著者
鈴木 賢英
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.81-91, 1977-03-10 (Released:2014-11-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2 3

ICR系マウスを用いて, 妊娠14日から20日まで6mgのcyproterone acetate (CA) および溶媒のみを妊娠マウスに注射し, 経時的に殺して雄胎仔の生殖路を組織学的に調べた. その結果, 雌胎仔およびCA投与群の雌性化雄胎仔の腟原基は妊娠16日から18日の間に出現し, その頭側部は前立腺小室に相当するミュラー管由来の腟原基で, 尾側部は尿生殖洞に由来する細胞索 (腟板) であった. この雌性化雄仔の腔原基は, 雌のそれに比べてミュラー管由来の部分が短い点を除けば質的に同様と考えられる. 雌性化雄胎仔での腟板形成は雌胎仔と同様に尿生殖洞背側壁から1対の細胞索として生じ, 妊娠18日でその基部が融合し, 妊娠19日で雌新生仔と同様な尿道から隔離された1つの腟板を形成した. 次に雌性化雄マウスの腔原基形成および雄性性腺付属腺の分化と発達に対するCAの影響を調べるために, 妊娠14日から20日まで, 1mg, 3mg, 6rngのCAおよび溶媒を妊娠マウスに皮下注射し, 妊娠20日に開腹して雄胎仔を取り出し, その生殖器管を調べた. CA投与群の雄の腟原基形成において最も強く影響を受けるのは腟板形成であって, 6mg投与群では腟板の形態は雌とほとんど同様であり, 3mg投与群ではその発達は抑制され, 1mg投与群では雌胎仔またはCA6mg投与群の妊娠18日の胎仔に見られる程度の腟板形成しか起こらなかった. さらに雄性性腺付属腺の発達の抑制 (脱雄性化) もCAの濃度と相関しており, 中でも脱雄性化の程度が著しかったのは尿生殖洞由来の器官で, 尿生球腺・凝固腺・前立腺の順にその発達が抑制された. これに対してウォルフ管由来の精管および精のうはほとんど抑制されなかった. これらのことからアンドロゲンと腔原基形成および雄性生殖路の分化と発達との関係を考察した.

1 0 0 0 OA うつ病の症状

著者
井原 裕
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.378-385, 2005-09-30 (Released:2014-11-12)
参考文献数
5

うつ病には, わかりやすい症状とわかりにくい症状とがある. ほとんどの症状は, わかりやすい. 気が滅入る, 悲しい, あとに引きずる, 決断ができない, 興昧が湧かないなどである. このような症状を呈すると, 「申し訳ない」「生きていても仕方ない」といった厭世的な思いに陥りがちである. また, 眠れない, 食べられない, 夜「その気」になれない, 「月のもの」が不規則になるなどの症状も出やすい. 一方で, わかりにくい症状もある. 頭痛・耳鳴り・めまい・下痢と便秘の繰り返しなどである. うつ病のなかには, これらのような身体の症状だけを呈する場合もあり, 内科疾患と紛らわしい. 感情面での問題が身体症状によってマスクされているタイプの場合, 不快な出来事に対する情緒的な反応を抑制しすぎるため, 鬱積した感情のはけ口がなく, 身体的な症状として出てしまう場合が多い. うつ病の回復は, 焦燥, 憂うつ, 意欲の順に回復していく. 職場不適応によるうつ病の場合, 発病のきっかけとして仕事と本人の個性とのミスマッチがある場合が多い. したがって, 復職前に労務上の配慮が与えられることが望ましい. 自殺は, うつ病の症状としてもっとも警戒すべきものである. 自殺念慮には周期性があり, あとから考えて「なんて馬鹿なことを」と思えるときがかならず来る. そのときまで, 何とか全力で自殺をくい止めることである. うつ病は, 自殺さえなければ, 「死に至る病」ではない. 憂うつ自体は病的なものではなく, 正常な情緒的反応であり, うつ病も, その人の人生にとって重要な意義をもつ場合もある.
著者
鷲崎 誠
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.52-62, 1980

第1編で改良を加えた恒圧型体プレチスモグラフの構造および本装置による気道抵抗 (Raw) の正常値について報告したが, 本編ではひきつづき気道抵抵におよぼす喫煙の慢性, および急性効果, β-blockerの使用効果, 喘息タバコの効果について検討し, 以下の成績を得た.1. 健常者52例について気道抵抗および特種気道コンダクタンス (SGaw) を測定したが, 軽度喫煙者群と非喫煙者群との間に有意差を認めなかった. すなわち軽度以下の喫煙の慢性効果は, Raw, SGawの異常をもたらす程のものではないとの結果を得た.2. 喫煙直後のRawおよびSGawの変化は, フィルターの有無により明らかな差を示した. すなわちフィルター付セブンスターでは喫煙前後の変化は認められなかったが, 両切りピースでは喫煙直後Rawは上昇し, SGawは低下した. フィルターは喫煙による気道閉塞現象の防止に役立つと解される.3. β-blockerの事前投与はPlacebo投与に比し, 喫煙直後のRawとSGawの変化を増幅する. すなわち喫煙による気道閉塞現象はβ-blockerたより助長された.4. 喘息煙草「葯烟」を気管支喘息患者に喫煙させ, その前後でRawとSGawを測定すると, 明らかに改善を認めた. 成分中のAtropine, Scopolamineの効果と解される.
著者
高木 正稔
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.167-179, 1998-09-28 (Released:2014-11-18)
参考文献数
37

目的: 毛細血管拡張性運動失調症Ataxia Telangiectasia (AT) は神経変性・免疫不全を主徴とする遺伝性疾患である. また高率に白血病・悪性リンパ腫など悪性腫瘍を合併することが知られている. ATにおける高発癌性の分子生物学的機構を明らかにするため, DNA損傷による細胞周期調節機構・アポトーシス誘導機構について検討を行った. 対象: 正常人, ATM (ATmutatedgene) 遺伝子にホモの変異をもつ患者 (2例), およびヘテロの変異をもつ保因者 (2例) よりEpstein-Barrウイルス (EBV) を用いて細胞株を樹立し, 比較検討を行った. 方法: 放射線照射・H202・C2-ceramideによるアポトーシス誘導能をPropidium iodide (PI) 染色によるsubdiploid集団を指標としてflow cytometryにより評価した. 細胞周期調節機構はflow cytometryを用い, PI染色によるDNA核量から評価した. アポトーシスおよび細胞周期関連蛋白をウエスタンブロット法を用い, Stress activated proteinkinase/jun kinase (SAPK/JNK) 活性をin vitro kinase assayを用いて検討した. 放射線感受性をclonogenicassayにより検討し, アポトーシス誘導能と比較した. 成績: AT細胞株は放射線照射によるp53の蓄積およびそれに伴うp21Cip1/WAF1転写の活性化が障害されていた. これらの障害はG1/S期での細胞周期調節機構の障害を伴っていた. またmitotic/spindle (M/S) チェックポイントも障害されていた. AT細胞株は放射線高感受性を示すにも関わらず, 急性のアポトーシスに対しては抵抗性であった. 結論: AT細胞株は放射線による急性のアポトーシスに耐性である一方でclonogenic cell survival活性が低い特徴を有していることが明らかになった. またG1/SおよびM/Sチェックポイントが障害されていた. 今後ATの患者において変異しているATM蛋白の働きを明らかにするため, これらの細胞生物学的特徴の分子生物学/生化学的な基盤に関する検討が必要と考えられた.

1 0 0 0 OA 低血圧症

著者
村上 正中
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.266-267, 1966-10-10 (Released:2014-11-22)
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.22, no.50, pp.87-88, 1889
著者
上原 由紀
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.102-106, 2009-06-30 (Released:2014-11-11)
参考文献数
4

何らかの病原微生物による感染性腸炎は日常診療でよく遭遇する疾患である. このなかには食中毒も含まれています. 季節により起因微生物は異なり, 冬期はウイルス, 夏期は細菌が主体となります. 診断には十分な病歴聴取が必要で, 摂取した食物, 潜伏期間, 臨床症状および基礎疾患などから起因微生物を推定して治療方針を決定します. 便培養や寄生虫検査は診断および公衆衛生的側面からも必要です. 治療では抗菌薬を必要としないものが多く, 水分, 糖分, 塩分を不足する分だけ補うことが大切です. 食中毒を疑った場合は食品衛生法に従い保健所に届出を行います. 起因微生物の種類によっては感染症法に基づいた届出が必要なものもあります.
著者
大日方 薫
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.353-356, 2001-01-20 (Released:2014-11-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

ヒトパルボウイルス (HPV) -B19感染に伴ってループス様症状を呈し, 低補体血症や自己抗体産生など免疫学的検査異常を認めた2例を経験した. 症例1は35歳の女性. 発熱・多関節炎・レイノー症状, 体幹の発疹および顔面の蝶形紅斑があり, リンパ球減少・低補体血症・抗核抗体陽性を認めたため, SLEと診断された. 同時期に6歳の長女が伝染性紅斑に罹患したことからHPV-B19抗体を測定したところ, 母子ともにIgM抗体が上昇しており, HPV-B19特異的PCRによるゲノムDNAの検出が陽性であった. 症例2は13歳の女児. 顔面・四肢の紅斑, 多関節痛があり, リンパ球減少・血沈亢進・低補体血症・抗核抗体陽性を認め, SLEと診断された. 同胞2名が伝染性紅斑に罹患したことから, 患児のHPV抗体の検索を行ったところ, IgM抗体を検出した. これら2症例のループス様症状は短期間に消失し, 検査値も数ヵ月以内に正常となった. HPV-B19感染により自己免疫反応が誘導され, 一過性にループス様症状を呈した可能性が考えられた.
著者
宮腰 由紀子 西田 美佐 塩原 正一
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.51-63, 1999

目的: 次代の子供の健康を担う母親の食品添加物等への意識と, 食品表示の確認行動の妊娠期と育児期の比較から, 母親に向けた食品選択に関する効果的な保健指導を検討するための資料を得ることを目的とした.対象: 妊娠期間中の調査 (以下『妊娠期』と略) の回答者で, 育児期間中の調査 (以下『育児期』と略) へ回答した366人中の, 妊娠期調査時点の胎児を第1子として出産した母親327人を, 今回の解析の対象とした.方法: 食品添加物関連17項目を含む39項目から成る質問紙を, 妊娠期は手渡し, 育児期は郵送で配付した. 回収は両時期とも郵送とした.集計・分析は統計パッケージSPSSにより, 同一人物の妊娠期と育児期のデータを用いて, 両時期間の食品添加物に対する意識と行動と各項目との相関関係・因子分析 (バリマックス回転を行った最尤法) の結果を比較した. そして共分散構造分析により, 育児期の食品添加物等『表示の確認』行動に対する主要項目の影響関係を把握した.結果: 全項目において妊娠期と育児期の回答間には強い相関関係が認められ, 妊娠期の意識や行動の傾向が育児期に反映することが確認された. 9割の人が「食品添加物のことを詳しく知りたい」と関心が高いが, 食品添加物を『気にする』『表示の確認』をする人は5割に留まった. 意識・行動項目の因子分析から両時期とも第一因子『購入品』を得たが, 第二・三因子は時期による相違が見られた. 育児期の『表示の確認』は妊娠期よりやや減少しており, 育児期の『表示の確認』に対する項目間の関係構造は, 『表示の確認』が『気にする』から強い影響を受けていた. 一方, 『気にする』は「食品添加物について詳しく知りたい」からの影響を受けていた.考察: 食品添加物等の表示を確認する行動を促進するには, 食品添加物に関する正しい知識を母親が持つことにより, 母親が食品添加物を気にする意識が強化されることが, 大切なポイントであることが明らかになったと考える.
著者
宮澤 隆仁 宮岡 誠 佐藤 潔
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.124-128, 1995

右中頭蓋窩底部より発生, 右側頭葉に埋没するように発育し, CT上神経膠腫との鑑別が困難であった46歳男性の脳内神経鞘腫の一症例を報告する. 術中所見より本腫瘍は中頭蓋窩底部硬膜内三叉神経硬膜枝より発生したと考えられた. 脳神経との関係をもたない脳内神経鞘腫15例について文献的考察を加える.
著者
市来 伸廣
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.599-612, 1998-03-30
参考文献数
32

目的: スポーツ心は運動負荷による生理的心拡大と理解されているが, 非可逆的心筋病変を発生して, 心筋症的病像を呈するものも経験される. その場合の心筋構築の変化を病理組織学的に検討する.対象と方法: スポーツ選手18例を対象として, 肥大型心筋症12・高血圧性肥大心12・正常血圧心8例の対照3群と臨床検査所見, および心筋生検組織像を比較した.結果: スポーツ選手では, 心電図上全例にT波異常 (うち巨大陰性T波8例) を認め, 心室性期外収縮2・高電位13・異常Q波4例;左室造影では心尖部肥大8 (競輪6 陸上1 ボクシング1), びまん性肥大5・流出路中間部肥大1例で, 左室駆出率60%以下6例であった. その生検所見では心筋細胞横径;右室で18μ・左室で22μ, 配列偏位面積;45%であった. この配列偏位は肥大型心筋症群には及ばず, 高血圧性肥大心・正常血圧心群よりも大で, 高年齢で選手歴の長い症例に高い傾向を示した. 線維症面積は正常血圧心と同程度で, 肥大型心筋症・高血圧性肥大心群より小であった.総括: スポーツ選手の心筋にみられる心筋細胞配列偏位は, 血行力学的負荷に対する構造上の改築の初期像であり, 負荷強度が大かつ長期間に及ぶと, 一部は非可逆的配列の乱れを生じ, 心尖部肥大型心筋症に進展することがある.

1 0 0 0 OA 佐藤進伝 (3)

著者
小川 鼎三
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.361-367, 1974-09-10 (Released:2014-11-22)
著者
丸井 英二
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.13-19, 2002

医師国家試験の根拠は医師法第9条『医師国家試験は, 臨床上必要な医学および公衆衛生に関して, 医師として具有すべき知識および技能について, これを行なう』にある. すなわち, 基礎医学や臨床医学を含む《医学》という言葉と対置されて《公衆衛生》がある.よい医師の必要条件は, 正しく必要な医学知識をもち, 十分な医療の技術をもつ, さらに医療の技術だけではなく良い態度で患者さんやスタッフに接することができることにある. 知識・技術・態度という習得した成果を適用する場面を考えると, それは必ずしも医療機関には限らない. かかわる対象は病める個人に限らない. そこに《公衆衛生》の役割がある.生物学的問題としては同一であっても, 社会によってその意味は異なる, というのが社会医学の考え方である. 個人の健康を医療が担当するとすれば, 社会に生活する人々の集団の健康を担当するのが《公衆衛生》である. 社会を健全に動かすために, さまざまな領域に働きかけ, 人材や予算を活用・動員して, 結果として人々の健康を改善し, 健康の増進をする.公衆衛生学は〈疫学〉と〈人類学・社会学〉と〈政治経済学〉の良いミックスである. 健康についての量的把握と, 文化と人についての質的理解, 世の中の動きと人間関係を掌握する. それが人々の健康を考え, 研究し, 対策を実践していくための出発点である. このミックスを消化しておくことは, よい医師であるための必要な条件でもあろう.
著者
宍戸 立三
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.T8, no.556, pp.335-343, 1919-11-05 (Released:2015-06-12)
著者
荒井 稔
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.455-458, 2004-01-30 (Released:2014-11-12)

睡眠障害と抑うつ症状の有病率は, 低く見積もっても人口の1割から3割であり, 私たちの生活の質に強く影響を及ぼすことは述べるまでもない. 現在の経済状況, 社会状況は高い負担を個人に強いているので, このストレッサーに対して適正に対応し, 睡眠障害や抑うつ症状の出現を予防し, 仮に出現した場合にはどのような対応が適正か, 精神医学的知見を加えて述べた.
著者
小澤 慶三郎
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.T6, no.540, pp.962-978, 1917-12-01 (Released:2015-06-13)
著者
三浦 浩二 修 岩 鶴井 博理 高橋 和子 張 丹青 広瀬 幸子
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.384-395, 2002-12-12
参考文献数
32

目的:リンパ濾胞胚中心はT細胞依存性抗原の刺激に際し,抗体の親和性成熟やメモリーB細胞の形成・維持に働く重要な部位である.全身性エリテマトーデス(SLE)の各種自己抗体もT細胞依存性に親和性成熟を示すので,リンパ濾胞胚中心が病的自己抗体産生に重要な役割を担っていると考えられる.この観点からわれわれは,SLEを自然発症する(NZB×NZW)F1マウスとBXSBマウスの脾臓リンパ濾胞胚中心の免疫組織化学的特徴を解析した.方法:加齢に伴い自己抗体を産生するSLE自然発症(NZB×NZW)F1マウスとBXSBマウスの脾臓リンパ濾胞胚中心を免疫組織化学的に解析し,正常マウス系にT細胞依存性抗原を免疫した時に形成されるリンパ濾胞胚中心の構築との比較検討を行った.結果:(1)SLEマウスでは,SLE発症前から既に胚中心の形成が見られ,加齢に伴って高度な過形成が認められた.(2)正常マウスにT細胞依存性抗原を免疫した時に形成されるリンパ濾胞胚中心と比較すると,SLE胚中心にはT細胞が相対的に多く認められた.(3)正常BALB/cマウスの濾胞樹状細胞には補体レセプターCR1やFcレセプターFcγRIIBおよびリンパ濾胞胚中心抗原FDC-M2の発現が見られたが,SLEマウスではFcγRIIBとFDC-M2の発現は加齢とともに消失することが明らかとなった.結論:SLEの過形成胚中心の成因には,濾胞樹状細胞上の免疫機能分子の統御異常が関連していると考えられた.CR1は濾胞樹状細胞とB細胞との接着やB細胞の維持に重要な分子である.一方,FcγRIIBは細胞質内ドメインにシグナル抑制ITIMモチーフを持つ分子なので,正常では濾胞樹状細胞の機能の制御に働いている可能性がある.現在機能が明らかでないFDC-M2を含め,今後.これら各分子の働きや相互作用を調べることでSLEの発症機構の一端が明らかになると思われる.