- 著者
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伊佐敷 隆弘
- 出版者
- 科学基礎論学会
- 雑誌
- 科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
- 巻号頁・発行日
- vol.33, no.1, pp.9-16, 2005-10-25 (Released:2009-07-23)
- 参考文献数
- 34
- 被引用文献数
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「見かけの現在 (specious present) 」とはウィリアム・ジェイムズ (William James 1842~1910) が1890年に公刊した心理学に関する主著『心理学原理』の中で提出した概念である.本論文では同書に拠りジェイムズのこの概念に関して以下のことを明らかにする.即ち, 見かけの現在は瞬間ではなく幅を持つ現在であり, 「時間が経過しても過去へ移行しない」, 「その中で継起的経験が生じうる」という特徴を持つ (1, 2節).この特徴は, 見かけの現在が「一体として経験される」こと即ち「意識の連続性」に基づく.さらに, 意識の連続性は, 見かけの現在がその内部において, また未来と過去へ向けて, 「辺縁」を持つことに基づく (3, 4節).未来向きの辺縁とは「予視的時間感覚」であり, 過去向きの辺縁とは「再生的記憶」から区別された「1次記憶」である.また, これらの辺縁が我々の未来経験や過去経験の原型である (5, 6節).しかし, 「見かけの現在」はあくまでも物理的時間の存在を前提にした心理学的概念であり, 物理的時間における現在は瞬間であるとジェイムズは考えている (7節).