, the chair extracts the clients' ideas as many as possible. In the second step, the chair integrates these ideas and captures requirements. The first step is indispensable in order to capture requirements through the second step.In such a requirements capturing meeting, it is empirically known that the chair presides the meeting chiming in moderately in order to extract the clients' ideas. However, the relationship between chiming-in and the number of ideas is not known. We conducted an experiment to examine it.The participants in the experiment were sixteen students (S1,..., S16) and one teacher (T), and each set of subjects consisted of two students (Si, Sj) and the teacher (T). We had eight subject-sets. Before the experiment, the two students in each subject-set were supposed to decide the theme they would talk about; and, to have thought about the contents of their talk. In the experiment, they were supposed to talk about the theme to the teacher. For the half of eight subject-sets (called “Many Group”), the teacher chimed in as many as possible in a natural way. For the other half (called “Few Group”), the teacher chimed in only when the utterance terminated. The conversation was recorded with a tape-recorder, and transcribed to count the number of ideas.The number of ideas had a statistical tendency to be larger in the Many Group than in the Few Group. In addition, the ideas from the Many Group had a stastistical tendency to be more well-formed than those from the Few Group.Our experimental finding is that the chair in a requirements capturing meeting should chime in moderately to get more ideas, and more well-formed ideas.
著者
萩原 富司 田中 利勝 鈴木 盛智 古川 大恭 森 晃
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.27-35, 2018-10-24 (Released:2018-10-24)
参考文献数
30
被引用文献数
1

関東地方にはかつて利根川の氾濫原を中心に多くの河川・池沼が点在し,カラスガイ,イシガイ,ドブガイ類が生息していた.しかし近年,特にカラスガイの生息数の減少が顕著であり,各県のレッドリストにおいて,絶滅危惧種に指定されており,地域個体群の絶滅が危惧されている.2017 年3 月11 日に,渡良瀬遊水地内の水路においてカラスガイを採集した.カラスガイの殻長は180–300mm の範囲であり,同所的に生息するドブガイ類と異なり小型個体は見られなかった.カラスガイは新規加入がほとんどなく老齢個体だけが生き残っている状態と思われる.本種の分布や生息地に関する報告が非常に少ない現在,既報に記載された生息地の再確認を行うとともに,関東地方には過去に琵琶湖産二枚貝類の移植に伴ってカラスガイが持ち込まれた可能性もあるため,自然分布域の遺伝子を分析して地域ごとの遺伝子型を調べておくことが急がれる.
著者
黒木 直美 宮下 奈々 日野 義之 茅嶋 康太郎 藤野 善久 高田 幹夫 永田 智久 山瀧 一 櫻木 園子 菅 裕彦 森田 哲也 伊藤 昭好 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.49-59, 2009 (Released:2009-10-08)
参考文献数
28
被引用文献数
2 1

小規模事業場において良好実践を行っている事業者の産業保健ニーズに関する質的調査:黒木直美ほか.産業医科大学医学部公衆衛生学―本研究では,小規模事業場における事業者の産業保健ニーズあるいは良好実践の動機を把握することを目的とした.これまでの調査では小規模事業場における産業保健活動の遅れが報告されている.これらの知見は主に質問紙調査から得られたものである.しかし,小規模事業場には事業者の意識が直接反映されるという特徴があり,積極的に産業保健活動に取り組んでいる事業場も存在している.このような小規模事業場の良好実践例において,事業者のニーズを分析した研究はこれまでにない.産業保健に対する事業者の動機を明らかにすることは小規模事業場間に良好実践を水平展開する一助となると考えられる.そこで,我々は産業保健活動の良好実践が行われている小規模事業場10社の事業者と半構造化面接を行い,その逐語録をKJ法を用いた質的手法で分析した.その結果,事業者はもっぱら「よい会社」,「よい経営」を強く意識していることが明らかになった.「よい経営」のための要素には「人材確保」,「取引先の信用」,「社会的信用」,「社長自身の健康」という4つがあった.事業者はこれらの要素を達成するため職場の安全,従業員の健康に関する活動は当たり前であると考えていた.さらに,具体的な活動には「コストの問題」,「担当者の問題」,「時間がない」,「外部資源」という既知の制約があった.調査結果から,経営と安全衛生活動を関連づけることが小規模事業場における安全衛生活動の向上に寄与すると考えられた. (産衛誌2009; 51: 49-59)
著者
大森 美保 永田 智久 永田 昌子 藤野 善久 森 晃爾
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.293-303, 2021-09-01 (Released:2021-09-06)
参考文献数
64

Greater workplace social capital (WSC) can be related to workers’ health and productivity. We sought to clarify the association between horizontal WSC and presenteeism and sickness absence (SA) and to examine the effects of psychological distress on these associations among Japanese workers. A cross-sectional study was conducted in 2017 at seven large Japanese companies. Logistic regression analysis was performed with presenteeism and SA as the dependent variables, horizontal WSC as an independent variable, and sociodemographic characteristics and psychological distress as covariates. After adjustment for sociodemographic characteristics, the results showed that greater horizontal WSC was associated with lower presenteeism and SA. The odds ratios for the relationship between horizontal WSC and presenteeism and that between horizontal WSC and SA dropped moderately after adjustment for psychological distress but remained significant. Further exploration of the factors underlying the relationship between WSC and productivity is needed to confirm if WSC enhances workers’ health and productivity and to inform the development of effective occupational health initiatives.