著者
森田 愛子 髙橋 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.12-25, 2019-03-30 (Released:2019-12-14)
参考文献数
37
被引用文献数
3 1

本研究の目的は,文章の読解時に,音声化と内声化が文章理解や眼球運動にどのような影響を及ぼすかを検討することであった。黙読時に内声化を行う程度の個人差により,文章理解や眼球運動が異なるかを併せて検討した。実験1では,大学生24名に文章を読ませ,文章内容問題と逐語記憶問題に解答させた。音読,黙読,すべてを内声化する黙読(内声化強制),なるべく内声化しない黙読(内声化抑制)の4条件を設けた。内声化強制条件と内声化抑制条件を比較した結果,内声化によって逐語的な情報を保持しやすくなることが明らかになった。実験2では,大学生23名に,逐語記憶問題を課さずに同様の実験を行った結果,内声化を抑制すると文章内容問題の成績が低下し,内声化が文章理解に寄与することが示唆された。ただし,通常の黙読時に内声化を多く行う者とあまり行わない者に分けて成績や眼球運動のパターンを比較したところ,内声化をあまり行わない者の場合,内声化を抑制しても文章内容問題の成績の低下が比較的小さかった。また,このような読み手は内声化を多く行う者より黙読時の理解成績が高く,黙読時に視線を自由に動かす読み方を有効に利用できていることが示唆された。
著者
寺尾 尚大 髙橋 麻衣子 清河 幸子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.89.17312, (Released:2018-11-15)
参考文献数
21

When reading orally, we produce the auditory information of the text through articulatory movements. We investigated the roles of articulatory movements and speech feedback in Japanese text comprehension. Previous studies of Japanese sentence comprehension showed that articulatory movements provide a function to retain word order information and that speech feedback facilitates complementary information processing. We predicted an effect of articulatory movements on verbatim memory and a limited influence of speech feedback on passage comprehension. Twenty-four undergraduates were asked to read 12 Japanese passages with or without articulatory movements and speech feedback. They then performed two types of tasks: verbatim memory and passage comprehension. The results showed that verbatim memory task performance improved with articulatory movements, whereas speech feedback had little effect on either task performance. We concluded that articulatory movements support the memory process and that speech feedback has little contribution to text memory and comprehension among adult readers.
著者
髙橋 麻衣子 片岡 史絵 田中 章浩
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.124, 2016 (Released:2016-10-17)

音楽を聴きながら,電車に乗りながら等,我々は背景に無関連な音が提示されている中で読書をする場合がある。本研究は,このような背景音の種類によって小説の読解成績がどのように異なるのかを検討することを目的としたものである。24名の参加者に,歌詞あり音楽,歌詞なし音楽,歌詞朗読,無音の4条件の背景音提示下で小説から抜粋した300字程度の文章を読ませ,主観的な理解度の評定と内容の要約,登場人物についての記述の作成を求めた。その結果,歌詞朗読条件の主観的理解度や文章要約の質が,他の3条件のものより低いことが明らかとなった。登場人物の記述の成績は条件間で差がなかった。さらに,読解活動中の参加者の視線を計測して分析したところ,歌詞朗読条件の読解中の注視時間と注視回数が他の3条件よりも多いことが示された。以上の結果から,小説の読解時には音楽にのせていない意味のある音声の提示が読解を妨害することが考えられた。
著者
村上 圭秀 髙 真守 髙橋 麻衣子 伊東 秀文
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.687-691, 2021 (Released:2021-10-28)
参考文献数
30

症例は77歳女性.2~3日の経過で起立性低血圧,尿閉,便秘が出現した.入院時,立位にて失神を伴う起立性低血圧,瞳孔散大,対光反射減弱を認め,その他神経学的に異常を認めず.ノルエピネフリン(NE)負荷試験とピロカルピン点眼試験で過敏反応,血中NE低値,定量的軸索反射性発汗試験で発汗低下を認め,自律神経節後線維の障害を考えた.抗自律神経節アセチルコリン受容体抗体陽性で,自己免疫性自律神経節障害(autoimmune autonomic ganglionopathy,以下AAGと略記)と診断した.免疫グロブリン大量静注療法(intravenous high-dose immunoglobulin therapy,以下IVIgと略記)で立位可能となり,便秘と尿閉も改善した.AAGに対する免疫治療の反応性は様々であるが,急性発症AAGではIVIgが奏効しやすい可能性が示唆された.
著者
寺尾 尚大 髙橋 麻衣子 清河 幸子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.618-624, 2018

<p>When reading orally, we produce the auditory information of the text through articulatory movements. We investigated the roles of articulatory movements and speech feedback in Japanese text comprehension. Previous studies of Japanese sentence comprehension showed that articulatory movements provide a function to retain word order information and that speech feedback facilitates complementary information processing. We predicted an effect of articulatory movements on verbatim memory and a limited influence of speech feedback on passage comprehension. Twenty-four undergraduates were asked to read 12 Japanese passages with or without articulatory movements and speech feedback. They then performed two types of tasks: verbatim memory and passage comprehension. The results showed that verbatim memory task performance improved with articulatory movements, whereas speech feedback had little effect on either task performance. We concluded that articulatory movements support the memory process and that speech feedback has little contribution to text memory and comprehension among adult readers.</p>
著者
髙橋 麻衣子 (2013-2015) 高橋 麻衣子 (2012)
出版者
東京女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の大きな目的は,児童・生徒の学習効率を最大限に引き上げる視聴覚メディアの在り方についての基礎的知見を提供することである。今年度も昨年度に引き続き,文字情報だけでなく音声や表情といった付加的な情報を同時に提示できる視聴覚メディアの在り方を提案すべく2つの実証研究を行なった。研究1では,視覚的な文字情報にそれを読み上げた音声情報を付与することが読解行動と理解成績に与える影響を検討した。36名の成人の参加者に,視覚的な情報のみ提示する黙読条件,音声情報を付与する音読条件と読み聞かせ条件の3つの条件下で説明的文章を読ませ,読解中の眼球運動と読解成績を測定した。その結果,黙読条件の読解成績が最も高いことが示され,成人の読み手にとっては文字情報に付与された音声情報が理解を妨げる可能性があることが指摘された。さらに各条件での読解活動中の眼球運動を分析したところ,文章読解中の視線の停留回数や停留時間は黙読条件で最も少なく,音読条件で最も多いこと,読み聞かせ条件の眼球運動は黙読条件のものに類似していることが示された。これらの結果は,成人の読み手は文字に音声情報が付与されていても,視覚的な文字情報をメインに処理して読解を行なっていることを示唆している。読みに熟達すると読み上げ音声が邪魔になる可能性があり,電子教科書の音声読み上げ機能は使用者の読解能力によって調整できるようにする必要があることが提案できた。研究2では,文字の音声情報だけでなくそれを読み上げる話者の表情動画を付与した場合,発話内容の理解にどのような影響があるのかを検討した。36名の成人を対象とした実験の結果,発話者の声の感情よりも表情そのものが受け手の理解に寄与することが示され,インターネットを介した会議などでの話者の顔の表示がコミュニケーションを円滑にする可能性が示された。