著者
酒井 康行 EVEOU Fanny EVENOU Fanny
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究では,高酸素透過性かつ微細造形性に優れたポリジメティルシロキサン(PDMS)を用いて,細胞層を三次元的に培養しつつ背面から酸素を直接供給する培養基質表面を作成し,各種肝細胞の組織化と機能を検討した.これにより,細胞の三次元的な組織化と酸素・栄養素の供給とを静置培養にて簡便に両立する新たな肝細胞培養系の構築を目指した.増殖が可能な分化型肝細胞株Hep G2の場合では,酸素直接供給プレート上で細胞は自発的に5-6層まで重層化増殖し,縦断面の組織学的観察から細胞は密な三次元構造と立方体状の形態をとっていることが示された.また,単位細胞当たりで通常プレートの約20倍以上という高いアルブミン分泌能が観測された.本細胞については三次元ピラー構造の影響は少なく,劇的な効果は酸素直接供給に専ら拠るものであった.以上の結果はTissue Engineering C誌に投稿し,査読意見に従って改訂中である.一方成熟ラット肝細胞の場合には,三次元ピラー構造を持つ表面で酸素を直接供給することで,肝細胞が自発的に凝集体を形成し,三次元構造と高い機能とが観測された.三次元ピラー構造無しでは細胞は表面から容易に剥離した.また,酸素供給無しでは細胞は数日のうちに死に至った.酸素消費速度が高い肝細胞の培養については,通常プレートでの培養では圧倒的に酸素不足に陥っていることが指摘されていたが,実際にその制限を取り除いた場合に,細胞がどのような挙動を取るかを観測した例は皆無であった.以上の結果は,スクリーニング目的のための肝細胞培養において,簡便かつ多検体処理に適しているマイクロプレートフォーマットで,各ウェル内に最小限の三次元組織体を容易に形成できることを示しており,肝細胞を用いたプレートアッセイの改善に関する寄与は大きい.
著者
金野 満 酒井 康行
出版者
一般社団法人 日本燃焼学会
雑誌
日本燃焼学会誌 (ISSN:13471864)
巻号頁・発行日
vol.63, no.206, pp.316-323, 2021-11-15 (Released:2022-02-08)
参考文献数
33

Polyoxymethylene dimethyl ethers are a class of ethers with the molecular structure CH3(-O-CH2)n-O-CH3, called OME for short. Amid a growing global trend for a carbon neutral, OME has attracted the attention as a potential e-fuel for compression ignition engines because it has good ignitability and low-sooting tendency. In this article, the fuel property, the synthesis, the cost, chemical kinetic mechanisms and the effects of OME blends on engine performance are described based on the latest literatures, as well as the research on the spray characteristics made by the authors. The points are as follows: it is not feasible to use neat OME because the cost of OME synthesis is high with the current technology, but to use as diesel fuel additive that can greatly reduce PM emission. Without changing the fuel injection strategy from diesel fuel, the thermal efficiency is penalized with OME blends. The ignition delay and combustion duration decrease with the increasing of OME ratio in the diesel fuel blends. The thermal efficiency could be improved by optimizing the fuel injection parameters.
著者
三好 明 酒井 康行
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.1021-1026, 2017 (Released:2018-05-15)
参考文献数
36
被引用文献数
30

直鎖アルカン,分岐鎖アルカン,環状アルカン,芳香族,アルケンから構成される5 成分ガソリンサロゲート燃料を提案し,その詳細反応機構を構築した.その着火遅れ時間と層流火炎伝播速度の検証結果を紹介する.
著者
木村 啓志 酒井 康行 藤井 輝夫
出版者
日本膜学会
雑誌
(ISSN:03851036)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.304-309, 2009 (Released:2015-06-14)
被引用文献数
1 1

Conventional method of cell–based assays in life science and medical application can be difficult to duplicate in vivo situation. Microfluidics is an emerging technology with potential to provide integrated environments for cell maintenance, continuous perfusion, and monitoring. In this paper, we introduce possibility of microfluidics to become a novel cell–based assay system with its concept. Then, we show a chip–based coculture system for cytotoxicity test, as our continuous effort to develop a multi–functional micro culture system realized by integration of fluidic control and detection functionalities. The culture zone in the chip was divided into two compartments separated by a microporous membrane through which substances in culture medium can freely come-and-go to induce the mutual interactions between the cells cultured at each compartment. Performances of the chip were examined 1) monitoring of polarized transport activity of intestinal tissue models, 2) cytotoxicity model through oral intake by coculture. As a result, we conclude that microfluidics may have applications in toxicity test and drug screening.
著者
酒井 康行
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.395-399, 2019 (Released:2019-05-01)
参考文献数
9

新たなインビトロ細胞培養系としてマイクロフィジオロジカルシステムの研究開発が盛んに行われてきており,今や多様な形式が出揃った状況にある.今後,それらを学術面でも産業面でも広く利用していくための一助となることを期待して,中長期の人体影響評価の中での位置づけやインビトロ細胞培養系の生理学性向上における意義等をまとめ,今後の課題を明らかとしたい.
著者
北田 泰造 口田 征人 林 伸治 酒井 康行 川添 博光
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.253-259, 2016 (Released:2018-01-29)
参考文献数
14
被引用文献数
1

ディーゼル燃焼計算でパイロットやプレ噴射を行う場合,化学反応計算を使い燃料の低温酸化による発熱を考慮して着火遅れを計算する必要があるため計算負荷が高くなる.そこで,低温酸化反応を考慮すべき条件では化学反応計算を使い,不要な条件では計算負荷が低い化学平衡計算を使う高速化法を独自に開発した.
著者
酒井 康行
出版者
一般社団法人 日本燃焼学会
雑誌
日本燃焼学会誌 (ISSN:13471864)
巻号頁・発行日
vol.60, no.193, pp.191-198, 2018 (Released:2019-02-15)
参考文献数
23

Combustion simulation is a promising tool in many ways such as understanding the mechanism of ignition and extinction, engine design, emission prediction and control, and fuel development. Regarding the chemical kinetics mechanism for the oxidation of hydrocarbon fuels, there are many investigations on the elementary reaction process, and now we have detailed chemical kinetics models which quantitatively predict the ignition timing and laminar flame velocity for the representative components and their mixtures included in the natural gas, gasoline, diesel fuels, kerosene, and jet fuels. When we combine these large chemical kinetics models into fluid dynamic simulations, the computational cost inhibits the practical use. Thus, the need for the reduction of detailed chemical kinetics model is increasing. This article describes the concept of surrogate fuel which mimics the combustion properties of real fuels with few or several representative hydrocarbon components. Then, we see the mechanism reduction method briefly. Finally, we see the construction of simplified model for gasoline surrogate fuel which predicts the autoignition timing and laminar flame velocity under the temperature and pressure related to the internal combustion engines.
著者
酒井 康行 成瀬 勝俊 長島 郁雄 武藤 徹一郎 鈴木 基之
出版者
一般社団法人 日本人工臓器学会
雑誌
人工臓器 (ISSN:03000818)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.18-23, 1995-02-15
参考文献数
11
被引用文献数
2

体重10-15kgの肝不全ブタ用のハイブリッド型人工肝臓モジュールに必要とされる細胞数の1/4(2.5×10<sup>9</sup> cells)に相当する初代培養ブタ肝細胞スフェロイドを, 酸素供給用シリコンチュー・ブを装着した1-Lスケールのスピナーフラスコを用いて, 約1日で形成させることができた. このスフェロイドをディッシュレベルにおいて, さまざまな培養形態で10日まで培養した. スフェロイドをそのまま緩やかに浮遊培養(旋回培養)すると細胞数の減少が起こるが, 細胞当たりの機能発現は単層培養細胞の3-5倍であった. コラーゲンゲル包括スフェロイドは, 浮遊培養と比較して機能発現が低下する傾向にあった. 100%のブタまたはヒト血漿と直接接触させながら浮遊培養しても, スフェロイドのアンモニア除去能は合成培地中と比較しても, 全く低下が見られなかった.
著者
酒井 康行
出版者
一般社団法人 日本複合材料学会
雑誌
日本複合材料学会誌 (ISSN:03852563)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.171-176, 2003-09-15 (Released:2009-08-11)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1
著者
勝田 毅 小森 喜久夫 酒井 康行
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.116-121, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
41
被引用文献数
1

組織工学は, 医学・生物学・工学の知見を応用して一度損失するともとに戻らない組織・臓器を生体外で再構築することを目指す学際的な研究分野である.その基本となる方法論は, 鋳型となる足場素材に増殖能・分化能を有する細胞を接着させ, 細胞に分化・増殖を促すシグナルを与えることよって, 細胞から組織を再構築することである.その中でも, 組織再構築能に富んだ各種幹細胞・前駆細胞の分化・増殖制御は決定的ともいえる重要な技術である.本解説では, 例としてES細胞からの肝細胞分化誘導研究を紹介しながら, 「細胞へのシグナル」に焦点を当てて解説する.
著者
山田 健太 ジネ パトリック ボルツ セバスチャン モンターニュ ケビン 酒井 康行 フォーミー ドミニク ラジャブプール アリ 金 範埈
出版者
Institute of Industrial Science The University of Tokyo
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.345-349, 2011

インキュベーター内で細胞集団の培養と局所加熱が可能なマイクロヒーターデバイスをMEMSプロセスにより製作した.デバイス上の微小領域の温度を液中での蛍光温度計測と有限要素法による加熱シミュレーションにより比較し, 加えて, 赤外線熱顕微鏡によりその過度現象を計測した.細胞の加熱実験では, 細胞をデバイス上で培養し, 加熱を行った.その結果, 単一細胞レベルでの熱ショック応答の誘導の可能性に加え, これまで確認されていなかった細胞間コミュニケーションによる熱ショックタンパク質の発現についても確認する事が出来る可能性が示された.[本要旨はPDFには含まれない]
著者
山口 猛央 高羽 洋允 酒井 康行 中尾 真一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

生体膜ではイオンゲートが存在し、イオンシグナルが来たときにだけ細孔を開閉する。情報伝達シグナルにより細胞内外の特定イオンや物質の濃度を調節することが可能である。人工膜中にセンサー(包接ホスト)やアクチュエーター(環境応答ゲル)を組み合わせ、シグナルを認識したときにだけ細孔を高速に開閉する分子認識イオンゲート膜の開発に成功している。この膜はカリウムなど特定イオンが来たときにだけポリマー鎖が細孔内で膨潤し細孔を閉じる機能を有する。本研究では、この情報シグナル認識機能を人工代謝機能へと応用した新規なハイブリッド型人工臓器を提案する。情報認識膜の表面に細胞を成長させる。細胞の一部が死滅すると全体の細胞へ悪影響を与え(生体では炎症など)、機能を維持できない。多くの細胞はカリウムポンプにより細胞内でカリウム濃度が高い状態を維持している。通常、細胞内部でのカリウムイオン濃度は4000ppmであり、血漿中の濃度は200ppmである。細胞が死滅すると細胞膜が破壊されカリウムイオンが外部へ流れ出す。膜がこの情報物質を認識し死滅細胞近辺だけポリマー鎖が膨潤し親水化すると、死滅細胞近辺の細胞が表面から剥がれる。さらに膜細孔も閉じ細胞質は透過側へは流れでない。拡散によりカリウムイオン濃度が低下するとポリマー鎖は収縮し、初めの状態と同じように細胞が増殖し細胞組織を再構成する。これを繰り返すことにより、常に組織は新しい細胞と代謝され、長期間機能を維持する。生体においては、食細胞などにより細胞が消化され代謝が促進されているが、ここでは人工膜界面が細胞死の情報を認識し代謝する役割を担う。死細胞から放出されたカリウムイオンを膜が認識し、死細胞を選択的に系から除去できることを確認した。さらに、炎症性物資をも除去することにより、このシステムでは素早く細胞が復元されることも確認した。