著者
中道 治久 清水 厚 下村 誠 Syarifuddin Magfira 井口 正人
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1.はじめに 噴煙や火山灰の拡散範囲の把握にリモートセンシング技術が活用されている.例えば,桜島噴火では国交省現業レーダー(XRAIN)で噴煙が把握され(真木・他,2015), GNSSの搬送波位相データから噴煙高度推定が行われている(Ohta and Iguchi, 2015).噴煙高度10kmを超えるような噴火ではCAPILSO衛星搭載ライダーにより噴煙が把握され(Winker et al., 2012),地上のライダーネットワーク(例えば,EARLINET)にて国を超えての火山灰の広域拡散が把握されている(Ansmann et al., 2010).最近では噴火を対象に常時リモートセンシング観測が桜島を中心に行われており,昨年レーダーによる桜島と新燃岳の噴煙の観測結果を報告した(中道・他,2018).本講演では,2018年6月16日桜島南岳噴火のレーダーとライダーによる観測結果の比較と,2018年12月からの口永良部島噴火のレーダー観測結果を報告する.2.南九州の火山近傍のレーダー観測と桜島のライダー観測 エアロゾル観測によく用いられるミー散乱ライダー(以後,ライダー)は,レーザーを鉛直上向きに照射して対象物からの後方散乱光を観測する機器である.京都大学防災研究所は2014年11月末に2台のライダーを桜島島内に設置してから連続観測を実施している.また,南九州の主要な火山の近傍にXバンドマルチパラメータレーダー(以後,レーダー)を2017年8月に設置し,連続観測を実施している(中道・他,2018).現在,桜島および口永良部島についてはセクタRHIスキャンにてレーダー観測をしている.なお,桜島火山観測所にはライダーとレーダーの両方が設置されている.3.2018年6月18日桜島南岳噴火時の噴煙のレーダーとライダーの観測結果の比較 南岳山頂火口にて2018年6月16日午前7時19分に噴火が発生し,噴煙高度4700mと報告されている(気象庁HPを参照).この噴火では,火砕流が火口から南西方向に1.3 km流下した.映像から噴煙柱の下部から上部が西に風に流されてシフトしており,同時に火砕流の発生が見て取れた.レーダー反射強度分布から,噴火開始後1分内に噴煙は3,300mに達し,噴火開始後3分で5,000mに到達したことがわかった.また,同時に噴煙柱が西方向(観測所に近づく方向)へ1kmシフトしているのが確認できた.噴火開始5分後に火口直上から高度3,000mにかけて鉛直のレーダー反射強度の高まりが再度確認でき,これは2度目の噴火の噴煙に対応している.なお,噴火が短時間の間に2回あったのはディスドロメータ観測においても確認されている.ライダー観測においても噴火開始3分後に噴煙柱の西方向への移動に対応した変化が観測されており,レーザー視線方向で4.7 kmの距離に顕著な散乱ピークが見られ,レーダー反射強度の高まりと対応がよい.噴火開始8分後にはレーダー反射強度から噴煙が観測所から距離4kmのところにあると認識できたが,ライダーでは観測所から距離3.3 kmに散乱ピークが見られた.噴火開始から15分後ではレーダー反射強度に噴煙に対応する強度変化は見られなかったが,ライダーでは距離2km未満にて散乱強度の高まりが有意にあり,その高まりは時間が経過するにしたがって,距離が縮まり距離1km程度になり,20分以上継続して存在した.レーダーでは認識できないような,より微細な粒子が大気中に存在してもライダーでは検知可能であることを反映しており,火山灰が拡散して希薄になっているが,風に流されて移動していることが明らかになった.4.2018年12月以降の口永良部島噴火時の噴煙のレーダー観測結果 2018年12月18日,2019年1月17日,1月29日の噴火の噴煙に対応したレーダー反射強度の高まりを確認できた.12月28日の噴火の1分後にはレーダー反射強度から噴煙は3,000 mに上昇し,噴火開始3分後には最高噴煙高度5,000mに達したことがわかった.1月17日の噴火では,レーダー反射強度から噴火開始2分後には最高噴煙高度4,000 mに達したことがわかった.1月29日の噴火では,レーダー反射強度から噴火開始2分後に噴煙高度3,000 mに達し,5分後に4,000mに達したが,それ以上は上がらなかった.
著者
井口 正人 為栗 健 平林 順一 中道 治久
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.33-51, 2019-06-30 (Released:2019-07-06)
参考文献数
50

In order to find an empirical event branch logic from abnormal phenomena to following volcanic activity for forecasting scale and type of eruption, the magma intrusion rate prior to eruptions of Sakurajima volcano is examined using ground deformation mostly from observation data and partially based on legends, for eruptions after the 20th century: the 1914 eruption starting with plinian eruption followed by effusion of lava, the 1946 eruptions with lava effusion, eruptions at the summit crater of Minamidake during the period from 1955 to 2005, and vulcanian eruptions at Showa crater east of the summit from 2006 to 2017. Prior to the 1914 eruption, it is estimated that the magma intrusion rate attained a level of approximately 108m3/day and was on the order of 106m3/day during the effusion of lava in the 1946 eruption. During the eruptive period of Minamidake summit crater, three types of eruption occurred: vulcanian eruption, strombolian/lava fountain and continuous emission of volcanic ash. In cases of intrusion of magma forming a new conduit, the intrusion rate immediately before the 1914 eruption exceeded 108m3/day, but only 106m3/day in the dyke-forming event of August 15, 2015. Magma intrusion rate into a pre-existing conduit prior to eruptions at Minamidake summit crater are ordered as follows: vulcanian eruption (1×105 to 8×105m3/day)>continuous emission of volcanic ash (approximately 1×105m3/day)>strombolian/lava fountain (0.2×105 to 2×105m3/day). The magma intrusion rate prior to vulcanian eruptions at Showa crater is smaller (approximately 104m3/day) than for eruptions at Minamidake summit crater. However, the rate reached an order of 105m3/day prior to lava fountain on August 22, 2017. Magma intrusion rates well correspond to the scale and type of eruption. In the case of magma intrusion under detection, the change of volcanic gas and increase in the heat discharge rate are available for the empirical event branch logic.
著者
為栗 健 井口 正人 真木 雅之 中道 治久 味喜 大介
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

桜島火山では1955年以降、山頂火口においてブルカノ式と呼ばれる爆発的噴火を繰り返している。東側山腹の昭和火口では2006年に58年ぶりに噴火が再開し、2009年以降は特に噴火活動が活発化していた。2018年以降は昭和火口から南岳山頂火口に噴火活動が再度移行している。爆発的噴火の特徴として、火山弾の放出、衝撃波の発生、急激な火山灰や火山ガスの放出が上げられる。他にも、頻度は少ないものの南岳山頂火口や昭和火口の爆発的噴火では小規模な火砕流の発生が上げられる。火砕流は高温の火砕物や火山ガスが山腹斜面を高速で流れ下るもので、火山噴火の中で最も危険な現象の一つであり、火山防災上、その発生予測は必要不可欠である。1967年以降~1985年の間に南岳山頂火口における噴火に伴い7回の火砕流が確認されている(加茂・石原,1986)。さらに、気象庁によると2006年~2014年に昭和火口の噴火に伴い37回の火砕流発生が報告されている。いずれの火砕流も流下距離は2km未満で小規模なものであった。活発な噴火活動を続ける桜島であるが、火砕流はすべての噴火に伴うわけではなく、同規模の噴火でも火砕流が発生しない場合が多く、桜島における火砕流発生メカニズムの解明には至っていない。今後、噴火活動が活発化した際には大規模な火砕流の発生も考慮する必要があり、火砕流を伴う噴火の発生メカニズムの解明と噴火の前兆現象から火砕流が発生した場合の規模予測をすることが重要である。本研究では2012年~2018年に昭和火口で発生した火砕流、および2018年6月16日に南岳山頂火口において発生した爆発的噴火に伴う火砕流について前兆地震活動や地盤変動データの特徴を明らかにする。また、観測される前兆地震や地盤変動から火砕流が発生した場合の流下予測が可能かについて検証を行う。6月16日に発生した南岳山頂火口における爆発的噴火では噴煙高度4700mに達した。噴石が6合目まで飛散し、火砕流が南西方向に1.3 km流下した。噴火の発生約18時間前から地盤の膨張が観測されていた。噴火の1時間ほど前から散発的に前駆地震が発生していたが、昭和火口の噴火の際に観測される前駆地震と比較するとあまり明瞭な群発活動ではなかった。噴火時の映像から火砕流は噴煙が上昇し始めた約1分後に噴煙柱の根元から降下した噴出物が斜面に流れ下って発生していたことが分かる。火砕流は噴火と同時に発生しているわけではなく、これは南岳活動期に発生していた火砕流と同じ特徴を持っている(加茂・石原,1986)。噴火による地盤変動の収縮量から噴出物量は28万m3と推定される。それら噴出物の全てが火砕流となるわけではなく、火山灰として飛散していくものもある。地盤変動の膨張量から噴火による噴出物量の予測は可能であるが、火砕流の流下予測を行うためには斜面を流下する噴出物量を推定する必要がある。気象レーダーを使用した空中に放出された火山灰量の測定や降下火山灰の実測値などから火砕流となった噴出物量の推定を行うことが可能である。これにより前兆現象である地盤膨張量から火砕流発生時の最大流下距離の予測を行う。
著者
清水 洋 松本 聡 酒井 慎一 岡田 知己 渡辺 俊樹 飯尾 能久 相澤 広記 松島 健 高橋 浩晃 中尾 茂 鈴木 康弘 後藤 秀昭 大倉 敬宏 山本 希 中道 治久 山中 浩明 神野 達夫 三宅 弘恵 纐纈 一起 浅野 公之 松島 信一 福岡 浩 若井 明彦 大井 昌弘 田村 圭子 木村 玲欧 井ノ口 宗成 前原 喜彦 赤星 朋比古 宇津木 充 上嶋 誠 王 功輝 ハザリカ ヘマンタ 矢田 俊文 高橋 和雄
出版者
九州大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2016-04-22

2016年熊本地震について、地震活動や地殻変動、活断層、火山活動への影響、地震災害の特徴などを調査した。その結果、熊本地震は布田川・日奈久断層帯の右横ずれ運動によって発生したが、複数の断層面と複雑な断層形状を持つことを明らかにした。また、建物被害や土砂災害の地盤との関係、特に、地盤の過剰間隙水圧が地すべりの発生要因であることを明らかにした。さらに、災害情報や災害過程、被災救援、エコノミークラス症候群などについての調査から、広域複合災害の問題点と対応策を提示した。
著者
中道 治久
雑誌
京都大学アカデミックデイ2014 : ポスター/展示
巻号頁・発行日
2014-09-28

京都大学アカデミックデイ2014 「みんなで対話する京都大学の日」[日時]2014年9月28日(日)10:00-16:00, [場所]京都大学百周年時計台記念館
著者
宮町 宏樹 泊 知里 八木原 寛 井口 正人 為栗 健 山本 圭吾 大倉 敬宏 安藤 隆志 尾西 恭亮 清水 洋 山下 裕亮 中道 治久 山脇 輝夫 及川 純 植木 貞人 筒井 智樹 森 済 西田 誠 平松 秀行 小枝 智幸 増田 与志郎 加藤 幸司 畠山 謙吾 小林 哲夫
出版者
特定非営利活動法人日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.227-237, 2013-03-29

2008年に実施された屈折法地震探査によって得られたP波初動走時により,姶良カルデラおよび桜島火山の深さ3kmまでの速度構造を推定した.本研究地域の基盤層である四万十層群は4.6-5.0km/sのP波速度を持ち,姶良カルデラの中央部に向け傾斜している.姶良カルデラの中央部には,4.2-4.4km/sの低速度域が深さ1.5-3kmに存在している.そして,この低速度域はカルデラ下に存在する深部マグマ溜まりからのマグマ供給系が活発であることを示唆している.また,基盤層は鹿児島地溝帯の北西域の境界に沿って深さ1kmから2.5kmに急激に落ち込んでいることがわかった.桜島火山の速度構造は3.6-3.7km/sの領域が存在することで特徴づけられる.桜島火山の山頂直下で発生している火山性地震の震源域と速度構造の比較から,地下構造が種々の火山性地震の震源域の広がりに強い影響を与えていることを示した.
著者
鍵山 恒臣 筒井 智樹 三ヶ田 均 森田 裕一 松島 健 井口 正人 及川 純 山岡 耕春 熊谷 博之 西村 裕一 宮町 宏樹 渡辺 了 西村 太志 高木 朗充 山本 圭吾 浜口 博之 岡田 弘 前川 徳光 大島 弘光 植木 貞人 橋本 恵一 仁田 交一 茂原 諭 中道 治久 汐見 勝彦 中原 恒 青木 重樹 青地 秀雄 井田 喜明
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2/4, pp.33-60, 1996-03-15

In recent years, investigations on the structures of volcanoes have been noteworthy for further understanding volcanic processes, including locations of magma reservoirs, magma rising process before eruptions and causes of related phenomena. In 1994, a joint experiment was conducted on Kirishima Volcanoes, Southern Kyushu, to reveal the structure and the magma supply system by a group of scientists from national universities under the National Research Project for the Prediction of Volcanic Eruptions. The experiment was carried out by seismological, electromagnetic and other geophysical methods. The following seven papers including this one present some results of the experiments. This paper outlines a seismic explosion experiment in Kirishima, and presents all data on the first motion. An extensive explosion seismic experiment was conducted on December 1, 1994. Observations were made along a 30-km major line lying in the NNW-SSE direction and other sub-lines which cross the major line in and around the Kirishima Volcanoes. Along these lines, 6 shots with a charge size of 200-250 kg, and 163 temporary observations were arranged by many universities and institutes. A newly developed data logger was used for these temporal observations, and the position of each site was determined by GPS. All 6 shots were successfully fired, and clear onset and significant phases were observed at most observation sites. A travel time diagram suggests that a high velocity layer crops out south of the Kirishima Volcanoes, while in the Kirishima Volcanoes, this layer is covered with a lower velocity layer, which is thick at the northern part. It is also suggested that a structural discontinuity exists between S3 and S4.
著者
中道 治久
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

御嶽山では2007年3月下旬に小噴火がおこった.小噴火に至るまでの山頂直下の地震活動を調べ,山頂直下地震は深さ0.5-2.0 kmで発生していたことが分かった.また,御嶽山にて発生した超長周期地震をモーメントテンソル・インバージョン解析した.その結果,超長周期地震の震源は山頂直下の海抜上600 mに決まり,そのメカニズムは傾斜した開口クラックであった.そして,マグマ貫入により地下水が急激に熱せられたことによって,超長周期地震が発生したと考察した.さらに,2007年3月の小噴火前後のS波偏向異方性の時空間変化を調べたが,マグマの貫入に伴う応力場変化は検出出来なかった.