著者
田中 重好
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.5, pp.73-80, 1995-11

本報告では、津波警報・注意報に関する情報の伝達と地域住民の対応を検討する。この問題を検討するために、三陸はるか沖地震の際に津波警報・注意報が発令された対象地域を中心に、北海道、東北各県の太平洋沿岸の地方自治体防災担当部局あてに、「三陸はるか沖地震に関するアンケート調査」を実施した。1994年12月28日午後9時19分に、青森県八戸市の東方沖釣200キロの海底を震源として発生した三陸はるか沖地震の際には、地震発生の4分後、9時23分には仙台管区気象台が東北地方に津波警報を発令した。北海道地方には、北海道管区気象台が午後9時26分に、津波注意報を発令している。三陸はるか沖地震の際には、気象台からの津波警報・注意報が迅速に発令され、それを各市町村でいち早く放送をとおして知り、地域内の危険集落に連絡した。この気象台→地方自治体→地域住民への情報伝達は、全般的にいえば、適切におこなわれたと判断できる。これは、1993年以来、釧路沖地震、北海道南西沖地震、北海道東方沖地震、三陸はるか沖地震と打ち続く大規模地震の発生により、各市町村の防災担当者による津波警報・注意報の連絡体制や避難勧告の発令などの対応が改善されてきたためである。いわぱ、各市町村による災害からの「学習効果」がみられる。避難勧告・命令を発令した市町村は、合計で21市町村にのぽっている。21市町村のうち、避難勧告を出した市町村は18、避難命令を出した市町村は3である。1道3県全体で、対象者は42,523世帯、141,908人にものぼった。道県別には、その市町村は岩手県に集中している。避難勧告・命令が発令された地区の住民が、その後、実際にどの位避難したかといえば、13,527人で、全休のに9.5%にすぎないと推定される。北海道・東北地方の太平洋沿岸では1993年以来、度重なる津波警報や注意報が発令されてきた。警報伝達発令の迅速化がはかられ、マスコミをとおして大量の警報が短時間のうちに住民に届くようになった。しかし、過去4回の地震では実際の被害が、今回調査対象地区とした太平洋沿岸地区では、少なかった。こうしたことが繰り返されてきた地域の住民からすれば、「はずれる/不必要に出される避難勧告・命令」という判断が一部に生じている危険性すらある。これは津波警報の「オオカミ少年」効果の問題である。この効果をどう低減するか、各市町村で真剣に対策をたてる必要がある。そのためにもっとも必要なことは、「行政から情報をもらって避難する」という行政依存型住民ではなく、「自らの身は自らが守る」という、主体的に防災に取り組む住民を育ててゆかなけれぱならない。そのためにも、参加型防災対策の立案へと方向転換が求められている。
著者
浦野 正樹 松薗 祐子 長谷川 公一 宍戸 邦章 野坂 真 室井 研二 黒田 由彦 高木 竜輔 浅川 達人 田中 重好 川副 早央里 池田 恵子 大矢根 淳 岩井 紀子 吉野 英岐
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、東日本大震災を対象として発災以来社会学が蓄積してきた社会調査の成果に基づき、災害復興には地域的最適解があるという仮説命題を実証的な調査研究によって検証し、また地域的最適解の科学的解明に基づいて得られた知見に基づいて、南海トラフ巨大地震、首都直下地震など次に予想される大規模災害に備えて、大規模災害からの復興をどのように進めるべきか、どのような制度設計を行うべきかなど、復興の制度設計、復興の具体的政策および復興手法、被災地側での復興への取り組みの支援の3つの次元での、災害復興に関する政策提言を行う。また、研究の遂行と並行して、研究成果の社会への還元とグローバルな発信を重視する。
著者
和崎 春日 上田 冨士子 坂井 信三 田中 重好 松田 素二 阿久津 昌三 三島 禎子 鈴木 裕之 若林 チヒロ 佐々木 重洋 田渕 六郎 松本 尚之 望月 克哉
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

「グローバル化時代における中下層アフリカ人の地球的移動と協力ネットワーク」現代社会において、グローバライゼーションを生きるのは、北側社会や特別なアフリカ人富裕層だけではなく、「普通の」アフリカ人たちが、親族ネットワーク等を駆使して、地球を広く縦横に生き抜いている姿が、本共同研究から析出された。その事実を基礎にした外交上の政策立案が必用になってくることを、本共同研究は明らかにした。
著者
田中 重好 田渕 六郎 木村 玲欧 伍 国春
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.183-195, 2006-08-31

Tsunami evacuation plannings have been built on "alert-evacuation" model, which assumes "tsunami alert -transmission -evacuation behavior" connection. Analyzing the data on the behavior of residents (n=1,710) in coastal area of Aichi prefecture after the tsunami warning on September 5, 2004, the results indicated that only a few residents evacuated despite their strong concerns on tsunami. This behavioral pattern results from the "empirical knowledge" which was gained by their past experience of not evacuating after a tsunami alert. In order to transform this knowledge, we need to build a new evacuation model based on the understandings of ambiguity which people face in disasters.
著者
田中 重好 小倉 賢治
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.4, pp.117-123, 1994-08
被引用文献数
1

本研究は、1994年7月に発生した北海道南西沖地震時の青森県日本海沿岸住民の津波への対応行動を、災害文化論の観点から取り上げ調査したものである。本調査報告は、10年前の津波災害の被災経験が、10年後に発生した北海道南西沖地震の際にはどう生かされたのかを、災害文化論の観点から検討するものである。日本海中部地震時の避難行動と情報伝達に関して、次のような問題点が指摘された。第一に地震=津波連想がなかったため、津波からの避難行動が遅れたこと、第二に津波警報の発令が沿岸への津波到着後であり、発令に時間がかかりすぎたこと、第三に公的情報伝達ルートが作動しなかったことである。津波への対応行動は、個人レベルでみると、地震=津波連想、情報獲得と判断、避難行動という三つの段階に分けられる。アンケート調査結果からは、次のような点が明らかとなった。10年前に経験した日本海中部地震により、住民の地震=津波連想が高まっており、そのために、住民は津波情報を迅速に獲得した。この点で、日本海中部地震は地域住民に津波に関する災害文化向上に役立ったといえる。また、気象台からの津波警報の発令が前回よりも早く、津波警報の第一報をマスコミを通して聞いた人も多かった。さらに、避難の決め手となった情報からみれば、公的情報も効果を発揮している。このように、10年前の日本海中部地震時の反省は生きていることが分かる。しかし、津波対応に関して問題がないわけではない。それは、北海道南西沖地震の際の北海道奥尻島の場合を想定すると、現在のレベルの対応では遅すぎる。こうした点では、発災直後に津波の避難が必要かどうかの自己判断能力をさらに向上させることが必要となる。第二の防災上の課題は、日本海沿岸の過疎町村では、高齢化が進んでおり、津波情報をいち早く獲得しても、避難行動が迅速にとれない災害弱者が多く住んでいるという点である。今後、公的情報伝達システムの整備だけではなく、こうした点への対策も必要となってくる。
著者
田中 重好
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.21-37, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
41

本論では、災害社会学の基本的な考え方、災害社会学の理論の基礎的な考え方を提案する。ハザードとディザスターとを区別した上で、災害は、ハザードが脆弱性を媒介にディザスターに変化し、その後、復興がおこなわれる一連の社会過程として捉える。災害は、上記の社会過程に沿って、「災害の生産」と「災害の構築」の二つの側面を持っている。「生産」という視点を持つことによって、「災害は社会構造に規定されている」ことを確認できる。「構築」という視点を持つことによって、「構築された結果」(とくに、制度的に構築された結果)から出発していた災害研究を相対化し、「社会と災害との関連性」(すなわち、社会と環境との関連性)を根本から議論できるようになる。以上のような理論的な検討を深めてゆくことによって、従来の、個別の災害ごとに「閉じた」研究からも、防災の緊急課題に応えるのに急で一般化の努力を怠ってきた研究からも、さらに、行政が推進する防災対策を無批判に受け入れて進められてきた研究からも脱却し、「正しい政策科学」的な災害社会学が構築できる。
著者
田中 重好 鈴木 聖敏
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.2, pp.35-44, 1992

1992年9月28日午後5時から7時にかけて,津軽地方を強風とともに襲った台風19号は、東北電力弘前営業所管内の85.0%にのぼる世帯を停電させた。本研究は、停電に関連した情報の流れを整理し、停電をめぐる「情報ニーズと情報提供」の問題にしぼって、経験的に検討した。今回の台風災害の経験を踏まえて、今後、どういった情報提供がなされるべきなのかを、考えておきたい。第1は、高度情報化社会を迎えて、災害時ではあれ、情報ニーズはきわめて高いという事実を確認すべきである。第2は、電話社会との関連の問題である。これまで、災害時にはさまざまな形で、電話が輻輳し、混乱をきたすことが指摘されてきた。しかしながら、この対策が、電話会社によるトラヒック制御という観点からのみ取り上げられて、地域のコミュニケーション・シムテムの設定という観点が不足していた。電話の輻輳をラジオ放送が低減することは可能であるはずであり、これが可能となれば、本当に必要な情報は電話をとおして連絡できるようになる。第3に、こうしたコミュニケーション・システムという観点は、今後、公共機関からマスメディアをとおして住民に情報を伝達するという一方向モデルではない、さまざまな形のフィードバック回路を組み込んだモデルを構想してゆくことにつながるはずである。最後に、そのさい、各メディア間を、いかに「仕切る」かが重要な課題となる。たとえば、ラジオは災害情報の地域内の流れを「仕切る」可能性をもっている。「ラジオが災害情報の地域内の流れを『仕切る』」とは、具体的にいえば、たとえば次のようなことが考えられる。東北電力に殺到した住民からの電話のうち、特定のものに関しては連絡を自粛してもらうように呼びかける(一般的呼びかけ型)とか、地域ごとの復旧見通しをきめ細かくラジオで放送することにより、電話での問い合わせの一部を減少させる(情報提供型)とか、停電を強いられている住民に対して補完的手段をとるように呼びかけることにより、停電による生活障害や心理的負担感を軽減する(補完的手段提示型)といったやり方である。
著者
加藤 眞義 舩橋 晴俊 正村 俊之 田中 重好 山下 祐介 矢澤 修次郎 原口 弥生 中澤 秀雄 奥野 卓司 荻野 昌弘 小松 丈晃 松本 三和夫 内田 龍史 浅川 達人 高木 竜輔 阿部 晃士 髙橋 準 後藤 範章 山本 薫子 大門 信也 平井 太郎 岩井 紀子 金菱 清
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、東日本大震災のもたらす広範かつ複合的な被害の実態を明らかにし、そこからの復興の道筋をさぐるための総合的な社会学的研究をおこなうための、プラットフォームを構築することである。そのために、(1)理論班、(2)避難住民班、(3)復興班、(4)防災班、(5)エネルギー班、(6)データベース班を設け、「震災問題情報連絡会」および年次報告書『災後の社会学』等による情報交換を行った。
著者
田中 重好
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.366-385, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1 5

東日本大震災は, 戦後日本の災害史上, 最大の死者・行方不明者を出した. ワイズナーの「ハザード×脆弱性=ディザスター (災害)」モデルを前提とすれば, 今回の大量死という災害をハザードの巨大さだけに帰属させることはできない. それではなぜ, かくも巨大な災害となったのか. これまで戦後日本が積み上げてきた防災対策, その根底にある基本的な考え方 (防災パラダイム) のどこに問題点があったのか.戦後日本の防災対策パラダイムは, (1)科学主義, (2)想定外力の向上, (3)行政中心の防災対策, (4)中央集権的な防災対策という特徴をもっている.これまで(1)と(2)に基づいて, 地震規模や津波高を想定し, そのハザードの想定に基づいて津波対策を進めてきた. しかし実際には, 地震規模, 津波高, 海岸堤防整備, 避難行動などハード・ソフト両面にわたって「想定外」の事態を発生させ, 「想定をはるかに超える」犠牲者を生み出した. このことから, 防災パラダイムの(1)と(2)の見直しが必要となる. 避難行動の分析から, 行政を中心として, 中央から警報を発令して住民に伝達する方式 (トップダウン方式) の避難行動を促す方法では, 十分効果を発揮しないことが分かった. むしろ, 学校やコミュニティという, 集団の力を活かした避難行動が有効であった. このことは, 防災パラダイムの(3)と(4)の見直しの必要性を示唆している.このように, 東日本大震災の被災経験から, 戦後日本において作り上げられてきた防災パラダイムの転換が必要であると結論することができる.
著者
高橋 誠 海津 正倫 田中 重好 島田 弦 伊賀 聖屋 川崎 浩司 伊賀 聖屋 室井 研二
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

2004年スマトラ地震(インド洋大津波)の最大被災地、インドネシアのアチェ地域と中部ジャワ地震の被災地、ジョグジャカルタ地域を事例に、被災からの長期復興プロセス、特に生業・経済復興と災害文化の定着に焦点を置き、空間の改編から再生、普通の人々の被災経験、組織およびネットワークの再編の相互作用という視点からコミュニティベースの災害復興メカニズムを探ることによって、様々な社会-空間のスケールで機能する災害後復興ガバナンスの中にコミュニティを位置づける多層的復興モデルを導出するとともに、フォーマルな災害対応にインフォーマルな分権的アプローチを組み込む条件を指摘した。
著者
高橋 誠 田中 重好 木村 玲欧 島田 弦 海津 正倫 木股 文昭 岡本 耕平 黒田 達朗 上村 泰裕 川崎 浩司 伊賀 聖屋
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

インド洋大津波の最大被災地、インドネシアのバンダアチェとその周辺地域を事例に、被災から緊急対応、復興過程についてフィールド調査を行い、被害の状況、被害拡大の社会・文化的要因、避難行動と緊急対応、被災者の移動と非被災地との関係、住宅復興と地域の社会変動、支援構造と調整メカニズム、災害文化と地域防災力などの諸点において、超巨大災害と地元社会に及ぼす影響と、その対応メカニズムに関する重要な知見を得た。
著者
林 春男 山下 裕介 田中 重好 能島 暢呂 亀田 弘行 河田 恵昭
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

災害復旧に従事する防災機関のロジスティクス・マネージメントにおいて,災害対応を緊急対策,応急対策,復旧・復興対策という相互に独立し,異なる目標を持つ3種類の対策の組み合わせとして考えることが可能である.しかも,この3種類の対策はすべて災害発生直後から同時に,別々の担当グループによって実施される必要性が明らかになった.その間でのニーズと資源の相互調整過程にロジスティクス・マネージメントの本質があると考え,それを可能にする情報システムの構築を行った.1)防災CALSの構想 災害対策をおこなう関連部局間での状況認識の共有と資源調整を可能にするための情報処理標準の必要性を明らかにし,そのプロトタイプを検討した.2)被害状況の把握,対応状況の整理,資源動員計画の立案,周知広報による情報共有の確立を統一的に推進するシステムの構築を目的として,カリフォルニア州が開発した“OASIS" (OPERATIONAL AREA SATELLITE INFORMATION SYSTEM)と,わが国の災害情報処理報告形式とを比較検討し,わが国における合理的な災害情報処理様式の検討を行った.3)合理的な意思決定を支援するためには,災害対応の各局面における制約条件,過去の教訓棟を的確に参照しうるシステムが必要となるという認識のもとに,SGML (Standard General Markup Language)による災害情報管理システムのプロトタイプを構築した.各種防災計画の改訂や検索に強力な武器になることが明らかになった.4)阪神淡路大震災で初めて注目され,今後の利用法の検討が考えられるべきボランティア問題に関して,実態調査を重ねその問題点を明らかにした.
著者
田中 重好 中村 良二 柄沢 行雄
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

「都市は社会的生活の中心的機能の所在地である」という視点から、鈴木栄太郎の都市結節機関説、矢崎武夫の統合機関説などによって、都市が具備する機能が議論されてきた。こうした理論からは、どの地域においても妥当する、中心都市と各地域との序列的な機能分担のあり方が提示される。しかし、弘前の広域市町村圏の地域づくりの調査から導き出された結論は、地方都市の機能は実に「個性的であり」、個性を生かした形で、地方中心都市の機能と整備のあり方を構想して行くべきであるという点にある。したがって、地方都市の整備のあり方を、個性を無視して一律に議論することはできない。地方中心都市の都市機能や都市基盤は基本的に、周辺の各市町村の「地域づくりの志向性」を尊重しながら、整備されるべきである。いいかえれば、各市町村のこれまでの地域づくりの方向性・地域づくりのベクトルを尊重し、各地域の個性を生かしながら、それに連動・共振しうる弘前市の都市づくりがされなければならない。岩手県県南地域の三つの都市、一関市、水沢市、江刺市を事例とした調査からは、中心都市の政策的な判断および条件によって、地方都市の整備方針が異なることを見てきた。三つの都市ごとに、高速交通体系の整備にともなう地域社会の変化の仕方が異なっていた。その差異は、各都市が選択した施策によってもたらされたものである。
著者
和崎 春日 松田 素二 鈴木 裕之 佐々木 重洋 田渕 六郎 松本 尚之 上田 冨士子 三島 禎子 若林 チヒロ 田中 重好 嶋田 義仁
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

科研共同研究の最終年度にあたり、報告書に向けての総括的なまとめ討論をおこなった。とくに、日本における第1位人口をしめるナイジェリア人と第2位人口のガーナ人の生活動態については、この分野の熟成した研究を共同討論のなかから育てることができた。日本への来住ガーナ人のアフリカ-日本-アフリカという、今まであまり報告されていない新しい移民動態の理論化(若林ちひろ)や、日本に来住したナイジェリア人の大企業従業員になろうとするのではない、起業活動に向かう個人的・野心的なアントルプルヌーシップについての新規な理論化(川田薫)と、まったく情報のなかった、その日本における協力扶助と文化維持のアソシエーション活動の詳細な記述報告(松本尚之)、さらには、アフリカ-日本-アメリカという地球規模のネットワーク形成がナイジェリア人によってなされている動態を、アフリカ移民論のまったく新しい指摘として提示しえた。また、アフリカ人の芸能活動についても、ギニア、マリ、セネガルといった西アフリカ・グリオ音楽文化の「本場」とされる地域からの日本への来住アフリカ人の活動調査と、そのアフリカの母村での活動状況の調査の両方を行い、それをめぐる、やはり新規性に富む、日本ーアフリカ間の何層からもなる往来活動を抽出し、指摘・一般化することができた(鈴木裕之、菅野淑)。こうしたポジティブな活動側面のほかに、ネガティブなHIVをはじめとする病気の実情とそれにむけるホスト社会側からの協力の可能性についても重要な研究糸口を提案している(若林ちひろ)。1年後に『来住アフリカ人の相互扶助と日本人との共生に関する都市人類学的研究』と題して報告書を出版し、この共同研究の成果と今後の継続的発展について、アフリカ学会における集中発表でも熱い期待と高い評価を得た(2008年5月於・龍谷大学)。
著者
林 春男 田中 重好 卜蔵 建治 浅野 照雄 中山 隆弘 亀田 弘行
出版者
広島大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

広島地区(2124名)及び弘前地区(928名)で共通のフォーマットを用いた住民への意識調査を行い以下のような結論を得た。(1)今回の調査では人口109万人の広島市、17万人の弘前市、さらに純農村である青森県平賀町を調査対象とした。人口規模では大きな差異がみられる広島・弘前両市の住民の間には、今回の台風を契機とするライフライン災害に対する対応には差異がみられなかった。しかし、平賀町と市部との差異は顕著なものであり、少なくとも人口100規模までの都市では都市型災害の様相及び防災対策に共通性が存在しうる。(2)被災住民のがまんには3日間という物理的上限が存在すること。(3)復旧に関する情報の提供のまずさが被災住民にとって最も不満であった。住民が求める情報と提供される情報との間には大きなギャップが存在し、情報伝達手段もマスメディア主体となるために、一方的な情報提示に過ぎなかった。こうした事実をもとに被災地域内での情報フロー・システム構築の必要性が議論された。広島地区では中国電力をはじめとする各種行政機関及び指定公共機関を対象に台風9119号に対する危機対応についてヒヤリングを中心にして検討した。その結果、広島市の中央部が配電線の地中化事業が講師が完成していたために、他の地域とは違い停電期間がきわめて短く、広島市における「文明の島」として機能したことが明らかになった。こうした文明の島の存在によって、停電期間中であっても広島市民は「個人的生活」に関する不安は高かったものの、「社会的サービスの提供」に関する不安は低く、それが停電期間中に大きな社会的混乱がみられなかったことに貢献していることが議論された。