著者
廣中 直行
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.4, pp.219-224, 2005 (Released:2005-06-01)
参考文献数
19

実験心理学的な手法を用いて行動に対する薬物効果を調べる行動薬理学は,現在の薬理学の中で確たる地歩を築いている.しかしながら,分子生物学や脳科学が急速に発展している今日,その存在意義が根本から問い直されていると言えるであろう.本稿では薬理学とくに創薬の現場と結びついた研究の領域で,動物の行動実験を行うことにどのような意義があるのかを考えてみたい.そこでまず行動薬理学の草創期を振り返り,条件回避行動に対するクロルプロマジンの静穏効果の発見,オペラント行動に対する薬物効果の頻度依存性の発見,薬物依存研究における薬物自己投与実験の創造という3大重要知見の意義を考察する.次に創薬の現場における行動実験の利用法について,(1)薬効薬理領域における動物モデルの考え方,(2)安全性薬理領域における行動テストバッテリーの組み方,(3)非臨床と臨床をつなぐ外挿の考え方について,筆者なりの見解を述べる.最後に,今後行動薬理学がいかなる方向に発展する可能性を宿しているか,脳科学や精神医学との関連を考える.
著者
松永 公浩 インドラ 星野 修 石黒 正路 大泉 康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.supplement, pp.48-52, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
5

これまでに、ナンテニンは、胸部大動脈および腎動脈において、KC1およびヒスタミンによる収縮には影響を与えることなく、セロトニンによる収縮の用量作用曲線を顕著に右に平行移動させ、その作用が5-HT2A受容体阻害によることが示唆された。そこで、ナンテニンの構造類縁体を合成し、それらの抗セロトニン作用の構造活性相関を検討した。ナンテニンの6位の窒素原子上の置換基をメチル(ナンテニン)から水素あるいはエチルに置換すると、いずれの場合も活性が顕著に低下した。さらに、トリフルオロアセチル基に置換した類縁体では高濃度においても抗セロトニン作用を示さなかった。以上のことから、窒素原子上のローンペアが活性発現に重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、1位のメトキシル基(ナンテニン)を水酸基に置換するとナンテニンより約10倍活性の低下が認められた。また、4位に水酸基を導入すると、顕著な活性の低下が認められた。これらのことから6位の窒素原子上のローンペアが活性発現に極めて重要であり、次いで1位の水酸基がアルキル化していることおよび4位に水酸基などの立体障害が無いことが必要であると考えられた。そこで、受容体結合実験を検討したところ抗セロトニン作用の構造活性相関による解析と一致する結果が得られた。さらに、ロドプシンの構造をテンプレートとして、コンピューター解析により5-HT2A受容体の膜貫通領域の三次元構造を構築し、モレキュラーモデリングによる5-HT2A受容体とナンテニンおよび種々のナンテニン類縁体との相互作用の解析を行った。その結果、ナンテニンより活性が低下した類縁体では5-HT2A受容体との水素結合が、より弱くなっていることが示唆され、構造活性相関で得られた結果をモレキュラーモデリングにより説明することができた。
著者
大貫 敏男 長友 孝文 石黒 正路
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.114, no.supplement, pp.123-126, 1999 (Released:2007-02-27)
参考文献数
8

二次元電子密度マップから推定されたbactehorhodopsinあるいはfrog rhodopsinの構造をテンプレートとして、コンピュータ解析によりヒト-アドレナリン性β受容体の膜貫通部位の三次元構造を推定した。それぞれのテンプレートに由来する二つのモデルにおいて、推定されたα-helix領域、およびその相対位置あるいは配向性などに違いが認められた。このモデルを用い、代表的β受容体アンタゴニストであるpropranolol、および当研究室が薬理学的研究を行ってきた持続性β受容体アンタゴニストであるbopindolol(4-(3-t-butylamino-2-benzoyloxypropoxy)-2-methylindole)の結合様式を推定した。どちらのモデルを用いても、アンタゴニストの結合様式を推定することができた。しかし、両モデルにおいて推定された結合様式は異なっていた。すなわち、両モデルにおいてN末端から3、4、5および6番目のα-helixが結合に関与すると推定された点では一致するものの、関与するであろうアミノ酸残基が異なっていた。さらに、推定された結合様式からpropranololおよびbopindololのサブタイプ選択性、つまりβ1およびβ2サブタイプに対して高親和性であるが、β3サブタイプに対しては低親和性である点を一部説明することができた。
著者
鶴見 介登 平松 保造 林 元英 山口 東 呉 晃一郎 藤村 一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.261-283, 1974
被引用文献数
1

新規化合物K-308およびその側鎖の酢酸をプロピオン酸に代えたK-309について,抗炎症作用ならびに鎮痛作用をibufenac(IF),ibuprofen(IP)等と比較検討した.1)血管透過性充進ならびに浮腫などの急性炎症反応に対して,K-308はK-309と同等の抑制作用を示し,IFおよびIPと同程度の効力が認められた.2)紫外線紅斑に対してK-308はIFと同程度の抑制作用を示し,K-309はそれらよりわずかに弱かった.3)持続性浮腫および肉芽増殖などの亜急性炎症反応に対して,K-308は明らかな抑制作用を示しIFとほぼ同等の効力が認められた.K-309はそれらよりやや強い効力を示した.4)Adjuvant炎症における予防的ならびに治療的投与法において,K-308はいずれに対しても有意な抑制作用を示したが,K-309の方がやや強力であった.K-309はIPと同等の効力を示したが,Phenylbutazoneよりわずかに弱かった.5)胃粘膜障害作用はK-308とK-309は同等でIFやIPより弱く,胃腸障害は比較的弱いものと考えられた.6)鎮痛作用はK-308がAminopyrineよりわずかに弱い効力を示し,K-309はK-308より弱くIPと同程度であった.特に炎症性落痛Yom..対して有効のようであった.7)PSP排泄に対してK-308とK-309は同程度の抑制作用を示し,軽度な尿酸排泄促進作用が推測された.以上の成績からK-308およびK-309は,急性慢性の炎症性疾患に対してIFおよびIPと同等の効果が期待され,しかもそれらより胃腸障害は少なく,鎮痛抗炎症薬として臨床上価値のあるものと思われる.
著者
田村 智昭 小川 純子 谷口 登志悦 脇 功巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.41-46, 1990
被引用文献数
1 3

摘出臓器標本を用いた電気刺激法により,中枢性鎮痛薬eptazocineとナビオイド受容体の相互作用について代表的なオピオイドと比較検討した.μ-,κ-受容体優位の摘出モルモット回腸標本の電気刺激による収縮に対して,eptazocine(10<SUP>-5</SUP>M)は僅かな減弱効果を示し,この作用にnaloxone(10<SUP>-7</SUP>M)は拮抗した.この標本においてμ-アゴニストmorphine(3×10<SUP>-7</SUP>M)による作用は,eptazocine(10<SUP>-5</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M)によって完全に拮抗された.一方,δ-,μ-,κ-受容体優位の摘出マウス輸精管標本で,eptazocineは10<SUP>-7</SUP>Mから濃度依存的に減弱効果(IC50値=3,387nM)を示し,この効力は,morphineの1/5,κ-アゴニストU50,488H,ethylketocyclazocine(EKC)の1/200,1/630であった.eptazocineのこの効果は他のオピオイドと異なりnaloxoneによっては回復せず,κ-選択的なアンタゴニストMR-2266(10<SUP>-6</SUP>M)で回復した.naloxone前処置標本において求めたeptazocineに対するKe値(平衡解離定数)325nMは,比較したオピオイドの中で最も高値で,morphine(5.20nM)の62.5倍となった.一方,MR-2266のeptazocineに対するKe値は33.2nMで,ナビオイド受容体K-サブタイプ選択性の指標としてKe値の比(325/33.2)を求めると9.79となり比較したアゴニストの中で最も高い数値を示した.これらの結果からeptazocineは,アゴニスト作用は弱いがκ-受容体により選択性の高い,μ-アンタゴニスト-κ-アゴニストであると考えられる.
著者
山﨑 基寛
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.1, pp.28-31, 2013 (Released:2013-07-10)
参考文献数
8

今日では,大手製薬企業の多くは上市する新薬の半分近くをオープンイノベーションとライセンシングに頼っている.オープンイノベーションの背景には,近年,新薬の種を見つけるゲノム創薬の最先端技術が急速に発展したこと,新薬の研究開発費は年々高騰しており大手製薬企業でも財政負担が限界に達していること等がある.ライセンシングが活発なのは,自社で必要な新製品を自社のみの研究開発からは生み出せないこと,バイオベンチャー企業が開発後期の化合物を多く出していること等がある.製薬企業のオープンイノベーションの現状とライセンシングの実態を紹介する.
著者
林 美貴子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.3, pp.169-174, 2013 (Released:2013-03-08)
参考文献数
16

デスモプレシン酢酸塩水和物の口腔内崩壊錠(ミニリンメルト®OD錠120 μg,240 μg)は,本邦初の経口夜尿症用剤として,2012年3月に承認を取得した.本剤は,アルギニンバソプレシン(AVP)の誘導体で,AVPの1位のアミノ酸を脱アミノ化し,さらに8位のL-アルギニンをD-アルギニンに置換した合成ペプチドである.また,腎集合管細胞に分布するV2受容体を活性化して水の再吸収を促進する薬理学的作用(抗利尿作用)をもつ選択的V2受容体アゴニストである.デスモプレシンのラットにおけるバソプレシンV1,V2受容体およびオキシトシン受容体に対する結合親和性(Ki)はそれぞれ1748,1.04,81 nmol/L であり,バソプレシンV2受容体に選択的な結合親和性を示した.デスモプレシンは,バソプレシンV1受容体に比べV2受容体に対して高い選択性を有し,昇圧作用をほとんど有さず,用量に依存して抗利尿作用が長時間持続する特徴を有している.夜尿症患者を対象とした国内第III相試験では,本剤投与3~4週の14日間あたりの,ベースラインからの夜尿日数減少量は,本剤が3.3日,プラセボが1.5日で,本剤はプラセボに比べ有意に夜尿日数を減少させることが確認された.また,安全性においても特に問題となる有害事象は認められなかった.これらの結果より,夜尿症患者に対する本剤の安全性,忍容性が確認された.デスモプレシン製剤は,海外で40年にわたる臨床使用経験がある.経鼻製剤では,アレルギー性鼻炎等による,鼻腔粘膜からの吸収障害による薬効への影響等が認められていた.経口製剤の開発により,そのような課題が克服された.夜尿症治療に重要とされる水分摂取管理において,水なしで服用できる本OD錠は安定した臨床効果が期待できる.投与の簡便性も加わり,夜尿症で悩む患者のQOLの向上に貢献しうる薬剤であると考えられる.
著者
関 隆志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.5, pp.234-236, 2015 (Released:2015-05-10)
参考文献数
25

塩酸ドネペジルをすでに内服しているアルツハイマー病(AD)患者にノビレチン高含有の陳皮(N陳皮)を投与して安全性を検証するとともに,ADの認知機能への効果を検討する.塩酸ドネペジル内服中の中程度から軽度の認知機能障害のあるAD患者を2群に分けて,介入群と対照群とした.MMSEおよびADAS-Jcogにて認知機能を評価した.観察期間は1年とし,介入群には塩酸ドネペジルおよびN陳皮の煎じ薬を毎日1年間投与した.対照群は塩酸ドネペジルのみ投与を続けた.介入群では,1年の間でMMSEおよびADAS-Jcogの有意な変化を認めなかった.一方で対照群ではMMSEおよびADAS-Jcogが有意に悪化した.ADAS-Jcogの1年間の変化量は二群間で有意な差が認められた(P=0.02).塩酸ドネペジルを内服中のADの認知機能の悪化をN陳皮の1年間の投与が食い止める可能性が示唆された.
著者
梛野 健司 堤 健一郎 石堂 美和子 原田 寧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.2, pp.92-99, 2015 (Released:2015-02-10)
参考文献数
29

シメプレビルは,大環状構造を有する第2世代のプロテアーゼ阻害薬であり,ペグインターフェロン(PegIFN)およびリバビリン(RBV)と併用して,C型肝炎ウイルス(HCV)genotype 1の慢性感染の治療に使用する.本薬の作用機序は,HCVの非構造タンパク質(NS)の1つであるNS3/4Aプロテアーゼに結合し,NS3/4Aプロテアーゼが関与するHCVタンパク質のプロセッシングおよびRNA複製を阻害して抗HCV活性を発揮する.HCVレプリコンに対するシメプレビルのin vitro抗HCV活性は,HCV genotype 1aおよびHCV genotype 1bに対して同程度の活性を持ち,第1世代プロテアーゼ阻害薬であるテラプレビルと比較して強い.シメプレビルの抗HCV活性は,インターフェロン(IFN)またはリバビリンとの併用により,相乗または相加作用を示した.日本で実施したHCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎患者を対象とした臨床試験において,シメプレビル100 mg 1日1回をPegIFNα-2a/2bおよびRBVと併用投与したときの治療終了後12週時の持続的ウイルス陰性化(SVR12)率は,初回治療例および前治療再燃例で約90%,前治療無効例で約40~50%であり,安全性および忍容性は良好であった.C型肝炎治療ガイドラインにおいて,シメプレビルとPegIFNおよびRBVの3剤併用療法は,HCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎患者に対するIFN-based therapyの第1選択薬とされており,シメプレビルはC型慢性肝治療に大きく貢献できる薬物である.
著者
松本 欣三 Guidotti Alessandro Costa Erminio
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.2, pp.107-112, 2005-08-01

精神的緊張をはじめ,様々な心理的ストレスがうつや不安などの情動障害や,不眠などの睡眠障害の要因にもなるが,ストレスによりそれらが発症するメカニズムはまだ十分には解明されていない.近年,多くの臨床および前臨床研究から,神経ステロイドと呼ばれる一連のステロイドのうち,特にallopregnanolone(ALLO)等のγ-アミノ酪酸<sub>A</sub>(GABA<sub>A</sub>)受容体作動性神経ステロイドの量的変動と種々の精神障害の病態生理やその改善との関連性が明らかになりつつある.我々は雄性マウスを長期間隔離飼育し,一種の社会心理的ストレス(隔離飼育ストレス)を負荷したときの行動変化を指標に,ストレスで誘導される脳機能変化を薬理学的に研究している.隔離飼育マウスでは対照となる群居飼育動物と比較して鎮静催眠薬ペントバルビタール(PB)誘発の睡眠時間が短くなっており,この原因の一つに脳内ALLO量の減少によるGABA<sub>A</sub>受容体機能の低下があることを示した.また脳内ALLO量の低下は隔離飼育雄性マウスに特徴的に現れる攻撃性亢進にも関与し,選択的セロトニン再取り込み阻害薬フルオキセチンは脳内ALLOレベルを回復させることにより攻撃性を抑制することを示唆した.PB誘発睡眠を指標に検討したALLOをはじめとする脳内物質の多くは睡眠調節にも関わることから,脳内ALLO系のダウンレギュレーションを介したGABA<sub>A</sub>受容体機能の低下もストレス誘発の睡眠障害の一因であろうと推察された.また攻撃性のような情動行動変化にも脳内ALLOの量的変動が関与する可能性が高いことから,今後,脳内ALLO系を標的とした向精神薬の開発も期待される.<br>
著者
木戸 博 Chen Ye 山田 博司 奥村 裕司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.45-53, 2003-07-01
被引用文献数
2

インフルエンザウイルスの生体内増殖に個体由来のトリプシン型プロテアーゼが必須で,ウイルスの感染性発現の決定因子になっている.最近このプロテアーゼ群の解明が進み,気道の分泌型プロテアーゼのトリプターゼクララ,ミニプラスミン,異所性肺トリプシン,膜結合型トリプシン型プロテアーゼ群が相次いで同定された.これらのプロテアーゼはそれぞれ局在を異にするだけでなく,ウイルス亜系によってプロテアーゼとの親和性を異にして,ウイルスの増殖部位と臨床症状を決めている.一方これらのプロテアーゼ群に対する生体由来の阻害物質の粘液プロテアーゼインヒビターや肺サーファクタントが明らかとなり,合わせて個体のウイルス感染感受性を決める重要な因子となっている.小児のインフルエンザ感染では,aspirin,diclophenac sodium服用時のライ症候群や,解熱剤を服用していない患者でも見られる急速な脳浮腫を主症状とする致死性の高いインフルエンザ脳症が社会問題になっている.インフルエンザ脳症発症モデル動物を用いた我々の研究から,このインフルエンザ脳症の原因として,インフルエンザ感染と共に脳血管内皮細胞で急速に増加するミニプラスミンが,血液脳関門の障害と血管内皮細胞でのウイルス増殖に,直接関与していることが明らかとなってきた.さらにミニプラスミンの血管内皮での蓄積を裏付けるミニプラスミンやプラスミンのレセプターが,発症感受性の高い動物の血管内皮で見いだされた.これらのことからインフルエンザ脳症は,発症感受性遺伝子,発症感受性因子の検索に研究の焦点が絞られてきた.本総説では,我々の研究を中心に最近の知見を紹介する.<br>
著者
野沢 敬 玉井 郁巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.4, pp.194-199, 2005-04-01
被引用文献数
1

経口投与可能な薬物を創製するためには,溶解性,安定性,膜透過性のような多様な因子を克服する必要がある.Biopharmaceutical Classification System(BCS)においてClass 1やClass 2に分類される薬物は単純拡散による高い膜透過性を有する場合が多いが,初回通過効果を受けやすい.一方,Class 3に属する薬物は溶解性や初回通過効果の問題は少ないが,単純拡散による膜透過は期待できず,トランスポーターを介した膜透過性改善が望まれる.本研究では,既存薬物の膜透過性をいかにして改善できるか,という課題に対して,トランスポーターに着目した吸収改善手法の提唱を試みた.トランスポーターは300種類以上の分子の存在が推定されており,基質選択性,発現組織,機能が多様であり,各分子の特徴を十分把握すれば消化管吸収を含め薬物動態制御に利用できる可能性がある.小腸上皮細胞において栄養物摂取に働くペプチドトランスポーターPEPT1は基質認識性が広い.PEPT1はプロトン勾配を駆動力とするが,その至適pHは化合物によって異なる.本検討では,PEPT1を介した膜輸送が消化管内生理的pHよりも低い酸性領域で高くなり,通常では30%程度の吸収率しか示さない&beta;-ラクタム抗生物質のセフィキシムに着目した.そして,PEPT1を介したセフィキシム輸送に最適な管腔内酸性pHを酸性高分子を用いて得ることによって,in vivoでの吸収改善を試みた.酸性高分子として腸溶性製剤被膜に利用されるポリメタクリル酸誘導体を同時投与することによりセフィキシムの吸収率を2倍以上に改善することができた.従来,化学構造の変換無しにトランスポーターによる膜輸送改善を試みた例はなく,本成果はトランスポーター活性を利用した新しい薬物吸収改善手法を提案するものである.<br>
著者
大槻 純男 堀 里子 寺崎 哲也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.55-64, 2003 (Released:2003-06-24)
参考文献数
50
被引用文献数
7 12

血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)は,血液と脳を隔てる関門組織として存在し薬物の脳への透過性を制限していることは,古くから認識されていた.近年のBBB研究の成果によって,BBBには栄養物質を脳へ供給する輸送系だけではなく,脳から血液方向の排出(efflux)輸送系の存在が明らかになり,それら輸送系の機能が薬物の脳移行性に大きな影響を与えていることが明らかになりつつある.血液から脳への輸送を行うinflux輸送系は,薬物を脳へ移行する通り道となる.BBBに発現するアミノ酸輸送系の一つであるsystem Lによって,L-DOPAは脳内に輸送される.また,一部の塩基性のµ-opioid peptide analogueは,BBBと電荷的相互作用を介したtranscytosisによって脳内に移行する.一方,排出輸送系によって排出されてしまうために脳内分布が低下してしまうケースも存在する.排出輸送に関わる分子としてATP-binding cassette(ABC)トランスポーターのABCB1(MDR1)が存在する.この輸送系は,ATP水解エネルギーを利用して,比較的脂溶性の高い薬物を血中に排出する.また,内因性物質の排出輸送系によっても薬物が脳から排出される.ドパミンの代謝物であるhomovanillic acidは,organic anion transporter 3(OAT3)が関与する排出輸送系によって脳から排出される.このOAT3が関与する排出輸送系によって6-mercaptopurineやacyclovir等が排出され脳への移行が制限されている可能性が示唆されている.また,BBBにはシナプスと同様にセロトニンやノルエピネフリンのトランスポーターが発現していることから,これらトランスポーターを阻害する抗うつ薬による相互作用が考えられる.現在,血液脳関門に発現し薬物の輸送に関わる輸送系や,薬物と相互作用する輸送系が徐々に明らかになりつつある.今後,このようなBBBの輸送系の解明は中枢作動薬の開発や中枢疾患の病因解明に重要な知見となるであろう.
著者
檜杖 昌則 越智 靖夫 伊村 美紀 山上 英臣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.4, pp.203-213, 2014 (Released:2014-04-10)
参考文献数
26

フェソテロジンはムスカリン受容体拮抗作用を作用機序とする新規過活動膀胱治療薬である.経口投与後,速やかに活性代謝物である5-ヒドロキシメチルトルテロジン(5-HMT)に加水分解され,血液中にフェソテロジンは検出されない.5-HMTは,ムスカリン受容体のいずれのサブタイプ(M1~M5)に対しても高い親和性を有し,各サブタイプ発現細胞でのアセチルコリン誘発反応,摘出排尿筋のカルバコール誘発収縮および電気刺激誘発収縮を抑制した.In vivoでは,無麻酔ラット膀胱内圧測定試験で,排尿圧力低下,膀胱容量増加および収縮間隔延長作用を示した.さらに,ヒト排尿筋,膀胱粘膜および耳下腺組織における結合親和性,ならびにアセチルコリン誘発膀胱収縮および電気刺激誘発流涎に対する抑制作用の比較から膀胱組織選択的な抗コリン作用が示唆された.また,中枢移行性が低いことが確認され,フェソテロジン投与による中枢のムスカリン受容体機能への影響は少ないと考えられた.フェソテロジンの臨床投与量は4 mgと8 mgである.臨床薬理試験で血漿中濃度は,2用量間で2層性を示した.臨床試験で,フェソテロジンは,プラセボやトルテロジンより過活動膀胱の症状を有意に改善し,その効果は用量依存的であった.実臨床に近い可変用量のデザインを用いた治療満足度試験では,患者の半数が8 mgへの増量を希望し,その結果8割の患者がフェソテロジンの治療に満足と回答した.この結果より,4 mgで効果に不満足でも忍容性がある場合は,増量により満足に至る可能性が示された.日本人を対象とした長期試験では,遅発性の有害事象は認めず,忍容性は良好であった.フェソテロジンは,患者の状態に合わせ4 mgと8 mgを有効に使い分けることで,患者の治療満足度を向上し,OAB治療で重要な治療継続率の向上に繋がることが期待される.
著者
大野 泰雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.325-329, 2005 (Released:2005-08-01)
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

薬理学は薬物の生体作用とその機序を明らかにすることを主要な目的とする学問であり,そのための多くのin vitro試験方法が開発されてきた.一方,動物愛護の立場からも生命科学研究に用いる試験法をなるべく動物を使用しない方法に置き換え(Replacement),使用動物数を削減し(Reduction),動物に与える苦痛を少なくする(Refinement)という3Rの原則が求められている.1999年にボロニアで開催された生命科学のための動物使用と動物実験代替法に関する世界会議でボロニア宣言が採択され,3Rの原則を法律に組み込むこと,動物実験に関係する全ての者に教育や訓練を行う機構を設置すること,また,動物実験の科学的,倫理的妥当性を審査委員会で審査を受けるべきと勧告された.なお,薬理学会員の所属する施設での動物実験委員会の設置や倫理的な動物実験の教育には施設により差がある.第三者による評価が必要であろう.一方,動物実験代替法の開発とバリデーションを促進するため,EUではEuropean Center for the validation of Alternative Methods(ECVAM)を1994年に,米国ではInteragency Coordinating Committee on the Validation of Alternative Methods(ICCVAM)を1993年に設立した.わが国においても平成17年度予算で国立医薬品食品衛生研究所に代替法を中心とする新規安全性試験法を評価するための室が認められた.
著者
田村 滋夫 葛声 成二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.337-344, 1984 (Released:2007-03-07)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

抗炎症剤の薬効が容易に判定でき,同時に薬効メカニズムを生化学的に分析できる炎症モデルとして,ラヅトにおけるカラゲニソ膿瘍をとりあげ再評価を加えた.2%カラゲニン0.5mlをラットの背部皮下に注射することによって生じる浮腫は炎症部位の血管透過性亢進を反映して,惹起後15時間のピーク時までは二相性変化を示した.初期の血管透過性充進は滲出液中のprostaglandin(PG)E含量と良く相関したが,PGEは15時間以後浮腫が消退する過程でピークに達し,15~24時間はこれらのパラメーターの間には良好な相関々係は認められなかった.炎症部位への細胞浸潤の指標とした滲出液中DNA含量は数時間の潜伏期の後,二相目の浮腫反応と対応して急激に増加した.この炎症反応はindomethacin(2mg/kg)又はdexamethasone(0.1mg/kg)を起炎処置と同時に1回経口投与することにより修飾を受け,前者は投与15時間後,後者は9時間後にそれぞれ最大の抑制効果を示した.indomethacinはカラゲニン注射と同時に投与した時には滲出液重量ならびにPGE濃度を有意に抑制したが,炎症発症後に投与した場合にはPGE濃度を有意に抑制したにも拘らず,重量に対しては無効であった.dexamethasoneは同様な投与方法のいずれによっても著明な抗炎症効果を示したが,PGE濃度には有意な影響を及ぼさなかった.本法は起炎処置後の早期より貯留する滲出液,後期に形成する膿瘍,更には肉芽を容易に単離でき,これらに対する抗炎症剤の感受性もよい.同時に多種の炎症パラメーターを生化学的に追求することができるので,簡便な抗炎症剤スクリーニングのモデルとして有用であると思われた.
著者
柳浦 才三 石川 滋
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.39-51, 1975 (Released:2007-03-29)
参考文献数
31
被引用文献数
2 5

モルモットの摘出胆のう,総胆管,Oddi筋にはα収縮性受容体が存し,消化管とは異なった生理機能臓器である.胆のうは不可逆的α遮断薬であるdibenamineの比較的低用量において,α作用が消失逆転することから,α受容体量は少ない.また,経壁刺激反応からはcholine作働性収縮が顕著に優位で,このcholine作働性収縮に対してadrenaline作働性α作用が神経末端に抑制支配を行なうことが重要と思われるが,adrenaline作働性の直接支配も無視出来ない.胆のう壁はtyramine作用において,tyramine遊離型の内因性catecholamineをほとんど含有していない.しかし5-HTによって遊離されるcatecholamineを含有する.総胆管は自動運動を持ち,α収縮性受容体とβ弛緩性受容体があり,その収縮,弛緩力によって胆道内圧調節と胆汁排出上に積極的に関与すると考えられた.モルモットOddi筋のα受容体は収縮性で,十二指腸のそれと異なることから,Oddi筋は十二指腸より独立していると言える.一方,ウサギの場合,摘出胆のうは反応性に貧しく,神経支配機能を充分検討できなかったが,β弛緩性受容体の存在が推論された.総胆管標本は,α収縮性受容体,β弛緩性受容体が存し,また,choline作働性収縮支配,adrenaline作働性収縮,弛緩支配があり,自動運動も有することから,胆道内圧調節に積極的に関与すると思われる.しかしOddi筋はα,β両受容体とも弛緩性であり,摘出,生体位とも十二指腸類似であった.神経支配もcholine作働性収縮とatropine抵抗性収縮支配,非adrenaline作働性弛緩支配がみられ,十二指腸と質的に同じであった.それ故,ウサギOddi筋はadrenaline受容体,自律神経支配様式からは,十二指腸よりの独立性を支持出来ない.またウサギにおけるこれら神経支配機構は,胆汁排出上の重要因子ではなく,主にcholecystokininなどのホルモン性調節が重要なものであろう.
著者
中村 江里 鬼頭 佳彦 福田 裕康 矢内 良昌 橋谷 光 山本 喜通 鈴木 光
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.141-148, 2004 (Released:2004-02-29)
参考文献数
50
被引用文献数
1 3 1

胃壁の筋間神経層に分布するカハールの間質細胞(ICC-MY)はミトコンドリアが豊富で,平滑筋とはギャップ結合しているので,歩調とり細胞であると考えられた.ICCで発生する歩調とり電位は早い立上がりの第1相とプラトー電位の第2相から成り,それぞれ電位依存性Ca2+透過性チャネル電流とCa2+活性型塩素チャネル電流により構成される.歩調とり電位は電気緊張的に輪走筋に伝わりslow waveを誘発させ,縦走筋に伝達しfollower potentialを形成する.輪走筋では歩調とり電位からの電気緊張電位の刺激により,細胞間間質細胞(ICC-IM)において単位電位unitary potentialが発生し,この電位の加重によりslow potentialが形成される.IP3受容体欠損マウスの胃ではslow waveが観られなかったので,自発活動発生にIP3が関与していることが推定された.slow potentialの解析から,自発活動発生にはミトコンドリアにおいてプロトンポンプ活性に伴い生じる電位勾配に起因したCa2+の出入りが関与しており,局所におけるCa2+の濃度変化がプロテインキナーゼCのようなCa2+感受性タンパク活性を介してIP3濃度を変化させ,小胞体からのCa2+遊離を律動的に起こさせると,細胞膜のCa2+感受性イオンチャネルが活性化され,電位変動を引き起こさせると考えられる.
著者
宮田 桂司 本田 一男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.143-152, 1994 (Released:2007-02-06)
参考文献数
50
被引用文献数
5 10

The pharmacology of 5-HT and the classification of 5-HT receptors have become increasingly complex. However, recent advances have produced a new nomenclature system for 5-HT receptors. 5-HT3 receptors are neuronal receptors coupled directly to cation channels. Recently, many selective 5-HT3-receptor antagonists including tropisetron, zacopride, ondansetron, granisetron, zatosetron, nazasetron, YM060 and YM114 (KAE-393) have been developed. Many actions attributable to the 5-HT3-receptor have been described in both the peripheral and central nervous systems, and clinical trials are already showing the potential use of these 5-HT3 receptor antagonists in a number of disorders of the gastrointestinal tract and central nervous system, such as nausea and vomiting induced by cancer chemotherapy, anxiety, depression, schizophrenia and migraine. In addition, endogenous 5-HT is suggested to be one of the substances that mediate stress-induced responses in gastrointestinal function, i.e., increase in fecal pellet output and diarrhea. Moreover, YM060, YM114 (KAE-393) and granisetron have been reported to inhibit restraint stress and 5-HT-induced increases in fecal pellet output and diarrhea in rats and mice, indicating that endogenous 5-HT may mediate stress-induced changes in bowel function through the 5-HT3 receptor. Therefore, 5-HT3-receptor antagonists are new therapeutic drugs for stress-induced gastrointestinal dysfunctions like irritable bowel syndrome (IBS).
著者
浅田 和広
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.1, pp.24-27, 2012 (Released:2012-07-10)
参考文献数
8

医薬品の添付文書の意義について,薬事法,PL法,GVP省令等の観点からその重要性を,また適正使用情報の観点から添付文書の記載要領に基づく使用上の注意,薬物動態,臨床成績,薬効薬理の項に記載する情報について,次いで添付文書作成・改訂時の手順,添付文書改訂時の情報提供について概説した.また添付文書の現在の課題と,添付文書にかかわる制度改正の動向について紹介した.