著者
水野 美邦
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.455-469, 1990-02-20 (Released:2014-11-20)
参考文献数
47

パーキンソン病は原因不明の神経変性疾患の一つであるが, 最近パーキンソン病にきわめて類似したモデルが作成できるようになった. その物質はMPTP (1-methyl-4-phenyl-1, 2, 3, 6-tetrahydropyridine) である. この物質は脳に取り込まれるとおもにグリア細胞の中のモノァミン酸化酵素Bで酸化されてMPP+ (1-methyl-4-phenylpyridinium ion) になる. MPP+はドーパミン取り込み部位から濃度勾配にさからって線条体ドーパミンニュー「ロン終末に取り込まれ, 高濃度に蓄積し, 選択的な黒質線条体ドーパミンニューロンの変性を起こす. われわれはMPP+がミトコンドリアのComplex Iおよびα-ケトグルタル酸脱水素酵素を阻害することを見つけ, 神経細胞変性の機序は, ミトコンドリア呼吸の障害によるenergy crisisと考えられるに至っている. MPTPモデルでの成績を踏まえ, われわれはパーキンソン病の発症機序にもミトコンドリア異常の関与があるのではないかと考え, パーキンソン病剖検脳よりミトコンドリア分画を抽出し, 電子伝達系酵素蛋白複合体活性の測定およびサブユニット分析を行ったところ, 活性はComplex IIIがパーキンソン病にて有意に低下していたが, サブユニット分析ではComplex Iの4つのサブユニットがパーキンソン病で低下していた. これらの所見は今後パーキンソン病の発症機序を研究する上で重要な所見と考えられる.
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.M27, no.171, pp.134-147, 1894-02-15 (Released:2015-06-17)
被引用文献数
1 1
著者
藤森 正登
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.34-38, 2000-06-26 (Released:2014-11-21)
参考文献数
2

花粉症の主要症状は, 発作性反復性のくしゃみ・鼻水・鼻づまりです. この他に眼・鼻・のどの痒み, 喘息様の発作を伴うこともあります. これらのアレルギー反応は, 本来異物が身体に入るのを防ぐための防衛システムです. けれどもこの防御反応の起こり方には個人差があります. 何の反応も出ない人もいれば, 反応が過敏になり, くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの症状が過剰に出現して生活に支障を来たす人もいます. 花粉症の予防は花粉を回避することにあると考えられます. 日常生活では次のような点に気をつけてはいかがでしょうか. 風の強い日の外出を避ける. 帰宅後は, 洗顔やうがいをしたり, 鼻をかむ. 鼻の洗浄は鼻粘膜の剥離や損傷を招くので, あまりおすすめできません. 外出時には, マスク・帽子・めがねカバーやゴーグルなどを着用する. ごく一般的なガーゼマスクで十分花粉を防御でき, 少ししめらせてあげることでその効果がさらに大きくなります. 花粉が付着しにくい衣類. 外出から帰ったときには花粉がついているので, 玄関で衣服をよくはたいたり外で干した布団や洗濯物には, 取り込む前にはよく払うことがいわれていますが, これは生地によりけりです. 化繊や化繊と木綿の合繊布地は24時間屋上に干しても花粉の付着がなく, 毛織物でも付着数はごくわずかなので, ほとんどの洗濯物の場合は通常通りの干し方でかまわないと思われます. 布団を干す場合ならば表面に布を1枚かける程度で良いと思われます. 帰宅時には花粉を家に持ち込まないようにする. 外出には化繊のコートの効果が期待されますが, 帰宅時に衣類をはたくとこれにより花粉を吸入して症状を引き起こす可能性がありますので, そのまま玄関にかけておく程度で十分と思われます. 窓や戸をしっかり閉める. 室内の清掃などの, 日常一般的な対策をまずとりましょう.
著者
内藤 久士 小林 裕幸 内田 桂吉 大森 大二郎 千葉 百子 山倉 文幸 米田 継武
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.203-210, 2000-10-25 (Released:2014-11-12)
参考文献数
28
被引用文献数
2

目的: 老化および持久的トレーニングがラット骨格筋の熱ショックタンパク質 (HSP72) の発現に及ぼす影響を遅筋および速筋に分けて検討することであった. 対象および方法: 若齢 (12週齢) および老齢 (100週齢) のF344雌ラットが年齢群ごとに, コントロール群および運動群の2群に分けられた (各群n=6). 両年齢群のトレーニング群は, トレッドミル上での持久的ランニングを75-80%Vo2maxの強度で1日60分, 週5日の頻度で10週間にわたって行われた. トレーニング期間終了72時間後, ヒラメ筋 (遅筋) および長指伸筋 (速筋) が摘出され, ウェスタンブロット法により, HSP72が定量された. 結果: コントロール群のHSP72の発現量は, ヒラメ筋の若齢群95±5ng・老齢群100±6ngおよび長指伸筋の若齢群22±2ng・老齢群20±5ngであり, 各筋とも年齢による差が見られなかった (P>0.05). 一方, トレーニング群のHSP72の発現量は, ヒラメ筋の若齢群116±3ng・老齢群116±4ngおよび長指伸筋の若齢群66±2ng・老齢群43±6ngで, 各筋ともに同年齢のコントロール群よりも有意に (P<0.05) 高い値を示した. しかしながら, その増加率は, ヒラメ筋 (若齢群+22%・老齢群+15%) と長指伸筋 (若齢群+200%: 老齢群+115%) では異なるものであった. 結論: 持久的トレーニングは, 骨格筋のHSP72の発現を増加させるが, 老化は速筋 (長指伸筋) において, その応答性を低下させる.
著者
新城 邦裕 石井 (堤) 裕子 長岡 功 梶山 美明 鶴丸 昌彦
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.494-501, 2009-12-31 (Released:2014-11-21)
参考文献数
32

目的: 食道癌はいまだに予後不良の疾患である. 肉眼的・病理組織学的に癌遺残がない根治手術例に再発・転移が起きたり, 同一病期症例で予後に差異が認められることもあり, これらの原因のひとつとして微量癌細胞の存在が示唆されている. 今回われわれはCEA mRNAをターゲットとしたリアルタイムRT-PCR法を用いて食道癌患者における骨髄微量癌細胞の検出・解析を行い, その臨床的意義について考察を行った. 対象: 対象は当科において2003年3月から2004年4月までにリンパ節郭清を伴う食道癌切除術を施行した65例である. 術後の観察期間は82-564日間 (中央値316.6日間) であった. 方法: 手術開始直後の開胸時に肋骨から骨髄を採取し, 精製してtotal RNAを抽出した. CEAmRNAの陽性コントロールにTE-9を用い, そのtotal RNAを使ってリアルタイムRT-PCRを行い検量線を作成した. それをもとに骨髄検体中のCEA mRNA量を内部標準のGAPDH mRNAの比から補正し求めた. 定量PCRは2回行い再現性を確認し, さらにPCR産物を電気泳動し疑陽性を排除した. 結果: 65例中14例 (21.5%) が骨髄検体中CEA mRNA陽性であった. 陽性群と陰性群を背景因子および病理組織学的因子から比較したが有意差はなかった. 両群の生存曲線を求めたところ, 陽性群は有意に予後が悪かった (p=0.0369). また予後因子を判断するために多変量解析を行ったところ, CEA mRNAの検出 (p=0.031) とリンパ節転移の個数 (p=0.004) が選択された. CEAmRNA陽性となる危険因子についてロジスティック回帰分析を用いて解析したが, 各因子において全て有意ではなかった. 結論: 食道癌骨髄中微量癌細胞の有無は従来の臨床病理学的予後因子とは独立した, 新たな予後予測因子である可能性が示された.
著者
笠井 美里
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.24-28, 2010-02-28 (Released:2014-11-21)
参考文献数
16

耳鼻咽喉科の開業医が見ている小児患者は平均で30%, 多い施設では50%です. 免疫獲得中の小児には感染性の耳疾患・鼻疾患・上気道炎が頻発します. 小児耳鼻咽喉科領域で近年問題になっていることは耐性菌による急性中耳炎の増加・滲出性中耳炎の増加と遷延化アレルギー性鼻炎の増加と低年齢化, 睡眠時無呼吸症候群の増加などが挙げられます. 一方, 小児耳鼻咽喉科領域の治療の進歩としては内視鏡手術の進歩による気道異物や鼻副鼻腔手術の技術向上, 人工内耳の進歩, 難聴遺伝子の解明などが挙げられます. 少子化の傾向は進んでおりますが, 周産期医学の進歩により以前は致死的であった病態も救命できるようになりました. 小児の成長に際し重要な意味を持つ聴覚や呼吸機能に障害をもつ小児の増加が予想されます. 本項では耳鼻咽喉科を受診する患児に多い疾患の診断と治療, 最近の知見について述べます.

1 0 0 0 OA 粘液水腫

著者
石原 明夫
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.32-35, 1970-04-10 (Released:2014-11-22)
参考文献数
5
著者
藪田 敬次郎
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.193-207, 1997-09-16 (Released:2014-11-18)
参考文献数
36

昭和34年, 東大小児科に入局し, 小児科医となって以来38年が経過したが, その間一貫して小児の電解質異常の研究と臨床にたずさわってきた. 様々な症例とめぐりあい, またいろいろな研究を行ってきたが, そのなかからとくに印象に残っている5つのトピックスを選び紹介した. (1) 高張性脱水症とその輸液療法, (2) コレラの輸液療法, (3) Bartter症候群, 本邦第一例の報告, (4) 先天性クロール下痢症, 本邦第一例の報告, (5) 溶血性尿毒症症候群 (HUS症候群) である. (1) と (2) は電解質異常の治療としての輸液療法に関するトピックスである. (1) では小児脱水症の標準的な輸液方式として全国に広く普及している東大小児科方式について述べた. (2) ではフィリッピン・マニラでのコレラの輸液の経験について述べた. (3) (4) はそれぞれ本邦第一例として報告した症例を中心に, その症候群, 疾患の病態生理と診断について述べた. 2疾患とも最近その責任遺伝子が発見されたので診断が容易となった. (5) は昨年大流行したO-157などによる溶血性尿毒症症候群について, 自験例を中心にその電解質異常の診断と治療の要点を述べた.
著者
順天堂医院禁煙推進委員会
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 = Juntendo medical journal (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.403-412, 2011-08-31

平成15年に受動喫煙対策を定めた健康増進法が施行され, 喫煙関連疾患に対する認識や禁煙の必要性は社会全体に急速に拡がった. このような社会的背景を受け, 順天堂医院では, 平成18年1月に禁煙推進委員会が発足した. 同委員会は, 診療科, 看護部, 病院や大学事務職員, などの多職種の委員から構成され, 病院・医学部を含む本郷キャンパス敷地内を全面禁煙として質の高い医療を提供する環境を整備するとともに, 喫煙による健康被害を啓発し禁煙支援を推進することを使命として活動を開始した. 敷地内禁煙の広報, 客待ちタクシーの禁煙化, 敷地内および周辺の禁煙パトロールや禁煙支援ニュースの発行による啓発活動, 教職員の喫煙に対する意識調査, 周辺町内会・文京区との連携による路上喫煙禁止地区への指定, などに取り組んだ. 本報告では, 発足からの5年間に取り組んできた様々な試みとその成果について, 今後の展望も含めて報告する.
著者
川原 敏靖
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.314-320, 2010-08-31 (Released:2014-11-21)
参考文献数
24

免疫抑制剤の進歩により移植医療は世界に普及し, その成績は飛躍的に向上した. その発展に伴い, 次に問題になるのは免疫抑制剤の非特異的な免疫抑制による感染, 発癌, そして薬剤そのものの副作用である. したがって, 免疫抑制剤投与なしに移植臓器が生着し, さらに感染などに対しての通常の免疫機構が保たれている状態「免疫寛容」の誘導が移植後免疫抑制の最終目標である. 免疫寛容誘導の方法として, 骨髄移植によって誘導する中心性免疫寛容. そしてT細胞の副刺激抑制, あるいは制御性T細胞の誘導により引き起こす末梢性免疫寛容があり, 現在これらの研究が急速に進み, 臨床試験も行われている. 本項では, 筆者の今までの研究成果を交えながら, 臓器移植における免疫寛容の概要と今後の臨床応用の可能性について解説する.
著者
菊池 正一
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.157-165, 1988

私の行った研究の軌跡の概略を紹介し, 特に温熱環境条件のマウス免疫応答に及ぼす影響について述べた. 一連の実験結果を概括すると次の如くである.1) 免疫刺激直後にマウスを低温 (8℃), または高温 (36.5℃) の環境に移動すると免疫応答は低下するが, 低温順化後のマウスは対照群 (25℃) に比べ免疫応答に差がない.2) 高温への移動の場合, 環境温度35℃までの移動では免疫応答にほとんど影響がなく, 低温移動の場合は10℃まで影響が現れないが, 8℃-4℃では免疫応答が低下し, 更に2℃, 1℃への移動では再び対照群とほとんど差がなくなる.3) 免疫刺激後, 8℃または36.5℃に移動すると, 上述の通り免疫応答は低下するが, 1日4時間宛連日暴露では低下は見られず, 1日4時間1回, 2時間宛2回, 1時間宛4回と暴露時間一定でも暴露回数を増すほど免疫応答は逆に促進の傾向が見られた.4) 環境温熱条件の変化と免疫刺激との時間的関係の影響を観察したところ, 前者による免疫応答抑制効果の現れる時期は, 低温移動と高温移動とで明らかな差違が見られた. この点を説明するため, 環境温熱条件変化に起因する生理的適応の過程に"effective period"を, 免疫応答の一連の反応の過程に"susceptible period"を仮定し, この両者が一致した場合免疫応答の低下として現れるとの仮説をたてた.最後に, わが国の私立医科大学の経営に関して私見の一端を述べた.
著者
冨原 均
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.522-532, 1993

積極的降圧療法に基づき, 伊豆長岡順天堂病院で治療された解離性大動脈瘤75例の臨床像について検討を行い, 次の結果を得た. 年齢分布は臨床上, 中年者群と高齢者群の2峰性を示した. 73% (55例) に高血圧症合併を認め, 身体を捻るなどの動作が発症の誘因となった例を13例 (17%) 経験した. このことは臨床診断上の手掛かりとして重要と考えられた. 経時死亡率は, 発症48時間以内25%・2週間以内36%, 最終的には49%と比較的良好であったが, 発病早期の死亡率が高かった. 心タンポナーデが死因の第一位であったが (19例 51%), 心タンポナーデ時に77%の高率で不整脈の出現を認めた. 剖検12例全例に房室結節ならびにその近傍に血腫が認められ, これが不整脈の原因と考えられた. 血腫の肉眼的拡がりの程度を3型に分類し, 不整脈の種類との関連を検討したが明らかな相関は認められなかった. この不整脈は大動脈起始部の瘤破裂の予兆と言うよりはむしろ心タンポナーデ発生直後の結果にすぎないと考えるのが妥当と思われた.
著者
広瀬 朝次
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.284-291, 1965-02-10 (Released:2014-11-22)
参考文献数
7
著者
猪狩 淳
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.124-132, 2004-06-30
参考文献数
22
被引用文献数
2

近年増加傾向がいちじるしいペニシリン耐性肺炎球菌とβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌,加えて最近増加が注目されている基質特異性拡張型グラム陰性桿菌とメタロ-β-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌について,順天堂医院における動向と現状を述べた.ペニシリン耐性肺炎球菌は1994年頃から増加が目立つようになり,2000年以降は肺炎球菌の10%を越え,しかも高度耐性化が進行し,多剤耐性株がみられるようになった.アンピシリン耐性インフルエンザ菌は,β-ラクタマーゼ産生株が1997年頃までは,インフルエンザ菌の15%を占めていたが,99年頃から減少し,これに代ってβ-ラクタマーゼ非産生株(BLNAR株)が増加し,2003年には40%台に増加した.基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBLs)産生株は大腸菌と肺炎桿菌で多くみられ,大腸菌では1990年の初期には分離されるようになり,94年には大腸菌の5%,2003年には8%台に増加している.メタロ-β-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌は緑膿菌やセラチア菌で多く,緑膿菌では,2002年には1.3%の株が分離された.これらの新しい耐性菌は今後とも増加することが考えられ,その動向が注目される.
著者
高山 充代
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.339-344, 2009

私は, 去年の8月に順天堂浦安病院で乳がんと診断され, 乳房温存手術を受けました. 現在手術から9ヵ月が過ぎたところで, 治療はまだ継続中です.我が家では父親が50代で直腸がんで亡くなっているので, ゆくゆくは自分もがんになるかもしれないという危惧を以前から抱いてはいましたが, それはまだ先のこと, まさかこの年齢で, しかも, 乳がんになるとは, 思ってもみませんでした.それでも, 乳がんは早期であれば怖くないといわれているので, 手術さえうまくいけば, すぐに元の生活が送れるようになる, と私は思い込んでいました. ところが, 治療は手術だけではありませんでした. 手術の後に, 想定していなかった, 長くて大変な治療が待っていたのです.ホルモン療法と放射線療法, 2つの術後の治療を受けるうちに, 副作用とみなされる様々な心身の変調が出てきて, 私はずいぶん戸惑いました. そのなかで, 乳がんになってしまったというショック, 喪失感, 孤独感は強くなり, 自分ひとりが貧乏くじをひいてしまったような, みじめでやり切れない思いにとらわれて, そこから抜け出せない自分を自覚するようになりました.「このままでは自分がダメになってしまう, 何とかしなくてはいけない」と, 乳がんになったことで生じたこころの痛みを緩和する手立てをめぐり, あれこれ試行錯誤をくり返しました.その結果, 次の3つのことを日々の生活の中で実践するようになっています.1. 喪失した女性性の復権2. 自然とのふれあい-散歩の価値の再発見-3. 今を楽しむ-日常の生活習慣を変える-今もまだ模索の途中で, とても十分とはいえない内容ですが, 今回の都民公開講座では, この3つを『私流・こころのセルフ緩和ケア3ヵ条』と仮題して, お話しさせていただきました.