著者
中瀬 安清
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.637-650, 1995-07-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
54
被引用文献数
1

北里柴三郎が1894年(明治27年),香港のペスト流行に際し,A.J.E.Yersinとほぼ同時にペスト菌を発見してから百年になる。これを記念して,北里は当時どの様な状況下で,どの様にしてペスト菌を発見し,どの様に始末したか等に就いて述べた。先ず北里と青山胤通がペスト調査員として香港派遣に至るまでの経緯に就いて考察した。次に香港上陸後,北里が悪条件の中,ラボの設定,病原検索の確固たる方針に基づく,死体臓器と患者血液の鏡検,培養,動物試験によって,着手4日目でペスト菌を発見した経過,その公表方法,また,実験室内感染した青山と石神亨のペストへの対応と適切な処置,帰国後の始末等に就いて述べた。さらに,その5年後に始まった国内のペスト流行に際し果した,検疫,血清とワクチンの作成,接種の普及,防疫等の指導的役割,並びに,ペスト防疫での国際協力に就いて要約した。北里と門下生の論文数から見てもペストの研究は伝染病研究所設立後の北里の最重要の業績と言える。

18 0 0 0 OA 会長講演

出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.164-165, 2000-04-25 (Released:2009-02-19)
著者
中村 修一
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.527-538, 2014-08-29 (Released:2014-09-02)
参考文献数
80
被引用文献数
1

スピロヘータは, 細胞内にべん毛を隠し持ち, 螺旋状の菌体をくねらせながら泳ぐ。様々な病気を引き起こす病原体としても重要であるが, その奇抜なルックスと動きは, 細菌学者のみならず, 幅広い分野の研究者たちを古くから魅了してきた。べん毛をスクリュープロペラのように使って泳ぐ外べん毛細菌と異なり, 細胞のダイナミックな変形を利用して流体中を進むというユニークなスピロヘータの運動メカニズムを解明すべく, 現在でも様々な工夫を凝らした計測実験や理論研究が行われている。本総説では, Borrelia, Treponema, Brachyspira といった様々なスピロヘータの形態と運動について, 互いに比較しながら, その特徴をまとめる。また, 私たちのグループが最近解析を進めているLeptospira の運動メカニズムについて, 最新の研究成果を交えながら詳しく解説する。
著者
大谷 明
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.657-662, 2003-11-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
12

伝染病とは現在感染症と呼ばれているが, かつての人類の社会を根底から脅かしたおそるべき疾病を述べるには長い間社会になじんできた「伝染病」という言葉がふさわしいように思う。
著者
天児 和暢
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.315-330, 2014 (Released:2014-03-28)
参考文献数
4
被引用文献数
1 5

レーウェンフックは細菌の発見者であるが,その名があまり知られていない。何故だろうか。その疑問を解くため,私はイギリスの原虫学者C. Dobell の書いたレーウェンフックの本を読み,次のようなことを知った。彼は研究者ではなくデルフトで衣類の販売をしていた一介の市民であった。彼は自分で作った顕微鏡を使い観察し,その結果を手紙でロンドン王立協会へ送っていたが,論文は書いていない。自分の顕微鏡の作成法や観察法を公表しなかったので,彼の死後再現実験が為されることはなく,やがて忘れ去られていった。この総説では,未だ細菌という言葉もなくその様な微細な生物が居ることさえ知られていなかった時代に,彼が細菌の発見をどの様に記述していたか,また,この様な目に見えない生物の存在を初めて知った彼が,それをどう考えていたのかなどを,Dobellの翻訳した彼の王立協会宛の記述を引用し,彼の観察とその考えを紹介する。彼がどのような人物であったか,各自で想像して頂きたい。
著者
山田 毅
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.613-627, 2000-10-31 (Released:2009-02-19)
参考文献数
87
被引用文献数
1

私は, 結核菌が薬剤耐性を獲得する生化学的機構を解明するための研究を行い次ぎのような結論を得た。患者由来の多剤耐性結核菌は突然変異によりリボソームの構造を変え蛋白合成阻害剤であるバイオマイシンとカナマイシンに対して耐性を獲得していることを証明した。又RNA合成阻害剤であるリファンピシンに対してはRNAポリメラーゼの構造を変え耐性を獲得している。このように薬剤の攻撃をうける菌体の分子の変化に加えて透過性の変化により耐性を獲得している菌株もあり, 複数の機構が同じ菌株でおこり高度耐性を獲得している。最近では, 結核菌では, このような突然変異とその選択による耐性獲得機構はほとんどすべての抗結核剤に対して普遍妥当的にみられる機構であることが多くの研究者により明らかにされている。臨床医は多剤併用療法により薬剤耐性獲得に対処しているが, 完全に菌を排除することは不可能である。結核菌は宿主のなかで増殖をますます遅くし viable but non-culturable の状態に姿を変えあらゆる化学療法剤に抵抗するようになり且つ免疫機構に抵抗し人が生きている限り残存菌として人と共生することになる。我々はその機構を解明しこの機構に打ち勝つ薬剤やワクチンを開発し結核を根絶しようと考えた。遅発育性の機構解明の研究はその一つである。我々はDNAと強く結合する蛋白質のひとつが遅発育性を演出していることを発見した。このように, 結核菌が人に感染しても約95%の人は発病せず菌は残存菌として共生することになるが, 結核菌は眠った状態でも常に抗原を分泌し続け宿主の免疫力を高めているので逆にこの性質を利用することで結核以外の病気にも抵抗する免疫力を高める工夫が考えられる。我々はアジュバント活性最大の弱毒性結核菌BCGに様々な難病の予防抗原を分泌させ結核以外の感染症の予防にも効力を発輝するワクチンをつくるための基礎的実験を試みた。その結果, エイズ, マラリア, ハンセン病, 膀胱癌の予防実験を動物実験と試験管内の培養細胞レベルで試み成功した。癌の特効薬として有名な丸山ワクチンは弱毒結核菌の抽出物であり精製されていないために再現性が疑問視されているが, 我々の研究は分子生物学と免疫学のきちんとした手法でBCGに付加価値をつけ加え, しかも生菌を利用している点が異なる。
著者
堀口 安彦
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.219-221, 2012 (Released:2012-05-30)
被引用文献数
1
著者
澤辺 智雄
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.333-342, 2010 (Released:2010-08-27)
参考文献数
59
被引用文献数
4 4

ビブリオは,コレラ菌,腸炎ビブリオ及びビブリオ・バルニフィカスというヒト病原性種を含むことから,病原微生物学から環境微生物学までにおける幅広い学術分野でモデル微生物として活発に研究されている細菌群である。コレラ菌の発見から156年を経過した今でも,新種のビブリオが発見され続けており,自然界におけるビブリオの種多様性は驚くほど高い。1965年にM. Véonによって作られたビブリオ科(Vibrionaceae)は,6属,103種が包含される巨大な分類群となっている。ビブリオで新種が記載され続ける背景には,株の遺伝的多様性を精密に検出する指紋鑑定法や個体識別法が取り入れられたことにある。また,個体識別の過程で得られる多座位の遺伝子配列を解析することにより,ビブリオの進化の系譜や種分化機構の推定も試みられるようになってきた。さらに,ビブリオをモデルとしたゲノム情報に基づく分類規範の構築も始まっている。本稿ではビブリオの分類の歴史を紐解きながら,ビブリオの多様性と進化に関する最新の成果をまとめて紹介する。

5 0 0 0 OA 研究回顧

著者
林 喬義
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.81-84, 1984-03-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
22
著者
和気 朗
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.651-669, 1995-07-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
41
被引用文献数
1

Yersinia pestisはグラム陰性稈菌で,芽胞(胞子)を形成せず,22°Cでも37°Cでも鞭毛を有しない運動性のない菌である。細菌細胞膜構造のリピドAには局所的,全身的シュワルツマン反応をおこす内毒素活性があるが,O抗原にあたる多糖体鎖は欠如し,単一血清型で型別は行われない。ペスト菌はエルシニア属の特徴である好冷性を示し最適発育温度は22°C-26°Cで,36°C-37°Cでは発育が遅く,エンベロープ(夾膜)抗原やV抗原,Yopsと総称される蛋白を発育温度やCa2+濃度調節に感受性のプラスミドにコードされて産生する。またO抗原を欠く結果,酸性環境では殺菌されやすく,胃酸を分泌する動物を経口感染させるためには多くの菌量を要する。したがって系統発生学的にペスト菌が大流行をおこすに至るためには,ペスト菌が体温37°Cの動物(齧歯類など),体温26°C程度の各種ノミ間の循環を確立し,ヒト社会にペストがない時期にも,生殖力旺盛な野生動物とノミから構成される生息地が世界各地に維持されている。このような絶対寄生菌は祖先細菌に突然変異が蓄積し多様に分岐したエルシニア細菌のうち動物血中とノミ消化管との循環というnichéによって選択されたものがペスト菌へと分化した。その系統樹は16SrDNA塩基配列に基いて解明された。ペスト菌は増殖における菌体再生産に必要な鉄元素を収集し貯蔵する装置をコードする遺伝子pgmを染色体外に持つ。また110kbpのfraプラスミドにコードされるFra1(エンベロープ)は,菌を食細胞から防御する。食細胞(マクロファージ)のファゴリソゾーム内微小nichéで菌の70-75kbpプラスミドがV,Yopsの37°Cにおける産生と22°Cにおける抑制をコードするのはniché中のCa2+濃度が10-6M以下の場合で,低カルシウム反応(LCR)領域が発現する。プラスミノーゲンアクチベーターPlaをコードする9.5kbpプラスミドPlaはエルシニア属中ペスト菌に固有で,Yopsを加水分解するPlaはV抗原を露呈する。菌側因子のV,Yops,Pla,リピドAと動物体,人体側因子のヘモグロビン,ヘミン,フィブリン,補体のC5a,C3aとの相互作用によってペスト敗血症(DIC)の病状が発展する。各病巣地のペスト菌がどの菌側因子をどのように産生するかによってペスト菌の病原性の多様性が理解できる。

4 0 0 0 OA シンポジウム

出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.10-56, 2017 (Released:2017-02-24)
著者
長 環
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.331-337, 2009 (Released:2009-05-27)
参考文献数
53
被引用文献数
4 4

Candida albicansのバイオフィルムは,酵母形細胞,仮性菌糸,菌糸,さらに菌体外物質が複雑に絡み合った細胞集団である。その構造の強固さは本菌の多形性と細胞間の接着性によると考えられる。最近バイオフィルム内における細胞間の接着に接合が関与するという考え方が導入されつつある。また菌密度を感知するクオラムセンシング機構が,バイオフィルムの成熟期に働き,酵母細胞のバイオフィルムからの分散,そして新たな感染場所への転移に寄与している可能性が考えられている。

3 0 0 0 OA 破傷風毒素

著者
松田 守弘
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.631-665, 1979-07-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
317
被引用文献数
1 1
著者
横田 正春 岡澤 昭子 田中 智之
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.527-535, 2001-08-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
40
被引用文献数
5 5

セラチア (Serratia) は腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌である。通常土壌中, 水中, 空中に広く存在する常在菌である。ヒトからは敗血症などの原因菌として検出されることがあるが, 多くは Serratia marcescens によるものである。これらヒトへの感染は院内感染に関連した日和見感染症として生じる。院内感染病態は呼吸器系・尿路系感染が主で, その他小児・新生児感染, 創傷感染そして致死率の高い敗血症などがある。感染経路には輸液・輸血器具の汚染, 分娩室汚染, 消毒液, 石けんなどの汚染を含む医療環境の様々な場所・行為からの可能性がある。セラチアの感染予防には, 一般細菌に対するのと同様に, 基本的かつ効果的な消毒行為を遂行し, 加えてセラチアの薬剤耐性チェックなどが大切である。とりわけ院内感染の予防, 感染経路の遮断には院内感染対策委員会の実働が最も重要である。
著者
藪内 英子
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.505-548, 2003-08-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
227

古来, 炭疽は畜産に甚大な被害を与えたのみならず, 農工業食品などを介してヒトの散発症例, 大・小規模の集団発生を記録してきた。近年先進国では恣意的でない炭疽症例は, ヒト・家畜ともに激減したが, 炭疽の病原菌 Bacillus anthracis はその病原性, 芽胞の耐久性と製造・運搬・撒布の容易さなどから生物兵器として密やかな脚光を浴びて来た。2001年9月のニューヨークでのハイジャック機自爆テロに引き続いて実行されたB. anthracis 芽胞を混じた白色粉末郵送による生物テロは, 改めて世界の耳目をこの菌に惹き付けた。今後の不測の事態に備えるため, 我々はこの菌種についてあらゆる意味での性格を熟知し対応策を立てておかねばならない。炭疽が疑われる患者の臨床検査から患者の迅速診断と迅速治療, 毒素の作用機序と分子生物学, 毒素の解毒方法, ワクチンならびに同種受動免疫抗体の開発・実用化など多岐にわたる知識と技術を具えた研究者群を確保していただきたい。この総説では1864年の Davaine の論文から始めて2003年の Colwell の論説まで引用した。Bacillus cereus group の菌種の分類学上の問題点が未解決である事, 公的統計として発表されていない明治以降の本邦炭疽症例, 旧ソ連軍事施設からの芽胞漏洩による大惨事とその隠蔽, 多様な臨床病型などを比較的詳述した。毒素に関する記述を簡単な引用に留めた部分も少なくないが, 炭疽毒素の抗腫瘍効果も含めて, この総説から何かを得て下されば幸甚である。
著者
寺脇 良郎
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.513-525, 1986-03-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
109
著者
今村 隆寿
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.499-516, 2000-08-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
103
被引用文献数
1 1

細菌プロテアーゼとして, 新たな構造と機能が見い出された歯周病の主要な原因菌 Porphyromonas gingivalis のトリプシン様システインプロテアーゼ gingipains を紹介する。Gingipains は3種の遺伝子 (rgpA, rgpB, Kgp) から産生される variants であり, そのペプチド結合切断特異性からは Arg-Xaa を切断する gingipains R (rgpAとrgpB由来) とLys-Xaaを切断する gingipain K (kgp 由来) に分類される。HRgpAとKgpは触媒ドメインと赤血球凝集/接着活性ドメインとの複合体である。他に, gingipains Rには触媒ドメインのみの型とこれに多糖体が結合した膜型がある。Gingipains は P. gingivalis のハウスキーピングだけでなく宿主への感染や宿主防御機構からの回避にも重要な役割を果たす。Gingipains は P. gingivalis の病原性と密接に関連し歯周病の発症・進展に関与しているので, 歯周病予防・治療法開発のターゲットとして有用である。
著者
佐々 学
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.139-149, 1953-04-30 (Released:2011-06-17)
参考文献数
41