- 著者
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鶴田 格
- 出版者
- Japan Association for African Studies
- 雑誌
- アフリカ研究 (ISSN:00654140)
- 巻号頁・発行日
- vol.2002, no.60, pp.53-63, 2002-03-31 (Released:2010-04-30)
- 参考文献数
- 18
タンザニア本土部で長く人気を保ってきたダンス音楽を演奏する「ジャズ・バンド」は, 地域における長期的な文化動態とつねに密接に関連しながら発展してきた。植民地期に都市部に叢生した初期ジャズ・バンドは, 19世紀半ば以来の沿岸スワヒリ文化の内陸への浸透と, その基盤のもとに20世紀初頭に進展したダンス結社 (beni ngoma) の全国的展開を踏まえて, 各都市の住民による社交クラブとして発展したものである。この「ジャズ・クラブ」は, beni ngoma 結社と同様に, 相互扶助的色彩をもつ超民族的な組織として形成され, 都市コミュニティーの内部では集団間のライバル関係の表現手段となるとともに, 外部においては他都市のクラブとのネットワークを形成した。独立後の社会主義政権による政治経済機構の一元化は, 党や軍隊などの政府系機関や公社公団に所属する多数の「公営バンド」を生みだした。公営バンドは, 国営ラジオ放送を通して愛国的な歌を流すとともに, 所属機関の宣伝や国家の政治キャンペーンに頻繁に動員され, 1970年代のジャズ・バンドの主流を形成した。こうした歴史的経緯により, 1980年代以降政治経済の自由化が進展し, 商業的な音楽活動の中心が民間部門へと移行した現在でも, 一部の公営バンドは, いまだに従前の国民的な人気バンドとしての地位を保っている。