著者
藤原 雄介 山本 弘史 福島 千鶴 小守 壽文 田中 義正
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.6, pp.327-331, 2015 (Released:2015-12-10)
参考文献数
1
被引用文献数
1

アカデミア創薬の環境はこの10年で大きく変わった.それでもアカデミアの創薬は大きな困難を伴う.最大の問題点は,製薬企業が評価を行うことができるまで創薬開発を進めていくことは,ひとつの研究室だけでは非常にハードルが高いことである.創薬のターゲット候補の発見,スクリーニングによる候補化合物の同定,最終的な薬物候補への最適化,臨床研究という創薬に必要な多くの過程をひとつの研究室で行うことは不可能に近い.もしもひとつの創薬シーズにおいて,多くの専門家,研究室が参加することができれば,アカデミアの創薬開発は大きく進むだろう.こういった状況の中で,長崎大学が創薬に対してどのようにオープン・イノベーションに取り組んでいくかを紹介する.
著者
堀井 郁夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.217-221, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

創薬初期段階からその薬効・安全性・薬物動態・物性を総合的に評価する事は有用な医薬品を効率的に創生するのに重要である.医薬品開発候補化合物の選択には,多面的な科学領域からの総合的な評価が望まれ,薬理学的・生化学的・生理学的,毒性学的・病理学的,薬物動態学的,化学的,物性的性状などを考慮しながら総合的に評価する実践的挑戦がなされてきている.創薬における探索段階の初期から開発候補化合物選定までの評価試験導入手法のパラダイムシフトの必要性とその実践が今後の創薬の重要挑戦事項である.多面的科学領域からの総合的評価により,(1)薬理作用と毒作用のバランス(薬物動態評価を含めて)からの薬効・安全性評価,(2)物性評価からの開発性の評価(臨床の場での製剤的適応性),(3)構造活性/毒性相関評価(薬理・毒性・薬物動態データ),(4)候補化合物選定のためのランキング設定,(5)当該化合物に潜在しているリスクの明確化とその対応策などが的確にできるようになる事が期待される.
著者
古賀 靖邦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.812-819, 1956-11-20 (Released:2010-07-09)
参考文献数
19
著者
大庭 澄明 今田 和則 友光 将人 竹谷 仁吏 金子 大樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.6, pp.304-314, 2013 (Released:2013-12-10)
参考文献数
4

フィルグラスチムは,遺伝子組換えヒト顆粒球コロニー形成刺激因子であり,好中球前駆細胞から成熟好中球への分化・増殖の促進,骨髄からの成熟好中球の放出促進による末梢血中の好中球数増加および好中球機能の亢進,造血幹細胞の末梢血への動員等の作用を有し,がん化学療法による好中球減少等の治療に利用される生理活性タンパク質である.持田製薬株式会社および富士製薬工業株式会社がそれぞれ販売を開始したフィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」およびフィルグラスチムBS注シリンジ「F」は, グラン®(協和発酵キリン株式会社)を先行品とするバイオ後続品であり,それらの有効成分は,グラン®の有効成分であるフィルグラスチム(遺伝子組換え)と同一の一次構造を有し,グラン®の1番目のバイオ後続品の有効成分を意味するフィルグラスチム(遺伝子組換え)[フィルグラスチム後続1]である.当該フィルグラスチムバイオ後続品の開発においては,「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」および「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」に準拠して,品質特性,非臨床試験(薬理試験と毒性試験),および臨床試験を実施した.フィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」の品質特性は,先行品と同等/同質であった.また,非臨床試験および臨床薬理試験において,好中球数増加作用,末梢血中への造血幹細胞の動員作用および薬物動態,安全性は,先行品と同等/同質であった.さらに,乳がん患者を対象とした第III相試験において,有効性・安全性が確認された.持田製薬株式会社と富士製薬工業株式会社は,これらの成績をもとに本邦でフィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」の製造販売承認申請を行い,2012年11月に先行品と同じ効能・効果で承認を取得,2013年5月に薬価収載され,販売を開始した.今後,フィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」は,医療現場において広く使用されることが期待される.
著者
神田 裕子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.1, pp.43-51, 2009 (Released:2009-01-14)
参考文献数
31

シタフロキサシン(STFX:グレースビット®錠50 mg,細粒10%)は,第一三共株式会社において創製され,2008年6月に発売されたキノリン骨格の1位にフルオロシクロプロピル基を,7位にスピロ型アミノピロリジン基を有するキノロン系抗菌薬である.本剤は,既存のキノロン系抗菌薬耐性菌を含むグラム陽性菌ならびにグラム陰性菌,さらにはマイコプラズマおよびクラミジアなどの非定型菌に対して,既存キノロン系抗菌薬と比較して最も高い抗菌活性を示した.特に,呼吸器感染症主要原因菌である肺炎球菌および尿路感染症主要原因菌である大腸菌に対し,既存キノロン系抗菌薬と比較してそれぞれ2~32倍および8~16倍強い抗菌力を示した.STFXは細菌の標的酵素であるDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVのいずれの酵素に対しても強い阻害作用を有し,さらに既存のキノロン系抗菌薬に耐性化した変異酵素の活性も強く阻害するため,他のキノロン系抗菌薬の耐性株に対しても強い抗菌力を発揮できると考えられた.STFXはヒトにおいて経口投与により速やかに吸収された後,良好な組織移行性と約6時間の半減期を示しながら,その大部分(約70%)が未変化体として尿中に排泄された.臨床試験においては,呼吸器感染症,尿路感染症をはじめとする各種感染症において90%以上の高い有効性が認められ,さらに,直前抗菌化学療法無効患者においても93.4%の高い有効性が認められた.細菌学的効果(菌消失率)は,呼吸器感染症で92.0%,尿路感染症で95.8%であり,本剤の強い抗菌力を反映した優れた効果が認められた.臨床試験で認められた主な副作用は下痢(13.0%)であったが,大部分が軽度であり一過性のものであった.これらの基礎試験および臨床試験成績から,STFXは呼吸器感染症,尿路感染症をはじめとする細菌感染症治療の有用な選択肢と考えられる.
著者
高木 敏英
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.1, pp.24-27, 2009 (Released:2009-07-14)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

溶解性と膜透過性の高低によって,化合物を4つのクラスに分類するBCSの考え方を創薬に導入することにより,それらを経口投与したときに問題となる現象を整理し,その原因をメカニズムから理解することができる.また,それぞれの原因に対して,吸収改善のための有効な製剤的方策を示唆することも可能である.溶解性および膜透過性が良好なクラスに属する化合物の場合,その経口吸収性が優れているために,開発期間の短縮やコストの削減が可能となることから,創薬においてはこのような化合物を医薬品候補として選択することが重要となる.一方,溶解性と膜透過性の両方が低いクラスの化合物では,製剤的な対応は難しく,医薬品の候補化合物として好ましくない.創薬から臨床開発,さらには上市された後まで見通したBCS戦略を持つことにより,安全で有効な医薬品を,できるだけ早期に医療の現場へ提供することができるものと考えている.
著者
嶋田 薫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.210-213, 2009-04-01
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

製薬企業における新薬の生産性の低下を招く要因,すなわち開発中止理由に薬物動態の割合が高いことが示されて以来,創薬初期段階での薬物動態研究が積極的に展開され,薬物動態が原因で開発中止となるケースは激減した.開発中止理由の変化を受けて,今,創薬初期段階の薬物動態試験はパラダイムシフトを起こす引金は引かれた.本稿では,「化合物から医薬品にするために必要な薬物動態試験」の序として,薬物動態研究関連のスクリーニングを解説し,実際の使用態様も紹介した.また,今後どのような評価系が望まれ,どのように戦略的に使用すべきかを開発効率の面から記述した.さらに,探索薬物動態部門が抱える問題について実際にプロジェクトを運営する現場から問題を提起・パラダイムを変える必要性について言及した.<br>
著者
土井(大橋) 雅津代 榑林 陽一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.194-198, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
25

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は,機能性消化管障害に分類され,便通異常(便秘や下痢)と慢性的な腹痛(内臓知覚過敏)を伴う疾患である.IBSの発症原因を特定することは難しいが,社会ストレスあるいは腸管内の感染・炎症が引き金となり,自律神経系や腸管内神経系に支障を与え発症するのではないかと考えられている.薬物治療は,消化管運動異常を改善する対症療法が主であり,慢性腹痛に対しては未だ治療法は確立されておらず,患者のQOLを低下させる原因となっている.基礎研究においては,IBSに類似した病態モデルの作成が急務であったが,近年になってストレスや炎症を利用した内臓知覚過敏モデルが作成され,内臓知覚過敏改善を目的とした創薬研究に応用されている.本稿では,IBSに伴う内臓痛覚過敏症の特徴につい概説すると共に,IBSの新しい病態モデルについて紹介する.
著者
柳原 延章 豊平 由美子 上野 晋 筒井 正人 篠原 優子 劉 民慧
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.3, pp.150-154, 2008 (Released:2008-09-12)
参考文献数
32

私達の食生活において摂取する食品の中には多くの植物性エストロゲンが含まれる.例えば,大豆食品のダイゼインや赤ワインのレスベラトロールなどがそうである.ここでは,植物性エストロゲンによる神経伝達物質のカテコールアミン(CA)動態に対する影響について紹介する.実験材料としては,中枢ノルアドレナリン(NA)神経や交感神経系のモデルとして広く利用されている培養ウシ副腎髄質細胞を用いた.植物性エストロゲンのダイゼインやレスベラトロールおよび女性ホルモンの17β-estradiol(17β-E2)は,チロシンからのCA生合成を促進し,同時にチロシン水酸化酵素を活性化した.さらに,細胞膜を通過出来ないウシ血清アルブミン(BSA)を結合させた17β-E2-BSAも17β-E2と同様に促進効果を示した.これら植物性エストロゲン等によるCA生合成促進作用は,エストロゲンの核内受容体阻害薬によって抑制されなかった.また,高濃度のレスベラトロールやダイゼインは,生理的刺激のアセチルコリン(ACh)によるCA分泌や生合成の促進作用を抑制した.一方,副腎髄質より分離調整した細胞膜は,17β-E2に対して少なくとも2つの特異的結合部位(高親和性と低親和性)の存在を示し,高親和性の17β-E2結合はダイゼインにより濃度依存的に抑制された.以上の結果から,植物性エストロゲンのダイゼインおよびレスベラトロールは,細胞膜エストロゲン受容体を介してCA生合成を促進するが,高濃度では逆にACh刺激によるCA分泌や生合成を抑制することが示唆された.
著者
中川 慎介 丹羽 正美
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.137-143, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
16
被引用文献数
2

末梢と中枢を隔てる血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)は,単に物質の移動を制限する関門として機能しているだけではなく,機能的なneurovascular unitを形成し,神経・グリア系と相互作用を行っていることが指摘され,脳血管障害だけでなく中枢性疾患におけるBBBの役割も注目されている.また,BBBは中枢神経作用薬にとっては,越えなければいけない障壁であり,薬物の脳内移行性を決定する重要な関所である.薬物の脳内移行性検定やBBBに関する基礎研究のために,培養細胞を用いたin vitro実験が広く行われている.不死化脳毛細血管内皮細胞株はその均一性や簡便性から,BBB研究に広く用いられているが,生体内における細胞の機能を比較的保持する初代培養脳毛細血管内皮細胞を用いた研究も重要である.BBBは脳毛細血管内皮細胞だけで構成されるのではなく,周囲のペリサイトやアストロサイトがBBB機能維持に関与している.本稿では,これら3種類のBBB構成細胞の初代培養方法と,インサート膜を用いた共培養方法を紹介する.作製したBBBモデルは薬物の脳内移行性やBBBに関する基礎研究などに活用できる.
著者
河野 透
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.1, pp.13-17, 2011 (Released:2011-01-10)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

植物由来物を利用した医薬は代替補完医療complementary and alternative medicine(CAM)の枠組みの中にあり,エビデンス重視の現代医療では異端的扱いであった.世界中から日本の伝統的医薬である漢方薬が高品質および標準化されている点に注目され始めた.その契機となったのが大建中湯の薬効機序に関する分子レベルの研究である.大建中湯は3つの生薬(山椒(さんしょう),乾姜(かんきょう),人参(にんじん))が含まれ,術後の腸管運動麻痺改善,および腸管血流改善作用が,大建中湯の主要成分であるhydroxy-α-sanshool,6-shogaolを中心にカルシトニン・ファミリー・ペプチドを介して発現していることが明らかとなった.この研究を契機に全国の大学病院で二重盲検プラセボ比較試験が開始された.同時に米国でも臨床試験が行われ大建中湯の有効性がいち早く証明され漢方薬のCAMからの脱出が始まった.
著者
白井 康仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.131-136, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
20

ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)はジアシルグリセロール(DG)をリン酸化し,ホスファチジン酸(PA)に変換する脂質キナーゼであり,これまでに10種のサブタイプが報告されている.周知のようにDGはPKCの活性化因子であり,産生されるPAも様々な酵素の活性を調節することから,DGKはPKCの抑制やPAの産生を介して生体内において重要な働きをしていると考えられている.しかし,神経系に多く存在するβサブタイプの機能は長い間不明であった.そこで,我々はDGKβのノックアウト(KO)マウスを作製し,その神経系における機能を調べた.その結果,DGKβKOマウスは,記憶障害と感情障害を示した.また,この感情障害は10日間のリチウム処理で改善した.一方,DGKβKOマウスから調製した海馬および大脳皮質初代培養細胞は,突起の分岐の数およびスパイン数が有意に減少していたが,DGKβを過剰発現させることで形態異常は回復した.さらに, DGKβKOマウスの海馬および大脳皮質において,スパイン密度が減少していることを確認した.これらのことから,DGKβは神経細胞の形態を調節・維持することにより神経ネットワークの形成,ひいては記憶や感情などの脳高次機能において重要な働きをしていることが明らかになった.本総説では,このDGKβKOマウスから得られた知見を中心に,神経系におけるDGKβについて概説するとともに,DGKβの記憶障害や感情障害の予防薬および改善薬のターゲットとしての可能性と問題点について論ずる.
著者
鈴木 信孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.252-257, 2008 (Released:2008-04-14)
参考文献数
9
被引用文献数
4 5

欧米の先進諸国において,補完代替医療(CAM)の利用頻度は近年急速な増加傾向にある.また,わが国でも,患者自身の治療選択における自己決定意識の高まりに加え,インターネットの普及などから,実際の医療現場でもCAMの利用者が急速に増加していることが指摘されている.このような背景のもとに,2001年に厚生労働省がん研究助成金による研究班が組織され,わが国におけるがんの補完代替医療の利用実態調査が全国規模で行われた.そして,がん患者の44.6%(1382/3100名)が,1種類以上の代替療法を利用していることが明らかになった.さらに,利用されているCAMの種類としては,健康食品・サプリメント(漢方・ビタミンを含む)が96.2%と群を抜いて多いことや,使用頻度の高いものとしてアガリクス(60.6%),プロポリス(28.8%),AHCC(7.4%),漢方薬:OTC(7.1%)などがあることもわかった.また,半分以上の患者が,十分な情報を得ずにCAMを利用していることや,患者と医師の間にCAMの利用に関して十分なコミュニケーションがとれていないことも判明した.たしかに,サプリメントが薬理学的に高い効果を示すかどうかは懐疑的である.しかし,患者側の立場としては,たとえわずかであっても効果が認められるものがあれば取り入れたいと思うのは当然であろう.今後,氾濫するサプリメントの情報の中で,科学的に的確なものを見極め,総合的な医療としてサプリメントなども利用した健康管理も必要となろう.本稿では,まずCAMを概説し,わが国における食品の分類,サプリメントの安全性や米国で進む植物性医薬品(Botanical Drug)の研究・開発についても解説する.
著者
Makio Saeki Hiroshi Egusa
出版者
The Japanese Pharmacological Society
雑誌
Folia Pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.6, pp.277-280, 2014 (Released:2014-12-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

骨粗鬆症治療薬は骨吸収抑制薬と骨形成促進薬に分類される.従来の骨粗鬆症治療薬は骨吸収抑制薬が主流であったが,破骨細胞と骨芽細胞の活性が共役する機構が存在するために長期的には骨形成が低下して効果が減弱したり副作用が生じたりする問題点があった.骨形成促進薬anabolic agent としてはヒト副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)製剤であるテリパラチドが現在唯一の治療薬である.我々は破骨細胞におけるnuclear factor of activated T cells (NFAT)シグナルをターゲットとした骨吸収抑制薬の創薬を当初の目的として,RAW264.7 細胞を用いたセルベースアッセイ系を構築し,様々な化合物ライブラリーを用いた創薬スクリーニングを行ってきた.スクリーニング中に多くのNFAT 活性化小分子化合物を発見し,これらの破骨細胞を活性化させる化合物が,anabolic therapy に使用できる可能性があるのではないかと考えた.Anabolic agent として唯一臨床応用されているPTH 製剤が血中のカルシウム濃度を上昇させるしくみの一つに,骨吸収の促進がある.したがって,PTH の骨吸収促進という教科書的事実に固執していたら,テリパラチドが骨形成促進薬として開発されることもなかったであろう.PTH の持続的投与は骨吸収の促進をもたらすが,間歇的投与intermittent PTH(iPTH)treatment によるPTH の骨形成促進作用に注目したことが,テリパラチドという骨形成促進薬の開発につながった.我々はこのテリパラチドの例をヒントに,あえて破骨細胞の活性化薬をスクリーニングすることから,新しい骨形成促進薬を開発できないかと考えている.
著者
柳浦 才三 鈴木 勉 田頭 栄治郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.649-658, 1974 (Released:2007-03-29)
参考文献数
14
被引用文献数
22 19

薬物混入飼料を用いる方法で,substitution testおよび薬物依存ラットの体重の経時変化について検討した。薬物混入飼料を用いる方法で獲得したmorphine,codeineおよびmeprobamateの身体的依存ラツトに,それぞれcodeine,morphineおよびphenobarbital混入飼料を置き換えた結果,それぞれの休薬時に認められるような禁断症状としての体重減少は観察されなかった.すなわち,morphine,codeineおよびmeprobamateにcodeine,morphineおよびphenobarbitalが置き換わり,それぞれの身体的依存性を推持したものと思われる.したがって,薬物混入飼料を用いる方法でもsubstitution testが可能である.しかし,phenobarbital依存ラットにmeprobamate混入飼料を置き換えたが,禁断症状としての体重減少が認められた.これは,meprobamateの混入濃度が低濃度であったためと考えられる.薬物混入飼料を用いる方法で獲得した依存ラットの体重の経時変化を測定した結果午前7時前後が最高となり,午後7時前後が最低となる日内変動を示した.また,休薬することにより累進的な体重減少を示したが,その中にも,わずかながら日内変動が認められた.休薬後48時間にそれぞれの薬物混入飼料を再処置すると,薬物依存ラットの体重レベルに急激に近づいていった.このようなラット体重の経時変化を測定することは,禁断症状としての体重減少をより明確にする上でも,また被検薬物の身体的依存形成能の検定にも有用と考えられる.
著者
鎌田 信彦 日比 紀文
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.186-189, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
12

消化管は腸内細菌との共生関係にある特殊な臓器であり,他の組織とは異なり,常に抑制性の免疫が優位になっている.近年,この腸管特異的抑制性免疫システムにおいて,腸管マクロファージ(Mφ)が重要な役割を担っていることが明らかになってきた.一方で,腸管Mφの抑制能の破綻は腸内細菌に対する過剰な免疫応答を惹起し,炎症性腸疾患のような腸管慢性炎症の引き金となる.著者らは,クローン病の腸管粘膜において自然免疫関連受容体であるCD14を高発現した特殊なMφを同定した.本細胞は腸内細菌刺激により過剰なIL-23産生することで,腸管T細胞の過剰な活性化を誘導することが明らかになった.さらにIFN-γは腸管Mφの分化に影響を及ぼし,IFN-γ存在下で分化誘導されたMφはIL-23高産生炎症性Mφとなる.その結果,異常分化を遂げた腸管MφはIL-23を介してさらにIFN-γ産生を亢進さる.このように,クローン病腸管粘膜局所では,腸管Mφを中心とし構築された炎症性フィードバックサイクルが病態形成に深く関与していると考えられる.
著者
林 康紀
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.113, no.2, pp.73-83, 1999-02-01
参考文献数
38
被引用文献数
4

代謝活性型(メタボトロピック型)グルタミン酸受容体(mGluR)には8つのサブタイプが存在するが,それぞれの機能については特異的なリガンドの欠如もあり不明な点が多かった.この一連の研究では,種々のグルタミン酸アナログのmGluRのリガンドとしての活性を,各サブタイプを発現した細胞株のセカンドメッセンジャーを測定することで検討した.その結果,(2S,1'R,2'R,3'R)-2-(2,3-dicarboxycyclopropyl)glycine(DCG-IV)がサブグループIIの特異的なアゴニスト,(+)-α-methyl-4-carboxyphenylglycine(αM4CPG)がmGluR1とmGluR2の両者に対するアンタゴニストとして同定された.次にDCG-IVを用い,mGluR2が副嗅球樹状突起間シナプスにおいて顆粒細胞からのGABAの放出をシナプス前性に抑制していることを見出した.この機構により僧帽細胞がGABAによる抑制から解除され,周辺の僧帽細胞への側方抑制をかけると考えられた.また,雌マウスの副嗅球にDCG-IVを注入することで,mGluR2の活性化が妊娠阻止現象にて観察されるのと同様の嗅覚の記憶を引き起した.この一連の研究は中枢神経に於ける特定のmGluRサブタイプの機能を明らかにした初めてのものである.
著者
松尾 龍二 美藤 純弘 松島 あゆみ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.6, pp.306-309, 2013 (Released:2013-06-10)
参考文献数
11

上唾液核は顎下腺・舌下腺を支配する副交感神経系の中枢である.ラットの脳スライス標本を用いた電気生理学的実験により,上唾液核ニューロンは興奮性と抑制性のシナプス入力を受けていることが示されている.その主な受容体は興奮性がグルタミン酸受容体とムスカリン性アセチルコリン受容体,抑制性がGABA受容体とグリシン受容体である.免疫組織化学的にもこれらの受容体が検出された.一方,蛍光色素の軸索輸送を利用した組織学的検索により,上唾液核に入力する主な神経群は脳幹部の網様体,結合腕傍核,孤束核,および上位脳の視床下部外側野,扁桃体中心核,室傍核などである.これらの部位は上唾液核に直接入力すると考えられる.これらの神経核群の中で,抑制性GABAニューロンは主に脳幹部の網様体に存在し,前脳の扁桃体中心核や視床下部外側野にも検出された.これらの所見は,唾液分泌が食欲(摂食中枢としての視床下部外側野)や食の嗜好性(扁桃体中心核)を反映することを示唆している.さらに上唾液核へのコリン作動性入力の起始核として,脚橋被蓋核や背側被蓋核が上記の軸索輸送の実験で認められている.これらの部位は網様体賦活系と関連しており,覚醒やレム睡眠の維持などに重要である.精神ストレスは,食欲,情動,睡眠に影響することがよく知られており,これらの上位中枢の変化は唾液分泌にも変調を来すと考えられる.
著者
山内 洋一 生田 殉也 清水 貞宏 中村 政記
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.95, no.5, pp.239-246, 1990 (Released:2007-02-20)
参考文献数
43
被引用文献数
2 1

塩酸dilazepの脳虚血モデルに対する影響を高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて検討した.SHRは4時間の両側総頸動脈結紮により,四肢の麻痺,正向反射の消失などの異常神経症状が見られた.血流を再開通させることにより,これらの神経症状はさらに悪化し,死亡する例も認められた.再開通1時間後の脳内水分含量は著明に増加し,Na含量の増加,K含量の低下を伴っていた.さらに,脳内脂質過酸化反応の指標として測定したchemiluminescence値は脳虚血4時間後では増加し,再開通15分後では一過性に急激に増加した.dilazep0.3~3mg/kg/hrは虚血中4時間の静脈内持続注入により,虚血中および再開通後の神経症状および再開通後の死亡に対して,用量依存的な抑制を示した.dilazep3mg/kg/hrは脳浮腫および脳内脂質過酸化反応を抑制した.以上,dilazepは虚血性脳血管障害にもとつく神経症状の改善効果および脳浮腫の抑制効果を示した.これらの作用機序として,脳内脂質過酸化反応の抑制が重要な役割を演じていることが示唆された.
著者
谷 孝之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.221-230, 1981 (Released:2007-03-09)
参考文献数
21
被引用文献数
3 8

formaldehyde(HCHO)の血管平滑筋に対する弛緩作用について,ウサギの胸部大動脈条片標本を用いて検討し,以下の成績を得た.K+ 25mM 適用による標本の収縮に対して,HCHO 6.6×10-4M の前処置は抑制を生じたが,K+ 収縮後の添加は抑制をひき起さなかった.すなわち,HCHO は前処置によってのみ K+ 収縮を抑制するが,抑制の強さは処置時間に依存する傾向にあった.Ca2+ 除去 K+ -脱分極筋における Ca2+ の収縮に対して HCHO は著明な抑制を示したが,Ca2+ 除去液(EGTA 無添加)中での高 K+(50mM)の収縮に対しては抑制を示さなかった.また,Ca2+ 除去液(EGTA 添加)中での Ba2+ 2.2mM の収縮に対しても HCHO は抑制を示さなかった.以上のことから,HGHO は細胞内 Ca2+ の遊離もしくはその利用能には影響を及ぼさず,Ca2+ の細胞内への流入を抑制することが示唆された.また,一方,HCHO は NE による筋収縮を抑制した.しかし,NE は HCHO と37°C の栄養液中で化学反応してかなり急速にその濃度の減少することが高速液体クロマトグラフィーでの測定の結果,認められた.このことから,NE の収縮に対する HCHO の抑制作用の主な原因の一つは,NE のHCHO による不活性化にあると思われる.以上の成績から,HCHO の血管平滑筋に対する弛緩作用には,NE の不活性化と Ca2+ 流入阻止の両作用が関与しているものと思われる.