著者
長谷川 和子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.41-44, 2007-04-30 (Released:2011-04-13)
参考文献数
8

ディサースリアについて,その動態・背景となる運動制御機構・介入の視点を概説した.発話明瞭度の改善のためには,明瞭度の低下をもたらしている発話の動態を解析し,その自動的な運動遂行過程へ介入する必要がある.その過程は知覚情報を能動的に識別するなかで遂行されるので,構音訓練のなかで適切な知覚情報をもたらし運動そのものに介入することが必要である.対象者のレベルによっては発話に必要な運動要素を実現するために対象活動の利用や徒手的な調整が行われる.医療におけるリハビリテーションの短縮化のなかで,医療と介護,他職種との連携の必要性とともに,STの専門性をさらに高め効果的で効率のよい治療を行うことが求められていると考える.
著者
平井 昂宏 貝沼 関志 林 智子 長谷川 和子 青山 正 水野 祥子 鈴木 章悟 西脇 公俊
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.647-650, 2016-11-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

プロポフォール注入症候群(propofol infusion syndrome, PRIS)は,プロポフォール使用中に横紋筋融解,急性腎傷害(acute kidney injury, AKI),乳酸アシドーシス,脂質異常症などを来す症候群である。早期にPRISを疑いプロポフォール中止によって救命できた一例を経験した。症例は44歳の男性,スタンフォードA型大動脈解離に対して弓部置換術を行った。術後にプロポフォールを用いて鎮静を行っていたところ,血液生化学検査でCKが15,247 IU/lまで上昇し,AKI,乳酸アシドーシスを認めたためにPRISを強く疑った。プロポフォールの投与中止によりCKは速やかに減少し,AKI,乳酸アシドーシスも改善した。後に撮影されたCTで大腿から臀部の筋内に高吸収域を認め,横紋筋融解後の変化があった。プロポフォールの長期投与中はCK,pH,乳酸値などを定期的にモニタリングし,PRISを疑った場合は早期に他の鎮静薬への変更が必要であると考えられた。
著者
白浜 龍興 大庭 健一 岸本 幸次 山田 省一 佐藤 亮五 中野 真 加藤 雅士 古川 一雄 長谷川 和子 村越 明子 箱崎 幸也 真方 良彦 中川 克也
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.881-890_1, 1988

著者らは昭和53年より厳しい環境の下で行われる,いわゆるレンジャー訓練の前後に上部消化管内視鏡検査を施行し,上部消化管に急性病変が認められることを経験している.9年間のレンジャー訓練生421名中,胃潰瘍36例(8.5%),十二指腸潰瘍25例(5.9%),胃十二指腸潰瘍5例(1.2%)を認めた,これらのうち急性胃潰瘍41例(5例は十二指腸潰瘍と併存)について検討した.単発30例(73.2%),多発11例(26.8%)で62病変であった.62病変のうち胃角小彎に29病変(46.8%)が認められた.内視鏡的経過観察をみると治癒に8週以上を要した治癒遷延例は6例(14.5%)で胃角小彎の潰瘍が4例,胃角部と胃体部の多発性潰瘍1例,胃角部から胃体部の帯状潰瘍が1例であった.この6例中4例が再発(同部位再発,再発誘因は演習)し,うち2例が慢性潰瘍化したと考えられた.
著者
福迫 陽子 遠藤 教子 紺野 加奈江 長谷川 和子 辰巳 格 正木 信夫 河村 満 塩田 純一 廣瀬 肇
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.209-217, 1990
被引用文献数
2 2

脳血管障害後の痙性麻痺性構音障害患者のうち, 2ヵ月以上言語訓練をうけた24例 (平均年齢61.6歳) の言語訓練後の話しことばの変化を聴覚印象法 (日本音声言語医学会検査法検討委員会による基準) を用いて評価し, 以下の結果を得た.<BR>(1) 0.5以上の評価点の低下 (改善) が認められた上位7項目は, 順に「明瞭度」「母音の誤り」「子音の誤り」「異常度」「発話の程度―遅い」「段々小さくなる」「抑揚に乏しい」であった.<BR>(2) 重症度 (異常度+明瞭度の和) は24例中16例, 約7割に何らかの改善が認められた.<BR>(3) 一方, 「音・音節がバラバラに聞こえる」「努力性」「速さの程度―遅い」などでは評価点の上昇 (悪化) も認められた.<BR>(4) 症状の変化は症例によって多様であった.
著者
長谷川 和子
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学社会文化学部論集 (ISSN:13462113)
巻号頁・発行日
no.2, pp.97-105, 2001

チョーサー作『カンターベリー物語』中のバースの奥方による前口上に現れる彼女の人間像は,中世文学に描かれた女性の中で最も生き生きとして,肉体的にも精神的にも強く逞しい女性に見える。彼女は腕に業を持って経済的に自立しており,フェミニズムの先駆者のようでもあり,イヴに代表される男を堕落させる悪い女のようにも描かれ,その言動の過激さ,下品さ,身勝手さ,元気さ,大胆さ,陽気さが目に付く。本稿では次の事を明らかにする。チョーサーは彼女の語りの中に明らかな逆転の図式を幾つも積み上げる。例えば彼女が語りを始める前に「わたしが勝手気侭にしゃべっても,みんな冗認でいうのですから気を悪くしないで聞いて下さい」と話の信憑性を自らあやふやにしている。そして話が実際に始まると「みなさん,これから正真正銘,本当のことを話しましょう」と話の信憑性を主張する。そして五人の夫を,「この五人の夫は,それぞれ身分が違っていましたが,みな立派な男でした」と紹介するが,個々の人物の説明になると,はっきりと三人中二人は「悪いやつでした」と評価が逆転する。残りの三人の「立派さ」も,逆転的「立派さ」であることは,「おいぼれさん,この老いぼれ野郎め,おまえのような悪党,この悪党め」と彼女が夫を軽蔑的に呼ぶ事に明らかである。彼女の話の数々に逆転が用意されている。そして最後の逆転だけを表現せず聴衆の類推の中で,逆転を完成させる。そうする事によって,奥方の表面上の陽気さや強がりの下に隠れた彼女の悲しみを描いた。その悲しみとは,夫から妻として"尊敬されて"愛されないというものである。中世の女性は公然と尊敬に基づいた愛など夫に要求できなかった。チョーサーはこの口に出せない妻の主張を言葉で表現せずに類推を誘導する形で表現した。