著者
梶原 美恵子 松山 美和 守谷 恵未 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.494-502, 2020-03-31 (Released:2020-04-17)
参考文献数
22

目的:非経口摂取高齢入院患者を対象に「水を使わない口腔ケアシステム」を実施し,口腔細菌数の変化を検証することを目的とした。 方法:非経口摂取高齢入院患者100名を,「水を使わない口腔ケアシステム」(以下,新法)と従来の口腔衛生管理(以下,従来法)の2群に無作為に分け,1日1回連続5日間,歯科衛生士が口腔衛生管理を実施した。1日目の管理直前(以下,ベースライン),管理直後,1時間後と5日目の管理1時間後の計4回,口腔細菌数を測定した。測定値を対数変換して,二元配置分散分析を行った。有意水準は5%とした。 さらにベースラインで細菌数レベル4以上を口腔不潔者とし,5日目に細菌数レベル3以下になった者を「改善あり」,4以上の者を「改善なし」として,χ2検定を行った。 なお本研究は,特定医療法人北九州病院倫理委員会の承認を得て実施した(第15-3号)。 結果:ベースラインと管理直後においては,新法群と従来法群の口腔細菌数に有意差はなく,管理1時間後と5日目においては新法群の細菌数は従来法群よりも有意に低値であった。新法群は,ベースラインと比べて管理直後,1時間後および5日目の細菌数は有意に低下し,管理直後よりも5日目は有意に低下した。従来法群は,ベースラインと比べて管理直後および管理1時間後の細菌数は有意に低下した。また,口腔不潔者のうち,新法群では29名に改善がみられ,従来法群の7名よりも有意に多かった。 結論:本研究における口腔細菌数の変化の結果から,「水を使わない口腔ケアシステム」は従来の方法よりも効果的である可能性が示された。
著者
岩渕 博史 澤田 しのぶ 守谷 恵未 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.127-134, 2020-09-30 (Released:2020-10-25)
参考文献数
23

目的:超音波スケーラーによる歯石除去は,注水を伴うため唾液などの混和した冷却水を誤嚥させるリスクがあり,寝たきり高齢患者では使用することが困難であった。われわれは,角らの「水を使わない口腔ケアのシステム」を応用し,角らの開発した口腔ケア用ジェルを用いることにより,非注水下で超音波スケーラーによる歯石除去が行えるのではないかと考えた。本研究では,口腔ケア用ジェルを用いて非注水下に超音波スケーラーによる歯石除去を行い,咽頭侵入や歯周組織への為害作用について検討した。 方法:口腔ケア用ジェルを用いて非注水下に超音波スケーラーによる歯石除去を行い,患者の満足度や不快症状について水を使用した場合と比較した。また,本法を寝たきり患者に対して行い,咽頭侵入程度,歯周組織への為害作用,処置後の発熱の有無を評価した。 結果:口腔ケア用ジェルを用いた超音波スケーラーによる歯石除去は,処置中の咽頭侵入は非常に少なく,処置後に誤嚥を疑う発熱もみられなかった。処置への満足感,処置中の疼痛や不快感は水を使用した場合と差がみられず,有害な歯髄反応や歯肉の異常所見はみられなかった。 結論:口腔ケア用ジェルを用いたスケーリングは,寝たきり高齢患者においても唾液などの混和した冷却水などの誤嚥の危険性が少なく,歯髄・歯肉への為害作用もみられないことから,これらの患者においても口腔ケア用ジェルを用いることにより,超音波スケーラーによる歯石除去が行える可能性が示唆された。
著者
道脇 幸博 愛甲 勝哉 井上 美喜子 西田 佳史 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.453-459, 2012-03-31 (Released:2012-06-15)
参考文献数
18

窒息事故は交通事故による死亡者数に匹敵する数に増加しているが,事故予防に関する社会的な関心は高くない。そこで,現状把握と今後の症例集積のために,窒息事故の半数を占める食品による窒息例 107 例について,発症要因を分析し,医療費用を算出した。その結果,年齢では高齢者に多く,性差はなかった。既往歴では認知症や脳梗塞,統合失調症など中枢神経系の疾患をもっている方が多かった。発生時間は食事中が多く,場所は家庭や施設などであった。事故前の ADL や食事の自立度,食事形態では,自立者で普通食を食べていた方が半数を占めた。窒息の原因となった食品の種類はさまざまで,固形物であれば窒息の原因となりうると思われた。転帰では,62 例(58%)が死亡していた。入院費用は約 60 万円であった。本研究から,窒息事故に対する社会的な予防策の必要性が改めて示され,そのためには症例のデータベース化が有用であると考えられた。
著者
作田 妙子 守谷 恵未 大野 友久 山田 広子 岩田 美緒 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.323-330, 2019-07-25 (Released:2019-07-31)
参考文献数
15

目的:化粧療法は要介護高齢者や認知症患者に対して実施されているが,現場のニーズについての報告はない.本研究では医療従事者を対象に,高齢者の化粧療法に関する現状を把握することを目的とし質問紙を用いて調査を実施した.方法:A県下高齢者専門医療機関(職員数548名)に勤務する化粧が業務に影響すると考えられる医療従事者190名を対象に自記式質問紙法による調査を実施した.職種,性別,年齢について調査し,看護師は病棟勤務看護師を対象とし配属病棟の調査も実施した.高齢者における化粧療法の認識と容認できる化粧内容について質問した.対象者全体での検討以外に,看護師と療法士間,看護師の従事病棟別,性別ごとにも検討を加えた.結果:質問紙は121名から回収した(平均年齢33.3±9.4歳 男性42名 回収率63.7%).看護師55名,理学療法士25名などの職種となった.化粧は気分を良くし生活の質が向上すると考えている者がほとんどだが,化粧療法を初めて知った者が多かった.化粧療法をやってみたい者は全体の半数で看護師や女性はやや多かった.外来患者はほとんどの化粧内容が容認でき,入院患者はスキンケア以外の容認率が低かった.看護師,療法士間で比較したところ,入院患者のファンデーション,アイメイク,頬紅で看護師の容認率が低かった.女性で化粧療法をやってみたいと考える者が有意に多く,入院患者のファンデーションおよび頬紅の容認率が有意に低かった.従事する病棟別では,回復期リハビリテーション病棟では化粧療法をやってみたいと思う者が多く,各化粧内容の容認率が全体的に高い傾向があったが,有意差は認めなかった.結論:化粧療法は生活の質改善に効果があると考えながらも,実施したいという者は半数であった.また,化粧内容により容認率に差があった.化粧療法の現状を把握でき,その普及に資するデータが得られた.
著者
道脇 幸博 角 保徳 三浦 宏子 永長 周一郎 米山 武義
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.275-280, 2003-03-31 (Released:2014-02-26)
参考文献数
14
被引用文献数
3

要介護高齢者に対する口腔ケアの効果について, 誤嚥性肺炎患者の診療報酬を対象に費用効果分析を行ったところ, 口腔ケアは医療経済学的観点からも有用であることが示されたのでその概要を報告する。研究に当たってはまず文献的な考察によって誤嚥性肺炎予防に関する口腔ケアの効果を検討すると共に, 口腔ケアの診療報酬を算出した。次いで誤嚥性肺炎にて入院加療を要した患者の診療報酬請求額を算出し, 両者を比較して費用効果分析を行った。その結果, 口腔ケアの局所効果としては, 口腔や咽頭の細菌量の減少, 口臭の低下, 歯肉炎の減少などがあり, 全身的な効果としては発熱率の低下, 誤嚥性肺炎罹患率の低下, 死亡率の減少などが挙げられた。また誤嚥性肺炎予防の観点から算出した口腔ケアの費用便益比は, 直接費用のみを比較しても0.82であった。従って口腔ケアの局所的効果や全身的な効果について, 直接費用と間接費用を含めると, その費用効果はさらに上昇すると考えられた。
著者
原 修一 三浦 宏子 山﨑 きよ子 森崎 直子 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.391-398, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
22

目的:介護施設に入所する高齢者を対象とした横断研究により,健康関連QOLと音響学的分析による音声機能との関連性を明らかにした.方法:対象は,介護老人施設に入所する高齢者61名,平均年齢82.1±8.3歳である.質問紙による健康関連QOLの調査を,SF-8 Health Survey(SF-8)日本語版を用いて実施した.音声機能は,ソリッドステートレコーダーに録音した音声を,音響分析ソフトを用いて,基本周期変動指数(Pitch Period Perturbation Quotient:PPQ),振幅変動指数(Amplitude Perturbation Quotient:APQ)および,雑音成分の指標であるNoise-to-Harmonic Ratio(NHR)を算出し,健康関連QOLとの関連性を分析した.結果:SF-8の全体的健康感(GH)の得点が25%tile値未満の値を示した者(低下群)はPPQ・APQ・NHR全てにおいて,25%tile値以上の者(維持群)と比較して有意に高い値を認めた.また,活力(VT)においても,低下群は全ての音響分析の項目において,維持群と比較して有意に高い値を認めた.また,身体的サマリースコア(PCS)においても,低下群は維持群と比較して音響分析の測定項目全てにおいて,有意に高い値を認めた.年齢を共変量とした共分散分析による検討では,GHの低下はPPQ,APQ,NHR各値の増加と有意な関連性を認めた.また,VTの低下はAPQ値の増加との有意な関連性を,PCSの低下はAPQとNHR各値の増加との有意な関連性を認めた.結論:介護施設入所高齢者において,音響学的に分析された音声の音響学的要因は,身体的健康状態に関連したQOLスコアと有意な関連性を示した.音声の音響分析によるPPQ,APQ,NHRは,高齢者の健康調査とその経過を追跡する上で,一つの評価指標になりうる可能性がある.
著者
角 保徳
出版者
日本レーザー歯学会
雑誌
日本レーザー歯学会誌 (ISSN:09177450)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.137-141, 2012-12-01 (Released:2012-12-17)
参考文献数
7
被引用文献数
4 2

Optical coherence tomography (OCT) is a new biomedical imaging modality which can generate high-resolution, cross-sectional images of microstructures in biological systems. One of the most attractive features of OCT is that it uses safe near-infrared light instead of hazardous ionizing radiation. Furthermore, resolution on the order of 10 micrometers can be obtained. The optical accessibility of clinically relevant structures in the oral cavity makes it a particularly attractive location for the application of OCT imaging techniques. Our National Center for Geriatrics and Gerontology has developed a new swept-source optical coherence tomography (SS-OCT) system through joint research with industry and the public sector. In this study, this new SS-OCT system was applied to cross-sectional imaging of dental caries, resin based composite restorations, periodontal disease, oral cancer and finished dentures. It is concluded that our new SS-OCT system is a promising new and useful alternative imaging technique which can safely provide much more definitive information on oral structures at far higher resolution than is possible by conventional clinical imaging methods. The National Center for Geriatrics and Gerontology received the world's first production unit of this new dental SS-OCT system.
著者
角 保徳
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.594-600, 2002-10-20 (Released:2011-10-07)
参考文献数
7

近年, 口腔状態と種々の全身疾患との関連性について興味が持たれている. とくに, 誤嚥性肺炎は, 要介護高齢者にとって一般的かつ医療費のかかる疾患である. 誤嚥性肺炎による病死は老年者の健康の主要な問題と認識されている. 一方, 歯科医師や歯科衛生士によって行われる専門的口腔ケアは, 施設入所高齢者の誤嚥性肺炎の危険性を減少させたと報告されている. しかしながら, 専門的口腔ケアは, 在宅や施設入所の要介護高齢者に常に提供できるものではない. 高齢者の口腔自己管理能力は加齢とともに低下し, その分野における看護・介護職員の役割の重要性は高まりつつある. 看護・介護職員は, 有効な口腔ケアを提供する重要な役割を担っている. しかし, 要介護高齢者の口腔ケアをいかに提供するかに関する研究はほとんど見られない. 看護・介護職員による口腔ケアは, 時間的制約, 他人の歯を磨く技術の困難さ, 要介護高齢者の非協力性および必要性の認知の欠如により, 必ずしも適切であるとはいい難い. 加えて, 看護・介護職員による口腔ケアは不十分な視野と不適切な姿勢で行われている. ゆえに, 口腔ケアを十分行えない患者に対する単純かつ有効な口腔ケア手順(口腔ケアシステム)の開発が緊急の課題となっている. システム化された口腔ケア手順はいまだ発表されておらず, 看護・介護職員は適切なガイドラインすら提供されていない. かかる背景のもと, われわれは要介護高齢者向けの口腔ケアシステムおよび口腔ケア支援機器を開発し, その概略を本稿に記載した.
著者
角 保徳 道脇 幸博 三浦 宏子 中村 康典
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.366-371, 2002 (Released:2014-02-26)
参考文献数
12
被引用文献数
2

高齢者の口腔ケアの自立度は徐々に低下し, 介護者による日々の口腔ケアの役割は重要となってきている。しかし, 介護者の時間的制約, 他人の歯を清掃する技術的困難さ, 要介護高齢者の協力が得られないことおよび口腔ケアの必要性の知識の欠如により, 介護者による口腔ケアは必ずしも適切に提供されていない。本研究の目的は, 介護者の負担を軽減するような要介護高齢者への簡便で有効な口腔ケアシステムを評価することにある。対象者は25名の要介護高齢者とその介護者である。8週間の口腔ケアシステムを施行した後, 歯垢指数, 歯肉指数を評価し, 同時に口腔ケアシステムを提供するに当たっての利点, 欠点, 負担度および疲労度を質問した。その結果, 1日1回の口腔ケアシステムによって歯垢指数, 歯肉指数は施行前に比較して有意に低下した。さらに, アンケート調査により介護者の負担度および疲労度は低下した。今回評価した口腔ケアシステムは, 要介護高齢者の口腔衛生向上に有効であり, 介護者の負担を軽減する事が確認された。
著者
角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.465-468, 2013 (Released:2013-09-19)
参考文献数
9
被引用文献数
6

高齢社会の進展に伴い,嚥下障害患者や口腔管理が自立できない高齢者の数も増加しており,QOLの維持や生きがいの観点から適切な嚥下機能,口腔機能を維持・改善することは重要な課題である.嚥下障害患者は,誤嚥性肺炎に罹患しやすい上に,低栄養状態になりやすい.嚥下障害患者に対する口腔ケアは,単に口腔内を清潔にするだけでなく,死亡原因となる誤嚥性肺炎を未然に防ぐとともに,摂食・嚥下機能の改善,脱水や低栄養状態の予防にかかわり,生活の質(QOL)向上の観点からもきわめて重要である.さらに,口腔ケアは機械的刺激が摂食・嚥下リハビリテーションの間接訓練としての役割も果たす.以上のように,嚥下障害患者における口腔ケアの意義は,(1)誤嚥性肺炎の予防,(2)低栄養の予防,(3)摂食・嚥下リハビリテーションの間接訓練の3点が挙げられる.5分間で終了する標準化した口腔ケアである"口腔ケアシステム"は,口腔期のリハビリテーションとして有効性が期待される.
著者
小林 義和 松尾 浩一郎 渡邉 理沙 藤井 航 金森 大輔 永田 千里 角 保徳 水谷 英樹
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.69-78, 2013-09-30 (Released:2013-10-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3

近年,周術期口腔機能管理による全身合併症の予防効果が明らかになり,平成 24 年度から周術期口腔機能管理が保険診療報酬としても評価されるようになった。今回われわれは,周術期口腔機能管理(口腔管理)を行った患者における口腔内の特徴と,歯科的介入が肺炎予防に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,当院で平成 24 年の 1 年間に口腔管理を行った患者 196 名について後方視的に調査した。原疾患への治療法や実施した歯科処置の内容について調査し,依頼の 82% を占めた上部消化管外科,心臓血管外科・循環器内科,耳鼻咽喉科,血液内科の上位 4 科においては,診療科によって口腔内状況や歯科治療に差があるか統計的に分析した。また,上部消化管外科から口腔管理依頼のあった 35 例(口腔管理群)を対象に,口腔管理を行っていない上部消化管外科手術症例(非口腔管理群)129 名と比較して,術後肺炎発症に差があるか検討した。歯科処置に関しては,どの診療科の患者に対しても歯周処置が多く実施されていた一方で,抜歯,義歯への対応は,耳鼻科,心臓血管外科・循環器内科の患者で有意に高かった。上部消化管手術後の肺炎発症率は,非口腔管理群では 7.8%(10/129 例)であったが,口腔管理群では 5.7%(2/35 例)と統計学的に有意に低かった(p=0.04)。 以上の結果より,周術期口腔機能管理の対象者では,何らかの歯科的介入が必要であり,また,依頼元の診療科ごとに口腔内の問題や対応に特徴が現れることが示唆された。さらに,周術期口腔機能管理が全身合併症の予防に効果的であることが改めて示唆された。
著者
角 保徳 譽田 英喜 道脇 幸博 砂川 光宏 佐々木 俊明
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.337-341, 2003
被引用文献数
1

最近, 口腔の状態と種々の全身疾患との関連についての関心が高まりつつある。誤嚥性肺炎による要介護高齢者の障害や致死は高齢者の健康にとって主要な問題である。本研究の目的は, プラーク中微生物叢に検討を加え, 要介護高齢者に呼吸器疾患を引き起こしうる起炎菌の有無と存在する確率を調査・検討することである。研究方法と対象は, 要介護高齢者97名のプラーク中の微生物叢を培養法によって同定・評価した。その結果, 本研究で21種の微生物種がプラークより検出された。また, 97例中64例 (66%) に呼吸器疾患を引き起こしうる起炎菌がプラーク中に検出された。本研究の結果, 要介護高齢者のプラークに誤嚥性肺炎起炎菌が高率に存在することが明らかとなった。プラークが咽頭に対するいわゆる誤嚥性肺炎起炎菌のリザーバーとしての役割を果たしていることを示唆している。