著者
伊藤 美登里
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.409-425, 2014

U.ベックは, ローカル次元において連帯と承認を作り出す仕組みとして市民労働という政策理念を提案した. この理念が現実社会との関連でいかに変容したか, 他方で社会においてはいかなる変化がもたらされているか, これらを考察することが本稿の目的である.<br>研究の結果次のようなことが判明した. 市民労働の政策理念は, 政策的実践に移される過程で, ある部分が市民参加に, 別の部分が市民労働という名のワークフェア政策としてのモデル事業に採用され, 分裂していった. 現在の市民労働と市民参加は, ベックの市民労働の構成要素をそれぞれ部分的に継承しつつ, 中間集団や福祉国家の機能を部分的に代替している. 政策的実践としての市民労働と市民参加の存在は, 「家事労働」「市民参加」「ケア活動」といった概念の境界を流動化したが, 「職業労働」概念の境界は相対的に強固なままである.<br>ベックの市民労働には, 元来, 社会変革の意図が含まれていた. すなわち, この政策理念は, 職業労働と市民参加と家事労働やケア活動の境界を流動化し, それらの活動すべてを包括するような方向, すなわち労働概念の意味変容へ向かうことを意図して提案された試みであった. しかし, 現状においては, そもそもの批判対象であった職業労働の構造を強化する政策にこの市民労働の名称が使われている. 他方, 市民参加においては, 部分的にではあるが, 市民労働の政策理念が生かされ一定の成果をあげている.
著者
寺地 幹人
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.351-359, 2014

本稿は, 2014年7月に横浜で開催された第18回世界社会学会議のサイドイベントであるEast Asian Junior Sociologists Forum (EAJSF) の企画・運営の様子を報告し, この事例をもとに, 若手研究者が国際的な学術イベントの企画・運営を担う際のポイントを論じている.<br>EAJSFにおいては, 企画・運営委員が少人数で, かつ専門分野などの点で同質性や関係の近さがあったことの利点が, 結果的に大きかった. しかし, 仮にある程度のメンバー内の同質性や近さを前提にしなければ今回のような企画・運営が難しいとすれば, 次の2つが課題として考えられる. 第1に, どのような同質性や近さが相対的に, 国際的な学術イベントの企画・運営に馴染みがよいのか, 特徴を探ること. 第2に, 活動をより詳細な業務レベルで検証し, 相対的に同質性を前提とせずとも可能な活動を整理することで, 企画・運営の関わり方のバリエーションを提示し, 関心のある人が適切な関わり方で分業できるようにすること.<br>この2つに対応することを通じて, 国際的な学術イベントの企画・運営のノウハウをさらに学会が蓄積し, 関心のある若手研究者が関わる機会を開くことが, 世界社会学会議日本開催後の課題の一つと考えられる.
著者
寺地 幹人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.351-359, 2014

本稿は, 2014年7月に横浜で開催された第18回世界社会学会議のサイドイベントであるEast Asian Junior Sociologists Forum (EAJSF) の企画・運営の様子を報告し, この事例をもとに, 若手研究者が国際的な学術イベントの企画・運営を担う際のポイントを論じている.<br>EAJSFにおいては, 企画・運営委員が少人数で, かつ専門分野などの点で同質性や関係の近さがあったことの利点が, 結果的に大きかった. しかし, 仮にある程度のメンバー内の同質性や近さを前提にしなければ今回のような企画・運営が難しいとすれば, 次の2つが課題として考えられる. 第1に, どのような同質性や近さが相対的に, 国際的な学術イベントの企画・運営に馴染みがよいのか, 特徴を探ること. 第2に, 活動をより詳細な業務レベルで検証し, 相対的に同質性を前提とせずとも可能な活動を整理することで, 企画・運営の関わり方のバリエーションを提示し, 関心のある人が適切な関わり方で分業できるようにすること.<br>この2つに対応することを通じて, 国際的な学術イベントの企画・運営のノウハウをさらに学会が蓄積し, 関心のある若手研究者が関わる機会を開くことが, 世界社会学会議日本開催後の課題の一つと考えられる.
著者
桜井 芳生
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.229-242,329*, 1991-12-31

我々は、ジンメルが展開した「同等化・差異化の欲求」論を拡張的に展開する試みをしている。ここでは、社会学的なアプローチがあまりなされていない「いき」と「通」のトピックにこの視点を適用する。「いき」と「通」に関する先行業績を援用すると「I通り者=意気=競い組」「II通」「III粋=いき」の三類型にまとめることができる。我々はそれぞれジンメルを参考に、「威信をめぐる闘争」「マニュアルを媒介にした流行」「二つの欲求の遊戯的形式での不安定的発散」として統一的視点から解釈することを提案する。最後に、「いき」の三徴表の相互関係と、「いき」の行く末への、ある示唆を行う。
著者
田中 重好
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.366-385, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1 5

東日本大震災は, 戦後日本の災害史上, 最大の死者・行方不明者を出した. ワイズナーの「ハザード×脆弱性=ディザスター (災害)」モデルを前提とすれば, 今回の大量死という災害をハザードの巨大さだけに帰属させることはできない. それではなぜ, かくも巨大な災害となったのか. これまで戦後日本が積み上げてきた防災対策, その根底にある基本的な考え方 (防災パラダイム) のどこに問題点があったのか.戦後日本の防災対策パラダイムは, (1)科学主義, (2)想定外力の向上, (3)行政中心の防災対策, (4)中央集権的な防災対策という特徴をもっている.これまで(1)と(2)に基づいて, 地震規模や津波高を想定し, そのハザードの想定に基づいて津波対策を進めてきた. しかし実際には, 地震規模, 津波高, 海岸堤防整備, 避難行動などハード・ソフト両面にわたって「想定外」の事態を発生させ, 「想定をはるかに超える」犠牲者を生み出した. このことから, 防災パラダイムの(1)と(2)の見直しが必要となる. 避難行動の分析から, 行政を中心として, 中央から警報を発令して住民に伝達する方式 (トップダウン方式) の避難行動を促す方法では, 十分効果を発揮しないことが分かった. むしろ, 学校やコミュニティという, 集団の力を活かした避難行動が有効であった. このことは, 防災パラダイムの(3)と(4)の見直しの必要性を示唆している.このように, 東日本大震災の被災経験から, 戦後日本において作り上げられてきた防災パラダイムの転換が必要であると結論することができる.
著者
麦倉 哲 吉野 英岐
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.402-419, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

東日本大震災による岩手県の死者行方不明者の合計は6,000人を超えている. 生存した被災者は避難所等での生活を経て, 応急仮設住宅で避難生活を継続し, その数は2013年9月の時点でも約3万6000人に達している. 国, 県, 市町村は復興計画を策定し, 復興事業を進めているが, 被災した市街地や住宅地は更地のままであることも少なくない.2011年に大槌町の応急仮設住宅の住民を対象とした調査では, 深刻な被災状況, 生存者の避難行動の高い割合, 避難先での助け合い行動などが確認できた. また聞き取り調査から, 被災犠牲死の要因の再検討が必要であることを明らかにした. そのうえで, コミュニティの復興にとって, 復興のシンボルとなる地域文化の存在が重要であることを指摘した.復興まちづくりの前提になる防潮堤建設では, 県による民有地の取得が必要であるが, 多数による共有地や相続未処理のままの土地が多く, その取得は難航している. 釜石市での調査からは, 海岸部での防潮堤の建設にあたり, 41名の共有になっている共有地の存在が明らかになった. 国はその処理をめぐって加速化措置を発表したが, 被災地の自治体が自ら処理を進められるかたちにはなっておらず, 復興の地方分権化は実現していない.今後の課題としては, 震災犠牲者の被災要因の検証, 地域文化の所在や価値の認識, 住民の地域への関心の持続, 住民と基礎自治体が復興をすすめられる体制の構築が挙げられる.
著者
佐藤 彰彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.439-459, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2 6

社会学広域避難研究会富岡班では2011年秋から, 東京電力福島第一原発事故に伴い避難を余儀なくされた福島県富岡町民への聞き取り調査を進めてきた. その後, 当事者団体が実施するタウンミーティング事業を中心とした支援にかかわるなかで, おもに次のことが明らかになってきた. (1)避難者が抱える問題はきわめて広範かつ複雑であること, (2)しかしながら, こうした問題が政策の現場では正確に認識されていないこと, (3)そのため, 現行の政策が必ずしも十分な被災者救済に繋がっていないこと, (4)一方で, 地域復興に向けた政治的決定が急速に進み, 原発避難者 (以下, 強調箇所以外では「避難者」という) が抱える問題は深刻化の一途を辿っていること, (5)その背後には地方自治を取り巻くわが国の法制度と, (6)問題の深刻化を後押しする世論の存在を否定できないこと.これらは, 現行の復興政策が据えている前提 (早期帰還と原地復興) と避難者が直面している問題 (生活再建と長期スパンでの帰還) との間の乖離故に生じており, このままでは現行政策の破綻, あるいは, 避難元自治体の消滅すら現実に起こる可能性もある. この状況を改善するためには, 避難元自治体のコミュニティの維持・存続, そこから町行政を通じた政策過程への回路, 世代や家族のライフスタイルを考慮した長期政策が必要である.
著者
正村 俊之
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.460-473, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1

東日本大震災をリスク論の観点から分析するならば, そこには4つのタイプのリスクが存在する. まず, 津波災害に関連する「津波リスク」と原発災害に関連する「原発リスク」があり, この2つのリスクは, さらにそれぞれ災害の発生にかかわる「災前リスク」と被災地の復興にかかわる「災後リスク」に分けられる. 本報告の狙いは, リスク対策と知, リスクと無知の関係を明らかにしながら, これらのリスクの発生に共通する構造を分析することにある. 科学の発展をもたらしたのは, 知の働きによって未知が既知へと転換し, それによって新たな未知が生まれるという「未知の螺旋運動」であったが, 知と無知の間にもそれと類似した「無知の螺旋運動」が起こる. 津波災害と原発災害のいずれにおいても, リスク対策を講ずる過程で新たなリスクが発生するという逆説的な事態が起こっているが, このパラドックスは, 知の働きによって無知が既知へと転換し, それによって新たな無知が生まれるという「無知の螺旋運動」に起因している.
著者
進藤 雄三
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.401-412, 2004-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
43

本稿の課題は, 現代社会における「個人化」現象が「医療」領域においてどのように顕現しているのか, そしてそれがいかなる社会学的含意を持っているのかを暫定的に素描するところにある.この目的にそって, (1) まず「個人化」概念の意味を確認し, (2) 次に「医療」領域においてそれが具体的にどのように現れてきているのかを, インフォームド・コンセントと自己決定医療, 遺伝学のインパクトという2つのトピックを素材に例証した上で, (3) それを「個人化」の2つの側面-選択と強制-と関連づけて整理し, (4) 最後に医療における「個人化」がいかなる社会学的含意を持つのかを検討する.「個人化」概念は「近代化」概念と切り離しがたく結びついて理解されてきた.現代において再度「個人化」が「問題」としてクローズァップされてきた背景はどこにあり, 古典的近代と現代における「個人化」はいかなる意味において質的に異なるといいうるのか, その問いに対する回答の一端を現代の「医療」状況において浮き彫りにすること, それが本稿のねらいである.
著者
山本 剛郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.466-468, 1988-03-31 (Released:2009-11-11)
著者
黒田 英一
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.443-458, 1996-03-30 (Released:2010-01-29)
参考文献数
11

ピオリ, セーブルは『第二の産業分水嶺』において, 大量生産システムにかわる生産方式として「柔軟な専門化」を提唱してきた。本稿は, 日本の有名な精密機器メーカーのひとつであるキャノンをとりあげ, 同社の生産ネットワークの事例調査により, 「柔軟な専門化」の日本への敷衍化を試みている。キャノンの生産ネットワークには2つのタイプがみられる。まず, 試作品の生産ネットワークでは, 専門技術を持つ協力企業が, 大田, 品川に立地し, 試作品専業の企業を中心にゆるやかに結びつき, 新製品開発という共通の目標に向かって, キャノンの製品開発を支えている。次が, 量産品の生産ネットワークである。量産品を支える企業は, 地方に立地し, 高品質, 廉価, 短納期の部品を製造している。今回の事例調査から, 試作品の生産ネットワークにおいて, 「柔軟な専門化」の特徴が見いだせる結果となっている。しかも, 試作品を担う企業は量産品も製造しており, 現実には複雑で多面的な生産ネットワークを構成しているといえる。
著者
橋口 昌治
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.164-178, 2014

企業社会が揺らぐなか, 若年層はさまざまな困難を抱えつつも, それを社会的・構造的な問題として捉え, 集合的に異議申し立てを行うことが難しくなっている. なぜなら, 個人化が進んだ社会において人々が「集まる」ことすら難しいからである. また先行研究では, 共同性が政治的目的性を「あきらめ」させるという主張がある. その一方で, 「若者の労働運動」に参加している若者もいる. 本稿では, 「若者の労働運動」における抵抗のあり様を明らかにした. その際, エージェンシー性の高いと思われる組合員にインタビューを行った. エージェンシー性の高い人物ほど, 現在の地位が構造的要因に規定されたものなのか, 個人の選択や努力の結果なのかが判別しがたいという, 揺らぐ労働社会における矛盾が現れやすいと考えられるからである.<br>その結果, まず, ユニオンが労働相談にのることで, インタビュー対象者が個人的な問題として捉えていたものを社会的・集団的に解決すべき問題へと転換させていたことがわかった. 次に, 「あきらめ」, つまり上昇アスピレーションの冷却や「私」を受け入れていくことを通じて, 「政治的目的性」は加熱されていたことがわかった. 先行研究においては, 政治的目的性や自分探し, 上昇アスピレーションが加熱か冷却かの二項対立で捉えられていたが, 2人の事例からは, 「あきらめ」の相互関係は二項対立では捉えきれず, また抵抗につながりうることが明らかになった.
著者
橋口 昌治
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.164-178, 2014

企業社会が揺らぐなか, 若年層はさまざまな困難を抱えつつも, それを社会的・構造的な問題として捉え, 集合的に異議申し立てを行うことが難しくなっている. なぜなら, 個人化が進んだ社会において人々が「集まる」ことすら難しいからである. また先行研究では, 共同性が政治的目的性を「あきらめ」させるという主張がある. その一方で, 「若者の労働運動」に参加している若者もいる. 本稿では, 「若者の労働運動」における抵抗のあり様を明らかにした. その際, エージェンシー性の高いと思われる組合員にインタビューを行った. エージェンシー性の高い人物ほど, 現在の地位が構造的要因に規定されたものなのか, 個人の選択や努力の結果なのかが判別しがたいという, 揺らぐ労働社会における矛盾が現れやすいと考えられるからである.<br>その結果, まず, ユニオンが労働相談にのることで, インタビュー対象者が個人的な問題として捉えていたものを社会的・集団的に解決すべき問題へと転換させていたことがわかった. 次に, 「あきらめ」, つまり上昇アスピレーションの冷却や「私」を受け入れていくことを通じて, 「政治的目的性」は加熱されていたことがわかった. 先行研究においては, 政治的目的性や自分探し, 上昇アスピレーションが加熱か冷却かの二項対立で捉えられていたが, 2人の事例からは, 「あきらめ」の相互関係は二項対立では捉えきれず, また抵抗につながりうることが明らかになった.