著者
Simon Croft 北 潔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.5, pp.220-224, 2017
被引用文献数
1

<p>リーシュマニア症は典型的な「顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases:NTDs)」の一つであり,中南米,アフリカから中近東,ヨーロッパ,アジアそしてインドと世界中に患者が見られる点が特徴である.単細胞の寄生虫で鞭毛虫類に属するリーシュマニア<i>Leishmania</i>によって発症し,サシチョウバエによって媒介される.宿主哺乳類の中ではマクロファージに寄生していることからワクチンによる予防や治療は困難であり,薬剤による治療が中心となっている.しかし治療薬の現状は,長期の投与や激しい副作用など満足できる状態ではない.そこで,薬剤開発と治療デザインを考えるにあたっては,リーシュマニア症の特徴である多様な症状と病原体の原虫としての多様性を理解することが必須である.リーシュマニア症は2つに大別され,皮膚リーシュマニア(cutaneous leishmania:CL)においては主に感染がサシチョウバエに刺された部位に成立するが,<i>Leishmania donovani</i>や<i>L. infantum</i>などによる内蔵リーシュマニア(visceral leishmania:VL)では肝臓や脾臓,骨髄のマクロファージに感染し,治療しなければ死をもたらす.このような問題を解決するには安価で投与しやすく効果的で,しかも小児への投与を含む短期間投与が可能な新規薬剤の開発が喫緊の課題である.VLとCL両者のリーシュマニア症の新しい治療法の開発は不可欠であり,われわれはこの原虫に関する生物学,病理学,医薬品化学,薬物動態学や製剤学などを統合して新薬の開発と新たな治療法の確立をめざしている.近い将来にリーシュマニア患者に新しい治療法が提供されることを確実にするためには製薬企業,政府や非営利組織を含む国際機関,バイオテクノロジーセクターおよびアカデミアのパートナーシップと弛まぬ努力が必要である.</p>
著者
堀井 郁夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.217-221, 2006-03-01
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

創薬初期段階からその薬効・安全性・薬物動態・物性を総合的に評価する事は有用な医薬品を効率的に創生するのに重要である.医薬品開発候補化合物の選択には,多面的な科学領域からの総合的な評価が望まれ,薬理学的・生化学的・生理学的,毒性学的・病理学的,薬物動態学的,化学的,物性的性状などを考慮しながら総合的に評価する実践的挑戦がなされてきている.創薬における探索段階の初期から開発候補化合物選定までの評価試験導入手法のパラダイムシフトの必要性とその実践が今後の創薬の重要挑戦事項である.多面的科学領域からの総合的評価により,(1)薬理作用と毒作用のバランス(薬物動態評価を含めて)からの薬効・安全性評価,(2)物性評価からの開発性の評価(臨床の場での製剤的適応性),(3)構造活性/毒性相関評価(薬理・毒性・薬物動態データ),(4)候補化合物選定のためのランキング設定,(5)当該化合物に潜在しているリスクの明確化とその対応策などが的確にできるようになる事が期待される.<br>
著者
松尾 龍二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.4, pp.261-266, 2006-04-01
参考文献数
42
被引用文献数
10 3

唾液腺の活動は自律神経系が担っており,他の消化腺に見られるホルモンによる分泌の調節は知られていない.また副交感神経と交感神経の拮抗作用はなく,副交感神経は主に水分の分泌を調節し,交感神経は主にタンパク質成分の開口分泌に関与している.唾液腺の副交感神経と交感神経の一次中枢はそれぞれ延髄の外側網様体と胸髄の上部に位置している.これらの中枢は主に視床下部の支配下にあり,これに加えて口腔感覚の中継核や大脳辺縁系,大脳皮質が影響を及ぼすと考えられる.しかしこれらの上位の中枢は唾液腺に特有な中枢ではなく,摂食行動,体液浸透圧の調節,体温調節,咀嚼運動の調節,口腔感覚の情報処理などに関連した部位である.したがって唾液腺はこれらの調節機構や行動に必要な効果器の一つであると解釈される.ヒトでの唾液分泌は摂食行動との関連が深いが,実験動物(ラット)では体熱放散や毛づくろいでも唾液が分泌され,これらの機能は顎下腺が担っている.さまざまな唾液分泌の水分量とタンパク質量を比較することにより,その行動における自律神経系の役割を推察することができる.毛づくろいや体熱放散反応時には,副交感神経の活動が高い(20 Hz程度).一方,交感神経は摂食中に最も活動が高いが,体熱放散時の唾液分泌ではほとんど活動していない.この様な両自律神経系の協調性は視床下部の司令によると考えられる.また副交感神経の一次中枢(唾液核)では,全ての細胞が興奮性と抑制性のシナプス入力を受けており,それぞれ伝達物質はグルタメートとGABAまたはグリシンである.一次中枢には強力な抑制機序も存在することは明白であるが,分泌という一方向性の興奮性反応が注目されがちである.抑制系の中枢機序にも今後注目する必要がある.<br>
著者
松尾 龍二 美藤 純弘 松島 あゆみ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.6, pp.306-309, 2013-06-01
参考文献数
10

上唾液核は顎下腺・舌下腺を支配する副交感神経系の中枢である.ラットの脳スライス標本を用いた電気生理学的実験により,上唾液核ニューロンは興奮性と抑制性のシナプス入力を受けていることが示されている.その主な受容体は興奮性がグルタミン酸受容体とムスカリン性アセチルコリン受容体,抑制性がGABA受容体とグリシン受容体である.免疫組織化学的にもこれらの受容体が検出された.一方,蛍光色素の軸索輸送を利用した組織学的検索により,上唾液核に入力する主な神経群は脳幹部の網様体,結合腕傍核,孤束核,および上位脳の視床下部外側野,扁桃体中心核,室傍核などである.これらの部位は上唾液核に直接入力すると考えられる.これらの神経核群の中で,抑制性GABAニューロンは主に脳幹部の網様体に存在し,前脳の扁桃体中心核や視床下部外側野にも検出された.これらの所見は,唾液分泌が食欲(摂食中枢としての視床下部外側野)や食の嗜好性(扁桃体中心核)を反映することを示唆している.さらに上唾液核へのコリン作動性入力の起始核として,脚橋被蓋核や背側被蓋核が上記の軸索輸送の実験で認められている.これらの部位は網様体賦活系と関連しており,覚醒やレム睡眠の維持などに重要である.精神ストレスは,食欲,情動,睡眠に影響することがよく知られており,これらの上位中枢の変化は唾液分泌にも変調を来すと考えられる.
著者
伊藤 幹雄 横地 英治 鬼頭 利宏 鈴木 良雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.419-425, 1981
被引用文献数
2

糸球体腎炎の発症および増悪において,血液凝固系の役割を明らかにするために,liquoid(Liq)を正常あるいは腎炎ラットに反復投与した場合の影響について検討した.正常ラットに Liq 10mg/kg 毎日1回計22回 i.v. 投与(I群)した場合,尿中への蛋白,N-acetyl-β-glucosaminidase の排泄,血中尿素窒素含量は正常対照群と比較して,ほとんど変わらなかった.また,抗ラット糸球体基底膜ウサギ血清(AGS)[0.5ml/150g体重]のi.v. 投与後15日目から Liq を 10mg/kg,3日目毎に計8回 i.v. 投与(III群)しても,毎日1回計22回 i.v. 投与(IV群)しても,これらの生化学的パラメーターは AGS のみを投与した腎炎対照群(II群)との間に有意差を認めなかった.螢光抗体法による糸球体への fibrin あるいは fibrinoids の沈着は弱かったが,10匹中I群およびII群では2匹,III群では8匹,そしてIV群では10匹に認められた.光顕所見ではI群においても係蹄壁とボウマン嚢との癒着,富核,半月体形成や硝子化を示す糸球体が少数例認められた.腎炎ラットに対する Liq の影響に関して,特に硝子化が顕著となり,硝子化を示す糸球体はII群ではわずか17%であるのに対してIII群では14%,IV群では55%であった.他の糸球体変化は富核を除いてII群に比しIII群では変わらなかったがIV群では明らかに増加を示した.しかし富核は逆にIII群,IV群では減少した.糸球体毛細管腔閉鎖はI群でも軽度ながら認められた.また腎炎群においてはII群に比しIV群ではその閉鎖の程度は明らかに強度であった.以上の結果から,糸球体内の血液凝固亢進が,糸球体腎炎の発症,増悪の主要な因子と考えられる.
著者
小川 治克 田所 作太郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.560-571, 1972

Doxepin, one of tricyclic antidepressants was examined as to whether or not it possesses a diazepam-like effect. Water-deprived rats were tested in an apparatus where they drank water under two kinds of conflict schedules.<br> A clear diazepam-like effect was observed after long term administration of doxepin in the approach-withdrawal conflict schedule, although the potency was weaker than that of diazepam. In approach-avoidance conflict schedule a slight effect only was exhibited after doxepin.<br> No marked sign was detected in the experiments after withdrawal of daily administration of doxepin.
著者
田島 清孝 南里 真人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.116, no.4, pp.209-214, 2000-10-01
参考文献数
14
被引用文献数
1

ミオクローヌスは一連の筋肉群に発生する突然,急速,短時間の不規則な不随意運動であり,進行性ミオクローヌスてんかん,低酸素脳症,アルツハイマー病などの疾患に伴って出現する,希ではあるが機能障害を示す極めて難治性な疾患である.ピラセタム (2-oxo-1-pyrrolidin-eacetamide,ミオカーム&reg;)は30年以上も前に開発された環状&gamma;-アミノ酪酸 (cyclic GABA) の誘導体であり,認知記憶障害の治療薬としてヨーロッパ各国で臨床使用されている.更に,ピラセタムは皮質性ミオクローヌスに対する抑制作用が報告されているが,ミオクローヌスの原因が不明であり,ピラセタムのミオクローヌスに関する基礎試験はほとんどなされていない.今回,ラットに尿素を過剰量投与した際誘発されるミオクローヌスに対するピラセタムの抑制作用を筋電図により検討し,抗てんかん剤クロナゼパムの抑制効果と比較した.尿素 4.5g/kg (i.p.) で誘発されるミオクローヌスにおいて,ピラセタム300mg/kg (i.p.) およびクロナゼパム 0.3mg/kg (p.o.) は,有意なミオクローヌス抑制作用を示した.また,それぞれ単独では効果を示さない用量のピラセタム 100mg/kg とクロナゼパム 0.03-0.1mg/kg を併用すると,有意なミオクローヌス抑制作用を示した.体内動態試験では,本剤は経口投与後,体内でほとんど代謝されず,ほぼ全量が尿中に未変化体として排泄され,ヒト血清タンパク質との結合率は低かった.7日間反復投与 P-I 試験においても,本剤は蓄積性を示さなかった.臨床試験は,イギリスでプラセボを対照薬とした二重盲検交叉法試験を実施し,皮質性ミオクローヌスに対する改善作用が示された.国内のP-II試験では,ミオクローヌスの有意な抑制作用と患者の quality of life (QO:L) の改善作用が示された.以上の結果から,ピラセタムは抗てんかん剤と併用することで難治性ミオクローヌス患者のミオクローヌスを抑制し,QOLを改善するという臨床上の有用性を示すことが明らかとなった.
著者
林 元英
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.193-203, 1977 (Released:2007-03-29)
参考文献数
7
被引用文献数
36 45

紫根の色素成分であるshikoninおよびacetylsikoninにっいてその薬理作用を試験した,両色素の構造的相違はacctyl基の有無であり,構造の類以性と共に薬理作用も同様で効力に僅かの差が認められたのみであった.経口投与における主な作用は,血管透過性亢進および浮腫の急性炎症反応に対する抑制作用と軽度な下熱作用で,前報の紫根工一テルエキスの作用と同じであった.摘出臓器に対しては心房運動を促進し,血管を収縮させた.しかしこの作用はtolazolilleやpropranololの前処置によって影響されなかった.また高濃度では腸管を弛緩し,腸管収縮物質に拮抗した.これらの作用は自律神経系あるいはその受容体に働くものではなく,色素のもつ刺激作用による直接作用と思われた.色素は全身投与において血液凝固に影響しなかったが,heparinの凝固抑制作用を阻止した.この作用が血液凝固抑制因子に拮抗して,静脈瘤などの血栓形成を促進して痔疾の治療に有益に作用するかもしれない.他方色素を軟膏として局所に適当した場合は,血管透過性充進ならびに浮腫の急性炎症反応を顕著に抑制した.他方肉芽増殖に対しては増大作用を示し,創傷治癒を明らかに促進させた.この局所作用は製剤である紫雲膏の薬効を推定するものであるが,この点についてはさらに検討中である.
著者
山村 研一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.337-342, 2007-05-01
参考文献数
14

ヒトゲノムプロジェクトの進展により種々の生物のゲノムの塩基配列は明らかとなったが,塩基配列のみでは,遺伝子およびコード領域以外の部分がどのような機能を持っているのか推定すらできないし,また遺伝子自身の機能に関する情報も不十分である.このため全長cDNA配列の決定,DNAチップによる発現パターンの解析,タンパクの構造解析,タンパクに対する抗体作製等の機能解析系が必要であるといわれている.しかし,これらは重要ではあるが,あくまで機能を同定するための状況証拠を提供するにすぎないとみるべきである.具体例を一つあげれば,Cbfa1は,リンパ球で発現する遺伝子の転写因子として発見されたが,その破壊マウスでは骨形成がみられず,骨形成のマスター遺伝子であることが分かった.このことは,構造や発現パターンからだけでは,必ずしも機能は推測できないことを示唆している.そこで,遺伝子改変マウスを用いたin vivoの解析の重要性が再認識され,欧米でノックアウトマウスプロジェクトが始まり,合計すれば年間約40億円に達する金額が投じられることとなった.その内容は,遺伝子トラップ法や相同組換え法を用いてほぼ網羅的にノックアウトESクローンを取るプロジェクトであるが,当面は129系統由来のES細胞を用い,やがて確立されればC57BL/6由来のES細胞を用いて行うというものである.筆者らは網羅的遺伝子破壊を目指して,可変型遺伝子トラップ法を開発した.この方法により,第1段階で完全破壊が,第2段階でトラップベクター内のマーカー遺伝子を,別の遺伝子で置換,第3段階で条件的遺伝子破壊が可能となった.やがて,遺伝子破壊されたES細胞が全世界に配られ,遺伝子破壊マウスが多量に作製され,保存される時が来る.熊本大学生命資源研究支援センターでは,世界の主要なリソースセンターが参加し,保存と供給の支援を行うFIMRe(Federation of International Mouse Resources)にも創立メンバーとして参加し,また,アジアにおけるミュータジェネシスとリソースセンターの連合体であるAMMRA(Asian Mouse Mutagenesis and Resource Association)も立ち上げ,今後の対応も視野にいれた活動を行っている.<br>
著者
神庭 重信
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.3-7, 2006-07-01
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

あらゆる疾患の原因は,遺伝子と環境とで説明できる.たとえば,交通外傷は環境が,血友病のような遺伝子疾患は単一遺伝子が原因である.そしてがん・糖尿病・高血圧などの生活習慣病の発症には遺伝子と環境による同程度の寄与が推定されている.精神疾患の多くは,これら生活習慣病に類似しており,遺伝子の影響と環境の寄与がほぼ同程度であると考えられている.環境が精神疾患の発症に関与するとして,それには大きく二つの関わり方がある.一つは,精神疾患の発症脆弱性を作る環境ストレスであり,他は精神疾患の発症の誘因としてのそれである.発症脆弱性の形成に関わるストレスとして問題になるのは,幼弱期の環境である.胎児期から幼少時期,脳が発生・発達しつつあるとき,脳は環境への感受性が高く,かつ好ましい環境を強く必要とする.たとえば胎児期であれば,妊娠中の母親の受けるストレスが脳発達に影響することが知られている.また幼少時期であれば,親子関係を中心とする家庭環境の影響は極めて大きい.同じ遺伝子を共有する一卵性双生児でも,形質に違いが見られ,統合失調症や双極性障害で不一致例がみられる.これは一卵性双生児のおかれたおなじ生活環境でも,個々人のユニークな体験が重要であることを意味する.さらに言えば,発症に予防的に作用する環境もあれば,促進的に作用する環境もあるだろう.本稿前半では,環境と遺伝が精神疾患にどのように関わっているのか,その最新の知見を説明し,後半では,心理的ストレスが脳の微細構造,なかでも海馬の錐体細胞の萎縮あるいは神経新生に影響を与えることの実験的証拠を紹介する. 本特集は,万有生命科学振興国際交流財団主催のセミナーを元にしたものです.<br>
著者
前島 裕子 Sedbazar Udval 岩崎 有作 高野 英介 矢田 俊彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.4, pp.162-165, 2011 (Released:2011-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
1

近年,世界中で肥満人口が増加し,深刻な健康上の問題となっている.肥満は摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることで生じるが,過食はその最大の原因である.近年中枢における摂食調節メカニズムの研究が進展し,レプチン,アディポネクチンなどのアディポサイトカイン,グレリンなどの消化管ホルモンが中枢作用により摂食調節に関わることが分かってきた.2006年にnesfatin-1が新規満腹因子として発見され,その後5年が経過し,その摂食抑制メカニズムの解明が進み,さらに血圧・ストレスなどにおける新たな機能も明らかになりつつある.Nesfatin-1は多くの摂食関連神経核に分布しているが,特に視床下部室傍核のnesfatin-1が生理的な摂食制御に関与しており,室傍核においてnesfatin-1はオキシトシンニューロンの活性化と分泌を促し,オキシトシンはその投射先の延髄の孤束核プロオピオメラノコルチン(POMC)ニューロンを介して摂食を抑制することが明らかになった.この室傍核nesfatin-1/oxytocin→脳幹POMC系はレプチン抵抗性の動物においても正常に作動することから,レプチン抵抗性を呈する場合が多いヒト肥満への治療応用が期待される.またnesfatin-1は末梢組織である脂肪,消化管,膵臓等に分布すること,末梢投与nesfatin-1も摂食を抑制することが報告されており,末梢組織由来nesfatin-1の摂食その他の機能の解明は今後の重要な課題である.
著者
川道 穂津美 岸 博子 加治屋 勝子 高田 雄一 小林 誠
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.3, pp.124-129, 2009 (Released:2009-03-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患やくも膜下出血後の脳血管攣縮などの疾患は,合計すると我が国の死因の第2位を占める.これらの血管病の原因は2つあり,一つは,長い年月を掛けて発症する動脈硬化であり,もう一つは,急性発症の血管攣縮,すなわち,血管平滑筋の異常収縮である.この血管異常収縮は,血圧維持を担っている細胞質Ca2+濃度依存性の正常収縮とは異なり,Rhoキナーゼを介する血管収縮のCa2+感受性増強(Ca2+-sensitization)によることが知られているが,その上流の分子メカニズムについては不明な点が多い.本稿では,この血管異常収縮の原因分子の1つとして見出されたスフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)が引き起こすSPC/Srcファミリーチロシンキナーゼ/Rhoキナーゼ経路について解説する.SPCとRhoキナーゼを仲介する分子として同定されたSrcファミリーチロシンキナーゼに属する分子群の中でも,Fynが血管異常収縮に関与しているという直接的証拠を蓄積してきたので,本稿では,これらの直接的証拠を得た方法と結果について解説する.さらに,Fynを標的にしてその機能を阻害する事によって,Ca2+依存性の血管収縮には影響を与えず,SPCが引き起こす血管異常収縮のみを選択的に抑制する分子標的治療薬として同定されたエイコサペンタエン酸(EPA)の効果について記述する.
著者
村上 泉 浅野 正一 幸重 浩一 長屋 秀明 佐藤 宏 稲富 信博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.108, no.6, pp.323-332, 1996-12-01
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

ランソプラゾールの急性胃粘膜病変に対する治療効果を検討する目的で, ラットを用いインドメタシンによる胃出血と胃粘膜損傷に対する作用を静脈内投与で検討し, オメプラゾール, ファモチジンおよびラニチジンの作用と比較した.インドメタシン30mg/kg投与により胃出血が惹起されるが, この条件下にランソプラゾールを投与すると強い胃出血抑制作用を示し, ID<SUB>50</SUB>値は0.29mg/kg, i.v.であった.オメプラゾールおよびファモチジンも有意な胃出血抑制作用を示したが, ラニチジンは軽度な抑制しか示さなかった.ランソプラゾールの胃出血抑制作用は酸分泌抑制作用と相関し, 灌流液中に50mM塩酸を添加することにより消失したことから, ランソプラゾールの胃出血抑制作用は主として酸分泌抑制作用に基づくと考えられた.ランソプラゾールはインドメタシンによる胃粘膜損傷の進展に対して抑制作用を示し, ID50<SUB></SUB>値は0.10mg/kg, i.v.であった.オメプラゾール, ファモチジンおよびラニチジンのID<SUB>50</SUB>値は各々0.69, 2.58および24.6mg/kg, i.v.であり, ヒスタミンH2受容体遮断薬の作用は比較的弱かった.以上の成績からランソプラゾ-ルは胃出血および胃粘膜損傷の進展に対して強い抑制作用を有し, 急性胃粘膜病変の治療に有用と考えられた.
著者
小澤 光
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3-4, pp.172-177,en11, 1951-11-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
14
被引用文献数
3 4

In order to determine the differences in effect of methyl and ethyl radicals in pharmacological actions, I compared compounds having one, two, or three methyl radicals with those in which the methyl radicals had been substituted with the ethyl radicals respectively and vice versa. Results : (1) For comparing the differences in effect of methyl and ethyl radicals in compounds having single methyl or ethyl radical, I have chosen meperidine hydrochloride (a), an analgesic, and a compound (b) which was obtained by substituting the methyl radical attached to nitrogen of the meperidine hydrochloride with an ethyl radical. No qualitative differences were observed. However, the action of (b) appeared to be slightly weaker than that of (a) as shown by LD50 in mice and the tests for analgesic action by the hot plate method and the respiratory depressant action in rabbit by the Wright's respiratory apparatus. (2) As an example of compounds having two methyl and ethyl radicals, the respiratory stimulants, coramine (nikethamide) (c) and cycliton (e) were compared with compounds derived from them by the substitution of the ethyl radicals by the methyl radicals respectively (d, f). Not only considerable quantitative differences were observed in LD50 in mice, minimal convulsive doses and, in respiratory stimulant action, but also qualitative differences were observed. Where as (c) and (e) had only stimulant action, (d) and (f) had depressast action in small dosage and stimulant action in large dosage. As a further example the sedatives, coumarine-3-carboxylic acid diethylamide (g) and its methyl substituted coumarine-3-carboxylic acid dimethylamide (h) were compared (h) was weaker in hypnotic action but was more toxic. Qualitative differences were also observed in the respiratory stimulant action and in the convulsive state. (3) As an example of three methyl and ethyl radicals, carbaminoyl choline chloride (i) was compared with a compound derived from it by the substitution of its three methyl radicals by three ethyl radicals (j). Althoush (i) exhibited series of actions observable when three parasympathetic nerve is stimulated. (j) had none of such actions. Also difference in LD50 in mice of (j) and (i) was very great, (j) being 200 times that of (i).
著者
崎村 克也 平仁田 尊人 宮本 道彦 永田 健一郎 山本 経之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.24-29, 2005 (Released:2005-09-01)
参考文献数
52

薬物依存研究の視点は,(1)依存の形成機構の解明および(2)薬物への“渇望”の再燃・再発機構の解明にある.薬物依存の実験法としては,1)薬物選択試験法,2)条件づけ場所嗜好性試験法,3)薬物弁別試験法および4)薬物自己投与実験法が繁用されている.しかし,前者3つの実験法は依存性薬物の強化/報酬効果または薬物摂取行動の機構解明に迫れても,薬物への“渇望”の再燃・再発の機構解明に向けての妥当性の高い戦略とは言い難いが,ラットの薬物自己投与実験法では“渇望”の動物モデルが確立されている.“渇望”を誘発する臨床上の要因として,(1)少量の興奮性薬物の再摂取(priming),(2)薬物使用を想起させる環境因子(薬物関連刺激),そして(3)ストレスの3種類が知られている.ヒトで乱用される薬物はラットでの薬物自己投与行動が成立し,上記の刺激により生理食塩液投与下でのレバー押し行動(薬物探索行動)が発現する.この行動が臨床上の“渇望”を表す動物モデルとして考えられている.脳内局所破壊法と薬物の脳内微量注入法により,薬物摂取行動と薬物探索行動(“渇望”)では,脳内責任部位が異なることが明らかにされている.また,薬物探索行動は,その誘発要因により発現パターンやD2受容体の関与の仕方が異なることも分かっている.これらの知見は,薬物探索行動の発現機序が誘発要因の違いによって異なることを示唆している.一方,近年,薬物探索行動における内因性カンナビノイドの関与が示唆され,内因性カンナビノイドとドパミンやグルタミン酸神経系とのクロストークに熱い視線が注がれている.今後の薬物依存研究は,“渇望”の発現機序の解明と共に,“渇望”のモデル動物での情動や認知機能の変容にも焦点をあて,多面的に薬物依存を捉えていく必要がある.
著者
鳥居 邦夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.110, no.supplement, pp.28-32, 1997 (Released:2007-01-30)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

Taste preferences are altered to reflect physiological needs and to support the recovery from nutritional disorders. The central mechanism both recognition for and adaptation to a deficient essential nutrient, i.e. L-lysine, have been unveiled that the feeding center in the hypothalamus is a primary center nucleus to induce a neuronal plasticity responding to dietary intake of deficient nutrient in the brain and peripherally, such as sense of taste and its concentration change. Changing preferences may act as an alarm, signaling protein malnutrition or metabolic adult disease, such as hypertension for saltiness, diabetes for sweetness, etc. In addition, our consumption of alcohol beverage is still increasing despite of one of candidate to induce the hepatic disorders, because pharmacological function of alcohol in the brain is welcome for people enjoying meal or being relieved from stresses. Preference for both L-alanine and L-glutanine was observed when alcoholic rats fell in the hepatic disorder. Acute alcohol loading induced suppression of motor activity and the hepatic dysfunction, but both amino acids did obviously protect these alcoholic symptoms. People should have to require a little bit more specific L-amino acid physiologically and pharmacologically depending upon different states among aging, lifestyle, metabolic diseases and various stresses.
著者
亀山 勉 鍋島 俊隆 山口 和政
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.73-89, 1979 (Released:2007-03-29)
参考文献数
30
被引用文献数
4 4

Morphineによって生じるStraub挙尾反応(STR)と鎮痛作用の発現機構を脊髄レベルで検討し,以下の成績を得た.1)STRは背側仙尾骨筋の切断によって消失した.2)spinal miceの脊髄を電気刺激すると挙尾反応が生じる.3)morphine 0.25~5μgを腰椎髄腔内に投与するとSTRが用量依存的に生じた.しかし,spinal miceの腰椎髄腔内にmorphineを投与してもSTRは生じなかった.4)STRは末梢性筋弛緩薬のtubocurarineおよびmorphine拮抗薬のnaloxoneの腰椎髄腔内投与によって抑制および拮抗された.5)STRはC5~6の右後半部,左後半部または左右後半部およびT11~12の右後半部または左右後半部を切除しても抑制されず,T11~12のTransectionで始めて消失した.6)脊髄のcatecholamine(CA)ニューロンを破壊したり,5-hydroxytryptamine(5-HT)ニューロンを破壊してもTail Reactionは生じなかったが,morphineで生じるSTRは増強された.7)morphine 0.5μgを腰椎髄腔内に投与すると鎮痛作用が得られた.8)C5~6の左後半部または左右後半部を切除すると疼痛閾値が上昇したが,C5~6の右後半部を切除しても疼痛閾値は変化しなかった.Morphineの鎮痛作用はC5~6の右後半部,左後半部または左右後半部を切除すると抑制された.T11~12の右後半部を切除しても疼痛閾値は変化しなかったが,morphineの鎮痛作用は減弱した.9)脊髄のCAニューロンを破壊したり,5-HTニューロンを破壊すると疼痛閾値が低下したが,morphineの鎮痛作用はnorepinephrine(NE)ニューロンを破壊した場合にのみ抑制された.以上の知見から,morphineは脊髄に作用しSTRと鎮痛作用を生じ,STR発現は脊髄の前半部が重要であり,NEニューロン,5-HTニューロンの神経活動が抑制され生じるが,morphineの鎮痛作用発現には脊髄の後半部が重要であり,NEニューロンの神経活動が増強されることによって生じることを見い出した.