著者
小俣 武志 井上 肇 瀬山 義幸 山下 三郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.113-118, 1989 (Released:2007-02-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

ラットの胃に酢酸潰瘍を作製し,2,10,40,80,180,365日目の時点で,その治癒過程における潰瘍部位と非潰蕩部位について,各種アミン含量とヒスチジンデカルボキシラーゼ(HDC)活性を比較検討した.その結果以下のことが明らかとなった,1)潰瘍部位のヒスタミン(HA)含量は非潰瘍部位と比較し,2,10日目で減少後,40日目で差がなくなり180日目で潰瘍部位ばかりでなく非潰瘍部位も正常対照群より増加した.2)セロトニン(5-HT)含量の変動はHAと同様であった.3)潰蕩部位のノルエピネフリン含量は非潰瘍部位と比較し,2,10,80,180日目で減少していた.4)潰瘍部位の HDC 活性は非潰瘍部位と比較し,2,10,40日目で減少し,180日目では正常対照群より減少したままであった.5)365日目に肉眼的に再燃,再発を確認したラットの潰瘍部位と非潰瘍部位のHA,5-HT含量は治癒したラットのその含量と差がなかったが,180日目と同様に高値を示していた.以上,胃粘膜中のHA,5-HT,HDC 活性の変動は慢性胃潰瘍の再燃,再発に係わる一因子となる可能性が推測された.
著者
原 一雄 山内 敏正 窪田 直人 戸辺 一之 山崎 力 永井 良三 門脇 孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.4, pp.317-324, 2003 (Released:2003-09-19)
参考文献数
7
被引用文献数
3 3

転写因子で核内受容体であるPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma)は脂肪細胞の分化に非常に重要な役割を担っており,インスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体の細胞内標的である.PPARγヘテロ欠損マウスにおいては,高脂肪食で見られる脂肪細胞の肥大化·インスリン抵抗性の程度が野生型に比べて抑制されていたことからPPARγは脂肪細胞の肥大化を媒介する倹約(節約)遺伝子であることを明らかとした.ヒトPPARγ2遺伝子の12番目のアミノ酸がProからAlaに置換したPro12Ala多型はチアゾリジン誘導体によるPPARγ転写活性上昇作用が低下していること,PPARγヘテロ欠損マウスの解析結果から,Alaアリル保持者はインスリン抵抗性が軽度であることが予測された.そこで2型糖尿病患者と非糖尿病者を対象に検討を行ったところ,糖尿病群に比してAlaアリル頻度が非糖尿病群で有意に高く,Alaアリル保持者は2型糖尿病の発症リスクが低いことが示された.更に多施設共同研究や,これまでのPro12Ala多型についての報告を集積して解析したメタアナリシスでもAlaアリル保持者が一貫して糖尿病のリスクが低下しているという結果が出ている.そこでPPARγの機能をある程度低下させることがインスリン抵抗性糖尿病の治療となりうることが示唆された.実際にPPARγアンタゴニストを糖尿病モデルマウスに投与すると,インスリン抵抗性が改善したことからPPARγアンタゴニストはインスリン抵抗性を改善する糖尿病の根本的治療法として期待される.しかしながらPPARγヘテロ欠損マウスはeNOSの産生低下,血管弛緩反応の低下による血圧の上昇を示したことから血管に対してはアゴニスト,脂肪細胞に対してはアンタゴニストとして選択的に働く薬剤が理想的であると考えられる.
著者
毛利 彰宏 野田 幸裕 鍋島 俊隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.141-146, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
38
被引用文献数
1 1

水探索試験は,絶水していないマウスを一度だけ給水ビンのある環境に暴露した時,その中にある給水ビンのノズルの位置について覚えているかどうかを指標にする学習・記憶試験である.ノズルの位置に対する記憶は自由な探索行動の中で水に対する強化効果なしに獲得されるため,動物の潜在的な学習能力(潜在学習)を反映すると考えられている.グルタミン酸機能低下仮説に基づいた統合失調症様モデル動物[N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬のフェンシクリジン(PCP)を急性あるいは連続投与した動物およびNMDA受容体サブユニット遺伝子欠損マウス]は潜在学習障害を示すため,潜在学習にはNMDA受容体が関与していると考えられる.特にPCP連続投与マウスでは前頭皮質ドパミン作動性神経系の機能低下が認められ,ドパミンD1受容体を介するNMDA受容体機能の低下が潜在学習障害の発現に関与していることが示唆されている.ノルアドレナリン作動性神経機能を低下させたマウスやドパミンおよびノルアドレナリンの合成能が低下しているチロシン水酸化酵素(TH)遺伝子変異マウスにおいても潜在学習障害は認められる.一方,ドパミン作動薬によっても潜在学習は障害される.この障害はドパミン作動性神経機能の亢進によっておりドパミンD2受容体を介したものであると示唆されている.このような潜在学習障害は頭部外傷モデル動物において認められる.受容体以降の細胞内情報伝達系の潜在学習における役割についてはカルシウムシグナルのセカンドメッセンジャーであるCa2+/calmodulin kinaseII(CaMKII),その下流のcyclic AMP response element binding protein(CREB)が関与していることが,特異的阻害薬や遺伝子変異マウスを用いた研究において報告されている.これらシグナル伝達に対して抑制作用をもつノシセプチンは潜在学習を障害する.このように潜在学習は多くの神経系の相互作用により細胞内情報伝達が変化し,形成されるものと考えられている.

1 0 0 0 OA ATPと痛み

著者
津田 誠 小泉 修一 井上 和秀
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.6, pp.343-350, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
50

ATP受容体が痛みの発生と伝達にどのように関与しているかについてその可能性も含めてまとめた.イオンチャネル型ATP受容体のなかでも,P2X3はカプサイシン感受性の小型脊髄後根神経節(DRG)神経細胞に局在し,急速な不活性化を伴う内向電流の発現に寄与し,末梢側ではブラジキニンに匹敵するような痛みを引き起こす.さらに, nocifbnsive behavior および themlal hyperalgesia 発現に関与している事が推測される.脊髄後角ではP2X3はDRG中枢端からのグルタミン酸放出を促進することにより痛み伝達を増強するようである.一方,P2X2とP2X3のヘテロマー受容体は,カプサイシン非感受性のやや中型DRG神経細胞に局在し,比較的緩徐な不活性化を伴う内向電流の発現に寄与する.行動薬理学的にはこのヘテロマー受容体は mechanical allodynia の発現に関与していることが推測されている.なおGタンパク共役型ATP受容体は,痛みとの直接の関与については未だ証明されていないが,それを示唆する状況証拠はかなり蓄積されており,特に病態時の関わりについて今後の研究が待たれる.
著者
澤田 光平 日原 裕恵 吉永 貴志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.5, pp.321-327, 2005 (Released:2006-01-01)
参考文献数
7

オンチャネルは生理的に重要な機能を有しており,創薬の標的としても非常に魅力がある.しかしイオンチャネル創薬研究は他の分野に比べ未開拓であり,その中でも電位依存性イオンチャネルは研究の難しさから特に遅れている.電位依存性イオンチャネルの創薬研究でも1次スクリーニングには蛍光測定法のような多検体評価の可能な系,2次スクリーニングはより信頼性が高く,生理的条件で情報の得られるパッチクランプ法を用いることが推奨される.しかし,従来のパッチクランプ法では熟練した研究員でも1日に多くて10化合物程度しか評価できず,スループット性は低い.このために電位依存性イオンチャネルの創薬研究の発展は著しく阻害されていた.しかし,最近オートメーションパッチクランプ法が開発され,電位依存性イオンチャネルの創薬研究も新たに活況を呈するようになってきた.hERGチャネルは薬剤によるQT延長,不整脈誘発の危険性に最も深くかかわっており,探索研究初期からそのリスク排除のための検討が必要である.我々は化合物によるhERGチャネル抑制作用検討のため,hERGチャネル安定発現細胞の樹立,高速スクリーニング法として蛍光膜電位測定法,また2次スクリーニング法としてIonWorks HTシステムを用いたオートメーションパッチクランプ法の構築を試みた.蛍光膜電位測定法は非常に高いスループット性を有するが,false negative/positiveの割合も高い.一方IonWorks HTを用いたオートメーションパッチクランプは従来のパッチクランプと比較しても同等の精度で電流の記録が可能であり,化合物のIC50値もよい相関を示した.しかし一部の化合物ではIC50値の乖離も見られ,今後更にシステムの改良も必要である.以上のように電位依存性イオンチャネル創薬技術にはまだ課題もあるが,大きな可能性が開けてきた.
著者
塩沢 明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.4, pp.253-258, 2002 (Released:2003-01-28)
参考文献数
32
被引用文献数
2 3

塩酸セビメリン水和物(商品名:サリグレン®カプセル30 mg(日本化薬株式会社))は雪印乳業株式会社および日本化薬株式会社により共同で開発された,キヌクリジン環を基本構造とする新規な誘導体である.塩酸セビメリン水和物は唾液腺のアセチルコリンM3受容体に高い親和性を示す受容体アゴニストであり,口腔内に分泌される唾液の重量を指標とした動物実験で唾液分泌促進作用を示した.この唾液分泌促進作用は,臨床試験でもシェーグレン症候群の口腔乾燥症患者において,口腔内に含んだガーゼを用いて唾液の重量を測定するサクソンテストで実証され,その結果として患者の自覚症状および他覚所見を有意に改善し,QOLを向上する事が明らかにされた.さらに長期投与試験においても安全性および有効性が確認された.薬理試験および薬物動態試験の結果,塩酸セビメリン水和物は経口投与後速やかに吸収され,類薬に比較して即効的かつ持続的に唾液分泌を促進することが示された.これらの基礎試験および臨床試験の結果,新規合成化合物である塩酸セビメリン水和物は,唾液腺のM3受容体を選択的に刺激して持続的に唾液分泌を促進させることが明らかとなり,シェーグレン症候群患者の口腔乾燥症を改善しQOLを向上する薬剤として期待されている.
著者
石川 智久 中山 貢一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.208-213, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
16

グルコースによるインスリン分泌機構として,グルコース代謝によるATP/ADP比の上昇によりATP感受性K+チャネル(KATPチャネル)が閉口して膜が脱分極し,電位依存性Ca2+チャネルが活性化されてインスリン開口放出が惹起されるというKATPチャネル依存性の機序が知られている.しかし,インスリン分泌がこのKATPチャネル依存性の機序によってのみ生じるわけではない.特に,グルコース誘発インスリン分泌の第2相には,KATPチャネル非依存性の機序の関与が示されている.この機序として,マロニルCoA/長鎖アシルCoA仮説,グルタミン酸仮説,ATP仮説などが提唱されているものの,これらの仮説とは矛盾する報告も為されており,未だその全容解明には至っていない.著者らは最近,こうした因子とは少し性質を異にした新たな機序を提唱した.すなわち,グルコース刺激によりβ細胞の構成型NO合成酵素が活性化されてNOが産生され,そしてNOが低濃度ではcGMP産生を介してインスリン分泌を促進し,それ以上の濃度になるとcGMP非依存性の機序によりインスリン分泌を抑制することを示した.また,高濃度グルコースによりβ細胞が膨張することに着目し,低浸透圧刺激を利用して細胞膨張応答機構を解析した.そして,β細胞の膨張が伸展活性化カチオンチャネルを活性化して膜を脱分極させ,インスリン分泌を惹起することを示した.以上の結果から,NOがグルコース誘発インスリン分泌においてその濃度によって促進的あるいは抑制的に働く調節因子として機能すること,また,高濃度グルコースによるインスリン分泌に細胞膨張による伸展活性化カチオンチャネルの活性化を介した機序が寄与する可能性を示した.こうしたKATPチャネル非依存性の機序は,糖尿病治療薬の新たなターゲットとなる可能性を秘めており,研究のさらなる展開が期待される.
著者
山口 和政 村澤 寛泰 中谷 晶子 松澤 京子 松田 智美 巽 義美 巽 壮生 巽 英恵
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.3, pp.175-183, 2007-09-01

我々は,嗅球摘出ラットを用いてヒトのうつ病状態に陥る生活環境の再現を試みた.暗室にラットを飼育することで昼夜逆転のヒトの生活を,また,身動きできないスペースの個室飼育で自由を奪うことでヒトのリズム運動抑制を再現し,セロトニン(5-HT)欠乏脳になったことを中脳縫線核(5-HT細胞体)のトリプトファン水酸化酵素および5-HTの免疫染色で確認後,行動評価を行った.嗅球を摘出後14日以上,暗所で個別飼育したラットは,暗所で24時間の脳波を測定すると,摘出前と比較して,嗅球摘出前にみられるような睡眠覚醒周期(短時間に覚醒・睡眠を交互に繰り返す)は消失し,覚醒または睡眠の持続時間延長といった周期混乱(ヒトで寝起きの悪さに類似)が認められた.また,この睡眠覚醒周期の混乱はSNRIのmilnacipran(10 mg/kg)の7日反復経口投与で回復が認められた.また,このラットをマウスに遭遇させると,逃避性および攻撃性を示す個体(ヒトでの自閉症様行動に類似)とに分かれた.さらに,ケージから取り出したときパニック様症状(ヒトでのちょっとしたストレスで自らを混乱に陥れてしまうパニック行動に類似)を示し,植木らが報告した評価項目に従って判定すると,偽手術ラットと比較して高い情動過多を示した.また,ラットの中には泣き声を発せずにジャンプし,マウスの尾を傷つけたりするような激しい行動(ヒトの動物虐待などの過激な行動に類似)を示す個体もみられた.マウスに対して逃避性および攻撃性を示す個体の生化学的および病理組織学的所見では,前脳皮質のノルエピネフリン(NE)および5-HT含量の減少および中脳または橋の背側縫線核トリプトファン水酸化酵素(TPH)免疫染色および5-HT免疫染色で陽性細胞数の減少(5-HT細胞体の機能低下)が認められた.また,マウスに対して逃避性を示す個体では,青斑核チロシン水酸化酵素(TH)免疫染色で陽性細胞数の減少(NE細胞体の機能低下)が,攻撃性を示す個体では,青斑核TH免疫染色で陽性細胞数の増加(NE細胞体の機能亢進)がそれぞれ認められた.NPY(抗うつ薬によるラットのムリサイド抑制と密接な関連を有するペプチド神経)免疫染色では,前頭皮質,帯状回皮質,運動野皮質および扁桃体でNPY免疫染色陽性細胞の増加が,また,前交連,側座核および視床下部では,NPY免疫染色陽性線維の増加が認められた.さらに,このラットの疼痛反応の評点は抗うつ薬のtrazodone(10および30 mg/kg)の反復経口投与開始後1日の投与後に,その他の項目の評点は四環系抗うつ薬のmaprotiline(10および30 mg/kg),SNRIのmilnacipran(3および10 mg/kg),SSRIのfluvoxamine(10および30 mg/kg)の反復経口投与開始後5および7日の投与前および投与後に抑制が認められた.<br>
著者
中潟 直己
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.343-348, 2007-05-01
被引用文献数
1

爆発的に増え続けるミュータントマウスに対して,国内外でマウスバンクが次々と設立され,それらマウスバンクの世界的な組織,Federation of International Mouse Resources(FIMRe)が2005年に発足した.一方,2006年にはアジアにおいて,遺伝子改変マウスの作製と保存に関するコンソーシアム,AMMRA(Asian Mouse Mutagenesis and Resource Association)が設立された.我が国の代表的なマウスバンクとしては,熊本大学CARD(Center for Animal Resources & Development)および理研BRC(Bio Resource Center)があるが,本項では,熊本大学CARDを紹介する.CARDのバンクシステムには,以下の2つがある.すなわち,一方は,マウスの寄託を受け,保存された系統について情報を公開し,第三者へ広く供給するものである.この場合の料金は,マウスのCARDへの輸送や凍結保存経費など,寄託に関する一切の経費は無料であるが,供給に関しては,有料(実費)である.他方は,有料にてマウス胚/精子の凍結保存サービスを行うもので,保存したマウスを第三者へ分与しない,また,そのマウスの情報を公開しないという条件で実施している.前者は年間100~150系統の寄託があり,年々,寄託保存系統数が増えていると同時に,海外からの供給依頼も増えている.後者は2006年4月から開始したばかりであるが,すでに80系統以上の凍結保存の依頼が入っており,着実にその成果を上げている.<br>
著者
田中 美保子 中田 勝彦 高瀬 謙二 三田 四郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.191-198, 1991
被引用文献数
6

(4R)-hexahydro-7,7-dimethyl-6-oxa-1,2,5-dithiazocine-4-carboxylic acid(SA3443)のacetaminophen誘発肝障害に対する作用をBALB/cマウスを用いて検討した.SA3443(30~300mg/kg,p.o.)はacetaminophen(150mg/kg)投与により上昇した血清GOT,GPT活性と共に肝の病理組織学的変化を用量依存的に抑制し,また,acetaminophen(350mg/kg)による急性肝不全死に対しても同用量で抑制した.このBALB/cマウスの急性肝不全死モデルに対して,他の肝疾患治療薬であるcianidanol(500mg/kg),malotilate(100mg/kg),glycyrrhizine(10mg/kg)およびcystein(300mg/kg)も同様に抑制した.一方,SA3443は正常マウスの肝GSH量に対して何等影響を与えなかったが,acetaminophen投与による肝GSH量の低下を用量依存的に抑制した.以上の結果より,新規環状ジスルフィド化合物SA3443はacetaminophen誘発肝障害に対して明らかな防御作用を有することが示され,その作用機序の1つに肝のGSH低下の抑制が示唆された.
著者
高橋 行雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.6, pp.325-331, 2009 (Released:2009-06-12)
参考文献数
11
被引用文献数
3

薬理学研究から得られる経時データに対して,様々な統計手法が適用されている.しかし,適切な統計解析法なのかが明確にされていないために,反復測定分散分析(Repeated measures ANOVA)を行い,薬剤因子と時間因子の交互作用に有意な差があれば,時点ごとに多重比較法により輪切り的に群間の平均値を比較する方法が標準的になっている.今回,経時的に測定された血圧データを用いて,降圧剤の薬効評価の観点からその問題点について検討した.反復測定分散分析において,投与前値を含む実データを使うか,投与前値からの差のデータを使うかによって分散分析表の見方が全く異なることを示した.経時データのエンドポイントとして,1)効果が最大となる時点,2)曲線下面積,3)薬効の発現時点,4)投与前値までの回復を取り上げ,設定のための着眼点について例示した.投与前値をどのように考慮するかについて,1)投与開始後のデータのみを用いた方がよい場合,2)投与前値を共変量としてよい場合,共変量としてはならない場合に分けて述べた.投与中止後の投与前値への血圧の回復を判定する場合には,有意差検定より差の信頼区間を用いる方が望ましいことを例示した.
著者
田村 藍 安 然 大西 裕子 石川 智久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.270-274, 2007-10-01
被引用文献数
3

「ポルフィリン」という名称は,古代紫(ポルフィラ)に由来する.古代紫という色は,紫草という多年草の根から染料として創り出された色で,日本の伝統色の中でも特別な意味を持っていた.特に平安時代には賛美され,高い位の象徴であると同時に,気品や風格,艶めかしさといった様々な美を体現していた.21世紀の今,ポルフィリン研究において,温故知新の新しい潮流が起きようとしている.ポルフィリンはヘモグロビン,ミオグロビンのほか,我々の体内細胞におけるチトクロムの補欠分子族ヘムの基本骨格であり,生命維持に不可欠な生体物質である.一方,ABC(<u>A</u>TP-<u>B</u>inding <u>C</u>assette)遺伝子は,細菌から酵母,植物,哺乳類に至る広い生物種に分布して,多様な生理的役割を担っている.ヒトでは現在までに48種のABCトランスポーターが同定されており,それらはタンパク質の1次構造の特徴に基づいて7つのサブファミリー(AからG)に分類される.これまでの臨床的研究結果から,ヒトABCトランスポーター遺伝子の異常によって様々な疾患が引き起こされることが判明した.例えば,ABCC2(cMOAT/MRP2)の遺伝子変異はビリルビン抱合体の輸送障害を起こしDubin-Johnson症候群を引き起こす.さらに最近の研究によって,ヒトABCトランスポーターのうちABCB6,ABCG2,ABCC1,ABCC2がポルフィリン生合成やヘム代謝に密接に関与していることが明らかになった.ヒトABCトランスポーターの遺伝子多型や変異とポルフィリン症などの疾患との関連が示唆される.この総説では,当該分野での最新の知見を紹介しつつ,ポルフィリン生合成やヘム代謝におけるヒトABCトランスポーターの役割を議論する.<br>
著者
飯利 太朗 槙田 紀子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.244-247, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
29

古典的なGタンパク質共役受容体(GPCR)のtwo-stateモデルでは,GPCRは活性型と不活性型との間で平衡状態にあり,各GPCR作動薬はその平衡状態をシフトさせる方向性からアゴニスト,インバースアゴニスト,アンタゴニストと分類されてきた.最近,GPCRは活性型,不活性型いずれにおいても無数の高次構造を取り得ると考えるmulti-stateモデルを支持するデータが集積している.このモデルでは,各作動薬はそれぞれユニークなGPCRの高次構造を認識して結合しこれを安定化させると考えられる.GPCRの個々の高次構造において潜在的にそれぞれ異なる機能を発揮すると考えられる.この考えに基づけば,あるユニークなアゴニストあるいは通常のアゴニストとアロステリックに作用する調節因子の作用のもとに,本来複数のGタンパク質を活性化するGPCRを介して,あるシグナル系のみを特異的に活性化(機能選択的活性化)することも夢ではない.今回,我々が疾患で発見解析したCa感知受容体に作用する自己抗体は,こうした機能選択的活性化を可能にするアロステリックに作用する調節因子であった.このきわめてまれな疾患の解析結果は,同様な機能選択的な活性化が生理的にも作動していることを暗示しているのかもしれない.さらに,GPCRの機能選択的な調節をターゲットとする薬剤の開発は,今後のGPCR作動薬分野の創薬における新しく重要な方向性を示していると考えられる.
著者
五藤 准 村松 信 細田 和昭 小友 進 相原 弘和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.395-400, 1984
被引用文献数
1

非ステロイド性抗炎症薬oxaprozinの血小板凝集ならびにprostaglandin(PG)synthetaseに対する作用を検討した.in vitroにおけるウサギ血小板のarachidonic acid(AA)凝剰こ対してoxaprozinは用量依存的な抑制作用を示した.そのIC50は124.2μMで,indomethacin,piroxicamよりは弱く,aspirin,phenylbutazoneとほぼ同等で,ibuprofenの約2倍の強さであった.ex vivoにおけるラット血小板のcollagen凝集に対するoxaprozinの抑制作用は弱く,300mg/kgで抑制作用を示した.indomethacin,aspirinおよびibuprofenは100mg/kgですでに抑制作用を示し,phbenyl-butazoneも300mg/kgで作用を示すが,その作用はoxaprozinより強かった.血小板のADP凝集に対してはウサギin vitro,ラットex vivoのいずれにおいてもoxaprozinは抑制作用を示さなかった.またマウスAA致死に対してoxaprozinは用量依存的な抑制作用を示し,そのED50は56.4mglkgであった.この作用はsulindac,piroxicamおよびibuprofenより弱く,aspirinとほぼ等しく,phenylbutazoneの約5倍の強さであった.一方,PG synthetaseに対してoxaprozinは用量依存的な阻害作用を示した.その作用はindomethacin,piroxicamより弱く,ibuprofenとほぼ同等で,phenylbutazoneおよびaspirinより強かった.以上の結果より,oxaprozinは一般的な酸性非ステロイド性抗炎症薬と同様の血小板凝集抑制作用を有し,その作用は主としてPG生合成の阻害に基づくものと考えられる.
著者
大熊 康修 細井 徹 野村 靖幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.1, pp.25-31, 2006-01-01

肥満遺伝子産物であるレプチン(leptin)は,摂食抑制作用やエネルギー消費の亢進を惹起して肥満の進展を制御している.このレプチンの作用はOB-Rb受容体とそれに続く転写因子signal transducer and activator of transcription 3(STAT3)の活性化を介しているとされている.一方最近,レプチンは,感染あるいは炎症に関与していることが示唆された.末梢性炎症反応は,interleukin(IL)-1&beta;,IL-6やTNF&alpha;の発現,発熱,睡眠,摂食抑制などを惹起する.これらの脳への伝達経路の一つとして,求心性神経を介する系の存在が示唆されているが,今回求心性迷走神経を直接電気刺激することでその関与について直接の証明を得た.一方,レプチンを静脈内に投与後,脳でIL-1&beta;の発現誘導が認められたことから,末梢性炎症反応時における脳内サイトカイン産生にレプチンが関与している可能性が示唆された.このレプチンの脳内IL-1&beta;誘導作用は求心性迷走神経とは独立した系で誘導すると考えられた.また,<i>db/db</i>マウス(レプチンOb-Rb受容体変異肥満モデルマウス)を用いた解析から,レプチンによる脳内IL-1&beta;の産生はSTAT3活性化非依存的に,ショートアイソフォームレプチン受容体を介して誘導されることが示唆された.さらに,Ob-Rb受容体を介したSTAT3の活性化を指標にレプチンの脳内作用部位を検討した結果,従来から知られている視床下部に加え脳幹部もレプチンの作用点である可能性を示した.最近,platelet-derived growth factor(PDGF)によるSTAT3の活性化にDouble-stranded RNA-activated protein kinase(PKR)が関与していることが報告された.そこで,レプチンOb-Rb受容体の細胞内情報伝達における,PKRの関与の可能性について検討した.PKRの阻害薬2-aminopurine(2-AP)を用いて検討したところ,2-APはPKRを介さずにレプチンの下流のシグナルを抑制した.したがって,PDGFとレプチンではSTAT3活性化の機構が異なること,また,2-APはレプチンなどが関係する一部の癌治療の基礎的資料を提供することが期待された.<br>
著者
中丸 幸一 菅井 利寿 木下 宣祐 佐藤 雅子 谷口 偉 川瀬 重雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.447-457, 1994
被引用文献数
7 7

特発性炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎とクローン病に対する治療薬としてメサラジン(mesalazine)顆粒(Pentasa<SUP>®</SUP>)が開発された.我々はすでにメサラジン顆粒の実験的大腸炎モデルに対する有効性を見い出した.本研究では,メサラジン(5-aminosalicylic acid)のラジカルおよび活性酸素の消去作用をin vitroの系で,脂質過酸化に対する作用をin vitroおよびin vivoの系で,さらにはロイコトリエンB<SUB>4</SUB>(LTB<SUB>4</SUB>)生合成に対する作用を検討した.その結果,メサラジンはフリーラジカルである1,1-diphenyl-2-picrylhydrazylを還元し,IC<SUB>50</SUB>値は9.5μMであった.また,活性酸素である過酸化水素と次亜塩素酸イオンの消去作用を示し,IC<SUB>50</SUB>値はそれぞれ0.7μM,37.0μMであったが,スーパーオキサイド消去作用は示さなかった.さらに,ラット肝ミクロソームでの過酸化脂質の生成を抑制し,IC<SUB>50</SUB>値は12.6μMであった.in vivoの系では,幽門部を結紮したラットにおいて,胃を虚血再灌流することで生じる胃粘膜過酸化脂質量に対する効果を検討した.メサラジン25,50mg/kgの胃内投与で十分量のメサラジンが胃粘膜に分布するとともに,用量依存的に過酸化脂質抑制効果を示し,50mg/kgでは有意(P<0.01)であった.ラットの腹腔から採取した好中球でのLTB<SUB>4</SUB>生合成に対してメサラジンは抑制作用を示し,IC<SUB>50</SUB>値は44.9μMであった.メサラジンの代謝物である<I>N</I>-acetyl-mesalazineは高濃度(1mM)でLTB<SUB>4</SUB>生合成を抑制したが,ラジカル,活性酸素の消去作用および過酸化脂質の抑制作用は示さなかった.以上の成績から,メサラジンは炎症部位で生じる活性酸素を消去することで細胞障害を抑制すること,さらにはLTB<SUB>4</SUB>生合成を阻害することで好中球の浸潤を抑制することが示唆された.そして,メサラジン顆粒はこれらの作用機序を介してIBDに有効であることが示唆される.
著者
田中 秀和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.3, pp.93-98, 2012 (Released:2012-03-10)
参考文献数
29

神経回路ができるとき,神経突起が標的細胞と接着することでシナプス結合が成立する.神経回路が成立したあとでも,シナプス形成過程の一部をくりかえすことで,シナプスの強化・抑圧やつなぎかえが起きる.我々は,これらの過程に接着分子カドヘリンが関与する可能性を検討してきた.研究を進める中で,カドヘリンが思いのほかダイナミックにシナプスの生理機能にかかわることがわかり,さらにその過程で新たなシグナル伝達経路も見いだされた.こうしてわかってきた事実は,神経回路のなりたちや可塑性に新たな視点を与えるばかりでなく,カドヘリンが神経伝達物質の放出機構や受容体の機能調節に深くかかわっている可能性も示唆している.またカドヘリン遺伝子の異常は,自閉症などの疾患感受性に関連しており,シナプスの接着・リモデリング関連分子は,新たな治療標的として薬理学への貢献が期待される.

1 0 0 0 OA 苦痛の薬理学

著者
佐藤 公道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.13-18, 2007 (Released:2007-01-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

痛み(痛覚)に関する研究は,複雑であるが故に,他の感覚(視・聴・触・味・嗅)に比べて遅れている.生理的に重要な生体警告系の痛み以外の痛み(感覚と情動両面)はヒトのQOLを低下させる要因である.痛みを完全にコントロールする術を手に入れるために,動物実験は不可欠である.本稿では,痛みの定義,動物における神経因性疼痛を含む痛みの評価法と動物モデル,感覚としての痛みの成立機序について,筆者の独断と偏見を交えて概説し,さらに,研究が緒についたばかりである痛みに伴う負の情動と扁桃体の関連についての筆者らのデータを紹介する.
著者
高橋 徹 清水 裕子 井上 一由 森松 博史 楳田 佳奈 大森 恵美子 赤木 玲子 森田 潔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.252-256, 2007 (Released:2007-10-12)
参考文献数
38
被引用文献数
6 9

昨今の生命科学の進歩は薬理学の研究をより病態に応じた新薬の開発へと向かわせている.しかし,肝不全,腎不全,多臓器不全など,急性臓器不全は高い死亡率を示すにもかかわらず,その治療において決め手となる薬物は未だ開発されていない.これら急性臓器不全の組織障害の病態生理は完全に明らかでないが,好中球の活性化や虚血・再潅流にともなう酸化ストレスによる細胞傷害が大きな役割を果たしている.酸化ストレスはヘムタンパク質からヘムを遊離させる.遊離ヘムは脂溶性の鉄であることから,活性酸素生成を促進して細胞傷害を悪化させる.この侵襲に対抗するために,ヘム分解の律速酵素:Heme Oxygenase-1(HO-1)が細胞内に誘導される.HO-1によるヘム分解反応産物である一酸化炭素,胆汁色素には,抗炎症・抗酸化作用がある.したがって,遊離ヘム介在性酸化ストレスよって誘導されたHO-1は酸化促進剤である遊離ヘムを除去するのみならず,これらの代謝産物の作用を介して細胞保護的に機能する.一方,HO-1の発現抑制やHO活性の阻害は酸化ストレスによる組織障害を悪化させる.この,HO-1の細胞保護作用に着目して,HO-1誘導を酸化ストレスによる組織障害の治療に応用する試みがなされている.本稿では,急性臓器不全モデルにおいて障害臓器に誘導されたHO-1が,遊離ヘム介在性酸化ストレスから組織を保護するのに必須の役割を果たしていることを述べる.また,抗炎症性サイトカイン:インターロイキン11,塩化スズ,グルタミンがそれぞれ,肝臓,腎臓,下部腸管特異的にHO-1を誘導し,これら組織特異的に誘導されたHO-1が標的臓器の保護・回復に重要な役割を果たしていることを示す.HO-1誘導剤の開発は急性臓器不全の新しい治療薬となる可能性を秘めている.
著者
加藤 武
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.145-151, 2004-09-01
被引用文献数
10

メマンチンは中等度,重度のアルツハイマー病(AD)の治療薬としてEUとアメリカで承認されている.メマンチンはMK-801やフェンシクリジン(PCP)と同じ非競合的NMDA受容体阻害薬であり,虚血が引き起こすグルタミン酸過剰放出による神経細胞死を防ぐ.これらの薬物はマグネシウムイオンと同じイオンチャネル結合部位に作用する.しかし,MK-801やPCPは統合失調症様症状を引き起こし,ADの治療薬としては使用されていない.メマンチンには類似の毒性はない.また,大脳皮質でのアセチルコリン放出は起きない.メマンチンとMK-801との相違の機構はまだ解明されていないが,メマンチンはマグネシウムイオンと同様に電位依存的にイオンチャネルへ結合し,解離するためと考えられている.今後メマンチンに関する基礎的,臨床的研究が進み,機構が解明されるであろう.<br>