著者
栗田 尚弥
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9, pp.185-232, 2015-03

本稿は、幕末の海防論者であり、陽明学者である平戸藩士葉山佐内の思想について分析するとともに、その思想の吉田松陰への影響について論じたものである。著者は、海防論、対外観、陽明学(王陽明および大塩平八郎)に視点を置いて佐内の思想を見るとともに、「西洋兵学への開眼」、「対外観の変化」、「民政の重視」、「陽明学との邂逅」の四点について、佐内の思想が松陰に与えた影響について論じている。これまで、平戸留学が吉田松陰の思想に大きな影響を及ぼしたということはしばしば論じられたきたが、葉山佐内との関係性において論じられたものはほとんどなく、佐内自体の研究も極めて少なかった。本稿は、佐内の思想の持つ合理性、脱中華思想性、平等性を論証するとともに、この思想を受容することによって、松陰が単なる伝統的兵学者から「思想家」へと脱皮したことを明らかにした。
著者
谷口 洋幸
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.116, no.3, pp.523-548, 2009-09
著者
斎藤 元秀
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.7, pp.383-410, 2017-01-16

二〇一四年三月、ロシアがウクライナのクリミア半島を併合し、国際社会の厳しい批判をよんだ。米国がロシアに対して厳しい経済制裁を実施した結果、米露関係は悪化し、一九七三年以来最悪の状態にある。しかし、中国は巧妙に立ち回り、ロシアとの友好関係の維持に努めている。 ウクライナ危機については、リチャード・サクワ、アンドリュー・ウイルソン、ラジャン・メノン、ユージン・ルマーの研究をはじめ、これまでさまざまな分析がなされている。しかし、断片的な分析はあるものの、中露関係の文脈でクリミア危機を体系的に考察した研究はほとんど見当たらない。 本稿で明らかにしたいのは、次の諸点である。⑴ロシアはウクライナをどのように位置づけているか、⑵中国にとってウクライナの重要性とは何か、⑶プーチン大統領はなぜクリミア併合(編入)を決意し、いかなるプロセスを経てクリミア併合作戦を実施したのか、⑷中国はクリミア併合をどのように考え、クリミア併合後、中露関係はどのように展開したのか、⑸予見しうる将来における中露関係の展望はどうか。
著者
新田 秀樹
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.1-30, 2016-03

本稿は、障がい者制度改革推進会議総合福祉部会が取りまとめた骨格提言(障害者総合福祉法)と実際に成立した障害者総合支援法の異同を確認・評価した上で、法の目的・理念に係る規定が障害者自立支援法から総合支援法に至る改正経緯の中でどのような変遷を辿ったかを明らかにすることを通じて、今後の障害者福祉領域の立法政策の在り方を検討するに当たっての示唆を得ることを目的とする。得られた示唆は次のとおりである。 第一に、総合福祉部会が骨格提言を取りまとめるまでのプロセスは、当事者たる障害者の代表も参加した議論を経ての意見の積み上げ・集約方式による法改正の手法として、今後目指すべき望ましい法改正の一つの在り方の先例になり得る。 第二に、今回の総合支援法の制定プロセスにおいても、国は、給付の「権利化」には、そのことにより財源的保障を求められやすくなることを恐れて、極めて慎重であることが、改めて確認できた。 第三に、在るべき障害者福祉法制を目指して、二〇一二年改正の成果である目的規定の深化や基本理念の明示を、今後の障害者福祉施策の展開や次の法改正の方向性を領導するための指針として活用することを考える必要がある。
著者
崔 長根
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9・10, pp.259-287, 2015-03-10

本研究は、独島の名称が朝鮮初中期の「于山島」から一九〇〇年の勅令四一号の「石島」に変更された経緯について考察したものである。「勅令四一号」をもって「鬱陵全島、竹島、石島」鬱陵郡の管轄区域として行政措置がなされていた。ここで「石島」は今の独島のことをいう。しかし実際に古文献、古地図によると、朝鮮初期・中期は現在の独島を于山島と表した。ところが、朝鮮後期に入ると、「于山」という名称がどの島を指すのかという混乱を経験した。その過程を経て、日本人の不法的東海渡航が領土的主権侵害を憂慮して勅令四一号をもって領土を保全する措置を取った。その際に現在の「デッソム」は「竹島」という名称で完全に定着していた。また、今の観音島は「島項」という名称で定着していた。それから、今の独島は鬱島郡の行政名称では「独島」、中央政府の官撰の名称では「石島」として固着していた。これらのことから朝鮮初期の「于山島」が中期・後期には誤って「デッソム」のことを指したりしたが、最終的に朝鮮の朝廷が勅令四一号をもって問題の「于山島」という名称を完全に抛棄して「島」としたのである。その後日本が「竹島」という名称で編入措置を取った後、韓国はそれを否定した。
著者
秦 公正
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3-4, pp.105-129, 2016-08-30

共有物分割の訴えにおいて全面的価格賠償の方法による分割を認めた最判平成八年一〇月三一日民集五〇巻九号二五六三頁の登場から二〇年が経過しようとしている。その後の裁判例は、全面的価格賠償の方法による分割を命じる場合に、持分にかわる賠償金の支払いを確保する観点から裁判所の裁量による多様な判決を認めるに至った。具体的には、当事者の申立て(訴え)なしで、現物取得者に賠償金の支払いを命じるもの、持分の移転と賠償金の支払いとの引換給付を命じるもの、あるいは、賠償金の支払いを条件に現物の単独所有を命じるものなどである。本研究は、共有物分割の訴えにおいて全面的価格賠償の方法による分割が問題となった近時の裁判例を整理して、その動向を明らかにすることを目的とする。
著者
中西 又三
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9, pp.381-440, 2015-03

1 はじめに 学校教育法・国立学校法人法一部改正法の制定過程の概略等及び本稿の論述の範囲を記す。2 学校教育法等の改正 改正の内容及び改正の理由を項目的に整理した。3 学校教育法等改正の問題点 次の問題点を指摘した。(1)教授会を学長に対して「意見を述べる機関」とし、その意見が学長を拘束しないとする文科省の見解は理由がない。(2)教授会が「意見を述べる」事項の限定は、教授会権限等の歴史的沿革からして「大学の自治」=教授会自治に適合しない。(3)法定ないし学長が定めた意見聴取事項以外の事項に関する教授会の意見提出について学長の取扱いに問題がある。(4)学校教育法施行規則一四四条の削除は学生事項に関する教授会権限の削減という側面がある。(5)副学長の執行機関化については検討すべき問題がある。(6)内規の総点検・見直し 文科省の求める内容方法に疑問がある。4 国立大学法人法の改正の概略と問題点 組織の特色を概観した後(1)経営協議会の外部委員の増員、(2)教育研究評議会の委員に執行機能をもった副学長がなること、(3)学長選考方法の変更(学長選考会議による選考基準の設定、選考過程の透明性の要求)が持つ問題点を指摘した。5 まとめ 今次改正は大学の自治に棹さすものであるが、学問の自由・ 大学の自治は引き続き追求されるべきである。
著者
木村 光江
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.11, pp.239-268, 2015-03

本稿は、イギリス二〇〇七年重大犯罪法第二編(The Seirious Crime Act 2007, Part 2)の共犯規定について検討を加えたものである。同法は、コモン・ローの独立教唆罪を廃止し、未完成犯罪としての教唆・幇助を処罰するものであり、アメリカの九・一一事件やロンドンの地下鉄爆破事件などを受けた、テロ対策としての立法の一環と位置づけられる。しかし、その処罰の広さと曖昧さに対し、学説のみならず議会からも批判が加えられている。法律委員会は、同法に続いて共犯法全体の改正を目指し、既に改正案も提示しているが、二〇〇七年法への批判の影響から、未だに立法に至っていない。本稿では、イギリス共犯法の動向を手がかりとして、世界的に重大な課題となっているテロ対策の必要性と、共犯処罰の妥当性のバランスの重要性を指摘した。
著者
力丸 祥子
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.43-68, 2014-10

二〇一三年五月一七日、フランスは「すべての者のための婚姻に関する法律」を制定し、世界で一四番目に同性婚を認める国となった。 本稿では、同法制定以前に創設されたパックスの制度との対比をしつつ、その違いからフランスで同性婚を認める必要性があるとされたことを明らかにする(一)。同法は世論を二分する中で可決され、これにより同性婚及び同性婚カップルが子を持つ権利が認められることとなった。 しかし、同法はまた新たな問題をも生み出した(二)。具体的には①同性婚の司式の拒否、②同性婚カップルが子を持つことができる権利を有することと関連して、彼らが人工生殖や代理母により子を設けることの可否である。中でも人工生殖に関しては、人工生殖に関する生命倫理法が、人口生殖をなしうるのは、異性間カップルに限っていることから、法のねじれ現象が生じ、問題となっているという状況を紹介する。 最後に結びにかえて、我が国で同性婚を認めることの可否に関する動きにつき、同性婚合法化の動きのあるアジア圏の国々の状況も考慮に入れつつ、簡単に触れる。
著者
富井 幸雄
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.227-267, 2014-10

ハーパー首相は二〇一三年一〇月、連邦控訴裁判所判事M.ナドンをカナダ最高裁(SCC)判事に任命した。SCCは翌年三月、これを無効とするとともに、SCC判事の構成は憲法の改正の手続による以外変更できないとした。本研究は、この判決の意義を検証することで、SCCの立憲的位置づけを明確にし、カナダの連邦主義がそこに色濃く反映されているのを再認識する。SCCは憲法上の機関とはされず、一八六七年憲法一〇一条を受けた議会制定法(最高裁判所法(SCA))によって創設される。SCAが九人のSCC判事のうち三人はケベック州の法曹から任じるとしているところ(六条)、それは現職に限定されていると判示した。また、SCAは一九八二年憲法五二条の定義する憲法に含まれていないけれども、同憲法四一条はSCCの構成は憲法改正手続によれとしており、これが適用されるとした。判事の構成、とくにケベック三人枠は憲法にあたるとしたのであり、そこにSCCの構成の特徴を見出す。カナダ憲法の改正手続は実に複雑であり、このプロセスに州が参画していくことが強く主張された歴史的経緯がある。SCCの構成は、連邦議会のみでいじられるのではなく、州の同意がなければ変えられないとしたのである。
著者
冨川 雅満
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.5, pp.269-310, 2014-10

本稿は、暴力団員がその身分を偽ってまたは秘匿して、契約約款において暴力団排除条項を設けていた相手方と契約を締結させた事案(暴力団事例)において、最高裁が下した詐欺罪に関する近時の判断について、ドイツとの比較法的観点から検討するものである。ドイツにおいては、類似の事案構造を有するものとして、いわゆる雇用詐欺が問題となっており、そこでは財産的損害、欺罔行為が肯定されるかが議論されている。ここでの議論を参照し、わが国の判例・学説と対比させることで、暴力団事例における最高裁の判断構造を分析することが、本稿の目的である。
著者
榎本 浩章
出版者
中央大学
雑誌
法學新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.1, pp.151-204, 2014-06

文久二年(一八六二)の参勤交代制度改革について、これまでは、江戸幕府が諸藩を圧倒する存在ではなくなり、やむをえず緩和したという、消極的評価が主であった。しかし近年は、当時の幕政改革についても多角的な視点から研究が進んでいる。本稿ではそれらを参考に、軍事改革のための冗費節減策として、また当時重視されていた「公議輿論」の理念に沿った幕政改革の政治構想をうかがわせる実践例として、松平慶永・横井小楠など改革に携わった当事者の言動を検討した。 そして、参勤交代の緩和後が実際にどのような状況だったのかについては、これまで具体的な研究がされてこなかった。そこで、幕令や藩史などの史料を元に、諸藩の対応を検証したところ、緩和された参勤交代は確かに実践されていたが、当時の朝廷と幕府の対立、また対外的緊張や国内の治安悪化などといった要因から、諸大名は各地の警衛に動員されて国元に戻る事ができない場合が多く、改革の理想通りには運ばなかった。さらに元治元年(一八六四)、参勤交代を再び旧に復する幕令が出されたが、これについても従わなかった藩と従った藩とがあったことを明らかにした。
著者
中川 壽之
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9・10, pp.349-380, 2015-03-10

本稿は、日本近代法制史上の重要な論点の一つである明治二〇年代前半に起こった法典論争を考察の対象とし、民法・商法の施行をめぐるこの論争における延期派対断行派の構図のうちから特に延期派に視点をあて、その軌跡をたどる中で、(一)延期派が誰を対象として活動を展開していたか、(二)延期派の意見書が論争の過程でどのような意味合いを持つものであったか、断行派のそれとの比較から検討し、(三)延期派が具体的にめざしていたものが何であったか、この三つの課題の解明を試みたものである。 (一)については延期派の活動は世論ではなく政府の諸大臣をはじめ「朝野ノ名士」を対象として専ら展開していたこと、(二)に関しては、それゆえ延期派の意見書は政府や有力者への手段として戦略的に用いられ、断行派が各種の機関誌を通じて世論に訴えかけた戦術とは明確な違いがあったこと、そして(三)では政府による法典調査会の設置以前、すなわち第三回帝国議会の段階で延期派が「臨時法典修正局」の設置を建議し、その実現に向けて官制草案の作成に着手していたことを明らかにした。