著者
福井 裕行
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.5, pp.245-250, 2005-05-01
被引用文献数
1 1

ヒスタミンH<sub>1</sub>受容体を介するシグナルはH<sub>1</sub>受容体の発現レベルにより調節を受けることが明らかにされつつある.先ず,リコンビナントH<sub>1</sub>受容体を発現する培養細胞を用いて,H<sub>1</sub>受容体のダウン調節が明らかにされた.この機構にはH<sub>1</sub>受容体分子のリン酸化が関与することを明らかにした.そして,リン酸化部位として5ヵ所のセリンおよびスレオニン残基が明らかにされた.そのうち,<sup>140</sup>T,および,<sup>398</sup>Sの2つの部位がより重要なようである.H<sub>1</sub>受容体リン酸化にはカルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼII,タンパクキナーゼC,タンパクキナーゼG,タンパクキナーゼAなどの関与が示唆される.そして,ダウン調節にはH<sub>1</sub>受容体を介する同種ダウン調節に加えて,M<sub>3</sub>ムスカリン受容体やβ<sub>2</sub>アドレナリン受容体を介する異種ダウン調節の存在を明らかにした.異種の受容体ダウン調節は受容体分子のリン酸化が関与していないようである.それに対して,H<sub>1</sub>受容体を介するH<sub>1</sub>受容体遺伝子発現亢進による受容体アップ調節機構の存在が明らかとなった.この機構にはタンパクキナーゼCの関与が示唆される.さらに,異種のH<sub>1</sub>受容体アップ調節の存在も明らかにしつつある.アレルギーモデルラット鼻粘膜H<sub>1</sub>受容体mRNAレベルがアレルギー発作により上昇することを見いだしたが,この上昇にはH<sub>1</sub>受容体遺伝子発現の関与が示唆された.そして,H<sub>1</sub>受容体自身の刺激とそれ以外のメディエーターの関与が考えられる.また,H<sub>1</sub>受容体mRNA上昇はデキサメサゾンにより完全に抑制され,この上昇機構がデキサメサゾンの標的であることが明らかとなった.さらに,培養細胞におけるH<sub>1</sub>受容体誘発性H<sub>1</sub>受容体遺伝子プロモーター活性の上昇がデキサメサゾンで完全に抑制されることを見いだした.そして,H<sub>1</sub>受容体遺伝子には多数のイカロスサイト類似部位が見いだされた.<br>
著者
平田 拓也 舩津 敏之 毛戸 祥博 阿久沢 忍 秋保 啓 西田 明登 笹又 理央 宮田 桂司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.5, pp.281-291, 2009 (Released:2009-05-14)
参考文献数
35

イリボー®錠(ラモセトロン塩酸塩)は,男性における下痢型過敏性腸症候群(IBS)治療薬として2008年に上市された,強力かつ選択的なセロトニン5-HT3受容体拮抗薬である.ラットを用いた薬理試験において,ラモセトロンは恐怖条件付けストレス(CFS)およびコルチコトロピン放出因子(CRF)により惹起される排便亢進を用量依存的に抑制し,その効力は他の5-HT3受容体拮抗薬や既存のIBS治療薬よりも強力であった.また,これらの排便異常を抑制する用量とほぼ同じ用量範囲で,ラモセトロンはCFSによる大腸輸送能亢進およびCRFによる大腸水分輸送異常に対しても有意な改善効果を示したことから,その排便異常抑制作用には,ストレスによる大腸輸送能および水分輸送の異常に対する改善作用が寄与していると考えられた.さらに,ラモセトロンは拘束ストレスによる下痢および大腸痛覚閾値低下をほぼ同じ用量範囲で有意に抑制したことから,ストレスによる排便異常および大腸痛覚過敏のいずれにも有効であることが明らかとなった.一方,臨床においては,RomeII基準に合致した下痢型IBS患者を対象に,第II相および第III相多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験を実施した.その結果,ラモセトロン5μgの1日1回12週間投与は,全般症状,腹痛・腹部不快感および便通異常のいずれに対しても優れた改善効果を示し,プラセボに対する優越性が確認された.また,同じく下痢型IBS患者を対象に実施した長期投与試験の結果から,ラモセトロンの治療効果が長期間持続するとともに,効果や副作用の発現に応じて用量を適宜増減することで,より高い有効性と安全性が得られることが明らかとなった.以上,非臨床薬理試験および臨床試験の結果から,ラモセトロンは下痢型IBS患者において便通異常と腹痛をともに抑制し,その症状の寛解に極めて有効な薬剤であると考えられる.
著者
永井 純也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.1, pp.34-37, 2010-01-01

臨床において,患者に薬物が単独で投与されるよりも,複数の薬物が投与される場合の方が多い.したがって,薬物治療を受けている患者において,程度の差はあるものの,少なからず薬物相互作用が生じているものと予想される.また,医薬品が市販後に市場から撤退を余儀なくされる場合,薬物相互作用による重篤な副作用が原因であることが少なくない.したがって,薬物相互作用をいかに回避あるいは予測できるかは,安全性に優れた医薬品を開発していく上で重要である.これまで代謝酵素が関与する薬物相互作用については数多くの報告がなされてきた.一方,近年,薬物の生体膜透過を担うトランスポーターが分子レベルで解明されるとともに,代謝過程の阻害のみでは説明できない薬物相互作用にトランスポーターが関与することが明らかになってきている.本稿では,腎臓および肝臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用を中心に概説する.
著者
淺井 康行
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.6, pp.320-324, 2009 (Released:2009-12-14)
参考文献数
5

創薬研究においてcell–based assayと呼ばれる細胞機能性試験は,簡便・迅速なアッセイ方法として頻用されている.これまでの細胞機能性試験で使われる細胞は,旺盛な増殖能を有するCHO細胞やHeLa細胞といったがん化した動物由来あるいはヒト由来の細胞株に目的とするターゲット分子の遺伝子を導入したものであった.しかし,このような細胞を用いたアッセイ系の一部はヒトへの外挿性はあまり高くはないことが経験的にわかってきた.一方,外挿性の低さを克服するためのフェノタイプ(形質)利用アッセイで主として用いられる初代培養細胞は,実験に用いるまでの工程が煩雑である上に,得られた細胞が脆弱であったり,ロット間のバラツキが大きかったりHTSに必要な細胞量を確保することが難しい細胞が多いことが欠点であった.このような状況から,これまで使用されている細胞株のように大規模な実験に使用できるほどの細胞量を容易に確保することができ,かつ,初代培養細胞のようにnativeに近い細胞として幹細胞由来細胞が期待され実用化され始めている.ES/iPS細胞由来心筋細胞を用いたQT延長アッセイ系(QTempo:QT prolongation Examination with Myocardia derived from Pluripotent cell)は,化合物を創薬早期に検索し創薬後期以降での“ドロップアウト”を少なくすることを主眼に置いて研究開発されてきた.QT延長関連試験は用いる細胞材料や検出法によりいくつかの方法があるが,本法はAPD(action potential duration)検出手法とヒトへの創薬に適していると考えられているサルES細胞やヒトiPS細胞を組み合わせたものである.われわれが構築したアッセイ系において化合物を評価することでよりヒトへの外挿性の高い心毒性の予測が可能となる.
著者
竹島 浩
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.121, no.4, pp.203-210, 2003 (Released:2003-04-11)
参考文献数
40
被引用文献数
3 3

筋収縮や伝達物質放出などの興奮性細胞での生理反応に先立ち,膜興奮による電気的信号は細胞質Ca2+上昇へシグナル変換される.細胞内ストア膜上のCa2+放出チャネルであるリアノジン受容体は一般的機能として細胞表層膜のCa2+チャネルと共役し,そのシグナル変換反応に寄与する.興奮性細胞系に広く分布する3種のリアノジン受容体サブタイプに関して,構造-機能相関や生理機能上の重要性が明らかにされている.一方,リアノジン受容体が生理機能を発揮するためには細胞表層膜とストア膜の近接構造が必要であると考えられる.最近,結合膜構造の形成に関与する膜タンパク質としてジャンクトフィリンが分子同定され,そのサブタイプ群の生理的重要性が変異マウスを用いて証明されている.さらに,リアノジン受容体とジャンクトフィリンサブタイプの遺伝子の変異は,ヒト遺伝性疾患の原因となることも明らかにされた.
著者
廣瀬 謙造
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.5, pp.362-367, 2006 (Released:2006-07-01)
参考文献数
18

細胞内カルシウムは,筋収縮,神経伝達物質放出,シナプス可塑性,発生分化,免疫といった様々な生理機能の制御において重要な役割を果たす.その細胞内動態は,蛍光プローブを用いたイメージングにより解析されており,時間,空間的に特徴的なパターンを持つことが示されている.特徴的な時間的パターンとしてカルシウム振動が挙げられる.これはカルシウム濃度上昇が間欠的かつ律動的に起こる現象である.また,空間的パターンとして,カルシウム濃度上昇が細胞内あるいは細胞間を波状に広がるカルシウム波と呼ばれる現象が知られるようになった.ここで,2つの問題が存在する.ひとつは,どのような機構でこのような複雑な時間空間パターンが形成されるのかという問題であり,もう一つは,そのようなパターンが下流のシグナル分子によってどのように解釈されるのかという問題である.我々は,カルシウムの上流・下流にある分子の動態をイメージングすることがこの問題を解くうえで有効であると考えた.これまでに上流分子についてはカルシウムストアからのカルシウム放出を制御するIP3のイメージング法を開発した.その結果,IP3もカルシウム同様複雑な細胞内動態を示すこと,さらに,カルシウムとIP3には相互フィードバック的な制御が存在することを見出した.また,小脳プルキンエ細胞内のIP3動態を解析し,AMPA型受容体の下流においてIP3が産生される新しい経路が発見された.カルシウムの下流にある分子としては,転写因子であるNFATの細胞内動態を可視化し,カルシウム濃度上昇によってNFATが核内に移行する時間経過を詳細に解析することに成功している.この解析によって,カルシウム振動が効率的にNFATの移行を起こすことを明らかにした.以上のように,イメージングはカルシウムシグナルの時間空間的側面を解析することに有用である.
著者
岡本 裕子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.350-357, 2005 (Released:2005-08-01)
参考文献数
38

化学物質の安全性評価には動物実験が不可欠であり,その膨大な動物実験データを基に現在の化学物質のリスク評価は成立している.一方,1960年代にイギリスで発生した動物愛護の考え方は,その後,環境問題と連動し,社会問題のひとつとして大きくとりあげられ,EUでは,化粧品に対する動物実験の禁止が施行されるに至っている.またOECDでも化学物質の評価へのin vitro試験法ガイドラインの受け入れがなされている.これらは,経済,貿易に関する国際ハーモナイゼーションの観点から社会科学的に重要な課題である.このような社会的背景から,ここ10数年の間,日本でも動物実験代替法の開発が開始され,産官学の協力で厚生労働科学研究を中心に代替法の開発評価研究に取り組んでいる.安全性評価に対する代替法は,Russellらが定義した3Rの原則(Replacement:置換,Reduction:削減,Refinement:試験法の洗練)の考え方をもとに評価されている.特に,動物実験代替法は,それを用いてヒトへの安全性を評価する試験法であることから,通常の生体機能評価に用いられているin vitro試験法とは異なり,試験法としての有用性の確認に加えて,バリデーションによる試験法の再現性確認や倫理性,経済性,国際性,技術的一般性についても考慮して開発される必要がある.現在,完全に置き換えられると認証された代替試験法は存在していない.毒性試験の代替法の困難さは,invitro 試験法は毒性の有無の識別は可能であっても,動物において評価可能な用量.反応関係の確認が期待できない点にある.したがって,毒性の有無の識別を利用したスクリーニング法としての利用にとどまることが多い.しかし,ヨーロッパでの動物実験禁止という現実問題をクリアするため,社会科学的な観点から,実際的な取り組みとして代替法を組み込んだ安全性評価試験体系を構築していくことが必要と考えている.ここでは,現在代替法開発が進んでいる局所刺激性試験法である眼刺激性試験法および光毒性試験法について,その開発と応用について述べる.
著者
南 新三郎 服部 力三 松田 朗
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.161-178, 2003 (Released:2003-07-22)
参考文献数
23
被引用文献数
7 7

メシル酸パズフロキサシン(PZFX:パシル点滴静注液,パズクロス注)は富山化学工業株式会社において創製され,三菱ウェルファーマ株式会社と富山化学工業株式会社で共同開発された,1-aminocyclopropyl基を有する新規な注射用ニューキノロン系抗菌薬である.PZFXは静注投与後に高い血中濃度を示しながらも,けいれん誘発作用,局所刺激作用および血圧降下作用などの注射用ニューキノロン系抗菌薬で懸念される作用が弱いことが基礎的検討で認められている.一方,PZFXはセフェム系,カルバペネム系,アミノグリコシド系抗菌薬に耐性を示す細菌に対しても強い抗菌力を示し,その強い殺菌作用により各種耐性菌での動物感染実験モデルにおいて,既存注射用セフェム系抗菌薬より優れた治療効果を示した.更に,臨床試験においても,PZFXは注射用抗菌薬の対象となる中等症以上の感染症にて,注射用セフェム系抗菌薬ceftazidime(CAZ)と同等の臨床効果と安全性を示し,加えて各科領域の前投薬無効例に対しても良好な臨床効果を示した.これらの基礎試験および臨床試験成績から,PZFXは細菌感染症治療の有用な選択肢として期待される.本総説では,PZFXの基礎的·臨床的成績を概説し,注射用抗菌薬の中におけるPZFXの臨床的位置付けについて考察する.
著者
谷口 勝彦 浦上 美鈴 高中 紘一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.97-103, 1987
被引用文献数
10

各種抗アレルギー系薬物の多形核白血球(PMNs)におけるアラキドン酸遊離活性,スーパーオキサイドァニオン(O<SUB>2</SUB><SUP>-</SUP>)産生能に及ぼす薬物の阻害効果を検討した.formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine(FMLP)刺激によるPMNsからのアラキドン酸遊離に,20μMの濃度でazelastineとclemastineは約50%の阻害を示し,50μMの濃度でほぼ100%の阻害を示した.他方,cromoglycate,chlorpheniramine,diphenhydramineは50μMまでの濃度では50%以上の阻害作用は示さなかった.O<SUB>2</SUB><SUP>-</SUP>産生能に対する効果は,上記の薬物ではほぼアラキドン酸遊離阻害作用と平行的な相関性を示したが,ketotifenはこれらの薬物の中間的な作用様式を示し,アラキドン酸遊離は50μMで50%以上を抑制したが,O<SUB>2</SUB><SUP>-</SUP>産生能にはほとんど影響しなかった.これら薬物の細胞毒性をトリパンブルー試験法により検討をおこなった結果,いずれも50μMまでの濃度では有意な障害性を示さなかった.これらの実験結果から,抗アレルギー系薬物の中で化学伝達物質遊離阻害薬として知られるazelastine及びヒスタミン(H<SUB>1</SUB>)受容体遮断薬として分類されるclemastineは,低濃度で細胞を傷害する事なくPMNsの機能を抑制し,アラキドン酸カスケードの第一段階を阻害することにより抗アレルギー効果の重要な一端を担っていることが.示唆された.
著者
木村 伊佐美 永濱 忍 川崎 真規 神谷 明美 片岡 美紀子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.145-152, 1995-03-01
被引用文献数
3 9

われわれはこれまで,ラットに3%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を自由飲水させることにより,体重の増加抑制,血便および貧血などの症状並びに大腸におけるびらんの形成,さらに小腸病変を欠くことなどの点でヒト潰瘍性大腸炎に類似した実験的潰瘍性大腸炎モデルが作製できることを確認した.また潰瘍性大腸炎発症動物のホルマリン固定大腸標本は,1%アルシアンブルーにより濃淡のある特徴的な青色に染色され,その濃青色領域は組織学的にびらんであることを明らかにした.今回,薬物の治療効果を評価する上で病態の程度が均等で,かつバラツキの小さい大腸炎モデルを作製するための実験条件について種々検討し,以下の結果を得た.1)ラットに3%DSSを連日自由飲水させ,飲水開始後に90%以上の個体に血便が観察された時点で選別した.2)選別基準は,(1)選別日を含めて少なくとも2日以上連続して血便が観察されること,(2)ヘモグロビン濃度が10g/d1以上であることおよび(3)選別当日の体重が,前日の体重に比べ20g以上減少していないこととした.3)選別基準を満足するラットを用い,選別日より1%DSSの自由飲水に切り替えることにより,血便の発現びらんの形成並びに赤血球数,ヘモグロビン濃度およびヘマトクリット値の低下,さらに生存率および体重などの面からみて,薬物の治療効果を判定できる適度な病態の維持が可能となった.4)選別日より1%DSSの自由飲水下でサラゾスルファピリジン(1日1回14日間経ロ投与)およびプレドニゾロン(1日1回7日間直腸内投与)を反復投与した場合,両薬物は潰瘍性大腸炎モデルに対して有意な治療効果を示した.以上の結果,本モデルを用いて1%DSSの自由飲水に切り替えた日より薬物投与を開始することにより,有用な潰瘍性大腸炎治療薬の評価が可能と考える.
著者
曽良 一郎 池田 和隆 三品 裕司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.120, no.1, pp.47-54, 2002 (Released:2003-01-28)
参考文献数
17

オピオイド系の分子メカニズムの研究は,遺伝子ノックアウト動物モデルを利用することにより,作動薬,拮抗薬などを用いるだけでは為し得ない解析が可能となった.遺伝子ノックアウトマウス作製は,分子遺伝学,細胞培養,発生工学の実験手技の集大成であり,長期にわたる労働集約的な実験作業を要するプロジェクトである.ターゲティングベクター作製のためのゲノムDNAの入手から始まり,ES細胞への遺伝子導入,キメラマウス作製の後に,はじめてノックアウトマウスを得ることができる.また,表現型を行動学的,解剖学的,生化学的に解析する際に,ノックアウトマウスであるが故の留意点もある.本稿では,新規のみならず既知のノックアウトマウスの解析を予定されている研究者も対象に,概略的知識および成功を左右するいくつかのコツを,筆者らの経験をもとに紹介する.
著者
上野 浩晶 中里 雅光
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.2, pp.73-75, 2006 (Released:2006-04-01)
参考文献数
9

近年,肥満者の増加と,肥満を基礎にして発症する糖尿病,脂質代謝異常,高血圧症などの肥満症やメタボリックシンドロームを呈する患者数が増加している.しかし,その根底にある肥満の治療法は不十分なままである.最近,NPYやそのファミリー(PP,PYY)を含めてさまざまな摂食調節物質の同定や機能解析が進んでいる.NPYは中枢神経系に存在しており,強力な摂食亢進作用を有している.NPYニューロンを活性化する入力系としてグレリンやオレキシン,抑制する入力系としてレプチンやインスリンがある.入力系の中でも胃から分泌される摂食亢進ペプチドであるグレリンは迷走神経や神経線維を介してNPYニューロンにシグナルを伝達してその作用を発揮している.PPは主に膵臓に発現しており,摂食抑制作用を有する.PYYは十二指腸から結腸までの腸管で産生され,摂食抑制作用を有する.PYYは迷走神経を介して中枢の摂食抑制系ペプチドであるPOMCニューロンを活性化してその作用を発揮している.これら摂食調節ペプチドの機能解析が進んで,ペプチドそのものや受容体のアゴニスト,アンタゴニストといった新規の抗肥満薬の開発や実用化が期待される.
著者
高橋 良輔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.375-382, 2004 (Released:2004-11-26)
参考文献数
37
被引用文献数
1 3

パーキンソン病は,ドパミンニューロンの選択的変性による進行性の運動障害を主症状とする神経変性疾患である.家族性パーキンソン病の一型である常染色体劣性若年性パーキンソニズム(AR-JP)の病因タンパク質であるParkinは,基質タンパク質を特異的に認識し,プロテアソームによる分解を促進する酵素,ユビキチンリガーゼ(E3)である.このためE3の不活性化により,基質タンパク質が異常蓄積してAR-JP発症に至ると考えられる.その仮説に基づいてParkinの基質タンパク質が探索された結果,現在では約10種類の異なる分子がParkinの基質として報告されている.その中で我々が見出したパエル受容体(Pael-R)は黒質ドパミン細胞に高度に発現する,リガンド不明のGタンパク質共役型受容体である.Pael-Rは折れたたみ(フォールディング)が困難なタンパク質で,新生タンパク質の約50%がフォールディングに失敗し,構造が異常で機能をもたないミスフォールドタンパク質になる.ParkinはE3として構成的にミスフォールド化Pael-Rをユビキチン化し,その分解を促進している.AR-JPではParkinが不活性化されるために分解されなくなったミスフォールド化Pael-Rが小胞体に蓄積し,小胞体ストレスによって細胞死を引き起こすと考えられる.Pael-Rは培養細胞でアポトーシスを起こすだけでなく,ショウジョウバエのニューロンで過剰発現させてもドパミンニューロン選択的細胞死を引き起こすことが示された.一方Parkinノックアウトマウスではドパミンニューロン死は起こらず,既知の基質の蓄積もみられないことから,病因となる基質の特定は困難な状況である.Pael-R蓄積による小胞体ストレスがAR-JPの神経変性をどこまで説明できるのか,最新のデータに基づいて議論する.
著者
今泉 和則 原 英彰 伊藤 芳久 田熊 一敞 布村 明彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.477-482, 2007 (Released:2007-12-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

アルツハイマー病,パーキンソン病を代表とする神経変性疾患は,進行性の神経細胞死という解剖学的所見を共通の特徴とする疾患であるが,その発症原因は不明であり,充分に有効な治療法・治療薬は未だ見いだされていない.また,脳虚血などの脳血管性疾患については,脳血流の低下あるいは再灌流をトリガーとして神経細胞死が惹起されることは明白であるものの,未だ著効な治療法・治療薬は明らかではない.このような背景のもと,これら神経変性疾患および脳血管性疾患に共通する「神経細胞死」という現象に関わる分子機序の解明を通して新たな治療法開発にアプローチしようという試みが,国内外ともに最近の研究の潮流となりつつある.本稿では,第80回日本薬理学会年会において開催された表題のシンポジウムでの講演より,神経変性疾患および脳血管性疾患の病態解明ならびに新規治療法の開発に大きく貢献しうる神経細胞死メカニズムの最先端研究を紹介する.

1 0 0 0 OA 遺伝毒性試験

著者
羽倉 昌志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.1, pp.57-61, 2007 (Released:2007-07-13)
参考文献数
9

遺伝毒性試験は,化学物質が細胞DNAの構造・機能に影響を与え,その結果,DNA損傷やDNA修復,突然変異や染色体異常を引き起こす性質(遺伝毒性)を有するか否かを調べる.医薬品開発に必要な遺伝毒性試験は3試験を基本とし,in vitro試験の細菌を用いる復帰突然変異試験と哺乳類細胞を用いる染色体異常試験あるいはマウスリンフォーマ試験の2試験,in vivo試験のげっ歯類を用いる染色体異常試験あるいは小核試験の1試験となっている.この中で2種類のin vitro試験は臨床第1相試験開始前までに,これら全ての試験は臨床第2相試験開始前までに評価終了する必要がある.医薬品候補化合物は,DNAに作用する制癌剤を除き,これら全ての遺伝毒性試験で陰性であることが基本であり,1試験でも陽性結果が得られた場合は,適切な遺伝毒性試験を追加実施し,遺伝毒性のリスクを評価する必要がある.

1 0 0 0 OA P450と発がん

著者
山崎 浩史 鎌滝 哲也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.4, pp.208-212, 2002 (Released:2003-01-21)
参考文献数
19

ヒトのがんの大部分は環境中に存在する化学物質にその原因があると考えられるようになった.発がん物質の多くは不活性な物質であり,生体内で代謝的に活性化されてその作用を発揮することが知られている.しかし,代謝過程で不安定な中間代謝物の生成が見られ,これらの活性中間体がDNA等を攻撃することにより発がん性を示すことが観察されている.この反応に関与する薬物代謝酵素の中にチトクロムP450(総称をP450,各分子種をCYP)と呼ばれる一群の酵素がある.化学物質の発がん性と関係の深い変異原性を調べるバクテリア試験菌株に,ヒトP450を導入することで,実験動物ではなく,ヒトにおける代謝を調べると同時に,反応性に富む代謝中間体のDNA損傷性を高感度に検出できる系が樹立されている.動物のin vivoにおけるがん原性の作用発現におけるP450の役割を明らかにする目的で,CYP1A2,CYP1B1およびCYP2E1遺伝子のノックアウトマウスが作出された.これらのノックアウトマウスにおいては,典型的な発がん性物質を投与してもその発がん性が極めて劇的に低減することから,哺乳動物種におけるP450の役割がin vivoにおいて明らかとなった.ヒトのP450を実験動物に発現させた世界最初の例はヒト胎児に特異的に発現しているCYP3A7である.ヒト胎児に特異的に発現するP450であるCYP3A7を導入したトランスジェニックマウスは,ヒトの胎児に対する発がん性物質などの毒性の一部を推測するための強力な遺伝子改変動物となることが期待された.肝外臓器において,遺伝子改変の結果発現したCYP3A7は発がん性アフラトキシンを代謝的に活性化した.しかし,肝においては,マウス固有のCYP3A酵素の影響を受け,その役割は必ずしも明らかにすることはできなかった.P450の比較的ゆるやかな基質特異性を考慮し,宿主の対応するP450をノックアウトして,ヒトP450遺伝子を導入すると,優れたヒト型の遺伝子改変動物を用いた薬理学的研究のツールとなるであろう.
著者
植木 智一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.4, pp.276-280, 2007 (Released:2007-04-13)
参考文献数
11
被引用文献数
3

1990年代に欧米の製薬企業で相次いで導入された高速大量スクリーニング(HTS)は,標的分子に親和性を有する化合物の探索の重要な手段として利用されている.その規模は,現在百万化合物を超える化合物ライブラリーを対象にしたスクリーニングに達している.このようなスクリーニング規模に到達した要因として測定技術をはじめとする多くの分野での技術革新が挙げられる.また,HTSの技術利用は,従来の創薬研究の初期段階である「新薬候補化合物の探索」からリード化合物選定に重要な安全動態分野である肝代謝試験,変異原性試験等へ拡大しており,創薬研究の重要な基盤技術となっている.一方,このように応用範囲が拡大するにつれて,予想外な課題や問題点も浮き彫りになってきた.この重要な創薬基盤と位置づけられる高速大量スクリーニングの現状と今後の展望について紹介する.
著者
金子 周司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.5, pp.306-310, 2005 (Released:2006-01-01)
参考文献数
24

イオンチャネル分子を標的とする薬物はその数こそ少ないが,これまでも優れた薬物が創出されている.しかしそれらは薬理作用の研究で作用点がたまたまイオンチャネルであることが分かってきたに過ぎず,先にイオンチャネルを標的と定めて薬物を創出してきた例は数少ない.イオンチャネルをコードする遺伝子の数の予測は,多数の薬物標的となりうるチャネル分子の存在を示唆しているが,ゲノム創薬的な手法が創薬の潮流を占めている現在においても,イオンチャネルを創薬標的とする機運は盛り上がらない.この原因として,内在性リガンドが存在しないことによる薬物設計の困難さ,細胞を用いた薬効評価が必要なためにスループットが高い評価系の開発が遅れたこと,さらに基礎研究においてイオンチャネルの機能解明が遅れてきたことを指摘することができる.しかし一方,イオンチャネルに対する薬効を詳細に検討すると,ヘテロマーやバリアントを含めた遺伝子表現型の多様性,アロステリック調節部位や細胞内調節ドメインの多様性,細胞の状態に依存した薬効強度の変化など,病態特異的に作用し,かつ多様な化学構造の薬物を設計するのに好都合な材料も見つけることができる.さらに,生細胞を用いたハイスループット評価系の中には,機能評価精度の高い電気生理学的な手法を応用する例が生まれてきており,ようやくイオンチャネル創薬を実行に移すためのインフラが整備されてきた.一例として神経薬理学領域で新しい薬理作用に基づく創薬が期待されている難治性疼痛や神経変性疾患を対象に考えてみると,最近では非常に多くの新しいイオンチャネルが創薬対象として十分な可能性を持っていることがわかってきた.薬理学研究者のもつ優れた研究手法によってイオンチャネルの創薬標的としてのバリデーションを推進する一方,製薬企業によって生み出される新しい低分子リガンドの発見によって,近い将来にイオンチャネルを標的とした多数の新薬の創出を期待したい. (注)NMDA受容体やP2X受容体のような明らかに内在性リガンドの存在するイオンチャネル共役型受容体は,ここではイオンチャネルに含めず受容体に含めているが,薬物作用点としてはチャネルポアも考えられるので各論においては含めている.また,イオンチャネルとトランスポータを合わせて膜輸送タンパク質と称しているが,イオンチャネルとトランスポータの境界も必ずしも明確でないので,ここではイオンチャネルという名称を象徴的に用いることにする.
著者
高島 成二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.2, pp.69-75, 2004 (Released:2004-07-26)
参考文献数
5
被引用文献数
2

循環器領域においてアンジオテンシンIIは重要な役割を担うことが知られている.特に強い生理作用とあわせてシグナル阻害薬が高血圧や心不全の治療に使用されていることからその作用メカニズムを知ることは循環器疾患を考える上で重要である.心筋細胞におけるアンジオテンシンIIの役割はそのGタンパク共役型受容体を介すると考えられており,その結果として心筋細胞の肥大をきたす.しかし,タンパク合成を必要とする肥大反応にG共役型受容体を介する比較的一時的で敏速な細胞シグナルが関与することは特異的なシグナル経路の存在を示唆する.私はアンジオテンシンIIによる心筋肥大シグナルにEGFファミリーに属するHB-EGFという増殖因子が関与することを明らかにした.HB-EGF(heparine binding EGF-like Growth Factor)はG共役型受容体の刺激により細胞膜からメタロプロテアーゼにより分解して遊離され,心筋細胞の肥大を引き起こすことが明らかになった.さらにこのHB-EGFの細胞膜からの遊離が起こらない遺伝子改変マウスを作成すると,このマウスは生後4週ぐらいから徐々に心筋細胞の変性·脱落をきたし,心不全により早期に死亡した.これらの事実はHB-EGFが心筋細胞の肥大をきたすのみならず心筋細胞の代謝·維持に重要な働きを担うことを示唆する.AngiotensinIIなどの刺激によるシグナルはHB-EGFを介していかなる心筋細胞代謝を司るかを概説し,新しい心不全治療の可能性を検討する.
著者
池谷 裕二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.5, pp.355-361, 2006 (Released:2006-07-01)
参考文献数
100

海馬苔状線維は歯状回顆粒細胞の軸索である.この軸索は歯状回門で束状化し,透明層と呼ばれる帯状の領域内を投射しながら,歯状回門や海馬CA3野の標的細胞とシナプスを形成する.しかし側頭葉てんかん患者の海馬では,この投射パターンがしばしば崩壊している.苔状線維は歯状回門で異常分岐し,歯状回の内側分子層でシナプスを形成する.これは「苔状線維発芽」とよばれ,ヒトだけでなく側頭葉てんかんのモデル動物でも確認されている.同現象が注目を集める理由は,発芽によって顆粒細胞が再帰型の興奮入力を受けるようになるためであり,この異常回路から過剰な神経活動が発せられるものと想定される.本総説では苔状線維が異常発芽するメカニズムとその結果に焦点を当て,てんかん原性にどのように関与するのかを考える.近年の発見を考慮すれば,発芽は軸索誘導の分子機構の破綻であると捉えることができる.これを踏まえ,異常発芽の予防が側頭葉てんかんの治療につながる可能性についても考察したい.