著者
浅田 和広
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.1, pp.24-27, 2012-07-01

医薬品の添付文書の意義について,薬事法,PL法,GVP省令等の観点からその重要性を,また適正使用情報の観点から添付文書の記載要領に基づく使用上の注意,薬物動態,臨床成績,薬効薬理の項に記載する情報について,次いで添付文書作成・改訂時の手順,添付文書改訂時の情報提供について概説した.また添付文書の現在の課題と,添付文書にかかわる制度改正の動向について紹介した.
著者
白山 幸彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.209-212, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
11

うつ病の症状は,軽症から重症だけでなく,その内容も多岐にわたり,反応する薬物も様々である.抗うつ薬はセロトニンまたはノルピネフリンを介して治療効果を上げていると考えられているが,うつ病自身の原因はそうではないようである.第一選択薬が無効であった場合,第二選択薬は注意を要する.その決定に際して,ガイドラインは有用である.その運用に当たっては機械的にならず,その選択理由を考えることが大事である.また,その判断基準に客観的な治療マーカーを見出していくことが重要な課題である.コルチゾール,デヒドロエピアンドロステロン,テストステロン,の血中濃度はそれ自身の値だけでなく,比を取ることでさらに強力な治療マーカーとなる可能性を有すると考えられる.
著者
鈴木 雅徳 鵜飼 政志 笹又 理央 関 信男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.5, pp.219-225, 2012 (Released:2012-05-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

ミラベグロン(ベタニス®錠)は選択的β3アドレナリン受容体作動薬であり,現在,新規過活動膀胱治療薬として本邦で使用されている.ヒトβアドレナリン受容体発現細胞を用いた機能実験において,ミラベグロンはヒトの膀胱弛緩に主に関与しているβ3アドレナリン受容体に選択的な刺激作用を示すことが確認された.ラットおよびヒト摘出膀胱標本を用いた機能実験において,ミラベグロンはカルバコール刺激による持続性収縮に対して弛緩作用を示した.麻酔ラットにおいて,ミラベグロンは静止時膀胱内圧を低下させたが,ムスカリン受容体拮抗薬であるトルテロジンおよびオキシブチニンは明らかな低下作用を示さなかった.また,麻酔ラットにおいてミラベグロンは,律動性膀胱収縮の収縮力に影響を及ぼさなかったが,オキシブチニンは収縮力の低下を引き起こした.ミラベグロンは過活動膀胱モデルラットにおいて,減少した平均1回排尿量を増加させた.尿道部分閉塞ラットにおいて,ミラベグロンは排尿圧および残尿量に影響を及ぼすことなく排尿前膀胱収縮回数を減少させたが,トルテロジンおよびオキシブチニンは,高用量投与時にそれぞれ1回排尿量減少および残尿量増加作用を示した.以上の非臨床薬理試験により,ミラベグロンはムスカリン受容体拮抗薬と異なり,排尿時の膀胱収縮力を抑制することなく1回排尿量を増加させることが明らかとなった.過活動膀胱患者を対象とした米国および欧州第III相臨床試験において,ミラベグロンは過活動膀胱の諸症状に対して優れた有効性および忍容性を示した.口内乾燥の発現率は,ミラベグロン群とプラセボ群で同程度あり,トルテロジンSR群より低かった.以上,非臨床薬理試験および臨床試験の結果から,ミラベグロンは既存薬とは異なる新たな作用機序により,ムスカリン受容体拮抗薬に特徴的な口内乾燥の発現率を低減し,過活動膀胱の諸症状に対して改善効果を示す薬剤であることが示された.
著者
糸見 安生 相良 将樹 藤谷 靖志 河村 透 瀧澤 正之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.2, pp.68-72, 2013 (Released:2013-08-09)
参考文献数
40

病態の発症・進展に抗体が関与する抗体依存性疾患の治療には,現在主にステロイド剤や免疫抑制剤が使用されているものの十分な治療効果が得られているとは言い難い.これは抗体を産生している形質細胞が既存薬に対し抵抗性を示すことが原因の一つであると考えられる.そのため形質細胞に直接作用する薬剤はより効果的な抗体依存性疾患の治療薬になり得ると期待できる.プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブは多発性骨髄腫やマントル細胞リンパ腫の治療薬として使用されており,その作用機序のひとつとしてがん化した形質細胞を直接除去することが知られている.近年,ボルテゾミブが形質細胞数を減少させ抗体価を低下させることで,抗体依存性疾患である全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)および腎移植時の抗体関連型拒絶(antibody-mediated rejection:AMR)に対して有効性を示すという臨床および非臨床における知見がいくつか報告されてきている.これらのことから,プロテアソーム阻害薬は既存の治療薬とは異なり形質細胞を直接除去する作用を有するため,抗体依存性疾患に対してより有効な治療薬になると考えられる.
著者
松本 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.110, no.6, pp.341-346, 1997 (Released:2007-01-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1

The cumulative chi-squared statistic has been proposed for testing against ordered alternatives in various statistical models. As usual statistical tests of ordered column categorical data, the χ2 test, Fisher's exact test and Wilcoxon test are used. Pharmacological studies often are performed by multiple dosing. Data obtained from these studies are called ordered categorical data. The cumulative chi-squared statistic, which has been proposed by Hirotsu and Shibuya for testing against ordered alternatives in various statistical models, is little used in spite of its good applicability in the field of pharmacology. This method was too difficult for the general pharmacologist and biological scientists because it requires the use of a complex matrix and a powerful computer to carry out the analysis. However since a more simple method was proposed by Matsumoto and Yoshimura this method has been used more frequently in the biological sciences. In this paper, the one way cumulative chi-squared statistic test and two way chi-squared statistic test are compared with the chi-squared statistic test and Wilcoxon test.
著者
上田 陽一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.3, pp.179-183, 2005 (Released:2005-11-01)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

生体がストレスを受けると,脳を介して血圧・心拍の変化や気分・行動の変容など様々な生体反応が引き起こされる.生体のストレス反応のうち,自律神経系を介した生体反応や内分泌系の生体反応は,自律神経系と内分泌系の統合中枢である視床下部を介して引き起こされていることはよく知られている.視床下部ニューロンの神経活動の指標として前初期遺伝子群の発現が汎用されている.我々は,定量化の容易な浸透圧ストレスを用いて,ストレス研究への前初期遺伝子群の有用性について検討したところ,前初期遺伝子群の中でもc-fos遺伝子の発現動態がよい指標となることを見出した.また,ストレスが食欲低下や過食を引き起こすことは経験的によく知られていることである.最近,視床下部の摂食関連ペプチドであるオレキシンとニューロメジンUのストレス反応との関与が注目されており,摂食に対してはオレキシンは促進作用,ニューロメジンUは抑制作用とまったく逆の作用を有する.ところが,脳内のオレキシン・ニューロメジンUは共にストレスに対する内分泌反応の中軸である視床下部-下垂体-副腎軸に対して賦活作用を有する.ストレス反応と視床下部に存在する神経ペプチドの生理作用との関連を調べることにより,ストレス反応の分子基盤の一端を解明できるかもしれない.
著者
佐藤 雄己
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.120-125, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2

大建中湯は消化管術後イレウスや過敏性腸症候群に対して臨床的有用性の高い漢方方剤として知られている.動物を用いた基礎的検討により,本剤はモルヒネ誘発性の消化管障害に対して改善効果を示すことが報告されている.また大建中湯の主要な薬理作用は消化管運動亢進作用と腸管粘膜血流増加作用であり,その作用機序として消化管ペプチドの関与が報告されている.しかしながら現在まで担がん患者のモルヒネ誘発性便秘に対する大建中湯の臨床効果と消化管ペプチドとの関連については不明なままである.本研究では,モルヒネ誘発性便秘を有する担がん患者を対象として大建中湯の効果および消化管機能を反映する5種の消化管ペプチドの血漿中濃度に与える効果について検討した.対象はがん性疼痛に対してモルヒネ治療後に便秘を生じた7名の担がん患者で,大建中湯投与前後における各消化管ペプチドの血漿中濃度を高感度酵素免疫測定法により測定した.また,消化器症状への効果については大建中湯投与前後のGastrointestinal Symptom Rating Scale(GSRS)質問表により検討した.モルヒネ誘発性便秘に対する大建中湯の効果について検討した結果では,大建中湯の投与によりGSRSの便秘サブスコアは7例中4例で有意に低下した.次にGSRS便秘サブスコアが改善した有効群と,変化がなかった無効群で血漿中消化管ペプチド濃度を比較した.その結果,両群ともに健常人と比較して血漿中モチリン濃度は有意に低値であったが,大建中湯投与後,有効群では健常人と同程度の濃度まで上昇し,無効群と比較して有意な上昇が認められた.一方,血漿中calcitonin gene-related peptide(CGRP)濃度も有効群で上昇傾向が認められた.以上の結果から,大建中湯のモルヒネ誘発性便秘への作用は,発現時間および臨床症状ともに血漿中モチリンの変動によってよく説明されるものであり,大建中湯の臨床効果との関連が示唆された.
著者
藤原 榮一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.370-381, 1953-11-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1
著者
柴田 重信 平尾 彰子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.3, pp.110-114, 2011 (Released:2011-03-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

哺乳類の体内時計遺伝子Clock,Per1が発見されて以来,体内時計の発振,同調,出力の分子機構が明らかになってきた.時計遺伝子発現は生体の至る所で見られ,視交差上核を主時計,視交差上核以外の脳に発現する時計を脳時計とよび,肝臓や肺,消化器官などに発現する時計を末梢時計と呼ぶようになった.これらの事実は,生体の働きに時間情報が深く関わっている可能性を強く示唆するものである.種々の疾病の症状には日内リズムが見られ,たとえば喘息の症状は朝方悪化しやすく,虚血性心疾患は早朝から午前中にかけて起こりやすいことも知られている.また,コレステロールの合成酵素のHMG-CoA reductaseの活性は夜間に高まることから,スタチン系の薬物は夕方処方が推奨されている.このように,疾病治療における薬の作用を効果的にするために,発症時刻に合わせて,薬を与えるというような治療法が考案されてきた.いわゆる時間薬理学という学問領域である.一方で,最近時間栄養学の研究領域が台頭してきた.食物や栄養などの吸収や働きを考えると,栄養の摂取時刻により,栄養の働きが異なる可能性が考えられる.実際,同じ食物でも夜間に食べると太りやすいと言われており,これはエネルギー代謝に日内リズムがあることに起因する.また,薬物の吸収,分布,代謝,排泄に体内時計が関わるように,栄養の吸収,代謝などには体内時計が深く関わる可能性がある.体内時計の同調刺激に規則正しい食生活リズムが重要であることが指摘されて以来,同調刺激になりやすい機能性食品の開発が試みられている.このことは,たとえばメタボリックシンドロームの治療や予防に,時間薬理と時間栄養の両学問の知識や研究成果の集約が,効果的である可能性を示唆する.
著者
熊谷 浩一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.2, pp.59-61, 2010 (Released:2010-02-14)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2 1

心房ストレッチや炎症によりアンジオテンシンIIが上昇すると,Ca2+過負荷をきたし撃発活動を誘発し,肺静脈から群発興奮が発火する.この頻回興奮により不応期が短縮する(電気的リモデリング).一方,アンジオテンシンIIの上昇はErkカスケードを活性化し,線維化を促進する(構造的リモデリング).心筋の線維化は伝導障害を招き,リエントリーの素地ができると多数の興奮波が形成され心房細動はさらに持続すると考えられる.ACE阻害薬やARBは短期的な電気的リモデリングを抑制するだけでなく,線維化のような長期的な構造的リモデリングに対しても抑制効果があるため,心房細動慢性化予防のアップストリーム治療のひとつになりうることが期待される.
著者
寺田 安一 伊藤 均
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.304-315, 1970 (Released:2007-03-29)
参考文献数
25

The toxic agent involved in the extract of rotten short-neck clam was searched by us chemically and pharmacologically, The results are as follows: 1) Tyramine, putrescine, agmatine and cadaverine were produced in it, though histamine was not. 2)Choline was produced in it. Its amount was 1.70-4.25 mg/g. 3) The antagonistic manner of atropine or benadryl against to the intestinal contraction of a guinea pig caused from the serosal side in vitro by this extract was similar to that against to the choline action. 4) The rotten extract induced the contraction of a guinea pig alimentary tract from its mucosal side in vivo. 5) Choline induced the contraction of a guinea pig alimentary tract from its mucowl side in vivo with the concentration of 1.70-4.25 mg/ml. 6) The quantity of feces excreted from a guinea pig increased without delay after oral administration of 5 ml of that rotten extract, but returned to the normal quantity in 5 hours. From the above data, the agent of the food poisoning caused by rotten short-neck clam is considered to be choline in it.
著者
喜田 聡 内田 周作
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.17-24, 2005 (Released:2005-03-01)
参考文献数
12

情動行動は生命を維持するために生じる動物の本能的行動であり,外的・内的な様々な環境要因を反映して制御されると考えられる.我々は,核内受容体のリガンド結合ドメインをツールとして用いた遺伝子操作マウスの解析過程でヒントを得て,ステロイドホルモンや,ビタミンAの活性本体であるレチノイン酸などをリガンドとする一連の核内受容体群が情動行動制御に関わるのではないかと考え,この作業仮説を検討した.その結果,エストロゲン受容体,あるいは,レチノイン酸受容体のアゴニストを投与すると,マウスの不安行動が亢進すること,また,社会行動に変化が生じ,特に社会優勢度が上昇することが明らかとなった.さらに,野生型のエストロゲン受容体を前脳領域特異的に過剰発現するマウスを作製,解析したところ,過剰発現によってアゴニストを投与した場合とほぼ同様の効果が観察された.以上の点から,エストロゲンやレチノイン酸をリガンドとする核内受容体群が情動行動制御に関わっていること,さらに,生体内で恒常性維持に寄与するホルモンや必須栄養素が情動行動制御に関わる可能性が示唆された.
著者
松永 勇吾 田中 貴男 齋藤 洋一 加藤 博樹 武井 峰男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.2, pp.84-94, 2014 (Released:2014-02-10)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

アコチアミド塩酸塩水和物(アコファイド®錠,以下,アコチアミド)は,機能性ディスペプシア(FD)の治療薬として,ゼリア新薬工業株式会社で創製されたアセチルコリンエステラーゼ(以下,AChE)阻害薬である.FDは胃十二指腸領域から発せられる食後のもたれ感,早期満腹感,心窩部痛または心窩部灼熱感などの症状を呈するが,それらの症状の原因となりそうな器質的病変が認められない機能性消化管障害である.症状の発症要因の一つとして,FD患者において胃前庭部の運動の低下や胃排出の遅延が認められていることから,症状の改善には消化管運動を亢進させ,機能を改善させることが有用であると考えられる.アコチアミドはAChE阻害作用を有し,イヌおよびラットにおいて胃運動亢進作用を示し,さらに,アドレナリンα2受容体作動薬であるクロニジンによって惹起させた胃運動低下モデルおよび胃排出遅延モデルなどの消化管機能低下に対して改善効果を示した.臨床第II相試験において,FD患者を対象にアコチアミドの有効性を検討した結果,主要評価項目である最終調査時点の被験者の印象では本剤1回100 mg群はプラセボ群,50 mg群および300 mg群より改善率が高かった.このため,本剤1回100 mg(1日3回)を臨床推奨用量とし,臨床第III相試験で食後の膨満感,上腹部膨満感および早期満腹感の症状を有するFD患者を対象に有効性を検討した.主要評価項目である被験者の印象の改善率および3症状(食後の膨満感,上腹部膨満感および早期満腹感)消失率共に100 mg群でプラセボ群より有意に高い値を示した.よって,本剤1回100 mg 1日3回投与でのFDに対する有効性が確認された.また,本剤休薬後も改善効果が維持されることが示唆された.さらに,長期投与試験において本剤休薬後に症状の再燃が認められた場合でも,耐性を形成させることなく,服薬を再開することで再度の改善が得られると考えられた.以上のことから,アコチアミドはFD患者の食後膨満感,上腹部膨満感,早期満腹感などの諸症状に対して改善効果を示す薬剤であり,FDの治療薬として有用な薬剤になると期待される.
著者
水野 誠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.6, pp.246-250, 2012 (Released:2012-06-11)
参考文献数
14

高血圧症の治療に関し,血圧を適切なレベルまで低下させることが第一の目標となるが,治療の最終的な目的は高血圧に合併する臓器障害を予防することにある.高血圧症患者の多くは本態性高血圧症に分類され,その原因には多様な因子が関与している.そのため1種類の薬剤では血圧がコントロールできず,複数の薬剤の併用が必要になる患者が多い.その併用を考えるうえでも,臓器保護作用を視野に入れて降圧剤を選択する必要がある.降圧剤の中でも,特に臓器保護作用が強いと考えられているのがアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)とカルシウム拮抗薬(CCB)であり,その臓器保護作用に注目して検討を行った.Dahl食塩高血圧ラットは,高血圧の進行と共に臓器障害を発症し死亡するモデルである.本モデルにおいて,ARBのオルメサルタンメドキソミル(OLM)とCCBのアゼルニジピン(AZL)の血圧に影響を与えない用量を併用したところ,各々の単剤に比べ相乗的な延命作用が認められた.この延命作用は,血圧を低下させない用量でも認められ,血圧を低下させる用量では,延命効果はさらに増強した.OLMとAZLのような降圧剤併用においては,血圧低下に加え,降圧作用以外のメカニズムも臓器保護作用に大きく関与すると考えられる.降圧作用以外のメカニズムとして,抗炎症作用,抗酸化作用,抗線維化作用,抗増殖・肥大作用などが考えられ,そこには薬剤クラスに共通した作用と化合物固有な作用が関与し得る.OLMとAZLの併用により,高血圧に伴う心血管疾患の罹患率および死亡率の減少への貢献が期待できる.
著者
田村 智昭 谷口 登志悦 青城 優 脇 功巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.167-175, 1990
被引用文献数
1 1

マウスを用いた低酸素性脳障害モデルにおける生存時間の延長を指標に,中枢性鎮痛薬eptazocineの脳保護効果について検討した.KCN(3mg/kg,i.v.)負荷致死試験においてeptazocine 1,3,10mg/kgは生存時間を13.8,21.5,45.1%と用量依存的に延長し,この効果はnaloxone(5mg/kg)によって完全に抑制された.オピオイドκ-アゴニストのEKC,U50,488Hも有意な効果を示したが,その効力はeptazocineと比較すると弱かった,eptazocine(3,10mg/kg),EKC(10mg/kg)は減圧(190mmHg)負荷致死試験においても有意な脳保護効果が認められた.しかし,morphine(5mg/kg),pentazocine(10mg/kg)は逆に生存時間の短縮を示した.eptazocineの効果はnaloxone(5mg/kg),atropine(0.5mg/kg)いずれの前処置によっても減弱され,その作用態度はphysostigmine,diazepamの場合とは異なっていた.さらに,eptazocine(1mg/kg)とphysostigmine(0.075mg/kg)を併用した場合には相乗となった.一方eptazocine(10mg/kg)の脳保護効果は,オピオイドκ-受容体選択的なアンタゴニストMR-2266によってnaloxoneの1/5量で拮抗された.以上の結果から,eptazocineはその鎮痛用量でオピオイド炉受容体を介して脳保護効果を惹起し,その機序に脳ACh神経系の賦活化が関与する可能性が示唆された.
著者
窪田 香織 野上 愛 高崎 浩太郎 桂林 秀太郎 三島 健一 藤原 道弘 岩崎 克典
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.110-114, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

我が国は超高齢社会を迎え,認知症患者数の増加は深刻な問題である.しかし認知症の根治的治療法は確立しておらず,患者の日常生活動作(activity of daily living:ADL)を低下させない新しい認知症治療薬が求められている.その中で,ADLを低下させずに認知症の症状を改善する漢方薬・抑肝散が脚光を浴び,主に幻覚,妄想,抑うつ,攻撃行動,徘徊などの行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)に使われている.しかし,その作用機序はよく分かっていない.そこで漢方薬である抑肝散の認知症治療薬としての科学的背景を明らかにすることが必要となった.我々は,抑肝散がメタンフェタミン投与による興奮モデル動物において自発運動の異常増加を抑制すること,単独隔離ストレスによる攻撃行動,幻覚モデルとしてのDOI投与による首振り運動,不安様行動,ペントバルビタール誘発睡眠の短縮や夜間徘徊モデルの明期の行動量増加のようなBPSD様の異常行動を有意に抑制することを明らかにした.また,8方向放射状迷路課題において,認知症モデル動物の空間記憶障害を改善することを見出した.記憶保持に重要な海馬において神経細胞死の抑制やアセチルコリン遊離作用が認められ,これらの作用によって抑肝散の中核症状に対する改善効果も期待できることが示唆された.さらに,中核症状,BPSDいずれにもNGFやBDNFなどの神経栄養因子の関与が注目されているが,抑肝散には神経栄養因子様作用や神経栄養因子増加作用があることが分かり,この作用も中核症状・BPSDの改善効果に寄与するものと考えられる.以上のことから,抑肝散は,認知症患者のBPSDならびに中核症状にも有効で,さらに他の神経変性疾患や精神神経疾患の治療薬としても応用が期待できることが示唆された.
著者
倉智 嘉久 山田 充彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.5, pp.311-316, 2005 (Released:2006-01-01)
参考文献数
13
被引用文献数
3 3

ATP感受性K+チャネル(KATPチャネル)は,細胞内の代謝状態と細胞膜の興奮性を結びつけている内向き整流性K+チャネルである.KATPチャネルは,ABCタンパクファミリーに属するスルフォニルウレア受容体(SUR)と膜2回貫通型のKir6.xからなる,異種八量体(hetero-octamer)構造をとっている.KATPチャネルは,種々のK+チャネル開口薬,阻害薬,あるいは細胞内のヌクレオチドにより,その活性が制御される.これらは全てSURサブユニットに作用点をもっており,SURのサブタイプにより反応が異なる.最近,種々のイオンチャネルやABCトランスポーターの三次元分子構造が明らかにされてきた.これらを基礎として,KATPチャネル制御の構造的機能モデルを我々は提案した.本稿ではこのモデルを中心として種々の薬物やヌクレオチドによるKATPチャネルの活性制御について考察する.
著者
杉本 忠則
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.265-270, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
13

薬物を併用した場合の相乗効果の評価を行う際に検定を用いることがあるが,薬物反応の理論的背景を考えると適切でない場合がある.受容体理論に従えば,薬物用量と反応値との関係は数式として記述することができる.2薬物が併用された場合も,受容体理論を展開し薬物用量と反応値との関係を数式化することができるため,薬物反応の理論に基づくデータ解析が可能である.今回紹介する解析手法は,効力の異なる2種類の部分作動薬あるいは余剰受容体がない完全作動薬が併用されたときに測定される反応値と理論的な反応値とを比較する手法である.本解析手法は実験データを理論式に非線形回帰させ反応を決定するパラメータを推定するものであるが,回帰させる理論式には相加効果からの解離度合いを示すパラメータが組み入れられている.なお,本稿では相加を2種類の薬物を併用した場合に各薬物が同一受容体に結合し独立に発現する反応の加算としている.解析により各パラメータの点推定値と95%区間推定値が得られるが,相加効果からの解離度合いを示すパラメータの大きさに対し薬理学的意味を考慮して検討することにより2薬物併用による効果が評価できる.