著者
森谷 敏夫
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.470-476, 2011-10-31 (Released:2014-11-11)
参考文献数
13

肥満は, 食べ過ぎ, 運動不足, 遺伝, 食事の偏り, 熱産生障害 (体温維持や食後のエネルギー燃焼低下), 自律神経機能の低下などが複雑にからみあった結果であると考えられます. ですから, 太る原因は人さまざまなのです. でも, この地球上の多くの人々は実際には飢餓と毎日戦っており, 「肥満」という文字は存在しないのです. 肥満が目立つのは機械文明が発達した国の飽食と運動不足社会だけといっても過言ではないでしょう. 日本も例外ではなく, 40歳以上の男性の二人に一人がメタボリックシンドローム (内臓脂肪症候群) に罹っている可能性が強く示唆されているのが現状です. 戦後の激変した食環境, 運動不足環境が生み出した産物であると理解したほうが妥当なのです. 肥満はほとんどすべての生活習慣病 (糖尿病, 高血圧, 脳・心臓血管系疾患など) の温床になっています. ただこれらの生活習慣病と関係が深い肥満症, 高血圧症, 高脂血症, 糖尿病などの「死の四重奏」は病魔への序曲を音もなく奏でるので, 病気が発生するまでほとんど「無自覚, 無痛」なのです. 運動不足を意図的に再現した7日間のベッドレスト実験で, 骨格筋の糖取り込み能力やインスリン作用の低下が劇的に起こることが証明されました. 世界でも最も健康管理ができているNASAの宇宙飛行士が, 2週間の無重力飛行で超運動不足を強いられて地球に帰還すれば, 糖尿病患者よりも血糖コントロールが悪くなっているのは容易に理解できるでしょう. 筋肉はわれわれの体の約4割を占め, 糖質・脂質エネルギーを最も多量に使う“臓器”なのです. この“臓器”筋肉の収縮はインスリンとは別の細胞内シグナル伝達機構を介して, 糖輸送を活性化できるので, インスリン抵抗性の存在下においても, 運動により糖輸送は通常正常に機能します. また, 運動により記憶などをつかさどる海馬での脳由来神経栄養因子が増加することが明らかにされており, 学習能や記憶力の増加, 認知症の予防, 自律神経活動や脳諸機能の保全のみならず, IGF-1, インスリン, GLP-1などのホルモンを仲介してエネルギー代謝や食欲調節にも大きく関与している可能性が示唆されています. 「生涯現役, 死ぬまで元気」に生きるためには, それなりの努力が当然必要になってくるでしょう. 一生涯の習慣的な運動の継続や賢い食生活が肥満や生活習慣病の予防や豊かな老後への免罪符になるのです.
著者
鈴木 賢英
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.414-420, 1976-12-10 (Released:2014-11-21)
参考文献数
31

ICR系の妊娠マウスに6mgのcyproterone acetate (CA) を妊娠14日から20日まで皮下注射し, 妊娠20日に帝王切開で仔マウスを取り出し, 雄仔マウスは去勢後他の母親に哺乳させた. これら去勢された雌性化雄マウスを出生当日から10日間ゴマ油のみを皮下注射する群 (第1群), 20μgのエストラジオール-17β (ED) を皮下注射する群 (第2群), そして50μgのEDを皮下注射する群 (第3群) に分けた. 各群の動物は60日令で殺し, 通常の方法でH-E染色して検鏡した. 組織学的観察の結果, 全ての雌性化雄マウスに腔形成が認められたが, 尿道と腔の分離は不完全であった. 第1群の動物の腔上皮は萎縮的な重層立方ないし扁平上皮であった. ところがED処理を行なった第2, 3群では腔上皮の増殖肥厚が見られ, 50μgのED処理を行なった第3群では15匹中2匹の腔前部から会陰の全域にわたって腔上皮が角質化していた. この第3群の残りの大部分の動物では, 腔全域にわたって上皮の著しい肥厚が見られ, 角質化は膣中部から会陰にかけての上皮に認められた. CAの母体投与で得られた雌性化雄マウスの腔は大部分が尿生殖洞由来と考えられているので, 本実験で雌性化雄マウスの膣中・後部で上皮に角質化が見られたことは尿生殖洞由来の細胞がエストロゲン非依存の腔上皮の角質化に関与する可能性が強いと推論された.
著者
小友 進
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.606-612, 1992
被引用文献数
1

ミノキシジルは血管拡張作用を有し, その作用は代謝物であるミノキシジルサルフェートのK<sup>+</sup>チャンネル開放作用にもとづくことが知られている. 一方, ミノキシジルは発毛効果も示し, その効果は臨床試験においても確認されているが, 作用メカニズムに関してはかならずしも完全に解明されているとはいい難い. ミノキシジルの動物実験での発毛効果は, サル・ラット・マウス等において発現し, この効果の一部には, 皮膚血管の拡張による血流増加が関与するものと考えられている. しかし, これ以外に毛包に対する直接作用があることが, <i>in vitro</i>の皮膚細胞や毛包の培養試験から明らかにされてきた. しかも, これにはミノキシジルから毛包スルホトランスフェラーゼによって変換されたミノキシジルサルフェートが関与し, さらに血管拡張作用と同じく, そのK<sup>+</sup>チャンネル開放作用が重要な役割を果たしていることが示唆されてきている.
著者
小尾 公美子 籠橋 麻紀 波田 野琢 藤島 健次 北田 徹 服部 信孝 大熊 泰之
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.68-72, 2010-02-28 (Released:2014-11-21)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

破傷風は先進国では稀な疾患となったが, ひとたび発症すると致死率が高い神経緊急疾患である. 当科ではこの9年間に7例の破傷風患者を経験したが, 本稿では中高年齢で発症し示唆に富んだ4例について報告した. 開口障害より嚥下障害が目立つと, 脳卒中と誤診されやすく注意を要する. 少しでも開口障害があれば外傷歴がなくとも破傷風を考慮し, 高齢者, 重症者では合併症も多いので, 十分な全身管理が必要であると考えられた.
著者
稲葉 裕 野尻 宗子
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.319-333, 2006-09-30 (Released:2014-11-12)
参考文献数
61
被引用文献数
1 1

アスベスト (石綿) は古くから人の生活と関係していたが, 建設資材や断熱材として急速に需要は増加した. 6種類の鉱物の総称であるが, 主なものは青・茶・白石綿の3つである. 石綿による健康障害は, 石綿肺, 肺癌そして胸膜・腹膜中皮腫である. 石綿と中皮腫の関連については1960年頃から鉱山労働者, 次いで断熱材製造・解体・修理業労働者などで認められ, さらに最近では労働者の家族, 工場周辺の住民など傍職業曝露へと拡大してきた. リスク比は傍職業曝露でも4.8-11.5とかなり高い. 職業性曝露でも診断されるまでの期間は通常30年以上であり, 使用禁止になってからも患者の発生は増加を続ける. 日本では1970年代から患者発生がみられ, 増加傾向がいちじるしい. しかし, その研究はまだ始まったばかりであり, 2006年の新制度の発足とともに疫学研究の充実が期待されている.
著者
豊田 一恵 谷本 光生 松本 昌和 合田 朋仁 堀越 哲 富野 康日己
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.387-394, 2011-08-31 (Released:2014-11-11)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

目的: オウギ (黄蓍;astragali radix) は, マメ科のギバナオウギ, ナイモウオウギの根から調製される生薬で, 血圧低下・利尿・肝保護・免疫増強・抗菌・強壮・鎮静作用などを有し, 種々の漢方薬に調合されている. 慢性腎不全患者において, オウギ投与により血清クレアチニン値の低下することが報告がされている. しかし, そのメカニズムは十分には解明されていない. また, 腎不全では, 酸化ストレスマーカーの一つである一酸化窒素合成酵素 (NOS) が腎組織で過剰発現しており, 腎不全の進展・増悪因子の一つとして知られている. 今回, 腎不全モデルである5/6腎摘ラットを用い, オウギ投与による腎機能ならびに腎組織におけるNOSの発現抑制効果について検討した. 方法: 8週齢で5/6腎摘出術を施行した雄性SDラットを, 12週齢から12週間 (1) オウギ10g/kg体重/日を混餌投与したオウギ投与群 (n=5), (2) 未治療群 (n=5) の2群に分け, (3) 非腎摘出群 (n=5) を対照とした. それぞれの群に対して, 尿中アルブミン/クレアチニン比 (ACR), 血清クレアチニン, 血中尿素窒素 (BUN), クレアチニンクリアランス (CCr), 尿中8-hydroxy-2'-deoxyguanosine (8-OHdG) を測定した. また, 24週齢で腎組織の糸球体硬化指数 (Sclerosis Index) をPAS染色により算出し, 血管内皮型NOS (eNOS), 誘導型NOS (iNOS) および酸化ストレスマーカーであるニトロチロシンの発現を腎免疫組織染色により検索した. 結果: CCrは, オウギ投与群で有意な改善が認められた (p<0.05). 血清クレアチニン, BUNは, オウギ投与群で未治療群と比較し低下傾向がみられた. しかし, ACRや尿中8-OHdGには有意な差はみられなかった. オウギ投与群の腎糸球体硬化指数 (Sclerosis Index) は, 未治療群に比べ有意な低下が認められた (p<0.0001). また, オウギ投与群におけるeNOS, iNOSおよびニトロチロシンの発現は, 未治療群に比べ有意な低下が認められた (p<0.0001). 結論: オウギは, 腎におけるNOS (eNOS, iNOS) およびニトロチロシンの発現抑制を伴って, 腎糸球体硬化病変の進展を抑制する可能性が示された.
著者
福田 哲也
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.128-132, 2006

2003年以降高校では新しい指導要領にもとづく教育がおこなわれており, 大学としても入学者のうけてきた教育内容を十分に意識した講義, 実習のくみたてを行わなければならない. 指導要領の改訂はほぼ定期的におこなわれているが, 今回のそれはかなり大幅なものであった. 大学設置基準の大綱化がおこなわれてからひさしいが, その波が高校教育にも及んだとも考えられるほど大きな改変であった. また, 本学の入試も一部にセンター入試をとりいれるなど従前よりは複雑になった. そんななかで受け入れた学生の教育を最初に受け持つのは主として一般教育の担当者であるから, 入学者の間の学力のアンバランスを解消するための努力もおこなわなければならない.
著者
木所 昭夫
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.302-312, 2001-12-25
参考文献数
7
被引用文献数
2

わが国の救急医療の歴史は1931年日本赤十字社大阪支部で救急業務を開始したことに始まる.そして1933年ごろから大都市圏の警察組織のなかで救急業務が行われるようになった.1948年消防組織法が制定され,以降,救急業務は自治省(現在総務省)消防庁の指揮下で行われている.厚生省は1964年の救急医療機関告示制度を発足させ救急医療機関の整備を行った.1977年には全国の医療機関を機能別に初期・一次・三次救急医療機関に分類し,体系化した医療体制を発足させた.2000年4月現在,救急病院として4,315施設,救急診療所として783施設の合計5,098施設が救急医療施設として登録されており,三次救命救急センターは全国に157施設が設置されている.2000年4月現在,全国市町村の98%の市町村で救急業務が行われており,全国民の99.8%がカバーされており,昨年の統計では全国民の33人に1人が救急隊により搬送されていることになる.しかし,心肺停止状態の患者の救命率は欧米に比べ低く,米国のパラメディックに習って日本でも1991年から救命救急士制度が発足し,救命救急士は心肺停止状態の患者に対して,食道内挿管による気道確保・半自動式除細動器を用いた除細動・静脈路確保のための輸液を行うことが可能となった.しかし,救命率は当初考えられたほど上昇せず,そのためBystanderによる救命手当ての実施とメディカルコントロールの重要性が指摘されている.大学レベルでの救急医療は1967年大阪大学医学部附属病院に特殊救急部が創設されたのが始まりである.私立大学では1974年,川崎医科大学に救急部が1977年日本医科大学に救命救急センターが開設された.<救急医学講座>は1977年川崎医科大学が,1978年日本医科大学が,1986年大阪大学に開設された.以降2001年4月現在,43国立大学に22救急医学講座・20救急部,8公立大学中,3救急医学講座・4救急部・救命救急センター,29私立大学中,18救急医学講座・15救急部・救命救急センターが設置されている.救急医学に関係する学会としては1973年に創立された『日本救急医学会』,1998年に設立された『日本臨床救急医学会』を中心として,日本外傷学会・日本熱傷学会・日本労災学会・日本小児救急医学会など数多くの学会が組織されている.今後,<救急医療>では,小児科救急・精神科救急・外国人救急・ホームレス救急など解決しなければならない問題が山積しており,周知を集め解決を図らなければならないと考える.
著者
鈴木 宏昌
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.520-528, 2010-12-31 (Released:2014-11-21)
参考文献数
54

かつて働き盛りの過労死の死因に急性心筋梗塞が多かったように, ストレスと循環器疾患, 特に虚血性心疾患発症との関連性は大きい. 最近, 心筋梗塞に酷似しているが似て非なるストレス性心疾患が新たにわかった. 家族の突然死や事故遭遇など予期せぬ出来事がストレスとなり, 突如胸痛や息切れを生じ, ST上昇や深い陰性T波, 心筋逸脱酵素上昇を認め, 急性心筋梗塞の疑いで心臓カテーテル検査を行うが冠状動脈は正常で, 左室心尖部が瘤状拡大し, 心基部は過収縮しばしば駆出路狭窄を生じる. 冠状動脈の支配領域に一致しない収縮障害で, 多くは1週間程度で自然回復する. 心筋逸脱酵素上昇は心筋梗塞に比べ軽度である. 本疾患は日本で初めて認識され, 急性期の左室収縮末期像が古来蛸漁で使われた蛸壺の形状に似ており「たこつぼ心筋症」と命名された. 多くが情動ストレスで生じることや閉経期以降の中高年女性に好発することが特徴である. 2004年の新潟中越大地震では震災直後に急増しそのほとんどが女性であった. 予後はおおむね良好であるが, なかには低血圧や心原性ショックを併発する. 気管支喘息重積発作, 肺炎, 重症筋無力症クリーゼ, てんかん発作, 人工透析中や気管内挿管後, 外科周術期など非心臓疾患や侵襲的検査, 治療などの様々な身体的ストレスでも発症する. 原因不明だが, 交感神経系亢進やカテコラミン過分泌の関与が疑われている. まれな疾患とはいえ, 幅広い医療領域で遭遇する可能性があり, まずは本疾患の存在を広く周知することが大切である.
著者
大嶋 弘子 内藤 俊夫 久木野 純子 福田 友紀子 坂本 直治 三橋 和則 武田 直人 奥村 徹 礒沼 弘 渡邉 一功 林田 康男
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.167-173, 2005-06-30
参考文献数
18
被引用文献数
1

目的:特定の診療科を決めかねる病態として不明熱がある.順天堂大学医学部附属順天堂医院総合診療科を初診し入院を要した不明熱患者215症例について,今後の診断の参考とするためその特徴を解析し検討した.対象および方法:1994年10月から2004年8月までに当科を初診し,入院治療が必要となった成人の原因不明の発熱患者215名について検討した.対象患者の発熱の原因を疾患別に分類し検討した.また,65歳以上の高齢者と65歳未満の非高齢者での原因疾患について比較を行った.結果:原因疾患として,感染症が102名(47.4%),非感染性炎症性疾患が40名(18.6%),悪性疾患が14名(6.5%),その他の疾患が21名(9.8%),原因不明が38名(17.7%)であった.頻度の高かった伝染性単核球症・髄膜炎・深部膿瘍・感染性心内膜炎の中で,初診時の平均年齢は深部膿瘍で有意に高く,平均体温は伝染性単核症で有意に低かった.65歳以上の高齢者では65歳未満の患者に比較し,感染症を原因とする不明熱の割合が低く,原因不明の症例が多かった.85歳以上の超高齢者も7名含まれた.考察:不明熱の原因の約半数は感染症であった.特に,伝染性単核球症・感染性心内膜炎・深部膿瘍・髄膜炎の頻度が高く注意が必要である.HIV関連不明熱・麻疹・風疹の患者も比較的多く認められた.悪性腫瘍は多岐に渡ったが,画像検査の普及や進歩のため不明熱の原因となることは少なくなっており,過去の報告に比べ割合が低下していた.7症例は診断確定までに60日以上を要しており,周期的な発熱のみを症状とし,診断の手掛かりが得られ難かった症例であった.この中で死亡後に病理解剖により原疾患が判明した患者が2名おり,共に悪性リンパ腫と診断された.不明熱患者の診断には,感染症を中心とした多疾患にわたる知識が必要であると考えられた.
著者
秋元 洗二
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.T8, no.553, pp.87-114, 1919-01-01 (Released:2015-06-12)