著者
長岡 優 西田 究 青木 陽介 武尾 実 大倉 敬宏 吉川 慎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2011年1月の霧島山新燃岳の噴火に際し、地殻変動の圧力源が新燃岳の北西5km、深さ約8kmの位置に検出され、噴火に関わるマグマだまりであると考えられている(Nakao et al., 2013)。しかし、このマグマだまりを地震学的手法によってイメージングした研究例はまだない。マグマだまりの地震波速度構造を推定できれば、マグマ供給系に対して定量的な制約を与えられることが期待される。 本研究では、地震波干渉法により霧島山周辺の観測点間を伝播する表面波を用いて、マグマだまりの検出を試みた。地震波干渉法は脈動などのランダムな波動場の相互相関関数を計算することによって観測点間の地震波の伝播を抽出する手法である。相互相関関数は観測点間の速度構造に敏感であるため、地震波干渉法は局所的な構造推定に適している。 解析には、霧島山周辺の38観測点(東大地震研、京大火山研究センター、防災科研、気象庁)の3成分で記録された2011年4月~2013年12月の脈動記録を用いた。脈動記録の上下動成分どうしの相互相関関数を計算することにより観測点間を伝播するRayleigh波を、Transeverse成分どうしとRadial成分どうしの相互相関関数からLove波を抽出した。抽出された表面波の位相速度推定では、まず解析領域全体の平均的な1次元構造に対して分散曲線を測定し、次に各パスの位相速度を領域平均構造に対する速度異常として測定する、という2段階の手順を踏んだ。各パスの位相速度を用いて表面波位相速度トモグラフィーを行い(Rawlinson and Sambridge, 2005)、各グリッド点の位相速度から、S波速度構造(VSV, VSH構造)を線形化インバージョン(Tarantola and Valette, 1982)を用いて推定した。 海抜下4 km以浅の浅部では、VSV, VSH構造ともに標高に沿った基盤の盛り上がりに対応する高速度異常が見られた。VSV構造では、海抜下5 kmで霧島山の約5 km北西に強い低速度異常が現れ、海抜下10 kmにかけて深くなるにつれて、山体北西から山体直下にかけて広く低速度異常が見られたが、VSH構造ではこの低速度異常が現れず、radial anisotropyが確認された。2011年噴火の地殻変動源はこの低速度異常の北西上端に対応していることから、低速度異常は噴火に関わるマグマだまりであると推定される。さらに、この低速度異常の南東下端に当たる海抜下10 kmからさらに深部(海抜下25 kmまで)の山体下で低周波地震が発生している。以上を踏まえ、マグマは山体の真下からマグマだまり内へ供給され、北西の地殻変動源の位置を出口として浅部へ上昇する、という描像が得られた。 今後同様の手法を他の火山に適用し、マグマだまりやradial anisotropyの存在を系統的に調べることは、活動的火山のマグマ供給系を理解する上で重要だろう。
著者
武尾 実 大湊 隆雄 前野 深 篠原 雅尚 馬場 聖至 渡邉 篤志 市原 美恵 西田 究 金子 隆之 安田 敦 杉岡 裕子 浜野 洋三 多田 訓子 中野 俊 吉本 充宏 高木 朗充 長岡 優
出版者
海洋理工学会
雑誌
海洋理工学会誌 (ISSN:13412752)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.45-56, 2018 (Released:2018-08-30)
参考文献数
12

Nishinoshima is an andesitic stratovolcano located in Ogasawara Islands, Japan. In November 2013, island-forming eruption started. Before the eruption, Nishinoshima was a small island of the area of 0.29 km2 and elevation of 25 m but it had a huge edifice rising 3,000 m from the sea floor. By March 2016, area and elevation reached 2.7 km2 and 140 m, respectively. We conducted various types of geophysical observations at this “difficult-to-access island” (950 km from Tokyo taking 90 min by Jet plane, or 24 h by ship). In June 2016, we conducted airborne observations using unmanned helicopter, collecting 250 grams of scoria and detailed 4K images of lava flows. OBSs (Ocean Bottom Seismometers) were deployed around Nishinoshima in four periods. From February 2015 to May 2017, characteristic waveforms dominated at 4–8 Hz band were frequently observed. Comparisons with infrasonic records and video images revealed that the 4–8 Hz seismic signals were associated with eruptions at pyroclastic cone. The number of seismic signals of this type declined from July 2015, and disappeared in November 2015, suggesting that the eruptive activity started declining in July 2015 and ceased in the middle of November 2015. In October 2016, we landed and deployed a broadband seismometer and an infrasonic sensor in the old Nishinoshima, collecting a lot of new lava, deposits, and ash samples. We demonstrated a capacity of remote-island volcano monitoring system for one day test navigation circling around Nishinoshima. After one and a half year quiescence, a new eruptive phase started in April, 2017. Our on-land seismic sensor detected precursory signals as early as April 17. The seismometer also recorded characteristic waveforms during the very early stage of the new eruption phase before data transmission was terminated on April 21.
著者
林 大貴 長岡 優輝 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-24, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
17

メタノールはこれまで生活環境中の空気汚染物質として,あまり注目されてこなかったが,自動車用燃料や燃料電池の水素源として新たな用途が広がりつつあり,生活環境中にメタノールガスが拡散する可能性が指摘されている。二酸化マンガンは室温でホルムアルデヒドと反応し二酸化炭素を生成することから,空気清浄材料の成分として実用に供されている。この二酸化マンガンが常温でメタノールガスをホルムアルデヒドにまで酸化できれば,ホルムアルデヒドの酸化分解と同様に常温常圧下で二酸化炭素にまで無機化できる可能性がある。そこで本研究では,物性の異なる4種類の二酸化マンガン粒子とメタノールガスの反応性を密閉式試験で調べた。その結果,室温において試験容器内の気中メタノール濃度は著しく減衰し,その減衰速度は二酸化マンガン粒子の比表面積に依存的であった。同時に気中二酸化炭素濃度の有意な増加が観測され,二酸化炭素への転化率は結晶構造に関係した。また反応容器中に中間体として極微量のホルムアルデヒドおよびギ酸種の生成を認めた。このことから,二酸化マンガンがメタノールガスに対しても常温酸化分解活性を有することが明らかとなった。