著者
和田 直己 谷 大輔 中村 仁美 大木 順司 西村 剛 藤田 志歩
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.80, 2013 (Released:2014-02-14)

脊椎動物の肢は前肢2本,後肢2本の合計4本である.4肢は 動物の体に前後,左右,さらに上下方向に作用する力に対して安定を保つに必要十分であり,また脊椎動物の特徴である体軸の運動を陸上で最大限に活用できる数である.前肢と後肢の機能は動物によって異なる.特に前肢の機能は多様で,動物を特徴づける.前肢は肩甲骨,鎖骨,烏口骨で体幹と連結する.哺乳類は体幹と前肢の連結において特に肩甲骨を発達させた脊椎動物である.肩甲骨の形質は動物の姿勢と運動の特徴を強く反映する.本研究の目的は肩甲骨の外形,力学的特性と動物の形質の関係を理解することにある.本研究の実験方法における課題は機能する肩甲骨の形状をとらえることにあった.そこで骨標本ではなく,全身,または前肢のCT撮影を行い,肩甲骨をPC上で構築し,計測を行った.本学会において,17目 100種の肩甲骨について調査した結果から導きだされた肩甲骨の形状と動物種,身体的特徴と運動との関係について発表を行う.謝辞国立科学博物館 山田格研究室,川田伸一郎研究室,大阪ネオベッツVRセンターのスタッフの方に深謝を.
著者
西田 利貞 松本 晶子 保坂 和彦 中村 美知夫 座馬 耕一郎 佐々木 均 藤田 志歩 橋本 千絵
出版者
(財)日本モンキーセンター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

文化とされるチンパンジーの地域変異行動の学習・発達過程、伝播経路、習得率や、新奇行動の発生頻度と文化定着率を、タンザニア、マハレ公園のM集団を対象にビデオを用いて調査した。アリ釣りは3歳で始まり、5歳でスキルが向上し、7-8歳で完成する。対角毛づくろい(GHC)も社会的に学習され、相手は5歳頃母親に始まり、次に大人雌、9歳頃に年長雄となり、認知的に困難とされる道具行動より遅れて出現する。多くの文化行動は5歳以上のほぼ全員で確認したが、年齢や性に相違のある行動もある:葉の咬みちぎり誇示をしない雌がいる、灌木倒しは雄に限られ、水中投擲や金属壁ドラミングは大人雄のみなど。新奇行動のうち、赤ん坊の首銜え運搬、腹たたき誇示や水鏡行動は少なくとも他の1個体に社会的に伝播したが、まったく伝播しなかった行動もある。腹叩き、飲水用堀棒、乳首押さえなどの新奇行動は、個体レベルでは3-10年続くが、伝播せずに廃れる可能性が高い。一方、スポンジ作りやリーフ・スプーン、葉の口拭き、落葉かき遊びなどの新奇行動を示す個体は次第に増え、社会的学習に基づく流行現象と考えられた。覗き込みは子供の文化習得過程の1つで、採食、毛づくろい、怪我の治療、新生児の世話が覗かれる。年少が年長を覗く傾向は学習説を支持するが、大人の覗き込みは、他の社会的機能も示唆する。親子間や子供同士での食べ残しの利用は、伝統メニューの伝播方法の1つだ。新入雌が直ちに示すGHCなどの行動は、地域個体群の共通文化らしい。移入メスの急速なヒト慣れも、M群の態度を習得する社会化の過程と考えられた。ツチブタ、ヒョウなどM集団が狩猟しない動物の死体を食べないのは、文化の保守的側面であろう。一方、ヒヒがM集団の新メニューに加わる新奇行動の定着例もある。尿・糞によるDNA父子判定によると、子供の半数の父親が第1位雄で、集団外雄が父親になる可能性は低い。父子間の行動の比較が、今後の課題である。Y染色体多型分析から、Mと北集団の雄の祖先共有が示された。収集資料:DVテープ750本、写真1万枚、野帳220冊、骨格3体、昆虫標本900点、尿標本112個、糞標本139個。
著者
浅井 隆之 藤田 志歩 塩谷 克典 稲留 陽尉
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.92-93, 2015

ニホンザルの農作物被害対策において、農家によって動物の生態についての理解や対策への意識に差があることが、集落ぐるみの取り組みを行う上での障害となっている。しかし、どのような要因が農家の意識に隔差をもたらすかについては科学的な解析がほとんど行われていない。本研究は、ニホンザルによる農作物被害の程度が農家の対策意識や加害動物に対する感情にどのような影響を及ぼすかについて明らかにすることを目的とし、被害農家を対象に聞き取り調査を実施した。まず、対象地区を選定するため、鹿児島県薩摩郡さつま町および伊佐市において農作物被害を出している群れについてラジオテレメトリー調査を行い、その結果から、群れの出没頻度が異なるA、BおよびC地区を対象に選んだ。3つの地区の住民計19人からの回答を用いて、被害の実態やその対策、およびニホンザルに対する感情に関する8つの質問項目について主成分分析を行い、各主成分の得点を地区間で比較した。さらに、各農家の主成分得点と、被害の頻度、量、年数および季節それぞれとの相関を調べた。その結果、ニホンザルの生態についての理解度を表す第1主成分と嫌悪や憎悪の感情の強さを表す第3主成分は、被害がより古くからあり、被害頻度の高いA地区で最も高く、対策意識の高さを表す第2主成分は、被害は古くからあるが、その頻度は小さいB地区で高かった。一方、被害の年数が最も浅く、その季節が限定的なC地区では、第1、第2および第3主成分のいずれも得点が最も低かったが、恐怖の感情の強さを表す第4主成分の得点は最も高かった。また、各農家の主成分得点と被害の程度との関連では、第2主成分と被害の頻度との間にやや高い正の相関がみとめられた(r = 0.70, <i>P</i> < 0.05)。以上より、地区レベルおよび農家レベルのいずれにおいても、ニホンザルによる被害の程度によって農家の意識格差が生じることが示された。
著者
山極 壽一 村山 美穂 湯本 貴和 井上 英治 藤田 志歩
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アフリカの熱帯雨林に共存するゴリラとチンパンジーのコミュニティ構造を低地と高地で調査して比較分析した結果、標高の違いにより、ゴリラは集団サイズや構成、集団同士の関係、個体の集団への出入り、コミュニケーション、個体の成長速度に、チンパンジーは集団のサイズ、遊動域の大きさ、個体の分散に違いがあることが判明した。また、同所的に生息するゴリラとチンパンジーの間には、個体の分散の仕方、個体の集団への出入り、コミュニケーション、攻撃性、ストレス、繁殖戦略、生活史に大きな違いがみられ、それらの違いが食性の大きく重複する両種が互いに出会いを避け、競合や敵対的交渉を抑えるように働いていることが示唆された。